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17章:女神の薬師はダンジョンへ
212.戦いは終わり、ベルには言いたい事があった
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「首を落とされたくないなら抵抗すんなよ。ああ、当然だが契約獣に命令するのもなしだ。ま、実際シルバーウルフ共が抑えつけてるから無理だけどな」
捕縛するなり、村潰しのロープの端を握り、狩猟ナイフで首元を狙う酒飲みさんは、そうきつく脅して。
「いいか、別に、お前を生かして送る必要なんかねぇ。この頭さえありゃこっちは褒美が貰えるんだからな」
村潰しの抵抗する気力を奪ってしまった。
他の皆はといえば、少なからず荒れてしまったシルバーウルフの巣の原状復帰と、村潰しの支配下にある獣達を私の用意した安全地帯へ向かわせる為の準備をしていた。
そんな慌ただしい中で、荒事も得意な酒飲みさんと力仕事には向かない私が、村潰しの監視役を仰せつかっている。
うーん、冒険者ってよく喧嘩とかしているからか、対人での、交渉……? も上手いんだね。
そんな感じで、いざ捕まってしまえば、村潰しも自分の命が惜しいのか大人しくなった。
とはいえ、悪態は口から出るもので。
「チッ、どいつもこいつも全く使えませんねぇ。契約獣達さえまともに働けば、こんな平凡な冒険者に命を握られる事もなかったというのに」
「てめぇ……」
その言葉に、腹を立てたのは酒飲みさんだけじゃなく。
「この危険な森に、自分の支配した獣達を置いていった貴方が、それを言うんですか?」
一応の安全策と、少し離れた所で物理バリアーを張り、ぽちと共に酒飲みさんの交渉を見ていた私は、ぽちの背中から降りるとその男に近づいた。
痩せぎすの、目ばかりらんらんと光った、元Aランクテイマーに。
「何ですか、私にそのシルバーウルフを譲って下さるんですか。おお、その頭に乗っているのは私の鳥だ。幸運の鳥などと言われていても、何の役にも立たない畜生ですが、わざわざ届けに来ていただいたのだからまあ、受け取りましょう」
私を追いかけるようにしてついてきたぽちを見て、村潰しはニタリと笑う。
頬を引きつらせるようにして笑う男の目は冷たく、ぽちの頭の上で休んでいる七色鳥を、歓迎しているようには到底見えない。
……ああ、この人は本当に自らを信じた配下達を、どこまで使い潰す気か。私は拳を握り、怒りに震えそうになる声を抑えて呟いた。
「冗談でも言っていい事と悪い事があるよ、村潰し。迷わず森を抜ける七色鳥がいれば、逃げられるとでも思った?」
私は心のままその男を睨んだ。そのとき、隣にいる酒飲みさんが驚いたように目を見張る。そんな彼の表情が少しばかり気掛かりだったが、先に言うことがある。
さらに村潰しに向かって言葉を連ねた。
「私ね、貴方に会ったら絶対言おうと思ってた事があるの」
「ほ、ほう、何でしょう……」
男は何故か苦しそうに顔を歪めながら掠れる声で聞く。
「幸運の鳥を幸運のままに留めなかったのは、貴方の行動が全て。自らが配下とした獣達を危険な森に置いていく……そんな恥ずべき行為こそが貴方を迷わせ、手練れの貴方は疲労困憊のままここに来たの」
ぐらぐらとお腹の中が煮えるようだった。
村潰しが置いていった数多くの獣達。なるべくは助けたけれど、主命ゆえに逆らえず森に残った子達もいた。
「な……」
村潰しは血走った目を見開く。私は更にきつく睨んで、男に現実を突きつける。
「ねえ、怒った? でもね、そう言われるだけの事を貴方はしたの。貴方に命を預けた沢山の、沢山の獣達は森の中で誰もが貴方の命令を待っていた。待って、待って……そして来ない事にようやく気づいて、森の仲間の誘導に従った」
「ぐっ……」
村潰しは唸り、苦しげに胸を押さえながら地面に膝を突く。
