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12章:王都への旅路、新たな出会い

141.いよいよ出発……の前に、古代文明の洗礼

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 翌朝、適当に飛び込んだ宿から朝早くに出掛ける。
「あー、まだ眠いよ」
 私はふわあとあくびをした。
 ぽちもつられて大きく口を開けている。
 
 それをなでなでし、のんびりと歩き出すとアレックスさんが私の不満を宥めるように言った。
 
「仕方ないだろう、飛行船は乗れる人数が少ないから、いつも席取りが大変なんだ」
「へえ……遠くから見る分には、何百人も乗れそうなのに不思議ですね」

 朝市が開かれている大通りは、山の上とは思えないような賑わいだ。肩下げ鞄を庇うようにしてぎゅっと抱えつつ人ごみを抜けると、やがて飛行場が見えてくる。
 
 それはとても巨大な構造物で、金属製の壁に囲まれていた。
 今まさにふわりと飛び上がっていく葉巻型の巨体を、私はぽかんと口を開けて見上げていた。

「すごい、大きい……」
 ジャンボジェット機程はあるんじゃないだろうか。陽光に銀の機体を光らせて、くるりと弧を描きながら上へ上へと上がっていく飛行船は、従兄弟の趣味の模型で見せて貰ったツェッペリン号のような細長い形をしていた。
 ただ、異世界の飛行船は軽いガスを詰めた気嚢で浮かぶ方式ではないそうで、お客さんが乗る場所が下にぶら下がっているようなあの機体とは違い、内部に乗り込む形らしいんだけど。
 詳しくは分からないけど、浮かぶのは魔法の力ってことかなぁ……。
 
「明日はあれに乗るんだ、すごい、楽しみ」
 優雅に飛んでいく飛行船を見上げる私に、アレックスさんや詩人さんは何だか微笑ましそな顔をして笑ったよ。
 

 私たちは飛行船を見送ると、チケットの発券へ向かう。
 金属製の飛行場の外に、如何にも急ごしらえしました、って感じの日干し煉瓦が積まれ戸板が渡された小さな事務所があり、そこで発券をするらしい。

 ……事務所の入り口は脇に付いているけど、チケットカウンターとして外からのアクセスに四角い窓が開いていて、そこには、一体の小さなゴーレムが座っていた。

「ピポッ! アナタノ、ネンレイ、セイベツ、ヲ、オコタエ、クダサイ」
 私達より前に来た人が手慣れた様子で丸い胴に鍋のような頭、金属筒が蛇腹になったような手と三本指のマニピュレーターが付いた簡素な姿のゴーレムの一つ目に語り掛けている。

「え、あれ、ロボ……じゃなくって、ゴーレムが受付するんですか」
 私は思わずまじまじとその小さなゴーレムを眺めてしまう。

 チケット売り場が簡素な掘っ建て小屋なだけに、年代物とはいえ高価な魔法の道具だろうゴーレムがあるのがどうにもちぐはぐしていて、何だか不思議だった。
 
「ああ、これはですね。飛行船自体が古代の魔道具をそのまま使っているものでして、乗り込む時に使う割り符もですね、飛行船の付属品であるゴーレムにしか出来ないようなのです」
 かろうじて、飛行船の持ち主を変更する事は可能だったけれど、乗組員の変更はゴーレムのままで変更が効かないらしい。
「それでも不自由なく動いているものですから、まあ何となく今までこの通りにゴーレム任せで動かしているのですよ」

「はあ……」
 そんな適当で大丈夫なのだろうか? ああ、この数百年間何の問題もなかったと。
 ……機械のコア部分以外は現代の技術でも直せるし、交換部品も出来ているから平気? それ、逆にブラックボックスの部分は未解明だって言ってる気がするんだけど本当に大丈夫なのかしら。
 
 何だか不安になりながらも、私達の順番が来てチケット発券ゴーレムの前に立つ。
 ちなみに、アレックスさんと詩人さん、オババ様の三人は、慣れているようでさっさと発券を終わらせていた。
 
「ピポッ! アナタノ、ネンレイ、セイベツ、ヲ、オコタエ、クダサイ」
「二十歳、女性です」
 私は前の人達と同じように、ゴーレムの質問に答える。

「ピポッ! アナタノ、オナマエ、ゲンジュウショ、ヲ、オコタエ、クダサイ」
「名前はベル、現住所はプロロッカです」
「ピポッ! サイゴ、ニ、オカオ、ヲ、ウツシトリ、マス……サンビョウゴ、ニ、エガオ、ヲ、オネガイシマス」
「えっ、顔を写し取る? 写真ってこと?」

「ピポッ! ……サン、ニ、イチ……カチッ!」
 カウントダウンに、慌てて私は笑顔を作る。
 何かのスイッチが押されるような軽い音と共に、ぱっと目の前が明るくなった。フラッシュだろうか。

「ピポッ! オンセイ、カオ、データ、ホゾン、カンリョウ。データ、ホゾン、カンリョウ。ゴキョウリョク、アリガトウ、ゴザイマス。コエ、ト、オカオのガゾウ、ハ、ホンニン、ニンショウ、ノミ、ニ、リヨウシ、トウ、フライトディスクのリヨウゴ、ハキ、イタシマス。ツヅイテ、オニモツ、ノ、トウロク、ヲ、シマス」

 慌てて私は、ぽちと肩下げ鞄を登録する。
 契約獣は、荷物の範囲なんだって。ちゃんと躾けてれば、一等客室なら持ち込み可能っていうから、少しお高いけど一等客室にして貰った。
 ……まあ、ギルドへのお砂糖納品とかで儲けてるから何とかなるよ。

 そうして、比較的スムーズにチケット発行は終わったんだけど……。
 
 ある意味カルチャーギャップだった。
「……ちゃんと個人情報保護まで出来てる……過去の技術、何だか凄いんですけど」

 いやだって、魔道具以外は割と牧歌的というか……スローライフな感じの暮らしで半年以上いた訳で、いきなりサイバーというか、先進技術の洗礼を受けたっていうか。
 古代技術凄くない? まあ、空飛ぶお城がある時点でオーバーテクノロジーの気配はあったんだろうけど、どうせ魔法でしょって気にしないでいたよ……。
 音声認識に顔認証。何だか日本でも最新の認証方法が使われてるっぽいよ?
 
 でもまあ、ゴーレムが個人認識ができるってことは、乗客データだって正確に把握可能なゴーレムにやらせるよねぇ。

 ぼうっとしてると、次のお客の邪魔になるとアレックスさんがそっと私の背中を押した。
 促されるままにホテルへ逆戻りする私に、彼は心配そうに声を掛けてくる。
「どうした、ベル。変な顔して」
「え、ああ、ゴーレムとか、何か王都の技術は凄いなって」
 すると合点がいったように彼は笑って。
「はは、確かにな。飛行船なんかゴーレム任せで動いているし、何でも陛下や妃殿下達が持っている荘園は、その殆どの作業をゴーレムが賄っているらしい」
 ……おお、食料までオートメーションって、どこまで進んでるんだ。
 
「はあ、本当に王都はどんな所なのか、段々怖くなって来たよ……」

 思った以上に進んでた古代文明。その生きてる遺跡である空飛ぶお城を遠くに見上げて、私はぽちの頭を撫でながら自分の行く先に不安を覚えていた。
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