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四章 冷たい部屋からの救出

十話 その夢は、繋がっている

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 サキの夢の計画、故郷ティエラナタル改造計画。
 それを皆が話し合っている。

 地域コミュニティの起点になりたい。それはとても素敵な夢だ……そう思うけれど、話の輪には加われずに、六人テーブルで一人話を聞きながら、どこか疎外感を覚えていた。

(私には、松永さんと意見を戦わせるだけの余裕がないもの……)

 思いに沈み込んだ時、明るい声が伊都を呼ぶ。
「ねえ、イトちゃんも意見頂戴!」

 その声に顔を上げれば、男から奪い返した手帳を、サキが隠し持つようにして伊都に見せてきたのだ。
 ちなみに問題の男は、白銀に笑顔で何かを話されなにやら小さくなっている。

 その様は子供の頃、男子にからかわれながらそっと回した少女らの秘密メモの時のような、くすぐったい心地があった。思わず薄く笑って、伊都は手帳を借りる。
「あ、はい。拝見します……」

 パラパラと捲ると、昼は教養系の教室、夜はアコースティックライブや貸切パーティなど、サキのやりたい事がいろいろ書き込まれていた。
 写真やスケッチなど絵が多めのメモは、ぱっと見ただけでも内容が掴みやすく、サキの能力を窺わせる。

 伊都は読み進めるうちに首を傾げた。
(あら? 何だか、頻繁に私や奈々の名前があるわ)
 ……その記述の中には何故か、当たり前に奈々や葉山、伊都の名前が連ねられていたのだ。

(ええと、教養講座開設案……。奈々の実用旅行英会話教室に、葉山さんは、え、ソムリエって、意外な特技。この人は確かサキさんの旦那さんの友人で料理研究家……TwitterやYouTubeなどの簡単料理で人気の方とかで、お料理教室、か。この人はサキさんのご友人のファイナンシャルプランナーさんで、少額から始める貯蓄講座……。いろいろな講座の案があるのね。そして私は、ゼロから始めるニット教室……)

 呆然と、教養講座のページを眺めていると。
 にこにこと隣から笑顔でサキが話しかけてくる。
「ね? 皆で働けたら楽しいと思わない?」

 それは、確かに楽しいことだろう。
 サキがいて、皆がそのリーダーシップによって導かれ、自分の才能を発揮し、それぞれの持ち味を生かして店を盛り上げる。
 そこには地域の人がやってきて、興味のあるものに自由に参加し新たなコミュニティを築き上げ。
 地元の人達の、新たな居場所としてこの店が機能していく……。
 それは、とても夢に溢れた場所となるだろうと、そう想像できる。
 眩しいぐらいに希望に満ちたサキの提案は、確かに「故郷」 という名を持ったこの店に相応しいと思えた。
 
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