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二章:魔女は、彼と朝を迎えました。

八話 魔女は、彼と朝を迎えました。

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 どちらともなく唇を触れ合わせた。
「ああ、あんたがくれるものなら何でも欲しい」
 

 気付けば、夜になっていた。
 仔狼らはお休みの時間か、お気に入りの窪みに身を寄せ合っている。
 暖炉の前は、火の番なのか若い狼が陣取って、こちらを興味深げに見ていた。

 その視線から隠すよう、毛布のように毛皮を羽織ったジルバーが伊都を抱き寄せ。
 耳元で、囁かれる。

「あんたを、今すぐ食わせろ」

 乱暴な物言いなのに、ベッドへと導く腕はひどく紳士的だ。
 導かれるまま二人倒れ込んで、チュニックを脱がされ、レッグウォーマーやルームシューズも外されて、素肌のまま抱き締めあう。

 恥ずかしいのに、嬉しいと思うのは何故だろう。
 伊都は不思議に思った。

(どうして、なんだろう)

 漏れ出る声は悲鳴ではなく、触れられた肌は粟立つのではなく。
 その指先は性急で、慣れた手つきに戸惑うけれど、体は正直だった。
 彼だと思えば、平気なのだ。
 その匂いとその体温があれば、物慣れない体はきちんと反応を返す。
 その声は自らの手に遮られてくぐもる。仔狼らの眠りを妨げたくなくて、あるいは、甘く鳴く声が恥ずかしくて。

「弟達なら、朝まで起きない。あんたの声を聞かせろ」
 両腕でぎゅっと彼の首に縋りつく。

(なん、なの。なんなのこれ……)

 ただ触れあうだけで肌が心地よさを感じる。
 彼がくれるものなら何でも気持ちよさに換わる。

「あんたは可愛いな」
「…………?」
「俺が、怖くないのか」

「今日は逃がさない、あんたを食う」
 それは掠れて、甘く聞こえる。伊都が苦手とする、性的欲求を含んだ男の声の筈だった。
 けれど今耳元にささやくその声に震えたのは、別の意味だ。
 だから、願った。
「わたしをたべて」


 彼は決して急かさなかった。だから安心してその手に委ねた。
 みだりがましい行為も、彼の為す事ならば信じられた。

 ……だから、久方ぶりのその痛みにも、堪えられたのだと思う。

 受け止めたその熱は、まるで彼そのものだ。
 ようやく彼の激しさを受け止められたようで、痛みの中にも喜びを感じられる。

(私、本当にこの人が好きなんだ……)

 ……どこかから、朝の光が射し込む時間。
 けだるげな息を吐いて、男の腕からもぞりと動いて目を擦る。
「…………?」
 体には違和感があった。その癖、さわやかな朝はまるでいつもと変わりがないようで、思わず首を傾げる。
(夢、だったのかしら)
 しかしいつもと明らかな違いがあった。二人共……全裸という違いが。
「…………!!」
 声もなく悲鳴を上げていると、「まだ早い、寝ろ」 ぐいと腕を取られて、また彼の腕の中に閉じこめられる。
 抱き締められた腕は暖かく、裸の胸に擦り寄せた頬に当たる彼の肌の匂いは伊都を苦しめない。規則的に響く心音を聞きながら、伊都はうっとりと彼に寄り添う。

(は、恥ずかしいけど……でも、後悔はないわ)
 抱いて貰えて、良かったとも。伊都は確かに思ったのだ。
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