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14章:楽しい? 王都観光です
163.変質者に襲われまし……た?
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修正:
途中から盛大にナンバーがずれていたので修正しました。
お騒がせして申し訳ありません。
+++++++++
暗がりから伸びた手が、私の手を掴む。
「ひっ」
男の人のゴツゴツした手の感触に、私は咄嗟に魔力の膜を張った。
「……!?」
さ、酒飲みの人だか何か知らないけど、こんな夜遅くに女の子の手なんて掴んだら変質者ですよっ!
なんて、言ってる場合じゃなくて。
相手は私の物理バリアーに弾かれたのを確認したら、何と刃物を持ち出したんだ。
「と、通り魔っ!?」
「グルルッ」
私の悲鳴に気づいて、ぽちは暗がりの変質者に飛びかかった。
「チッ」
鋭い舌打ちと共に相手のナイフが暗がりに引っ込み……。
時間にして、それは数秒ばかりの事だっただろう。美味しい料理と美味しいお酒に緩んだ時の事で、しかも浮遊島っていうモンスターの居ない平和な場所で。
夜なお明るい、繁華街の一角で。
その時、きっと誰もが油断してたんだ。
反応できたのは、だから獣のぽちだけ。
暗い路地にぽちの怒りの声が響く。バタバタと遠ざかる足音。
そして、残念そうに頭を下げて出てきたぽちの姿があった。
「逃げた……の?」
「ぐるう……」
捕まえられなかったと、口元をわずかに赤で汚したぽちが悔しそうに鳴く。
「武器持ってる相手じゃ仕方ないよ。それより怪我はない?」
悔しがるぽちを撫でながら言うと、ぽちはくぅんと小さく鳴いた。
その時私はぽちを慰めるのに必死で、だから男性二人のこんな話を聞いてなかったんだ。
「……どういうつもりだ。どうせオレらの動向を探る為に裏の者でも付けてたんだろうに。何故包囲を緩めた」
「何の話でしょう? いやはや、夜道はやはり怖いものですね」
「しらばっくれるな。どうせ、殿下の命令でオレらを見張っている癖に。お前、わざとベルを襲わせたな?」
「何をバカな事を。最強の魔法騎士とAAランクの契約獣が居るのですよ、あるいは警備の隙があったとして、それも意味がない事。今回はただの不幸な偶然です。それに、私達は友人ではありませんか。貴方を見張るなど……」
「その魔法騎士とやらと契約獣の隙を突く、不幸な偶然ってのはどんな偶然なんだろうな。不思議な事もあったもんだ。しかし友人、ねえ? 殿下に対して有用な駒、の間違いじゃないか」
……なんて、どう考えても殺伐とした会話を、半ば寝落ちそうな感じで私達の後をのんびり付いてくるオババ様が聞いていた事も、後になって知ったのだった。
私がぽちを何とかなだめて振り向くと、アレックスさんはムッとした顔で詩人さんを睨み付け、詩人さんはいつも通りに胡散臭い笑顔を浮かべてた。
「ベルさん、大丈夫でしたか?」
「あ、うん。やっぱり都会でも暗がりに近づいちゃだめだね。変質者に襲われるかと思った」
未だドキドキしている胸を抑えると、そうですね、と彼は胡散臭さ極まる笑顔で言う。
「女性だけとも限りませんが、しかしやはり若い女性は狙われ易いものです。そうですね、ここからは私とアレックスで挟んで行きましょうか」
「ええと、はい。お願いできますか……」
また暗がりから手が伸びてきやしないかと、気が気でない私はアレックスさんの不機嫌の理由が思いつかず首を傾げながらも、詩人さんの提案に乗った。
「ぽちも、馬車を拾うまで警戒お願いね」
「わんっ」
今度こそ見逃さないよっとばかりにぽちが鳴く。その頭を撫でながら、私は急いで馬車の停留場に向かった。
しかし……都会でも一本道を逸れたら危ないって、そこは前世と同じなのね。それに通り魔も居ると。うう、この世界では一人で気軽に飲みにも出掛けられないなぁ。
はあ、全く厳しい世界だよと思いながら、魔法の光に輝くアーケード街をちらりと見る。
まるでおとぎの国のように、こんなに見た目は綺麗なのにね。
ホテルの部屋に帰ったら、すぐにお風呂の用意をして掴まれた腕の辺りを思いっきり石鹸で洗い倒した。
うう、まだ感触が残ってる気がする……。
しかし本当に、私のこのトラブル体質って何なのかしらね。前世、女子大生してた頃はこんな事なかったんだけど。平々凡々で、元気だけが取り柄だったというのに生まれ直してからは常に何かに遭遇してる気がする。
「くうん?」
あ、今日は勇姿を労うべく、ぽちも一緒にお風呂に入ってたんだった。
長風呂に付き合わせるのも何だし、さっさと上がろう。
「本当、今日はぽちが居なかったら大変だったよ。有難うねー」
ぽちの毛をタオルでしっかり拭いながら言うと、今日の自分はダメだったと反省点を言ってくるから面白い。
ぽち的には、変質者に私が一瞬でも捕らえられたのが悔しいんだってさ。
まあ、明日からは暗くなる前にホテルに戻ろう。後、細い路地とかには近づかない。
何だか海外旅行の時の心得みたいだけど、間違ってないよね、うん。
なんて思いながら、今日はぽちと一緒に眠りたくって、いつものヨガマット代わりの古布を取り出し、ふかふかの絨毯の上で身を寄せ合って眠った。
うーん、ぽちのお腹枕は最高だよー。
途中から盛大にナンバーがずれていたので修正しました。
お騒がせして申し訳ありません。
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暗がりから伸びた手が、私の手を掴む。
「ひっ」
男の人のゴツゴツした手の感触に、私は咄嗟に魔力の膜を張った。
「……!?」
さ、酒飲みの人だか何か知らないけど、こんな夜遅くに女の子の手なんて掴んだら変質者ですよっ!