私はすぐ側にいるぽちの背を撫で、そしてその頭の上の七色鳥の頭を指先でそうっとくすぐるようにすると、村潰しに目線を合わせる。
「貴方に、動物を飼う資格なんてないわ。役立たずだから? ついていけないから? 弱いから? そんな理由で貴方に命を預けたあの子達を捨てた貴方には。あの子達は、ううん、この子も、もう森の仲間。貴方には返さない」
そう、これが言いたくて、だから私は村潰しが来るのを待っていたんだ。
「ぐ、う……」
村潰しは唸り、ついに転がるようにして地に伏せた。
「……うーん、この男にも、少しは良心があったのかな? こんな風に苦しむなんて」
私は言いたい事を言ってすっきりした気分になりながら、首を傾げる。
そこに酒飲みさんが声を荒げた。
「いやいやいや、待てやガキ……いやベル」
「何ですか、酒飲みさん」
しっかりと片手で村潰しのロープの端を握りながら、もう片方の手で狩猟ナイフを腰の鞘に戻すと、怪しむかのような不審の表情で私を見る。
「お前、思いっきり魔力漏らしながらコイツを威圧してたろうよ。コイツが倒れたのはそのせいだ。お前、結構えげつない事するな」
「威圧……?」
聞き慣れない言葉に、私ははてと頬に手を当てる。
「まさかの自覚なしかよ。恐ろしい女だな……。いいか、俺にはそれ使うなよ?」
「恐ろしいとか、さっきから失礼ですね。酒飲みさんが怒らせるような事しなきゃやりませんよ」
「お、おう。今後は気をつけるわ……」
そんな話をしていたら、丁度獣達を送ってきたらしいシルバーウルフが戻ってきたのが見えた。
「お、帰ってきたか。こいつはしばらく正気に戻らんだろうし、その間にさっさと森を抜けちまうのもアリかもなぁ……こいつ背負うのも嫌だし、あのデカブツ、背中貸してくれねぇかな」
そんな事を言いつつ、脱力した村潰しを肩の上に担ぎ上げると、酒飲みさんはすっかりと仲良くなったぽちの兄弟の元リーダーの方に駆けていく。
「……やっぱり、冒険者って力持ちだね、ぽち……と、七色鳥さん。細いとはいえ成人男性を軽く担いでいったよ」
「わん」
「ピィ?」
一人と一匹と一羽が、そんな姿を見送る。
こうして、今回の騒動は本当の意味で終わりを告げる事となったんだ。
捕縛するなり、村潰しのロープの端を握り、狩猟ナイフで首元を狙う酒飲みさんは、そうきつく脅して。
「いいか、別に、お前を生かして送る必要なんかねぇ。この頭さえありゃこっちは褒美が貰えるんだからな」
村潰しの抵抗する気力を奪ってしまった。
他の皆はといえば、少なからず荒れてしまったシルバーウルフの巣の原状復帰と、村潰しの支配下にある獣達を私の用意した安全地帯へ向かわせる為の準備をしていた。
そんな慌ただしい中で、荒事も得意な酒飲みさんと力仕事には向かない私が、村潰しの監視役を仰せつかっている。
うーん、冒険者ってよく喧嘩とかしているからか、対人での、交渉……? も上手いんだね。
そんな感じで、いざ捕まってしまえば、村潰しも自分の命が惜しいのか大人しくなった。
とはいえ、悪態は口から出るもので。
「チッ、どいつもこいつも全く使えませんねぇ。契約獣達さえまともに働けば、こんな平凡な冒険者に命を握られる事もなかったというのに」
「てめぇ……」
その言葉に、腹を立てたのは酒飲みさんだけじゃなく。
「この危険な森に、自分の支配した獣達を置いていった貴方が、それを言うんですか?」
一応の安全策と、少し離れた所で物理バリアーを張り、ぽちと共に酒飲みさんの交渉を見ていた私は、ぽちの背中から降りるとその男に近づいた。
痩せぎすの、目ばかりらんらんと光った、元Aランクテイマーに。
「何ですか、私にそのシルバーウルフを譲って下さるんですか。おお、その頭に乗っているのは私の鳥だ。幸運の鳥などと言われていても、何の役にも立たない畜生ですが、わざわざ届けに来ていただいたのだからまあ、受け取りましょう」
私を追いかけるようにしてついてきたぽちを見て、村潰しはニタリと笑う。
