上 下
46 / 220
三章 現実、月曜日。冷たい場所に閉じ込められました。

21話 現実、月曜日。冷たい場所に閉じこめられました。

しおりを挟む
「くしゅん」
 閉じこめられて、どれぐらい経っただろうか?
 しんと冷えた冷蔵室で、伊都はぶるりと身体を震わせる。

 どうして、こんな事になったのだろう……。

 何度も胸中で繰り返した疑問。

 何でもない、いつもの日の筈だった。
 灰谷が威圧的なのは常の事だし、噂話の荒唐無稽さには確かに驚いたが、社長に嫌われている理由が分かってすっきりした程だった。

 だが、こうして冷蔵室に閉じこめられたのは自分のせいだと、伊都は考える。理由は余りに理不尽だが、灰谷が気にくわない事をしたと思っていたから。そのせいで、と。

 白銀を巻き込んでしまった……その事に胸が塞ぎ、寒さのせいもあってどんどん伊都の心は沈んでいく。

「織部さん、大丈夫ですか」
 白銀の優しい声がする。
 その声に伊都が顔を上げれば、心配そうな瞳にかち合った。
(ジルバーと同じ……)
 目は口ほどに物を言うというが、彼は穏やかな笑みの中でその瞳で語る人だと思う。
 それは、夢に見た絵本のヒーロー役の、銀狼と同じで。
 だからか、ほっとして、笑みが浮かぶ。
「大丈夫です。白銀さんこそ……ジャケットお借りしたままで、済みません」
「いえ、そこは男の沽券こけんと言いますか。気にしないで頂けると助かります」
 そのふざけたような物言いは珍しく、伊都はくすりと笑いを零す。

「あ……そうだ。身体を動かしていれば、少しは寒くないかも、知れません」
 灰谷が荒らしたままの床を見て、伊都はふと思いつく。
 散らばったままの漬け物が、何だか悲しくて。伊都は屈んでそれを拾い上げた。
 次に、隅に転がるコンテナを拾って……汚損したものだと分かりやすく床に置き、漬け物のパックを詰めこんでいく。

「成る程。お付き合いしますよ」
 プライベート用だという、四インチサイズのスマホを操作していた白銀は、それをスラックスのポケットに落とし込むと床の物を拾い始めた。

 二人で、会話しながらストックを整理していれば、不思議とこの極寒の環境も悪くないと思える。

 ……そんな二人だが、やがて話題が尽きる。
 そう言えば、サキの夫である鵜飼の喫茶店で、祭り広報のミーティングをする以外に、余り活発に話した事がないと伊都は気づく。
 それは金曜日の夜、あるいは土曜日の昼下がり。二人は自分の領分の仕事の進捗、今後の事などを話し合う。
 白銀はいつも、気さくに日頃あった事などを話してくれるのだが、自ら進んで話題を振る程に伊都は彼へ胸襟きょうきんを開いていなかった。
 心憎からず思っているのと、気軽に話せるのはまた別で、何時だって緊張気味に、彼の一挙手一投足を眺めていたのだ。

(私、凄く失礼な事していたのね……)
 男嫌いもここに来て自分の行動を制限しているのだから、面倒なものだと伊都は思う。

(あ、そうだ)
 ふと、あの時の事を思い出した伊都は、その話題を振る事となった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

恋人の水着は想像以上に刺激的だった

ヘロディア
恋愛
プールにデートに行くことになった主人公と恋人。 恋人の水着が刺激的すぎた主人公は…

前略、旦那様……幼馴染と幸せにお過ごし下さい【完結】

迷い人
恋愛
私、シア・エムリスは英知の塔で知識を蓄えた、賢者。 ある日、賢者の天敵に襲われたところを、人獣族のランディに救われ一目惚れ。 自らの有能さを盾に婚姻をしたのだけど……夫であるはずのランディは、私よりも幼馴染が大切らしい。 「だから、王様!! この婚姻無効にしてください!!」 「My天使の願いなら仕方ないなぁ~(*´ω`*)」  ※表現には実際と違う場合があります。  そうして、私は婚姻が完全に成立する前に、離婚を成立させたのだったのだけど……。  私を可愛がる国王夫婦は、私を妻に迎えた者に国を譲ると言い出すのだった。  ※AIイラスト、キャラ紹介、裏設定を『作品のオマケ』で掲載しています。  ※私の我儘で、イチャイチャどまりのR18→R15への変更になりました。 ごめんなさい。

王太子の子を孕まされてました

杏仁豆腐
恋愛
遊び人の王太子に無理やり犯され『私の子を孕んでくれ』と言われ……。しかし王太子には既に婚約者が……侍女だった私がその後執拗な虐めを受けるので、仕返しをしたいと思っています。 ※不定期更新予定です。一話完結型です。苛め、暴力表現、性描写の表現がありますのでR指定しました。宜しくお願い致します。ノリノリの場合は大量更新したいなと思っております。

結構な性欲で

ヘロディア
恋愛
美人の二十代の人妻である会社の先輩の一晩を独占することになった主人公。 執拗に責めまくるのであった。 彼女の喘ぎ声は官能的で…

お兄ちゃんが私にぐいぐいエッチな事を迫って来て困るんですけど!?

さいとう みさき
恋愛
私は琴吹(ことぶき)、高校生一年生。 私には再婚して血の繋がらない 二つ年上の兄がいる。 見た目は、まあ正直、好みなんだけど…… 「好きな人が出来た! すまんが琴吹、練習台になってくれ!!」 そう言ってお兄ちゃんは私に協力を要請するのだけど、何処で仕入れた知識だかエッチな事ばかりしてこようとする。 「お兄ちゃんのばかぁっ! 女の子にいきなりそんな事しちゃダメだってばッ!!」 はぁ、見た目は好みなのにこのバカ兄は目的の為に偏った知識で女の子に接して来ようとする。 こんなんじゃ絶対にフラれる! 仕方ない、この私がお兄ちゃんを教育してやろーじゃないの! 実はお兄ちゃん好きな義妹が奮闘する物語です。 

お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。

下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。 またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。 あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。 ご都合主義の多分ハッピーエンド? 小説家になろう様でも投稿しています。

サラシがちぎれた男装騎士の私、初恋の陛下に【女体化の呪い】だと勘違いされました。

ゆちば
恋愛
ビリビリッ! 「む……、胸がぁぁぁッ!!」 「陛下、声がでかいです!」 ◆ フェルナン陛下に密かに想いを寄せる私こと、護衛騎士アルヴァロ。 私は女嫌いの陛下のお傍にいるため、男のフリをしていた。 だがある日、黒魔術師の呪いを防いだ際にサラシがちぎれてしまう。 たわわなたわわの存在が顕になり、絶対絶命の私に陛下がかけた言葉は……。 「【女体化の呪い】だ!」 勘違いした陛下と、今度は男→女になったと偽る私の恋の行き着く先は――?! 勢い強めの3万字ラブコメです。 全18話、5/5の昼には完結します。 他のサイトでも公開しています。

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

処理中です...