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14章:楽しい? 王都観光です

173.森の島へご招待(下)

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 それから一時間ほどは、平和に狩をした。
 きちんと手入れされているのか、森はとても豊かで生命が豊富だ。緑の庇を抜け馬で走っていると、とても気持ちがいい。
 ……あちこちから睨み付けるような視線が飛んでいなければ。

 予め偵察でも出したか、狩は順調に進んだ。貴族子弟がテイマーが狩り出した獣を魔法や弓などで倒したり、騎士達も力強い狩で大物を狙ったりと。

 ぽちやアレックスさんも、控えめながら活躍したよ。
 あんまり目立つとそれはそれで問題がありそうだから、本当にほんのちょっとだけど。
 ウサギとか、タヌキとか、子鹿なんてものを中心に狩っていく。

 これらは後で、狩った獲物を捌いてその場で食べるらしいけど……それより居心地悪いから早く帰りたい。

「はあ、早く帰りたいよ」
「俺も同上、だ」
 貴族様を気遣いながらトロトロと走る馬上で二人、ウンザリと呟く。全然自由じゃないし、獲物は食べでがない小さいものだし。
 食肉目的で狩ってる私達と違って、貴族の狩はとかく優雅だ。
 いや、まあ。人の趣味をとやかく言うつもりはないんだけど。

 それに、貴族達はあの侯爵令嬢に遠慮してるからか、空気のようにこちらを無視して来るしで、どうも気が乗らないんだよね。
「狩が終わったらお暇しようか。何だかもう疲れたよ」
「そうだな。こういった場は久々だが、オレも苦手だよ」


 で、一時間を過ぎ、狩に熱中した王子様と側近の方達の姿が森の陰に隠れた頃の事だ。

 クールハイト侯爵令嬢とやらは、懲りて居なかったようで……。

 私とアレックスさんが乗る馬を囲んで、少しずつ王子様達のグループから引き離していき、姿が見えなくなったところで馬を反転させた。

「ねえ、皆さま。ここに殿下の目に触れさせるには余りにも汚い生き物がおりますわね。あの地上の犯罪者をさっさと狩って、殿下にあの汚い首を差し上げたらどうかしら」
 彼女は残忍な笑みを浮かべると、そう言って私に宝石で飾った魔法の杖を向ける。
 それはいいと、周りの青年達が続いた。
 
 地上では、あり得ない事だ。
 それは、魔術士、あるいは魔法使い擬きの私闘の合図なのだから。

「アレックスさん……」
「済まないな。どうやら、オレの都合に巻き込んだみたいだ」
 私が動揺して後ろを振り向くと、アレックスさんは眉間に皺を刻んで謝罪の言葉をつぶやいた。
 いえ、謝って欲しい訳でなく。この人達は何故、王子様の招いた客である私達を狙ってるのかを聞きたかったのよ。


「クールハイト侯爵令嬢殿! その方達は殿下が招待した正式なお客人です! 杖を下ろしなさい。殿下の客を狙うと言う事は、殿下に逆らう事も同じです! 今のは見なかった事にしますから、そこまでになさい」
 警告の声に視線を前方に戻す。慌てたように、王子様派か中立派の貴族の青年が彼女らを止めているのだけど、侯爵令嬢は止まらない。

 彼女は無粋なとばかりに貴族の青年を睨み付けると、微笑みに歪んだ笑みを浮かべて言う。
「あら、そんな訳がありません。地上に堕ちた犯罪者の末裔が、次期国王たる第一王子殿下に招かれる訳がございませんもの」
 取り巻き達は同意する。
「そうだ、その通りだ」
「地上の者はすべからくが犯罪者であり、それらは罪の贖罪に、我らに全てを投げ出さねばならないのよね」
「そうだ。だと言うのに、憎たらしくもこの犯罪者共はのうのうのと着飾り、貴族だけが許された遊興の場にまで泥靴で踏み込んで来る。全く反省の姿勢も何もない」
 私達を包み込むように周りに散った、十名程の貴族達は、杖先をこちらに向けたまま楽しげに囀る。

「ええいっ、もう知りませんよっ! 私は関係ない!」
 そう言って、まともな方の貴族の青年が馬を駆けさせたのを合図にするように。

「ええ、皆様の言う通り。この場に犯罪者が居る事が間違いなの。だから、お前達。黙って殺されなさい」

 くくっと喉を鳴らした彼女は、緑髪を靡かせて「風よ、かの者を切り裂け」 と力ある言葉を言った。
 前後するように、取り巻きの青年達も力ある言葉を唱えた。
 不可視の風の刃が、土塊の弾が、雷が。杖先から迸り、こちらに襲い掛かる。


 その時、色々な事が同時に起こった。

「ベル殿、アレックス、其方ら大丈夫か!」
 木々の間を駆け抜けるようにして張りのある男性の声が聴こえてきて。
 
 賢いぽちは、力ある言葉を彼女が呟いた瞬間にそれを攻撃と見て、公爵令嬢やその取り巻き達の馬に威嚇の声を上げた。
 馬らは恐慌し棹立ちに。

「きゃあっ!」
「何っ!?」
 当然、侯爵令嬢と青年らは宙に投げ出される。彼らの撃った魔法はコントロールを離れ、とんでもない方向へと逸れた。


 ……それは、私達の不在を不審に思ってか馬を返して来た、王子様や王子様の側近の人達の方にも飛んでいく。

「えっ、何で王子様が? ……いけないっ!」
 私は咄嗟に広げた魔力膜のバリアーを私達を乗せた馬やアレックスさん達を巻き込むように広げつつ、魔法を弾く。
 魔力コントロールだけは毎日練習を欠かしてないんだ。だからこれだけは自信があるんだよっ。
「殿下にも……届いてっ!」 
 お願い、女神様。アレックスさんの親友を助けて。
 魔力を凝らし、コントロールを精密にして。一瞬がまるで永遠のように間延びするのを感じながら、ぐんぐん広がる魔力膜を私は操る。
 祈りのように念じたそれは、こちらへと走り寄る王子様へ向かった魔法を、確かに弾いたんだ。

「ふうっ、良かったぁ」
 結果は、何とかセーフ。
 うわあ、怖ぁっ! ここまで広げたの初めてだから、上手くいくか分からなかったよ。


「クールハイト侯爵令嬢! 殿下に杖先を向けるとは、一体何のつもりだ!」
「ち、違いますわ、これは何かの間違いで……!」
 殿下の側近の人が、令嬢達に怒っている。弁解する令嬢は馬から投げ出されたまま、何か言ってる。
 まあ、ぽちがタイミングを読んで馬を脅かしたせいで誤射した訳だし、それも一瞬の事だったしね、何があったか分からないんだろうなぁ。

 それはそれとして。
「ねえ、アレックスさん。今のうちに逃げない? 殿下達も侯爵令嬢達に掛かりっきりだし」
 私はアレックスさんにこっそりと逃亡の提案をする。
 いやだって、幾らアレックスさんが王子様の友人でも、貴族が一番の階級社会としては庶民なんて守ってくれるか分からないし。
 説明とかも正直面倒じゃない。
「……ああ、そうだな。厄介ごとにならない内に逃げた方がいい。この場は殿下がどうにかするだろうし、令嬢がオレ達を始末しようとした流れぐらい聡いあの方なら分かる。下手な拘束を受けて長々と浮遊島に閉じ込められるのは、正直御免だ」
 うんうんと、私は頷く。ぽちには逃げるよと唇だけで告げて。

 私たちは、色々文句を付けられない内に逃げようと、混乱する場を馬を駆ってさっさと逃げたのだった。






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