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11章:喫茶店と人間模様です
128.彼女が語る、懐かしの都。
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イサベレさんのお父さんは、何とSランクの冒険者だったらしい。
「まあ、依頼で父が亡くなったら、オレと母さんは住民権を失くしちゃってさ。それで泣く泣く地上に降りた訳だけど」
軽く苦笑いする彼女の表情からは、当事の気持ちは窺い知れない。
「本当に、綺麗な所だったよ」
懐かしむように彼女は浮かぶ城の光景を語る。
地上とは、古の時代の王の遺産であるゴーレム船が定期的に通って王都へ通じる。
ゴーレムというのは魔法の人形の事で、まんま船の形をした飛ぶ魔道具を、人形……ロボット? のようなものが動かしているらしい。
今でも錬金術ギルドが製造しているものだというけれど、ゴーレム船については秘匿された技術が難ありらしくて新規製造が困難なもので……。
古い船を修理しながら騙し騙し使っているそう。
その船に乗るには特別な割り符が必要で、数量を完全に国が管理しているものだから、密航はほぼ不可能だとか。
浮遊する島に降り立ってまず見るのが、白い石で造られた眩いばかりの街並み。
石畳で舗装された広い道に、整然と並ぶ家々。
城下の敷地は限られていて、庭付きの一戸建てなんてお貴族様しか持てなかったから、彼女と母親は、塔のように高い集合住宅の一室に住んでいたとか。
………まるでアパートのようだと、そう感じたのは、私がワンルームアパートに住んでたからだろうか。
「親子三人で暮らすには少し狭かったけど、便利な魔道具が揃っててさ。今よりも快適だったよ」
水の湧く壺から水を取り、火の魔石で料理を作ったり暖を取ったり。
各家から汚水や塵芥を出すにも、下水道やダクトシュートが完備されているので、道に汚物が放られているような事はない。
日が暮れれば光を放つ魔道具で街路は照らされ、夜も明るかったという。
その様子を、訪れる者は不夜城と言った。
「城下町の広場にはさ、大きな噴水があるんだ。そこには休憩用のベンチがあって、食べ物を売ってる屋台なんかが出ててさ。人気の吟遊詩人が最新の噂を歌って小銭を稼いでる。そういえば、あそこで魔法騎士の歌も聞いた事があるな」
そう言ってイサベレさんがニヤリと笑い隣を見ると、アレックスさんが何だか嫌そうな顔をしている。
そういえば、学生時代から冒険者として名を馳せてたと言うし、アレックスさんは昔から王都でも有名人なんだよね。
「でも、何よりも美しいのは……やっぱり王様の住む白亜の城だ。尖塔を持ったどこか可愛らしい城でさ。いつも、噴水広場に行ってベンチに座っては、城を眺めるのが大好きだった」
もう、二度とは見れないだろうけど。
そう言って、彼女は冷めかけたカモミールティーを飲む。
「美しい所なんですね」
「ああ、とても。綺麗で平和で、まるでおとぎ話で語られる楽園のようさ」
「……見た目は、な」
アレックスさんがぼそりと呟くと、イサベレさんは思い当たるところがあるのか、困ったように笑った。
「まあまあ、折角の思い出話なんだからさー」
オーラフさんがへらりとアレックスさんを宥めると「お前が言うな」 とばかりにジロリと睨まれた。
「ま、モンスターの居ない平和な場所でもぉ、人が住んでるからにはさ、表も裏もある訳だー」
オーラフさんはさらりと言うけど、結構な毒が感じられたよ。
でも実際、アレックスさんの左腕の事を考えると、王都の裏とやらはかなりヘビーなものがありそうで……。
うん、知りたくはないな。
「ところでベル、何の用事で王都まで? いや、話せないなら無理に聞かないけど」
イサベレさんに尋ねられ、私は笑って答えた。
「特に隠すことはないですよ。薬師の試験です」
「へえ! まだ小さいのにベルは凄いな。普通は修行に最低十年は掛かるんだろう? どんなに早くても、二十代にならないと受けられないもんなのに」
うわあ、そんな褒められ方しても困るんですが。
心底感心したとばかりに目を見開くイサベレさんに、私は苦笑して答える。
「いえあの、私、丁度二十歳でして……」
彼女は怪訝とした顔をした後、ティエンミン君を見て、ぽんと手を打つ。
「ああ、東方の小島の生まれかい? そういえば、黒髪黒目に幼い顔立ちってあたり、ベルはまんまだったね」
うんうん、と勝手に自己解決してくれたイサベレさんに、私は曖昧に笑顔を浮かべる事しか出来ない。
うーん……これで私の出身地が適当に決まったね。どうやら、東の方にアジア系っぽい民族がいるらしいから、今度から聞かれたらそう答えようか。
「まあ、二十としても早い方さ。いずれにせよ、王都はとてもいい所だ。のんびり楽しんでおいで。あ、おすすめの店とか後で教えようか」
「はい、それはすごく助かります」
そんな風に和気藹々と話している私達の横で、アレックスさんはぼんやり考え込んでいるようだった。
……うーん、イサベレさんにはいい思い出だらけの場所のようだけど、アレックスさんには因縁の地なんだよね。