なんて、言ってる場合じゃなくて。
相手は私の物理バリアーに弾かれたのを確認したら、何と刃物を持ち出したんだ。
「と、通り魔っ!?」
「グルルッ」
私の悲鳴に気づいて、ぽちは暗がりの変質者に飛びかかった。
「チッ」
鋭い舌打ちと共に相手のナイフが暗がりに引っ込み……。
時間にして、それは数秒ばかりの事だっただろう。美味しい料理と美味しいお酒に緩んだ時の事で、しかも浮遊島っていうモンスターの居ない平和な場所で。
夜なお明るい、繁華街の一角で。
その時、きっと誰もが油断してたんだ。
反応できたのは、だから獣のぽちだけ。
暗い路地にぽちの怒りの声が響く。バタバタと遠ざかる足音。
そして、残念そうに頭を下げて出てきたぽちの姿があった。
「逃げた……の?」
「ぐるう……」
捕まえられなかったと、口元をわずかに赤で汚したぽちが悔しそうに鳴く。
「武器持ってる相手じゃ仕方ないよ。それより怪我はない?」
悔しがるぽちを撫でながら言うと、ぽちはくぅんと小さく鳴いた。
その時私はぽちを慰めるのに必死で、だから男性二人のこんな話を聞いてなかったんだ。
「……どういうつもりだ。どうせオレらの動向を探る為に裏の者でも付けてたんだろうに。何故包囲を緩めた」
「何の話でしょう? いやはや、夜道はやはり怖いものですね」
「しらばっくれるな。どうせ、殿下の命令でオレらを見張っている癖に。お前、わざとベルを襲わせたな?」
「何をバカな事を。最強の魔法騎士とAAランクの契約獣が居るのですよ、あるいは警備の隙があったとして、それも意味がない事。今回はただの不幸な偶然です。それに、私達は友人ではありませんか。貴方を見張るなど……」
「その魔法騎士とやらと契約獣の隙を突く、不幸な偶然ってのはどんな偶然なんだろうな。不思議な事もあったもんだ。しかし友人、ねえ? 殿下に対して有用な駒、の間違いじゃないか」
……なんて、どう考えても殺伐とした会話を、半ば寝落ちそうな感じで私達の後をのんびり付いてくるオババ様が聞いていた事も、後になって知ったのだった。
私がぽちを何とかなだめて振り向くと、アレックスさんはムッとした顔で詩人さんを睨み付け、詩人さんはいつも通りに胡散臭い笑顔を浮かべてた。
「ベルさん、大丈夫でしたか?」
「あ、うん。やっぱり都会でも暗がりに近づいちゃだめだね。変質者に襲われるかと思った」
未だドキドキしている胸を抑えると、そうですね、と彼は胡散臭さ極まる笑顔で言う。
「女性だけとも限りませんが、しかしやはり若い女性は狙われ易いものです。そうですね、ここからは私とアレックスで挟んで行きましょうか」
「ええと、はい。お願いできますか……」
また暗がりから手が伸びてきやしないかと、気が気でない私はアレックスさんの不機嫌の理由が思いつかず首を傾げながらも、詩人さんの提案に乗った。
「ぽちも、馬車を拾うまで警戒お願いね」
「わんっ」
今度こそ見逃さないよっとばかりにぽちが鳴く。その頭を撫でながら、私は急いで馬車の停留場に向かった。
しかし……都会でも一本道を逸れたら危ないって、そこは前世と同じなのね。それに通り魔も居ると。うう、この世界では一人で気軽に飲みにも出掛けられないなぁ。
はあ、全く厳しい世界だよと思いながら、魔法の光に輝くアーケード街をちらりと見る。
まるでおとぎの国のように、こんなに見た目は綺麗なのにね。
ホテルの部屋に帰ったら、すぐにお風呂の用意をして掴まれた腕の辺りを思いっきり石鹸で洗い倒した。
うう、まだ感触が残ってる気がする……。
しかし本当に、私のこのトラブル体質って何なのかしらね。前世、女子大生してた頃はこんな事なかったんだけど。平々凡々で、元気だけが取り柄だったというのに生まれ直してからは常に何かに遭遇してる気がする。
「くうん?」
あ、今日は勇姿を労うべく、ぽちも一緒にお風呂に入ってたんだった。
長風呂に付き合わせるのも何だし、さっさと上がろう。
「本当、今日はぽちが居なかったら大変だったよ。有難うねー」
ぽちの毛をタオルでしっかり拭いながら言うと、今日の自分はダメだったと反省点を言ってくるから面白い。
ぽち的には、変質者に私が一瞬でも捕らえられたのが悔しいんだってさ。
まあ、明日からは暗くなる前にホテルに戻ろう。後、細い路地とかには近づかない。
何だか海外旅行の時の心得みたいだけど、間違ってないよね、うん。
なんて思いながら、今日はぽちと一緒に眠りたくって、いつものヨガマット代わりの古布を取り出し、ふかふかの絨毯の上で身を寄せ合って眠った。
うーん、ぽちのお腹枕は最高だよー。
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