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記念ショートストーリー

SS3-3 文庫2巻記念SS:大人げない主従のティータイム〜伯爵令嬢は裏切った侍従におこなのです

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 空の上にあるこの国の王都。
 王都より南に下った辺境に、プロロッカという小さな村がある。
 そこは、大陸でも有名な「ダンジョンの巣」 と呼ばれる大小のダンジョンひしめく危険地帯に位置する、いわばこの大陸の魔境最前線とも言える場所だった。
 そんな村に隣接するように、冒険者街と呼ばれるならず者らが闊歩する区画がある。
 メインストリートにはダンジョンからもたらされる素材を使った武器防具や野営道具、食料品など冒険者向けの店が立ち並ぶ。そうした店を横目に見ながら進んだ先に、ならず者や一攫千金を夢見る人々が屯する、冒険者ギルドがあった。
 そんなメインストリートより外れた場所には小さいながらも宿泊施設や、住宅街がある。
 その、住宅街の小さなお城のような館で大声が上がった。

「ロヴィー! あたくしの友にして我が母の恩人を侮るような言葉は許しませんよ!」
「ですが! 彼女は飽くまで平民です!」
「平民? 平民ならば大恩ある人物でも軽視して良いと? やはりお前は、お父様の元に送り返した方が良いようね‼︎ 」

 ついて来ないで! そう言ったシルケは、昼用の軽やかなドレスの裾を翻して部屋を出ていった。

「……どうして分かって下さらないのか」

 主人の居なくなった居間で、ロヴィーは溜息を吐く。
 伯爵令嬢の一の侍従であるロヴィーは、主人の事を考えると、このような南の辺境地で燻っている場合ではない、と思うのだ。
 シルケは美しく、そして稀有な魔法の才能もある自慢の主人だ。

「別にベル殿が平民で友人であっても構わないのだ。もしも冒険者にかぶれて強き者しか相手に不足であるというのなら、高ランク冒険者を何処ぞの貴族に養子として入れて縁談を調えてもいい。しかし、うら若き令嬢がこんな辺境でモンスター退治に明け暮れるなど、ありえない事だ!」

 ロヴィーは嘆く。
 シルケとロヴィーが命じられている南ダンジョン群の監視など、長くて二、三年の事である。
 だがしかし、女性の結婚適齢期は待ってくれない。平均寿命が五十年程と言われるこの国で、未婚女性がそろそろ二十歳を数えるとなると、それなりに「年増」 とされるのだ。

 シルケならば、伯爵の望んだ宰相夫人の座のみならず、若く有望な貴族子息との縁談とて選り取り見取りであるのに、これ以上時間を掛けては、それこそシルケの父親である伯爵が狙った「高位貴族の後添え」 コースとなってしまう。
 主人を大事に思うロヴィーとしては、それだけは避けたい。

 ロヴィーが侍従でありながら宮廷魔術師にまでなれたのは、伯爵家の支援のお陰である。そして幼少期より見守り、妹のようにも思っているシルケには、心から幸せになって欲しいのだ。

 シルケならば、地上ではなく浮かぶ城に……尊き者だけが住まう事が出来る、あの恒久平和の王都への永住権を簡単に掴め、伯爵家を更に盛り立てる事が出来るだろうにと、魔法学校から城勤めというエリートコースを辿った彼は、どうしても考えてしまう。
 地上は常にモンスターと生存権を争う地獄だ。空に浮かぶ王都ならば、滅亡の心配などせず政争のみに集中出来る。それは、権勢を争う貴族としては最高のステージである筈だった。
 ……何故、己の主人は頑なに貴族令嬢としての幸せを拒むのか。そう、ロヴィーは不思議でならない。

 彼は知らない。シルケが幼少期、テイマー狂いの父親に地獄のような目に遭わされていた事を。
 それが故に「貴族令嬢としての幸せ」 が、必ずしも彼女の望みに叶うものでない事を。

 ……彼は知らず、だからこそ主人の望まぬ未来を描いていた。
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