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二章:魔女は、彼と朝を迎えました。
六話 魔女は、仔狼に癒される。
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驚く事に、伊都は魔法を使えるらしい。
絵本に描かれる泣き虫魔女の魔法。木製のかぎ針を魔法のステッキのように使うシーンが描かれていたけれど……。
(まさか自分が、出来るだなんて思わないし)
ちくちくと毛糸針で接ぎ合わせて、余り糸で三つ編みにした腰紐を作りさくっと着込むと、ウール百パーセントだけあって寒さは格段に軽減された。
ほっと息を吐き、伊都はさらに考える。
いや、考えてみればこれは夢ではないか。ならば何も不思議な事はないのではと、伊都は開き直り。
「うん、私は編み物の魔女で、いいじゃない。何の問題もないし」
うん、と頷いた伊都は、早速検証を始める。
前の季節の在庫品で、半額以下になっていた冬ものの糸を何故か買っていた……あきらかに秋口まで罪庫になっていただろうそれを、そそくさと出して、さらに太めのかぎ針を手にし。
「ええと、つまり編むものに合った歌詞でいつもの歌を歌えばいい訳で……? ルル・リ・ルル・ランラ。これは私の冷えた足を暖めるもの。揃いの、レッグウォーマー。ルル・リ・ルル・ランラ。これも私の足を暖めるもの。揃いの、ルームシューズ」
何となくおざなりな歌詞を付けて、小物を一気に作り上げようとする。
「うん、出来た、出来たね……」
適当に歌っても、物が簡単なものだからか編めてしまった。
各セット一分半程か。恐ろしい程に便利な魔法である。
「む、無敵感が凄いわ……」
頬が赤らみ目は潤む。うっとりとした彼女の顔は今、ちょっと扇情的な表情をしている。
彼女の能力は、決して無敵ではない。ただ編み物が素早く出来るだけである。ただ、作りたいものが常に大量にある編み物好きには、たまらない魔法であったのだ。
むらむらと込みあがってくる編み物欲に突き動かされるまま、伊都は仔狼らへの贈り物へと取りかかった。
「うん、皆かわいいわ」
最後の一匹にティペット(肩掛け)を羽織らせて、首元にきゅっと結びつける。
「魔女ー、ぼく似合う?」
「ええ、似合うわよ」
「なあねえちゃん、おいらはどうだ?」
「ギャン君もとっても似合ってるわ」
「へへっ、そうかっ」
ルームシューズとレッグウォーマーの冷えとり装備で、床に散らばるやんちゃな仔狼らにほほえみ掛ける伊都。
コロコロ転がるようにして、伊都へと向かって駆けてくる様はたまらなく愛くるしい。
(ああ、本当にここは天国かしら)
天然ゆたんぽの如く足下を暖めてくれるから、冷えとり装備と合わせて今の伊都はぽかぽかである。
この頃になると、仔狼らの個性もはっきり分かってきた。元気はつらつ、のんびり屋、きかん坊、世話好き……。
どの仔も個性的で、見間違える事はなさそうだ。
(……動物だからかな、どうも色々ハードルが下がるなぁ)
作るに作ったり、ティペットの数は十五枚。それぞれの肩に掛かる贈り物達を見て、伊都はくすりと笑う。
(一応、男の子達への贈り物、な筈なのにね)
普段の伊都なら、昨日会ったばかりの人に手作りのもの贈るなど、絶対ありえない事態だ。
「そういえば……ジルバーに贈るべき、なのかしら」
でも彼は白銀さんの姿で、そもそもあんな巨大な狼にティペットは似合わない気がするし……伊都はうーんと悩んでしまう。
と、それを聞きつけたかのように、狩りを終えたジルバーが狼姿で帰ってきた。
「なあなあっ、にいちゃん、これ似合うかっ! 魔女のねえちゃんに作って貰ったんだ!」
「ボクもー」
「オレもだ」
仔狼らがわんわんと兄に報告に行くと、青い目を大きく見開き硬直したかと思えば急ぎ足で餌場に向かい、どさりと獲物を置いて。
かと思えば、人型に変身して伊都のいるベッドの脇まで突き進んできて、がばりと抱きついてきた。
「え? え?」
……いきなりの事に、伊都は言葉も浮かばない。
「ずるい」
ジルバーはすりすりと伊都の頭に頬を擦り寄せながら呟く。
(え、ずるい?)
