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17章:女神の薬師はダンジョンへ

208.当然ながら、お叱りを受けました。

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キャンプ地に戻ったところ、開口一番、アレックスさんに叱られた。

「ベル、お前どこ行ってたんだ! あのなあ、オレはお前の護衛なんだぞ? 肝心の護衛を置いていくとか何考えてるんだよ!」
そう言っている彼は私を叱りながらも、心配そうな顔をしていて。
慌てて私はぽちから降りると彼の側に行って、頭を下げる。ああ、また勝手に走り出して心配掛けてしまった。
「ご、ごめんなさい。あの、この子が森のモンスターに食べられてしまったらと思ったら、どうしても急がなくちゃって思って」
「……この子? ってそのぽちの頭の上にいる鳥、村潰しの契約獣の七色鳥か? 何でお前に懐いてるんだ」
アレックスさんは私を叱ったかと思えば、今度はギョッとしてぽちの頭の上にいる七色鳥を見る。

「ピィ?」
七色鳥は、まじまじと自分を見つめるアレックスさんの様子に気づいてか、ぽちの頭の上で首を傾げた。
なんかこの子もすっかり馴染んじゃっているけど、そういえば村潰しと言われる極悪テイマーの契約獣なのよね。
道中もこの鳥さん、私の肩とか頭とかぽちの背中まで移動したり、飛んだと思えば私の肩で休んだりして、すっごく自由を満喫している感じだけど……やっぱり、ちゃんと警戒した方がいいのかなぁ。
「君は、本当にどうして付いてきたんだろうね?」
「ピ?」
ぽちの頭に乗って、のんびりしてる鳥に話し掛けると、その子は不思議そうに私を見て首をまた傾げた。


そういえば、こんな時に一番怒りそうな怖い人から声が掛からないなと、ふとあたりを見回すと、キャンプ地は朝食時に使う大きな折り畳みテーブルや椅子も片付けられ、通信魔道具だけがぽつんと置かれてる状態だ。
私は目を瞬く。

「あれ、酒飲みさん達は?」
「あいつらは、鼻のいい連中と一緒に今日も村潰しを探しに行ったよ」
それを聞いて、私はよくよく勢いのまま突き進む癖を反省した。
本当、いつも周りに迷惑掛けてばっかりだよね、私。
「そうなの……何だか悪い事しちゃったよね」
「そう思うなら、あとでちゃんと謝っとけ」
アレックスさんは肩を竦めると、通信魔道具の前に陣取る。護衛もだけど、今回は通信士みたいな役目も兼ねているから大変そうだ。
「はい、そうします。じゃあ、私は司令役に戻るね」
アレックスさんにこくりと頷いて、折りたたみ椅子の上に腰を落ち着け深呼吸すると、森の魔力に同調する。
間も無く、今見ている景色に、森のどこかを映したような光景が重なった。

「ええっと……村潰しの集団は……うん、ここだ。Bの3辺り……うわ、もうあと数時間でここに着いちゃうかも」
あのテイマーからは、森の魔力と反発するような異物感を覚えるので、広いこの森の中でもすぐ見つけることが出来る。
今回は作戦の為にざっくりと森の形を書いた地図にグリッドを引いて、そこに記号を振ってる訳だけど、キャンプを中心点に取ってるから、ここから遠ざかるほど番号が大きくなるんだ。

「B地点? そんなに近くに居るのか。ああ待て、今酒飲み達に場所を報告する」
アレックスさんが驚いたような声をあげ、すぐに通信魔道具のスイッチを入れた。
「あ、はい。報告お願いします」
私はもう少し詳しく見ようと、望遠鏡を拡大するみたいに敵の集団を確認した。そろそろ敵が来るんだし、数とか種類などの情報も必要だよね。
「うわ……随分と森のモンスターと入れ替わってる」
改めて詳細を確認すれば、敵の陣営は、最初の頃のさまざまな地域から寄せ集めたようなごった煮状態から変わって、女神の森で屈服させただろうモンスターばかりになっていた。
「ええっと……角ウサギにトライホーン、小型のイノシシと、あ、大きなヤマネコもいるなあ……。どれもお散歩中に見たことがある子ばかり」
殆どが中型から小型ではあるけれど、何だかちょっと悲しいような気分を覚える。なんていうか、顔見知りが敵に回った気分というか。

