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三章 現実、月曜日。冷たい場所に閉じ込められました。
21話 現実、月曜日。冷たい場所に閉じこめられました。
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「くしゅん」
閉じこめられて、どれぐらい経っただろうか?
しんと冷えた冷蔵室で、伊都はぶるりと身体を震わせる。
どうして、こんな事になったのだろう……。
何度も胸中で繰り返した疑問。
何でもない、いつもの日の筈だった。
灰谷が威圧的なのは常の事だし、噂話の荒唐無稽さには確かに驚いたが、社長に嫌われている理由が分かってすっきりした程だった。
だが、こうして冷蔵室に閉じこめられたのは自分のせいだと、伊都は考える。理由は余りに理不尽だが、灰谷が気にくわない事をしたと思っていたから。そのせいで、と。
白銀を巻き込んでしまった……その事に胸が塞ぎ、寒さのせいもあってどんどん伊都の心は沈んでいく。
「織部さん、大丈夫ですか」
白銀の優しい声がする。
その声に伊都が顔を上げれば、心配そうな瞳にかち合った。
(ジルバーと同じ……)
目は口ほどに物を言うというが、彼は穏やかな笑みの中でその瞳で語る人だと思う。
それは、夢に見た絵本のヒーロー役の、銀狼と同じで。
だからか、ほっとして、笑みが浮かぶ。
「大丈夫です。白銀さんこそ……ジャケットお借りしたままで、済みません」
「いえ、そこは男の沽券と言いますか。気にしないで頂けると助かります」
そのふざけたような物言いは珍しく、伊都はくすりと笑いを零す。
「あ……そうだ。身体を動かしていれば、少しは寒くないかも、知れません」
灰谷が荒らしたままの床を見て、伊都はふと思いつく。
散らばったままの漬け物が、何だか悲しくて。伊都は屈んでそれを拾い上げた。
次に、隅に転がるコンテナを拾って……汚損したものだと分かりやすく床に置き、漬け物のパックを詰めこんでいく。
「成る程。お付き合いしますよ」
プライベート用だという、四インチサイズのスマホを操作していた白銀は、それをスラックスのポケットに落とし込むと床の物を拾い始めた。
二人で、会話しながらストックを整理していれば、不思議とこの極寒の環境も悪くないと思える。
……そんな二人だが、やがて話題が尽きる。
そう言えば、サキの夫である鵜飼の喫茶店で、祭り広報のミーティングをする以外に、余り活発に話した事がないと伊都は気づく。
それは金曜日の夜、あるいは土曜日の昼下がり。二人は自分の領分の仕事の進捗、今後の事などを話し合う。
白銀はいつも、気さくに日頃あった事などを話してくれるのだが、自ら進んで話題を振る程に伊都は彼へ胸襟を開いていなかった。
心憎からず思っているのと、気軽に話せるのはまた別で、何時だって緊張気味に、彼の一挙手一投足を眺めていたのだ。
(私、凄く失礼な事していたのね……)
男嫌いもここに来て自分の行動を制限しているのだから、面倒なものだと伊都は思う。
(あ、そうだ)
ふと、あの時の事を思い出した伊都は、その話題を振る事となった。
閉じこめられて、どれぐらい経っただろうか?
しんと冷えた冷蔵室で、伊都はぶるりと身体を震わせる。
どうして、こんな事になったのだろう……。
何度も胸中で繰り返した疑問。
何でもない、いつもの日の筈だった。
灰谷が威圧的なのは常の事だし、噂話の荒唐無稽さには確かに驚いたが、社長に嫌われている理由が分かってすっきりした程だった。
だが、こうして冷蔵室に閉じこめられたのは自分のせいだと、伊都は考える。理由は余りに理不尽だが、灰谷が気にくわない事をしたと思っていたから。そのせいで、と。
白銀を巻き込んでしまった……その事に胸が塞ぎ、寒さのせいもあってどんどん伊都の心は沈んでいく。
「織部さん、大丈夫ですか」
白銀の優しい声がする。
その声に伊都が顔を上げれば、心配そうな瞳にかち合った。
(ジルバーと同じ……)
目は口ほどに物を言うというが、彼は穏やかな笑みの中でその瞳で語る人だと思う。
それは、夢に見た絵本のヒーロー役の、銀狼と同じで。
だからか、ほっとして、笑みが浮かぶ。
「大丈夫です。白銀さんこそ……ジャケットお借りしたままで、済みません」
「いえ、そこは男の沽券と言いますか。気にしないで頂けると助かります」
そのふざけたような物言いは珍しく、伊都はくすりと笑いを零す。
「あ……そうだ。身体を動かしていれば、少しは寒くないかも、知れません」
灰谷が荒らしたままの床を見て、伊都はふと思いつく。
散らばったままの漬け物が、何だか悲しくて。伊都は屈んでそれを拾い上げた。
次に、隅に転がるコンテナを拾って……汚損したものだと分かりやすく床に置き、漬け物のパックを詰めこんでいく。
「成る程。お付き合いしますよ」
プライベート用だという、四インチサイズのスマホを操作していた白銀は、それをスラックスのポケットに落とし込むと床の物を拾い始めた。
二人で、会話しながらストックを整理していれば、不思議とこの極寒の環境も悪くないと思える。
……そんな二人だが、やがて話題が尽きる。
そう言えば、サキの夫である鵜飼の喫茶店で、祭り広報のミーティングをする以外に、余り活発に話した事がないと伊都は気づく。
それは金曜日の夜、あるいは土曜日の昼下がり。二人は自分の領分の仕事の進捗、今後の事などを話し合う。
白銀はいつも、気さくに日頃あった事などを話してくれるのだが、自ら進んで話題を振る程に伊都は彼へ胸襟を開いていなかった。
心憎からず思っているのと、気軽に話せるのはまた別で、何時だって緊張気味に、彼の一挙手一投足を眺めていたのだ。
(私、凄く失礼な事していたのね……)
男嫌いもここに来て自分の行動を制限しているのだから、面倒なものだと伊都は思う。
(あ、そうだ)
ふと、あの時の事を思い出した伊都は、その話題を振る事となった。
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