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11章:喫茶店と人間模様です

133.幕間:新年会小話

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短いので二話詰め合わせです。
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◾️冒険者は根無し草

「あー、またやってるー」
 テーブルの上にどかっと積まれた山盛りのご馳走をもりもり食べながら、クーンは自分たちのリーダーの暴走に呆れていた。

 目の前では床に両手と膝を突き、がっくりと項垂れる男の姿があった。
 幼い顔立ちのベルと、近頃人気な喫茶店店員兼Sランク冒険者の妹君ことカロリーネが思いっきり引いた顔で情けない大人を見ているのが涙を誘う。

「リーダーってば、何度、受付嬢に振られたら気が済むのかなー」

 そう言って祝い酒を美味そうに空けるクーンは、南方のダンジョンの巣前の村、プロロッカ筆頭の冒険者グループに所属している斥候役だ。
 酒飲みチームと呼ばれる、Bランク冒険者のフリッツが音頭を取って作ったチームの人間で、ランクはCメジャー。
 正直、フリッツの指名依頼にタダ乗り出来る現状では、ボス戦は余り実入りのいいものでない為に、ランクを上げる必要性を感じていないところがある。
 
「うーん、本当にうちのリーダーって、戦闘では頼りになるけど実生活では微妙な奴だよね」
「お前なぁ、その正直過ぎるのもどうなんだ。絶対フリッツに聞こえてるぞ」

 槍が武器の軽装戦士ヘリーがそんな友人に声を掛ける。
「えー、だってさ。実際女にはだらしないし、その上で何年も一人の女に振られ続けるし、諦め悪いし。ぶっちゃけみっともなくない? 特にあの受付嬢絡みだと訳わかんない事言い出すしさー、何ていうか、残念としか言いようがないしー」
 ぶーぶーと不満を垂れるクーンに「いやまあそうだけど」 と思わず同意するヘリー。
 
「何て言うか、確かにうちのリーダーも謎な奴だよな」
 ヘリーは滅多に飲めない上物の酒を飲みながら、そう呟く。

 根無し草の冒険者は、職歴を問われない。
 それもあって、前職を問うのは野暮、という風潮があった。
 
 だから、彼らは知らない。フリッツが昔何をしていたのかも、受付嬢との関係も。
 
「うーん、まああそこまで入れ込むんだから、何かあるんだろうけどさー」
 筆頭冒険者としてはこう、もう少し威厳を持ってくれないかなぁなんて事も思ってしまうのだ。
 
「まあ、俺らの考える事でもねーだろ。リーダーは護衛仕事とか、金払いがいい仕事取ってきてくれるならそれで十分だし。つーか、昔話とかさせんのも野暮だろ」
 がぶがぶと水を飲むように酒を空けるヘリー。
「ヘリー、お前はぶれないねー」
 かく言うクーンも、ただ酒美味しいですとばかりに普段は飲めない高級酒を消費する事に忙しい。
「言ってろ。それとも、お前も昔話とかしたいクチ? 俺は御免被る」
「あー、確かに昔の話とかしてもつまらないか。うんうん」

 少なからず脛に傷を持つ二人は、はははと平板な笑い声を上げ、美味いただ酒をかっ喰らう事にした。



◾️主従はいまだに喧嘩中

 新年会の時、伯爵令嬢シルケはどうしていたか、といえば。 

「……………」
「……………」

 自分の館のダイニングで、一人静かに食事をしていた。
 女性的に美しく飾られたダイニングルーム。立派な長テーブルには、料理人が腕を振るった豪勢なご馳走が次々運び込まれてくる。
 シルケは無言で祝い酒と祝いの料理を食べる。美しい所作で料理を食べ、皿を空ける。その動作をひたすら続けていた。
 
 その斜め後ろには当然のように侍従のロヴィーが侍るが、主人は彼を完全に無視しているのが、傍目から見るとどうにもおかしな感じである。
 
 ……この冒険者街の片隅にある瀟洒な館は、ボンネフェルト家の一人娘が住む為だけに作られたものであり、主人の他には伯爵家より寄越されたメイドや下働きの者らしかいない。
 父親に反発するばかりに、家の手先であろうと疑って、良かれと思い付けられた乳母やすら送り返してしまったのだから、その不信はとんでもない域にある。
 
 結果、残ったのは学生の頃から一緒にいる侍従のロヴィーだけだ。
 
 しかしそのロヴィーも、先の一件で信用ならなくなった訳で。
 
「あたくしの事などいいから、貴方の大事なお父様の所へ帰りなさい」
「謹んでお断り致します。私めが居なくなりましたら、誰がシルケ様のお世話をするのですか」

 不毛なこの会話も何度目か。
 お互いに意地を張ったまま、年を越してしまった。
 
「あたくしは一人でも平気よ。粗食も自分の世話も、ウェストゥロッツの人間として恥ずかしくないぐらいには一人で出来ます」
「そうは申しますが……」

 使用人らは二人の不毛な会話をよそに、新年のご馳走をテーブルに並べ、あるいは空いた皿を片付けと、マイペースに己の職務に励んでいる。
 彼らもこの主従の喧嘩には慣れているのだ。
 
「シルケ様が旅の準備をまともに出来た事がありましたでしょうか……」
 ぼそりと呟いたロヴィーの言葉に、ピクリとシルケの眉が動く。
 
「買い物にしても、財布を持たぬシルケ様に出来るとは思えません」
「……!!」

 真っ赤になったシルケはバンっと机を叩き立ち上がる。
「あ、あたくしは出来ないのではなくやらなかっただけよ! やれば出来ます」

 ……それは子供が言う強がりによく似ている。
 従者はやれやれと肩を竦めた。
 
 そんな主従のいつも通りの姿を見ながら、主人の空いたグラスに祝い酒を注ぐメイドは「今年も変わらず過ごせそうね」 と、どこかほっとして二人のやり取りを聞くのだった。
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