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12章:王都への旅路、新たな出会い

138.その窓から見える風景

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 詩人さんを連れた旅は、なかなか楽しいものとなった。
 
 まず、歌で旅を盛り上げてくれる。
 この世界の吟遊詩人って、田舎の人にとって最新ニュースを運んで来てくれる新聞屋さんみたいなところがあるんだけど、都会の流行歌なんかを聞くと、ある程度情報が分かったりね。

 ……ちなみに最近は、王子様が花嫁探してるんで貴族のお嬢様がたが騒いでらっしゃるのと、王様が新年の祝いなどで顔を見せないのが不安がられてるのがトップニュースみたい。

 それとトークが軽妙。
 人気商売だからだろうけど、笑顔で気配り上手なところは流石だね。
 あの気難しいオババ様すら、彼には最初の詮索以来嫌な顔を見せない。
 
 馬車の長旅は後半となり、そろそろダレてくる頃合いだったから、まあ丁度いい刺激といえば……言えるのかな?
 まあ、アレックスさんは自分の恥ずかしい過去とか話されたせいか、ずっと微妙な表情でいるけど。
 
 
 王都への道は、山あり谷ありと、なかなかに素人が挑戦するにはハードな景色が多い。
 馬車が行く道も、石で舗装された綺麗な道が続いたかと思えば、次の領地では岩だらけのところをなんとか道幅ぶんだけ退けただけのグダグダした道だったりとか。

 詩人さん曰く。
「ダンジョン経営で潤ってない場所は、どうしても暮らすので精一杯ですからねぇ、商人や冒険者が通いやすいようにと道を整えたりしないのです」
 だそうで。
 はあ……ダンジョンってもろに税収とか生活一般にも関わってくるんだねぇと、ぐねぐねデコボコした道を行く私は思った。
 

 私達は、そんな裕福だったり栄えてなかったり追いつけ追い越せとばかりに爆走する馬車を避けてのんびりぽくぽく走る訳だけど。
 当然腕や足に自信がある人は、険しい道を行く訳。
 
 時折、道を逸れていく人たちを見るとチャレンジャーだなぁ、と思ったりもする。
 王都へと続く道は、常に人が行き交う為にある程度は「はぐれ」 と言われるモンスターや、旅人狙いの「盗賊」 らなどの存在を排除されている。
 裕福な領地なら、旅人の落とす金を見込んで、定期的に領軍を動かしそういうのをお掃除するしね。
 私達はトラブルを避けて、安全な平地を行くからこそ一ヶ月という長旅になっちゃうんだけど、困難に挑みたいかと言えば……当然避けたいよね、となる訳で。
 だから、安全なルートを取ってくれたアレックスさんには感謝こそはあれ、不満はないんだよ。
 
 とはいえ、もうそろそろ三週間も過ぎた。
 行程は半分を切って、空に浮かぶ点のようではあるけど、遠くに浮かぶ城が見えて来ている。
 私は週に一回、喫茶店メンバー達にお手紙を書くことにした。
 
 主には近況と、ふと思いついたレシピのアイディア、それとカロリーネさん向けに、アレックスさんの日常を添えている。
 それで知ったんだけど、アレックスさんってばものすごい筆不精で。
 毎回お手紙の最後に一筆書かせるんだけど、それがなかなか動いてくれないんだよねぇ。
 これはなるほど、カロリーネさんが日々アレックスさんにあれこれ言う訳だと納得したよ。出たっきりで行った先の事を何も言わなきゃ、こっちから聞き出すしかないもんね。
 
 途中途中で休憩に寄る町でそれを出すんだけど、テイマーを使う速達でない限りは商人がお手紙を運ぶって事を初めて知った。
 ちゃんと、鍵が掛かる文箱のようなものを持って行き、郵便物を専門に取り仕切るギルドの支部員にそれを届けるというのがルールらしい。あ、支部がない場合は村長とか町長さんに届けるんだそうだよ。

 そんなこんなで、今日もガタゴト揺れる馬車の中、何を書こうかと話を纏めるんだけど……。

「ベルさん、随分と静かでいらっしゃいますが、またお手紙の構想ですか?」
 詩人さんがそれを阻んでくるんだよねぇ。
 一緒にワゴンにいるオババ様はって? 基本的に話がなきゃクッションの効いた座席でうつらうつらしてるか、ガラス窓から映る景色をのんびり眺めてるんであまり話さないかな。
 ぽちはぽちで、思いっきり走れるのが楽しいらしく常に元気に尻尾振りながら馬車と並走してるし。
 
 だから、私の沈黙を破るのは、ほぼこの人だ。
 詩人さん、悪い人ではないんだけど、私からネタを引き出そうとやたら話し掛けてくるし、昼の休憩などに馬車を止めると、ぽちを観察しにすぐに構いに行くものだから、ぽちにも煩わしいと嫌われ。

 なんだか、ちょっと残念な人ではある……。
 
 特に、途中の町で食べ物や消耗品を買い求めている時などに、荷物持ちを買って出ながら、にこにこと私やぽちの動きを観察するのやめて欲しい。
 はあ、ぷちストーカーが付いてるような感じで、どうにも気が休まらない旅になりそうだ。
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