果たして、何事もなく平和に終わるものだろうか。
今更ながら、何だか不安になってきちゃったよ。
「まあ、依頼で父が亡くなったら、オレと母さんは住民権を失くしちゃってさ。それで泣く泣く地上に降りた訳だけど」
軽く苦笑いする彼女の表情からは、当事の気持ちは窺い知れない。
「本当に、綺麗な所だったよ」
懐かしむように彼女は浮かぶ城の光景を語る。
地上とは、古の時代の王の遺産であるゴーレム船が定期的に通って王都へ通じる。
ゴーレムというのは魔法の人形の事で、まんま船の形をした飛ぶ魔道具を、人形……ロボット? のようなものが動かしているらしい。
今でも錬金術ギルドが製造しているものだというけれど、ゴーレム船については秘匿された技術が難ありらしくて新規製造が困難なもので……。
古い船を修理しながら騙し騙し使っているそう。
その船に乗るには特別な割り符が必要で、数量を完全に国が管理しているものだから、密航はほぼ不可能だとか。
浮遊する島に降り立ってまず見るのが、白い石で造られた眩いばかりの街並み。
石畳で舗装された広い道に、整然と並ぶ家々。
城下の敷地は限られていて、庭付きの一戸建てなんてお貴族様しか持てなかったから、彼女と母親は、塔のように高い集合住宅の一室に住んでいたとか。
………まるでアパートのようだと、そう感じたのは、私がワンルームアパートに住んでたからだろうか。
「親子三人で暮らすには少し狭かったけど、便利な魔道具が揃っててさ。今よりも快適だったよ」
水の湧く壺から水を取り、火の魔石で料理を作ったり暖を取ったり。
各家から汚水や塵芥を出すにも、下水道やダクトシュートが完備されているので、道に汚物が放られているような事はない。
日が暮れれば光を放つ魔道具で街路は照らされ、夜も明るかったという。
その様子を、訪れる者は不夜城と言った。
「城下町の広場にはさ、大きな噴水があるんだ。そこには休憩用のベンチがあって、食べ物を売ってる屋台なんかが出ててさ。人気の吟遊詩人が最新の噂を歌って小銭を稼いでる。そういえば、あそこで魔法騎士の歌も聞いた事があるな」
そう言ってイサベレさんがニヤリと笑い隣を見ると、アレックスさんが何だか嫌そうな顔をしている。
そういえば、学生時代から冒険者として名を馳せてたと言うし、アレックスさんは昔から王都でも有名人なんだよね。
「でも、何よりも美しいのは……やっぱり王様の住む白亜の城だ。尖塔を持ったどこか可愛らしい城でさ。いつも、噴水広場に行ってベンチに座っては、城を眺めるのが大好きだった」
もう、二度とは見れないだろうけど。
そう言って、彼女は冷めかけたカモミールティーを飲む。
「美しい所なんですね」
「ああ、とても。綺麗で平和で、まるでおとぎ話で語られる楽園のようさ」
「……見た目は、な」
アレックスさんがぼそりと呟くと、イサベレさんは思い当たるところがあるのか、困ったように笑った。
「まあまあ、折角の思い出話なんだからさー」
オーラフさんがへらりとアレックスさんを宥めると「お前が言うな」 とばかりにジロリと睨まれた。
「ま、モンスターの居ない平和な場所でもぉ、人が住んでるからにはさ、表も裏もある訳だー」
オーラフさんはさらりと言うけど、結構な毒が感じられたよ。
でも実際、アレックスさんの左腕の事を考えると、王都の裏とやらはかなりヘビーなものがありそうで……。
うん、知りたくはないな。
「ところでベル、何の用事で王都まで? いや、話せないなら無理に聞かないけど」
イサベレさんに尋ねられ、私は笑って答えた。
「特に隠すことはないですよ。薬師の試験です」
「へえ! まだ小さいのにベルは凄いな。普通は修行に最低十年は掛かるんだろう? どんなに早くても、二十代にならないと受けられないもんなのに」
うわあ、そんな褒められ方しても困るんですが。
心底感心したとばかりに目を見開くイサベレさんに、私は苦笑して答える。
「いえあの、私、丁度二十歳でして……」
彼女は怪訝とした顔をした後、ティエンミン君を見て、ぽんと手を打つ。
「ああ、東方の小島の生まれかい? そういえば、黒髪黒目に幼い顔立ちってあたり、ベルはまんまだったね」
うんうん、と勝手に自己解決してくれたイサベレさんに、私は曖昧に笑顔を浮かべる事しか出来ない。
うーん……これで私の出身地が適当に決まったね。どうやら、東の方にアジア系っぽい民族がいるらしいから、今度から聞かれたらそう答えようか。
「まあ、二十としても早い方さ。いずれにせよ、王都はとてもいい所だ。のんびり楽しんでおいで。あ、おすすめの店とか後で教えようか」
「はい、それはすごく助かります」
そんな風に和気藹々と話している私達の横で、アレックスさんはぼんやり考え込んでいるようだった。
……うーん、イサベレさんにはいい思い出だらけの場所のようだけど、アレックスさんには因縁の地なんだよね。
果たして、何事もなく平和に終わるものだろうか。
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