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13章:薬師の試験と王都での日々

158.薬師昇格試験当日……身分格差を思い知らされる。

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 昨日は唐突に、詩人さんの出生の秘密が明らかになった訳だけど。

 魔法使いっぽいなぁと、色付きの髪を見て思ってたらやっぱりそうかと思った。
 というか、私生児とはいえ王子様!?
 私はひたすら驚いた。
 
「いえいえ、殿下が兄だなんて、そんな失敬な事考えられません。生まれたその日から平民として育ってますからねぇ。まあ、殿下が身内枠として見てくれてるからこそ、地上の調査に私が優先で出向く事にもなっていますが……」
 なんて詩人さんが謙遜していると、王子様は彼の頭をぽんと軽く叩いて。
「こんな事を言っているが、此奴の貢献は大したものだ。天上の人々の糊口をしのぐ為に、最早切りようもない地上と浮遊島を繋ぐ役目をしてくれているのだ。大したものよ」

「はあ」
 兄は兄を名乗りたいけど、弟は消極的と。
 
 ええっと、何だか複雑なご家庭なんですね……。


 そんな衝撃がありながらも、明けて翌日。
 もう試験の日です。

 私はホテルから馬車に乗り、試験対策ノートを睨みつつ朝から薬師ギルドに向かった。
 今日はオババ様とアレックスさんが付いてきて、ぽちは騒ぎにならないようにとホテルに残ってる。
 何か、詩人さんがもっと仲良くなりたいからとお世話してくれるらしい。ぽちは若干うんざりした様子だったけど……。
 まあ、旅の間は絡まれまくりだったもんねぇ。

 で、薬師ギルドに到着。
 今日はさすがに試験日とあって玄関ホールが大賑わいだ。
 私は何処に行くんだろうかとキョロキョロする。
 
「ええーと、試験に来られた方ですか、カードを拝見します。……はい、お返しします」
 すると、玄関ホールでいきなりギルドの職員に呼び止められ、仮カードを確認される。

 オババ様は……あ、いつもの通りに弟さんが迎えに来たね。アレックスさんは一階の別室で待機なんだ、へえ。

「はあ。まあ、いつも通りにやれば受からん訳がない。気楽にやるがよい」
 と言いながらうんざり顔のオババ様は弟さんに連れて行かれて。
「ようやく本番だな。これが終わったら、市内観光にでも出掛けるか。ま、オババ様のお墨付きもあるんだし、いつも通りにな」
 と、励ましの言葉を言いつつアレックスさんは一階の護衛の待機部屋に移っていった。

「ではー、これから二階に移動します。貴族子弟の方は大変にお待たせ致しておりますが、昇降機前にお並び下さいー、商家と一般の方は、貴族の方が二階に上がられてからー、昇降機の横の階段を使ってー、二階にお進み下さいー」

 第一調合室は貴族のご子息が。
 第二調合室は貴族様が目を掛けた商家の息子さん達が。
 第三調合室が、私達平民が、と。連絡は続く。
 
 おおっと、いきなり身分で分けられてますよ。
 いや、その方がトラブル回避の意味でも色々と安全なんだろうけど。
 貴族様にうっかり粗相して、切り捨てられても困るし。
 
 
 第三調合室は、いつも使ってた小さな調合室の物がそっくりそのまま複数台セットされていた。
 大きな作業用テーブルとコンロのような火の魔道具、それに各種調合道具揃いで置かれ、十人程が一気に作業出来るようになっているようだ。

「ではー、調合試験から始めます。皆様のお手持ちの物でなく、こちらが用意した薬草と機材で作って下さい。品質は中級ポーション程度のものを用意しております。手順も見ますので、簡略などせず基礎通りの手順でお願いします」

 時間になると、試験官から説明が入る。
 午前中は、まず実技の調合なのね。
 ふんふん、基本のレシピの通りになら、十分量があるね。萎びたりカビたりもしてないし、品質もなかなか。
 量を集める必要があったからか、ドライハーブみたいだ。
 私は作業台に着き、配られた薬草を使っていつも通りに丁寧に作業を進めた。周りの人たちも落ち着いた様子でやってる。
  
 で、小一時間程で、瓶詰めまでを終わらせたわけだけど。

「えー、実技の方が終わりましたが、貴族の方々がご退室なさるまで、皆様にはしばらくは待機して頂きます」
 実技で作った薬をワゴンに積み込む係の人が、おもむろにそう言ってから退室して行く。

