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12章:王都への旅路、新たな出会い

144.幕間:筆まめと筆不精

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久々の喫茶店のメンバー。
アレックスの筆不精についての小話です。

+++++++++

 ベル達が下町に着きいよいよ王都へ発とうとするその頃、喫茶店の面は……。


「また、お兄ちゃんったら一行で終わらせて!」
 手紙を見て呆れたようにため息を吐くカロリーネ。
 
 それは、隔日営業の喫茶店が開く一刻前ぐらいのこと。
 週一間隔で送られて来る、ベルからの手紙を昼食の賄いを食べた後に読んでいる時の事だった。
 何時もながら丸っこい文字に挿絵付きのレシピアイディアにふんふんと頷いたり、出掛けた先で出会った料理や服装、建物などの風習の違いに感心したりした後。

 肝心の兄のぞんざいな一言に、カロリーネは切れてしまったのである。
 
「何がこっちは何時もと変わりない、よ! ベルがいなければ、またどうせ帰ってくるまで連絡なしでいるつもりだったのね。まったくもう……あの筆不精ったら、こっちがどれだけ心配しているのか分からないのだわ」
 男性らしい硬い筆記を火が出そうなほど睨み付け、ぷりぷり怒るカロリーネに、対面に座ってお茶を飲んでいたティエンミンは不思議そうに首をかしげる。
 
「アレックスさんと言えば、とっても妹思いな事で有名な人ですよねー。カロリーネさんがそう言うって事は、何時もは長期の冒険の時にも、連絡なしなんですか?」
「ええ、そうよ! あの出たきり男、本当に無事の一言も寄越さないんだから!」
「ええっ? でも、アレックスさんは魔法の才能を見込まれてー、十歳から王都の魔法学校に通ってたんですよねー。去年帰って来るまで、十年離れ切りだったって事です? それは無精を超えた何かのようなー……」
 困惑するティエンミン。

「王都に居た時は、まだ良かったのよ! 学生の頃も宮廷魔術師になってからも、休みの時に纏めて地上で冒険して稼いでたからか、せっせと仕送りしながら無精なりに両親に連絡してたし。でも、帰って来てからはさっぱりね!」
 羊皮紙を握り締めむうっと怒るカロリーネに、ティエンミンは「はあ」 としか言えない。
 
「ええっと、便りがないのは元気の証拠、とか言いますしー……」
 実際、郵便物を出すにはそれなりにお金を工面しないといけない為、稼ぎの少ない冒険者などは年に一度も実家に手紙を寄越せばいい方とされる。
 ティエンミンは両親と共にこの大陸に商売で渡って来た為、そもそも手紙を出す先がないから実体験としては何も言えないが、それでも同じく海を渡った商売人達は、そう矢継ぎ早に荷物や手紙を送るような事はない。
 そんな彼らを見ている彼から言えば、アレックスが筆不精なのはおかしな事ではない気がするのだ。

「むしろー、週に一度も手紙を送るベル店長の方がおかしい気も……」
「あのねえ。ベルは喫茶店の事気にしてて、あたしに次の季節のレシピも送ってるの! 試作もあるけど食べられないんだから、早め早めに送りたいのは分かるでしょ!?」
「えっ、そうだったんですか?」
「そうよ。大体、毎回あんたやルトガーさんに対する心配も書かれてるでしょ。毎回回し読みして見てるって言うのに、あんたそれは幾らなんでもないんじゃないの? それとも、男としては年に一度も連絡すれば十分とかいう何か理由がある訳?」
「いえー、あのー」
 じっとりした目つきで睨まれ、ティエンミンはたじたじとする。


 何だか喧嘩になりそうな雰囲気に、それまで黙っていたルトガーが口を挟む。
「私が幼い頃、商売人を目指し実家を離れて商家で働いていた時は、やはり置いて来た弟が心配で、毎月のように手紙を送っていましたよ。ですが兄弟子は年に一度手紙を出せばいい方でしたね。まあ、人それぞれなのではないでしょうか」
 柔らかな声で実体験も交えそう言われると、二人は頷くしかない。
 
「……まあ、一筆でも書かれてるからいいって事にするわ。それより、このムースっていうのが美味しそうだから、夏には出せるように練習しないと」
「はい、人それぞれの事情により違うって事で。わあ、確かに涼しげで美味しそうですねぇ。いまから味見が楽しみです」
「って……あんたが食べる前提なの?」
「ええー? ぼくが美味しいって言った商品は大体売れてるじゃないですかー。だからぼくに試食させるべきですよ」

 手紙を見ながら、わいわいと語り合っている少年少女を見て、ルトガーはふっと微笑みを浮かべる。
「ベル店長。どうやら我らが喫茶店は今日も笑顔の素晴らしい、いい商売が出来そうですよ」
 実はこっそりとベルに二人の様子を見て、危険な時は手紙をくれと言われているルトガーだが、一ヶ月経った今でも一度も手紙を送らずにいることに内心ほっとしている。

「ねえ、ルトガーさんはこのレシピどう思う?」
「そうですね、私は……」

 どうせ働くなら、職場はこうやって笑顔で明るく気軽に意見を言える場であるのがいいと、彼は思うのだ。

 
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