裸の胸に抱きしめられたまま、目を瞬かせる伊都。
「俺のは、ないのか」
何故か、哀切の籠もった声に、伊都はようやく彼の思いに見当がついた。
ぐいと肩を押して、彼の顔を見上げながら伊都はおそるおそる、言葉を紡ぐ。
「……ジルバー、貴方に、私から贈り物をしてもいいのかしら」
はずれていたら、大分恥ずかしい。顔を赤くしながら慎重に言うと、彼はこっくりと頭を頷かせる。
「ああ、欲しい。あんたのくれる物なら、何だって。出来るなら一番に欲しかった」
絵本に描かれる泣き虫魔女の魔法。木製のかぎ針を魔法のステッキのように使うシーンが描かれていたけれど……。
(まさか自分が、出来るだなんて思わないし)
ちくちくと毛糸針で接ぎ合わせて、余り糸で三つ編みにした腰紐を作りさくっと着込むと、ウール百パーセントだけあって寒さは格段に軽減された。
ほっと息を吐き、伊都はさらに考える。
いや、考えてみればこれは夢ではないか。ならば何も不思議な事はないのではと、伊都は開き直り。
「うん、私は編み物の魔女で、いいじゃない。何の問題もないし」
うん、と頷いた伊都は、早速検証を始める。
前の季節の在庫品で、半額以下になっていた冬ものの糸を何故か買っていた……あきらかに秋口まで罪庫になっていただろうそれを、そそくさと出して、さらに太めのかぎ針を手にし。
「ええと、つまり編むものに合った歌詞でいつもの歌を歌えばいい訳で……? ルル・リ・ルル・ランラ。これは私の冷えた足を暖めるもの。揃いの、レッグウォーマー。ルル・リ・ルル・ランラ。これも私の足を暖めるもの。揃いの、ルームシューズ」
何となくおざなりな歌詞を付けて、小物を一気に作り上げようとする。
「うん、出来た、出来たね……」
適当に歌っても、物が簡単なものだからか編めてしまった。
各セット一分半程か。恐ろしい程に便利な魔法である。
「む、無敵感が凄いわ……」
頬が赤らみ目は潤む。うっとりとした彼女の顔は今、ちょっと扇情的な表情をしている。
彼女の能力は、決して無敵ではない。ただ編み物が素早く出来るだけである。ただ、作りたいものが常に大量にある編み物好きには、たまらない魔法であったのだ。
むらむらと込みあがってくる編み物欲に突き動かされるまま、伊都は仔狼らへの贈り物へと取りかかった。
「うん、皆かわいいわ」
最後の一匹にティペット(肩掛け)を羽織らせて、首元にきゅっと結びつける。
「魔女ー、ぼく似合う?」
「ええ、似合うわよ」
「なあねえちゃん、おいらはどうだ?」
「ギャン君もとっても似合ってるわ」
「へへっ、そうかっ」
ルームシューズとレッグウォーマーの冷えとり装備で、床に散らばるやんちゃな仔狼らにほほえみ掛ける伊都。
コロコロ転がるようにして、伊都へと向かって駆けてくる様はたまらなく愛くるしい。
(ああ、本当にここは天国かしら)
天然ゆたんぽの如く足下を暖めてくれるから、冷えとり装備と合わせて今の伊都はぽかぽかである。
この頃になると、仔狼らの個性もはっきり分かってきた。元気はつらつ、のんびり屋、きかん坊、世話好き……。
どの仔も個性的で、見間違える事はなさそうだ。
(……動物だからかな、どうも色々ハードルが下がるなぁ)
作るに作ったり、ティペットの数は十五枚。それぞれの肩に掛かる贈り物達を見て、伊都はくすりと笑う。
(一応、男の子達への贈り物、な筈なのにね)
普段の伊都なら、昨日会ったばかりの人に手作りのもの贈るなど、絶対ありえない事態だ。
「そういえば……ジルバーに贈るべき、なのかしら」
でも彼は白銀さんの姿で、そもそもあんな巨大な狼にティペットは似合わない気がするし……伊都はうーんと悩んでしまう。
と、それを聞きつけたかのように、狩りを終えたジルバーが狼姿で帰ってきた。
「なあなあっ、にいちゃん、これ似合うかっ! 魔女のねえちゃんに作って貰ったんだ!」
「ボクもー」
「オレもだ」
仔狼らがわんわんと兄に報告に行くと、青い目を大きく見開き硬直したかと思えば急ぎ足で餌場に向かい、どさりと獲物を置いて。
かと思えば、人型に変身して伊都のいるベッドの脇まで突き進んできて、がばりと抱きついてきた。
「え? え?」
……いきなりの事に、伊都は言葉も浮かばない。
「ずるい」
ジルバーはすりすりと伊都の頭に頬を擦り寄せながら呟く。
(え、ずるい?)
裸の胸に抱きしめられたまま、目を瞬かせる伊都。
「俺のは、ないのか」
何故か、哀切の籠もった声に、伊都はようやく彼の思いに見当がついた。
ぐいと肩を押して、彼の顔を見上げながら伊都はおそるおそる、言葉を紡ぐ。
「……ジルバー、貴方に、私から贈り物をしてもいいのかしら」
はずれていたら、大分恥ずかしい。顔を赤くしながら慎重に言うと、彼はこっくりと頭を頷かせる。
「ああ、欲しい。あんたのくれる物なら、何だって。出来るなら一番に欲しかった」
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