「え? どういう事?」
 私はぽかんと口を開けた。 

「……毎回ながら、酷い扱いだよなぁ」
「まあ仕方ないわよ。貴族様を同列に扱ってもし機嫌を損ねたら面倒じゃない。ギルドや私達が目を付けられても困るし」
 第三調合室で待ち時間を潰している時、そんな会話が聞こえて来た。
 どうやら私達は、調合室で午後のお茶の時間ぐらいまでここで缶詰になるようだ。

「ええと済みません。これ、毎回なんですか」
 私は思わず後ろの作業台に着いていた二人の会話に割り込むと、サバサバした感じの二十代前半くらいの女性が肩を竦め、おっとりした外見の二十代後半ぐらいの男性が頷く。
「そう。いつもよ」
「何て言うか、貴族様との面倒事の回避かな? ギルド側が俺ら平民の試験をわざと遅らすんだ。あ、退室は無理だが、調合室を汚さない程度の軽食なら食べても怒られないぞ」
 そう言うと、大人しそうな感じの青年の方が、おもむろに足元に置いた袋から黒パンを取り出し大雑把にナイフで切ると何も付けずに食べ始めた。
 女性の方もパンを取り出して食べてる。
 ここでいきなり食事タイム……? 改めて周りを見れば、他の所でも自分で持って来たパンや干し肉っぽいものなどを食べてる。
 皆、特に驚きも何もなく、本当にいつも通りの状況らしい。
 
「あんたも食うか?」
「あ、いえ。持ち合わせはありますので……ご親切にありがとうございます」
「おう」

 私は、旅の間にオババ様の間食用に作って置いたドライフルーツと、ザワークラウト的な葉野菜の酢漬けに保存の効く黒パンを出し、適当に摘む事にする。
 私がもそもそと作業台で折り畳み椅子を広げ昼食を食べてると、じーっと熱い視線が後ろから……。
「えっと、食べます?」
「食べる」
「頂けるかしら」

 ということで、何となく三人でご飯を食べたよ。
 

 貴族組が終わって、退出した後に商家と一般枠がようやく筆記試験を受けられることになるという。
 もうお茶の時間だよ……。まあ、その間に、仲良くなった後ろの二人、コーバスさんにカチャさんという幼馴染二人組と一緒に試験範囲の見返しが出来て良かったけど。
 
「はあ、ようやく終わった」
 実技の後にペーパーテストということで、日が落ちる頃にようやく終わった。
 私は筆記用具を片付けつつため息を吐く。簡単なものしか食べてないから、お腹がギュウギュウ言ってるよ……。

「頭も使ったし、何だかお腹空いたわねー、これから何処かに食べに行く?」
「お、賛成。ベルも一緒にどうだい」
 なんて、二人が誘ってくれるけど、私はオババ様とアレックスさんを待たせちゃってるからなぁ……。
「お誘いはすごく嬉しいんだけど、ごめん。人を待たせちゃってるんだ」

 そう言って二人には再会を約束しつつ階段を降りると、人も疎らになったロビーにはアレックスさんと顔見知りだろう戦士っぽい人がソファに座ってた。
 
「お、オレの方の待ち人は来たみたいだ」
「ふーん、あのちっさいのがそうか? 趣味変わったな……」
「バカ言え。お前と同ランクの冒険者を捕まえてよく言う」
 何だか失礼な会話をしつつ席を立つアレックスさん。私がムッとしながら側に寄ると、彼は笑顔で「お疲れ」 と声を掛けてくる。
「疲れてはないけど、お腹が空いたわ。どっちかって言うと待ち時間が長かったし」  
「そうか。まあ、一応ギルドの方も平民の安全を考えての事だろう。そこは怒らないでやり過ごすんだな」
「うん、分かってる」
 そんな風に話してると、戦士っぽい人の方も待ち人が来たのか、こちらにひらりと手を振ってあっさり去って行った。

 そこに、オババ様がカウンター後ろの事務室っぽい所から出て来て、私達の方へと寄って来た。
「はあ、やれやれ。あいつは本当に口煩いわい」
 すっかりと食傷気味な感じでため息を吐くオババ様。また、弟さんに不義理を責めれられたのかな。
「さあて、ではホテルに帰るか。聞いて来たが、結果が出るのは一ヶ月後ぐらいの事だそうだ」 
 覚悟はしてたけど、やっぱり長期滞在になるのかぁ……。私は内心に頭を抱える。
 うう、こんな出ずっぱりでお店に帰らない店主なんて、喫茶店店主失格だよ。ああもう、今すぐ飛んで帰りたい。
 テンションがだだ下がりした私の肩を、アレックスさんが慰めるようにぽんと叩く。
 
 王都から帰る頃には、すっかり季節が変わってそうだ。
 はあ、またカロリーネさんに書きためたレシピとか送らないとなぁ。
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