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四章 冷たい部屋からの救出

二十話 夢、うつつ、恋する貴方と

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 うつら、うつらと。
(ああ、この症状。風邪引いたな……)
 ぼんやりとして、あいまいな感覚の中にたゆたう伊都は、息苦しいような気がして震える息を吐いた。

 今は、何時だろう。
 寝返りを打とうとして……頭の下に、固いようでしっかり弾力のある、暖かい枕がある事に気づく。
(あれ……)
 あいまいな感覚の中怠い腕を上げれば、触れるのは滑らかに張りつめた肌。深い息をする、暖かい存在が隣にある。
(これはいつもの、夢……?)

 確かめようと目を開こうとするが、瞼がくっついたように開かない。
 怠い……。伊都は小さく唸った。

「熱があるな。風邪か」
 ひやりとしたものが額に触れる。さらりとした表面の、大きなそれは……彼の手、だろうか。
「しろがね、さん?」
 と伊都が訊ねれば、彼は「ああ」 と応えた。

 彼はため息を吐く。
「現実もそうなんだろうな……残念だな、今は深夜だ。こんな時間にあんたを訪ねる訳にもいかない」
「なんだか……眠いの」
 額に乗った彼の手にそっと手を触れさせれば、手の甲に柔らかいものが触れた。唇、だろうかと伊都は推測する。
「ああ、そのまま眠るといい。不安だな、朝に寄ってもいいか」
「……? どこに」
 とろとろと意識が沈みかける。

(ここはどこ、貴方は、白銀さん、ジルバー、どちら?)
 声も匂いも何もかも同じだから、いつだって混同するのに、視覚情報がない今は余計に区別がつかない。
 その色を確かめればいいだけの話なのに。
 何だかいらいらして、伊都はむずがるようにする。
「そんなに目を擦るな。傷付く」
 彼は心配するように言って、その手を取ると優しく握った。伊都としてはどちらも好きな人だけれど、距離感は違うから、ちゃんとどちらか確かめたい。
 でも、眠気が酷くてたまらないのだ。

「どこにって、あんたの家にだ」
 優しく撫でる指の感触。それは心地いい。
 頬が緩んでしまう。
「ジルバー……は、いつもいっしょにいるわよね」
「ああ」
「じゃあ、しろがねさん?」
 今にも沈んでしまいそうな伊都の話す事は、かなりぐちゃぐちゃで、けれど彼は律儀に応えてくれる。
「そう。今日の朝、あんたの家へ行くのはな」
「なら、今は、ジルバー?」
「ああ。今あんたを抱きしめてるのは、そうだな。でもどっちでもいいだろう」

「よくない、わ」
「何で」
「だって、ジルバーは、だんなさんだけれど、しろがねさんは、おしごとなかま……だから」
 伊都はあくびを一つして。
「おしごと……なかまに、迷惑なんて、かけられないわ……」
 ほぼ寝言のように、寝ぼけた声でそう答えた。

 何故か彼は黙ってしまった。
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