頬を引きつらせるようにして笑う男の目は冷たく、ぽちの頭の上で休んでいる七色鳥を、歓迎しているようには到底見えない。
……ああ、この人は本当に自らを信じた配下達を、どこまで使い潰す気か。私は拳を握り、怒りに震えそうになる声を抑えて呟いた。
「冗談でも言っていい事と悪い事があるよ、村潰し。迷わず森を抜ける七色鳥がいれば、逃げられるとでも思った?」
私は心のままその男を睨んだ。そのとき、隣にいる酒飲みさんが驚いたように目を見張る。そんな彼の表情が少しばかり気掛かりだったが、先に言うことがある。
さらに村潰しに向かって言葉を連ねた。
「私ね、貴方に会ったら絶対言おうと思ってた事があるの」
「ほ、ほう、何でしょう……」
男は何故か苦しそうに顔を歪めながら掠れる声で聞く。
「幸運の鳥を幸運のままに留めなかったのは、貴方の行動が全て。自らが配下とした獣達を危険な森に置いていく……そんな恥ずべき行為こそが貴方を迷わせ、手練れの貴方は疲労困憊のままここに来たの」
ぐらぐらとお腹の中が煮えるようだった。
村潰しが置いていった数多くの獣達。なるべくは助けたけれど、主命ゆえに逆らえず森に残った子達もいた。
「な……」
村潰しは血走った目を見開く。私は更にきつく睨んで、男に現実を突きつける。
「ねえ、怒った? でもね、そう言われるだけの事を貴方はしたの。貴方に命を預けた沢山の、沢山の獣達は森の中で誰もが貴方の命令を待っていた。待って、待って……そして来ない事にようやく気づいて、森の仲間の誘導に従った」
「ぐっ……」
村潰しは唸り、苦しげに胸を押さえながら地面に膝を突く。
私はすぐ側にいるぽちの背を撫で、そしてその頭の上の七色鳥の頭を指先でそうっとくすぐるようにすると、村潰しに目線を合わせる。
「貴方に、動物を飼う資格なんてないわ。役立たずだから? ついていけないから? 弱いから? そんな理由で貴方に命を預けたあの子達を捨てた貴方には。あの子達は、ううん、この子も、もう森の仲間。貴方には返さない」
そう、これが言いたくて、だから私は村潰しが来るのを待っていたんだ。
「ぐ、う……」
村潰しは唸り、ついに転がるようにして地に伏せた。
「……うーん、この男にも、少しは良心があったのかな? こんな風に苦しむなんて」
私は言いたい事を言ってすっきりした気分になりながら、首を傾げる。
そこに酒飲みさんが声を荒げた。
「いやいやいや、待てやガキ……いやベル」
「何ですか、酒飲みさん」
しっかりと片手で村潰しのロープの端を握りながら、もう片方の手で狩猟ナイフを腰の鞘に戻すと、怪しむかのような不審の表情で私を見る。
「お前、思いっきり魔力漏らしながらコイツを威圧してたろうよ。コイツが倒れたのはそのせいだ。お前、結構えげつない事するな」
「威圧……?」
聞き慣れない言葉に、私ははてと頬に手を当てる。
「まさかの自覚なしかよ。恐ろしい女だな……。いいか、俺にはそれ使うなよ?」
「恐ろしいとか、さっきから失礼ですね。酒飲みさんが怒らせるような事しなきゃやりませんよ」
「お、おう。今後は気をつけるわ……」
そんな話をしていたら、丁度獣達を送ってきたらしいシルバーウルフが戻ってきたのが見えた。
「お、帰ってきたか。こいつはしばらく正気に戻らんだろうし、その間にさっさと森を抜けちまうのもアリかもなぁ……こいつ背負うのも嫌だし、あのデカブツ、背中貸してくれねぇかな」
そんな事を言いつつ、脱力した村潰しを肩の上に担ぎ上げると、酒飲みさんはすっかりと仲良くなったぽちの兄弟の元リーダーの方に駆けていく。
「……やっぱり、冒険者って力持ちだね、ぽち……と、七色鳥さん。細いとはいえ成人男性を軽く担いでいったよ」
「わん」
「ピィ?」
一人と一匹と一羽が、そんな姿を見送る。
こうして、今回の騒動は本当の意味で終わりを告げる事となったんだ。
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