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五章 毎日、毎日、貴方を好きになる。

十五話 土曜日は彼と語り合う(2)

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「そんな訳で、私は新しい事業に参加しないかと、誘われている訳ですが……」
「何か、問題が?」
 白銀の問いに伊都の返答は詰まる。
「私は……」
 伊都は迷っていた。勤め先では確かに色々と問題が多かったが、さりとて職場を荒らすだけ荒らして去っていくような事はしたくない。
 老舗の漬け物店であるかの会社には、恐ろしい人も居れば恩人とも言える人々もいる。
 少なくとも、事務員の補填が済むまでは離れられないと、そう思うのだ。

「今の会社には、私を娘のように可愛がってくれたパートさん達も居ます。私の都合で巻き込んだ奈々も居ます。それに、あの店のあの味を喜んでくれるお客さんも居ます。潰して終わりにしてしまえばいい、なんて簡単には割り切れません」
 過重労働による被害で労働基準監督署の指導が入り、果ては犯罪者まで作り出してしまった、伊都には因縁の職場だ。
 だが、悪い思い出ばかりではない。
「私は一度、全てから逃げました」
 実家の部屋に全てを捨てて引きこもり、くよくよと悩み続けていた、あの日。
 強引な友人が居なければ、彼女が無理矢理にでも編み物の仕事などを持ち込み外部からの刺激を与え続けてくれなければ、今でも伊都は何も言わない両親に甘え、世間から隔離されたぬるま湯の中に浸かっていただろう。
「あそこは私が社会復帰を果たした場所です。サキさんという素敵な先輩も、明るく楽しいパートの人達もいて……副社長だって、私が倒れる前までは親身になってくれていたんです」

 引き金を引いたのは一体誰なのだろう?
 伊都はあの会社の崩壊の起点を思う。
 つい一年前までは、仕事の割り振りが少々上手くいってないだけの普通の会社だった筈なのに。

「鵜飼さん……いえ、ここは娘のサキさんと言うべきですか。リーダーシップもあり親の欲目からワンマン社長も甘く見る彼女いう要が居なくなってしまったから、男性陣の暴走が始まったのかも、と。誰かのせいにするのは簡単ですね。ですが、こういったものは色々な要素が絡むものです」
 よそゆきの柔和な笑みを浮かべたまま、白銀は辛辣に言う。
「……まあ、何を言ったところで今更ではあります」
 誰も、起こってしまった事を取り消すなんて出来ないのだ。
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