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五章 毎日、毎日、貴方を好きになる。
十四話 土曜日は彼と語り合う
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……あれから、社内は荒れ模様だった。
今までの沈黙は何だったのかというように、副社長が奮起してしまったのだ。
目覚めた副社長はとても強かった。肉体でなく、精神的に。
社長は従順だった妻の反抗に始終怒りっ放しだし、副社長は社長の横暴をけっして許さない。
そんな、がらりと変わった社内の空気に乗って……。
「サキさんが、とうとう動いたんですよね」
土曜日の昼下がり。伊都は、今週起こった嵐のような出来事を彼に話していた。
祭り広報の方の話し合いはとうに終わっていて、今は雑談に入ったところだ。
「とうとう、ですか」
外向きの穏やかな顔で白銀は返す。
「ええ。サキさんのお母様……副社長の聡子さんと一緒に話し合ったようで。サキさんが正式に会社を離れる、と。決別宣言をしてしまったんです」
そしてそれは、故郷の事業に本格的に腰を入れるという事でもある。
その日伊都は、白銀と一緒に、駅前のカフェで話していた。
休日ともあって、白銀もラフな格好をしている。綺麗め素材の半袖シャツの上に麻のジャケットを着込み、ボトムは細身のブラックジーンズに黒のショートブーツ。伊都はちょっとよそゆき顔の、チョコレートブラウンにサーモンピンクの切り替えワンピースに濃茶のタイツ、サーモンピンクのパンプスといった装いだ。
「サキさんは、実家との話が一段落した事ですっきりしたのか、故郷の計画を前倒しで進めはじめたようで。益々やる気になっているみたいです。今は、マスターのお父様を出資者にと口説いているとか」
ある意味、副社長とサキさんは似たもの同士だったのかも知れないな、と。今ならば思う。
二人ともガンガンと話を進めてしまって、伊都としては目が回りそうだ。
興奮を鎮めるよう、伊都は甘いはちみつとミルク入りのコーヒーを飲む。
「それはそれは。行動的な鵜飼さんらしい」
白銀はノンシュガーのブラックを一口飲んで呟くように言った。
「資本家の鵜飼家を味方に付ければ、お役所への説明も格段に捗るでしょうね」
故郷のマスターでサキの夫である鵜飼の家は、この門前町でも有数の大地主だ。
そんな人をバックに付けようというのだから、サキの本気度は高い。
「サキさん、松永さんに色々と言われたのを、結構気にしているようで……」
「あの人は性格は別として、有能ですから」
店のロゴが付いた陶器のカップに入ったそれを飲みながら、ゆったりした音楽の流れる店内で二人は話している。
今までの沈黙は何だったのかというように、副社長が奮起してしまったのだ。
目覚めた副社長はとても強かった。肉体でなく、精神的に。
社長は従順だった妻の反抗に始終怒りっ放しだし、副社長は社長の横暴をけっして許さない。
そんな、がらりと変わった社内の空気に乗って……。
「サキさんが、とうとう動いたんですよね」
土曜日の昼下がり。伊都は、今週起こった嵐のような出来事を彼に話していた。
祭り広報の方の話し合いはとうに終わっていて、今は雑談に入ったところだ。
「とうとう、ですか」
外向きの穏やかな顔で白銀は返す。
「ええ。サキさんのお母様……副社長の聡子さんと一緒に話し合ったようで。サキさんが正式に会社を離れる、と。決別宣言をしてしまったんです」
そしてそれは、故郷の事業に本格的に腰を入れるという事でもある。
その日伊都は、白銀と一緒に、駅前のカフェで話していた。
休日ともあって、白銀もラフな格好をしている。綺麗め素材の半袖シャツの上に麻のジャケットを着込み、ボトムは細身のブラックジーンズに黒のショートブーツ。伊都はちょっとよそゆき顔の、チョコレートブラウンにサーモンピンクの切り替えワンピースに濃茶のタイツ、サーモンピンクのパンプスといった装いだ。
「サキさんは、実家との話が一段落した事ですっきりしたのか、故郷の計画を前倒しで進めはじめたようで。益々やる気になっているみたいです。今は、マスターのお父様を出資者にと口説いているとか」
ある意味、副社長とサキさんは似たもの同士だったのかも知れないな、と。今ならば思う。
二人ともガンガンと話を進めてしまって、伊都としては目が回りそうだ。
興奮を鎮めるよう、伊都は甘いはちみつとミルク入りのコーヒーを飲む。
「それはそれは。行動的な鵜飼さんらしい」
白銀はノンシュガーのブラックを一口飲んで呟くように言った。
「資本家の鵜飼家を味方に付ければ、お役所への説明も格段に捗るでしょうね」
故郷のマスターでサキの夫である鵜飼の家は、この門前町でも有数の大地主だ。
そんな人をバックに付けようというのだから、サキの本気度は高い。
「サキさん、松永さんに色々と言われたのを、結構気にしているようで……」
「あの人は性格は別として、有能ですから」
店のロゴが付いた陶器のカップに入ったそれを飲みながら、ゆったりした音楽の流れる店内で二人は話している。
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