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四章 冷たい部屋からの救出

七話 夢の計画、私の現実

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 ……故郷ティエラナタル改造計画。そう題されたメモに、皆の視線が集中している。
 皆の注意を引いた事を確認したサキは、満足そうに頷いて言葉を続けた。

「そうそう。ここのところ、育児の合間に書いてた訳。ここをね、地域のコミュニティの起点に出来ないかなぁって」
「ここを、ですか」

 伊都は周りを見回す。

 この店は解体された古民家の廃材をベースにしていて、古民家のレトロ感に今風のアレンジを加えたものになっている。
 白いモルタル風の壁や観葉植物をふんだんに使った内装と二階打ち抜きで作られた高い天井にしつらえた天窓は、南スペインの中庭パティオを思わせる明るい雰囲気を醸し出している。
 一部だけ座敷席として上げてあるが、基本は靴履きでラフに過ごせるようになっており、床はテラコッタのタイル敷。
 明るさと古民家の落ち着きが混じった、ここだけの特別感がある店で、地元の新規店舗をリサーチして回るのが好きな伊都も、常連になる程には気に入っている。

 伊都は再び視線をサキの持つピンクの手帳に戻した。
 そこには、何十ページにも渡りさまざまなアイディアスケッチが書かれている。
 それは、サキの夢の設計図だった。

「ここってさ、何となくいつも空間に余裕があるっていうか、ありすぎって感じ、しない?」
「確かに……そうですね」

 田舎ならでは贅沢というか。
 以前よりスペースが余っている、という点が常に目に付いていた。

「まあほら、うちの旦那って昔、某イタリアンレストランでシェフしてたじゃない? で「そろそろ自分の店を持つかっ」 て、三十代になって思った時にお義父さんが「じゃあ余ってる土地で店作るか」 って、とんとん拍子で進んだらしくて」

 そもそもこの喫茶店の成り立ちというのが、近隣でも別格の地主であった鵜飼家が、有名イタリアンレストランの副料理長であった息子の独立に当たり、当時駐車場として遊ばせていた土地に建てたものだ。

「じゃあ作るか、で店がぽんと出来ちゃうあたりが凄いよね」
 奈々はお金持ちってすごい、と遠い目をする。鵜飼家はいわゆる、土地や物件等の経営や株運用で食べていける……本物の資産家というやつである。

「あはは、あたしもそう思う。でもまあ、お義父さんに任せたらうちの旦那が考えてたよりも、大きなものが出来ちゃったみたいでねぇ」
 サキは軽く肩を竦める。

 広い敷地に作られた、元は商家のものであったろう大きな屋敷のいわゆる土間を打ち抜きにし、座敷部分も取り払って、一階を丸ごと店として使われているので、常にスペースが余り気味だ。これまでは観葉植物やら看板やらで何となく埋めていたものの、まあ、勿体ないという意識はあったという。
 何せ、都会の小ぶりな店舗ならば四件は入りそうな広さがあるのだから。
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