緑の魔法と香りの使い手

兎希メグ/megu

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16章 女神の森に喫茶店を建てよう。

195.喫茶店予定地を見に行こう。

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日が変わって、次の日。
私達は夢が夢でない事を確認する為、喫茶店予定地を見に行く事にした。

そこは、ロッジから歩いて二時間程の距離の、森の北端。
プロロッカに近い場所に小走りで……足の遅い私はぽちの背に乗って……現場に着くと、私達は驚いた。
「うん、明らかに何者かによって整地されてるな……土の表面がまだ柔らかく湿っている」
片膝を突いて地面を手のひらで撫でるようにしたアレックスさんが、そんな事を言う。
私は何とも言えず、それに頷くばかり。

何て言うか、改めて驚いた。だって、つい先日まで鬱蒼とした森であったその場所に、綺麗に均された地面があったのだから。
ぽちは森の生き物達の臭いが残ってるのか、ウロウロとあちこちを歩き回ってる。
ふんふんと地面の臭いを嗅いでいたぽちは、色んな動物の臭いがするー、と私に報告してくれる。
「……わうん」
「そうなの、今は危険なものは側には居ないって? 報告ありがとうね、ぽち。ちゃんと、倒した木も再利用しやすいように簡単に枝を払って側に積んであるし……丁寧な仕事だね」
驚き冷めやらぬ中、気分を変える為、わざとのように笑顔を浮かべた私はアレックスさんに言った。
「と、とりあえずこれで喫茶店の建物はすぐ建てられるよね」

アレックスさんは膝の埃を払って立ち上がり、一つ頷くと、すぐに喫茶店完成まで必要な手立てを考え始める。
「まあ、とりあえず、ここに喫茶店を建てるとして……建築屋が必要だな。まずはマスターに相談するか」
「そうですね。流石に森の動物も建物を建てる事は出来ないでしょうし、かと言って、小さなものといえ建物なんて本格的なもの、私が親方に頼んでも信用してくれそうもないし」
「オレが頼んでもいいんだけどなぁ……後々を考えると、マスターを通した方がいい気がする」
「言われてみれば確かに……この場所の立地上、遊びに来る人は冒険者が中心になっちゃいそうですしね」

そんな感じで、冒険者ギルドマスターに相談は決まったのだけれど……。
その前に森に入れるか、テストする事になったんだ。
「えっと……あの、人避けは外してるから大丈夫ですよ?」
「ベルが言うんだから間違いないんだろうが、果たしてそれをマスターが信じるか、って話でな」

夢の中の女神様の話を思い出す。この森は成り立ちからして女神信仰が先にあったような場所だ。
そのせいか、女神を信仰する者しか今は入れない場所になっている。
しかし、魔力が少なくなって、日々がモンスターとの戦いとなったこの国では、信仰心は余りにも薄れてしまった。だから、家族の中で当たり前に女神信仰を受け継いで来た、森の狩人であるアレックスさんしか入れない、という訳だ。

そんな場所にいきなり入れると言われて素直に信じる人は、それは少ないだろう。
うーん、まあ、私は女神の森の人避けを確かに解除した確信はあるけど、それは他の人には理解出来ないだろうし、あらかじめ入れる事をテストするのは必要な措置だって事は分かったよ。

で、誰を呼ぼうかという話になって。
「ヴィボさんよね」
「ヴィボだろう」
「わんわん」
ぽち含め、私達がせーので言ったら、全員一致でヴィボさんに決まった。これは日頃の信頼が物をいったね。
うんうん、ヴィボさんはギルドの中でも一番紳士な人だもの、当然だね。

◆◆◆

喫茶店予定地を確認しに行った日から二日後。
テスターとして、口の固いヴィボさんに協力をお願いする事になった訳だけれど……。

「遠路はるばる済みません」
「いや。そろそろ自分も、村の防衛に加わろうかと思っていたところだ。腕が鈍ってないか確かめる為にも、時折ダンジョンを巡るかと考えていてな。馬車の移動に慣れるのに丁度良かった」
こちらが気を遣わないようにと、そんな事を言ってくれるヴィボさんは本当に気遣いの達人だ。
一人で感動していると、アレックスさんがキャンプ用品っぽい折りたたみ椅子とテーブルを並べ、休憩の用意をしてくれていた。
「あ、一人でやらせて済みません」
慌ててそちらの手伝いをしようとすると、軽く手を振って「それよりテストを優先しろ。午後にはヴィボも帰らないといけないから時間はないぞ」 とアレックスさんが注意してくる。
ああ、そうだ。
朝方の仕込みはギルド職員を希望しているカロリーネさん、ティエンミン君が頑張ってくれているけど、煮込みの味はヴィボさんにしか決められないし、パンの在庫を確認して最終調整したりする必要もあるだろうから、午後にはヴィボさんも帰らないといけない。
忙しい身のヴィボさんを長々拘束しちゃまずいね。早くテストを済ませてしまおう。

「ええっと、今日は喫茶店予定地の敷地を歩けるかどうかを試して頂きます。森との境界線は木々が生えてるかどうかなので、分かりやすいかと。まずは、入り口から。森の境界線までまっすぐ歩いて頂けますか?」
「ああ」
軽く頷いたヴィボさんは、ゆっくりと敷地の中に歩き出す。……よし、まずは一歩め。普通に入れた。
そのまま、彼は気負いなく歩いて行って、木々の立ち並ぶ境界線まで辿り着く。
そこで、ふと立ち止まったヴィボさんは……。
「あっ!?」
そのまままっすぐ、森の中に突っ込もうとした。

「まあ、気持ちは分かる。駄目だと言われた場所には入りたくなるよな」
休憩用の道具を準備し終えたアレックスさんは、私の横に来てうんうんと頷いているけど、人避けの魔法って身体に害はないの? 大丈夫なの?

ハラハラしていると、何故か境界線で足踏みするように数歩歩いたヴィボさんは、くるりと百八十度回転して、こちらへ戻って来ちゃった。
「あれ?」
驚く私を前に、ぼんやりとした顔で十数歩ほど歩いた後にヴィボさんは不思議そうにゆっくりとオレンジ色の目を瞬いて立ち止まる。
「……おかしいな、自分は森に入った筈だが」
その言葉に、アレックスさんは納得したように頷いて言った。
「おそらく、人避けの魔法に掛かったんだな。うん、上手く機能してるんじゃないか?」
「人避けの魔法……か。それは悪い呪術の類だろうか。それにしては、特に倦怠感などはないが……」
「いや、もっと古い魔法でな……」

そうしてアレックスさんが説明してくれている内に、私はキャンプグッズから木炭とケトルと、それを吊るすスタンドを出してお茶の準備を始める。
せっかくご足労頂いたのに、お茶の一杯も出さずに帰すのは忍びないし。
「火を点けるのとお水の準備は、ぽちにお願いするね」
「わん」
フレッシュハーブで、午後も忙しいヴィボさんの為にリフレッシュドリンクを入れよう。
あ、王都で買ってきた紅茶も入れてもいいかも知れないね。

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