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二章:魔女は、彼と朝を迎えました。

五話 魔女は、歌い出す。

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 さあ、さくっと作って可愛い仔狼達へ贈り物でも編もう。
 ベッドの上で横座りしながら、意欲満々でシンプルな膝丈チュニックを編み出す伊都。
 毛糸玉から糸端を拾い、作り目を編むと、いつものように伊都は歌い出した。

 それは、伊都も好きな場面。森の乱暴者にいじめらている泣き虫魔女を助ける為、スコーチベアーと戦うジルバーという、絵本のクライマックスシーンを中心に構成された、小劇団のミュージカル調公演で歌われた一節。

「ルル・リ・ルル・ランラ。あなたのそのキズは友を助けたあかし。それは負けオオカミの弱さではなく、勇者のあかし。ルル・リ・ルル・ランラ。私は友へ贈り物を編もう」

 その歌はジルバーの友、泣き虫魔女がジルバーを讃える詩。
 ヒロイン役の美人女優が歌った曲は、今を時めく大人気作曲家の作品だけあってリリカルでキラキラしていて、その曲の為だけに劇団の歌曲集を買い求めた程だ。

「……そのキズを飾る、これはネッカチーフ。ルル・リ・ルル・ランラ。間違えないで、胸を張って。私の友よ、貴方は私の勇者さまなのだから」

 さくさくと、歌い慣れたそれを口ずさみながら、シルク加工したウール糸を編んでいく。部屋着だからと、ブラウンとサーモンピンクの色合わせで、表編みと裏編みでさらりと縞模様を出す。
 失敗したり飽きたりしたら再利用する為、糸は基本切らない。再利用が容易なところが、編み物のいいところだと思っている。

「ルル・リ・ルル・ランラ。これは私のためのチュニック。少しだけおしゃれをして、誇らしい貴方の横に立つために編むもの……」

 調子が乗ってきたところで、勝手に歌詞をアレンジした二番を歌う。慣れた指先が自然と動くに任せ、陽気に歌を歌っていたら……。

「うわあっ、すげえ!」
「魔女の魔法だぁ」
「初めてみたー」

 キャンキャンと、足下で吠え跳ねる仔狼達のはしゃぎ声が響く。
 伊都も目を丸くして、目の前で起こる不思議な事象を眺めていた。

 アニメ映画のよき魔女が操る、魔法の杖のように。編み針からキラキラとした光が放たれ、伊都の想像通りに高速に縞模様のチュニックが編み上がっていく。

 何となく、歌を止めるのも座りが悪い気がして。二番を歌いきると同時に、あとは接ぎ合わせるだけの前身頃と後ろ身頃が、ベッドの上にきちんと並べられていた。

「わー、やっぱ魔女ってかっけー」
「ボクもまほー使いたいなー」
「ばっかでー。オレらみたいに強くないから魔女は魔法が使えるんだぞ。強いオレらには無理だい」

 わんわんと鳴き交わしている仔狼らの言葉も耳に入らない程、伊都は不思議の産物と化したチュニックを前に呆然としている。

「……うん、思った通りに編み上がってる」

 時間にして、三分と少しぐらい。
 あり得ないほどの早回しで、一着分のチュニックが編み上がった事になる。

 笑える事に、ちょっときつめの手で編んだような編み癖まで再現されているのだから、それが自分の編んだものだと認識せざる得ない。


「……嘘。私本当に、泣き虫魔女なの?」
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