「それにしても、元からの仲間を置いて、戦力を現地調達って酷いよね……」
集団から遅れて置いていかれたモンスター達は、以前に冒険者ギルドで教えて貰った内容から類推すると、殆どがCからDランクぐらいの脅威度のものばかりだ。
村潰しが持っていたのは、つまり、Bランクのモンスターが当たり前に闊歩するこの森では、ちょっと生きていくのが大変そうな子達なわけだけど……。
「強いモンスターがいれば、前の子から平気で乗り換えるってこと? そういうの絶対生き物を飼う人間として許せないんだけど」
危険な森に置いていかれた契約獣達を思い出すと、どうにも腹が立って仕方ない。
生き物を飼うなら、ちゃんと最後まで面倒を見るのが鉄則でしょうに。

「村潰しもいよいよ近くまで来たみたいだし、何考えてあんな事したのかしっかり聞き出さないとね」
私がぐっと拳を握ると、側にいるぽちと、ぽちの頭の上に居る七色鳥が、不思議そうに首を傾げていた。



そんな風に私が敵の陣容を確認する横で、アレックスさんが酒飲みさん達に通信具越しに報告しているわけだけど……。

『……おいアレックス、あのアホガキによく言い聞かせておけよ。司令役が本部を離れるとか、絶対にあり得ない事なんだからな! スタンピードの時なら、現場放棄で処分も順当な事態だぞ』
なんて聴こえてきたものだから、私はすごく驚いた。

「ああ、もうそれはちゃんと叱っておいたよ。あいつも反省してるし、今は現場復帰してるから許してやってくれ」
『お前はそうやって妹分を甘やかすんじゃねえよ! これから上級冒険者として働くなら、ああも適当じゃあすぐ降格だ! AAランクなんて大層な相棒を連れているんだから、ギルドの顔としてちゃんとしろってんだ!』
「そうだな……まあ、そのあたりはちゃんと言い聞かす」
『そうしてくれ。じゃあな』

その一言を最後に、ブツッと通信が切れる。通信魔道具を前にして、アレックスさんが大きく溜息を吐いたのが見えた。

「アレックスさん……えっと、私そんなにまずい事してたの?」
二重写しの景色にアレックスさんの顔を捉えつつ私が聞くと、アレックスさんは通信を切ってから、なんとも言えない顔で頷いた。
「まあ、そうだなぁ、時と場合によってはランク降格もの、ではあったかな。上位になればなるほど、責任も付いて回るからな。今やベルはAランクの冒険者だ。ギルドの顔として周囲から見られている事を念頭に置いて行動しないとまずいぞ」
「そ、そうなんだ……以後、出来るだけ暴走は慎みます」
びっくりした。アレックスさんがそうまで言うって事は、本当に周囲の目を気にして軽率な行動は取れないな。冒険者ランクが私やぽちの身を守る盾である以上、降格は嫌だし。
うん、今度からはちゃんと周りに確認取ってから行動しよう。

と、反省したところで、私は二重写しの風景の中で妙な事に気付いた。
「うーん、村潰し達、さっきから全然進んでないな。同じ所をぐるぐる回ってて……これって、普通に迷路の魔法に掛かってる?」
「へえ、それはどこの辺りだ?」
私の呟きに、アレックスさんが興味深そうに片方の眉を跳ねあげた。
「ええっと……さっき言った地点で弧を描くみたいに、ぐるぐるしてますね。まあ、少しずつ前進はしてるんですけど……昨日までと違い、正解の道に修正するまでの手数が何倍にも増えてるっていうか」
二重写しの風景に目が回らないよう、そろそろと地図の前に移動した後、私は地図のBの3地点のところで、横に長い楕円を描く。
「こんな感じで、少しずつこちらへ向けてゆるやかに縁を描きつつ進んでます」
私の動きが気になったのか、私の肩に止まった鳥が、指の動きにつられて首を回していた。こら、首に羽毛が触れてくすぐったいぞ。

私がふわふわの羽毛にくすぐられ、首を竦めながら笑いを堪えるのを見ると、アレックスさんは微妙な顔で指摘した。
「あ……昨日の時点まではかなりのペースで突っ切っていたが、それはそこの、七色鳥が先頭で導いていたからなんだろう? なら単純に、偵察役として優秀なそいつが抜けたからだと思うが」

「ああ、成る程。確かにそうかも……」
昨日までのハイペースはどうしたってぐらいに足が鈍ってる理由。
それはこの子がここに居るからか。
まあ、村潰しが休憩したこの子を捨てていったんだから、自業自得ですけど。

「君って優秀だったんだねぇ」
肩口で遊ぶ七色の綺麗な鳥を指先でちょいちょいと擽ってやると、ピルルと嬉しそうに鳴く。
ああもう、なんでこんなに可愛くて優秀な子を危険な森に置いていったんだろうね? 本当、村潰しには一言どころでなく、生き物を飼う者としての責任を問い詰めてやらないと気が済まなくなってきたよ!
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