上 下
41 / 41
森で出会った女の子

最終話 旅の始まり

しおりを挟む
「駄目だ!!このままだと全滅するぞ!?」
「そ、そうだ!!さっきの武器をまたリル様に渡せば……」
「駄目だ!!いくら切っても血晶を破壊しない限りはこいつは倒せない!!まずは血晶の位置を特定しないと……」


レノは魔力感知を発動させて血晶の位置を捉えようとするが、周囲から押し寄せる根のせいで身を守るのに精いっぱいだった。


「くそっ!!どうすれば……」
「リル様、私が囮になるのでどうか逃げてください!!」
「諦めるな!!何か手段はあるはずだ!!」


人面樹の繰り出す根っこに取り囲まれたレノ達は背中を合わせ、もう完全に逃げ場を失ってしまった。このままでは三人とも捕まってしまうが良案が思いつかない。


(くそっ!!どうすれば……待てよ?そういえば爺ちゃんが草を刈る時に使っていたあの技なら……)


山で暮らしていた時にタケルが利用していた技を思い出し、一か八か試すしかなかった。レノは右手に魔力を集中させると、硬魔を応用して円盤のような形をした魔力の塊を生み出す。その後に周端を尖らせることで「丸鋸」のように変形させた。

この技は元々はタケルが草木を狩るために生み出した技だが、相手が植物型の魔物ならば有効的だと考えてレノは繰り出す。丸鋸状の魔力の塊を高速回転させながら前方に繰り出す。


「爺ちゃんは名前なんて付けなかったけど……魔刃輪!!」
「うわっ!?」
「これは!?」
「ジュラァアアッ!?」


レノが繰り出した丸鋸状の魔刃は大量の根を一気に切断し、半分に切り裂かれた本体を更に真っ二つに切り裂く。するとレノ達を取り囲んでいた根が停止し、その隙を逃さずにレノは本体へ向かう。


「これで終わりだ!!」
「ジュラァッ!?」


走りながらレノは螺旋刃を手元に作り出し、本体の中に隠された血晶の位置を魔力感知で掴んで叩き込む。



――ジュラァアアアアッ!?



人面樹の断末魔の悲鳴が草原中に響き渡り、地中から出現していた全ての根は枯れて崩れ落ちる。血晶を破壊する際にレノは魔力を吸収するのも忘れず、赤毛熊ほどではないがそれなりの魔力を手に入れた。


「ふうっ、助かった……爺ちゃんのお陰だな」
「た、倒したのか?」
「助かった……これで二度も命を救われたね」


リルとチイは人面樹が死んだことを確認するとその場でへたり込み、レノも結構な魔力を消費したので地面に横たわる。最後の技は予想よりも魔力の消費が激しく、現時点では多用はできなかった。


(さっきのは螺旋弾よりもかなり魔力を使ったな。それに殺傷能力が高過ぎるから魔物以外の相手には絶対に使えないな)


魔刃輪は強力だが使い道を誤れば危険な技であり、今後はいざというとき以外は使用を禁じることにした。体力が戻るまでしばらくの間は休もうとした時、リルとチイが心配そうな顔を浮かべて地面に横たわっているレノを見下ろす。


「大丈夫か?どこか怪我をしていないか?」
「平気平気……ちょっと地面に叩きつけられたときは痛かったけど、怪我はしてないよ」
「お前のお陰で助かった。本当に礼を言うぞ」


二人が差し出した手を掴んでレノは起き上がると、リルとチイはお互いの顔を見合わせてレノの前に跪く。二人の行為にレノは驚くが、リルとチイは真剣な表情を浮かべてレノに頼み込む。


「レノ君、いやレノ殿……どうか私達の話を聞いてくれないか」
「今まで無礼な態度を取って申し訳ございませんでした!!」
「ちょ、ちょっと!?いきなりどうしたんだよ!!」


唐突に自分に跪いた二人にレノは戸惑うが、顔を上げたリルは驚くべき言葉を告げた。


「私の名前はフェン・リル……ケモノ王国の王女だ」
「えっ……王女!?」
「私の名前はワン・チイ、王女様の騎士です」
「騎士!?」


自分のことを王女と騎士と名乗る二人にレノは驚愕し、二人の口から更に衝撃の事実を伝えられた――





――今から16年前、ケモノ王国に3番目の王女が誕生した。それが「リル」であり、彼女には「サクラ」と「イレア」という名前の姉が二人居た。

ケモノ王国は代々女性が王を勤める習わしであり、今の女王が退位すれば第一王女のサクラが女王になるはずだった。しかし、サクラは一年前に大病を患い、現在も療養中である。もしも彼女が亡くなった場合、妹のイレアとリルのどちらかが国を継ぐ事になる。

サクラが病に侵された途端に第二王女のイレアは自分こそが女王に相応しいと主張し、有力貴族を味方に付けていく。しかし、女王はサクラが急な病に侵された原因はイレアの仕業ではないかと考えていた。

秘密裏に調査した結果、サクラは病を患う前にイレアと接触していたことが判明した。もしかしたらイレアがサクラに毒を仕込み、彼女を暗殺しようとしたのではないかと女王は疑う。しかし、イレアがサクラに毒を仕込んだ明確な証拠は手に入らず、既にイレアが多数の貴族を味方に付けていたので女王でもどうしようもできなかった。

このままではイレアに国を乗っ取られると判断した女王は、一番下の娘のリルに女王を継ぐ者だけが許されるペンダントを渡す。もしも自分やサクラに何かあった場合、ペンダントを所持していればリルは正当な女王の跡継ぎとして認められる。

そして今から一か月前にサクラが治療も虚しく命を落とし、それを見計らったようにイレアは女王に自分を次期女王と認めるように迫る。しかし、女王は自分の継承者は「リル」と宣言した。それを聞いて激怒したイレアは女王を無理やりに監禁し、そして自分から女王の座を奪おうとするリルの命を狙う。

しかし、女王はリルの命が狙われることを想定し、事前に彼女をケモノ王国とは同盟国であるヒトノ帝国に送り込む。国内に残ればイレアに従う者達に命を狙われる可能性もあるが、他国ならばイレアも簡単には手を出せない。

ケモノ王国と女王とヒトノ帝国の皇帝は盟友であり、リルは帝国の皇帝を頼れば必ず力になると女王から聞かされていた。だから彼女は護衛の騎士と共にヒトノ帝国に向かったが、その途中でイレアがけしかけた刺客に命を狙われる。

どうにか刺客から逃れてヒトノ帝国の領地に辿り着けたが、リルの傍にはチイ以外の騎士の姿はなかった。他の騎士は全員が犠牲となってしまい、彼等のためにもリルはヒトノ帝国の皇帝と謁見し、女王から渡された書状を渡して帝国の力を借り、祖国を牛耳るイレアから国を取り戻すための旅をしていることをレノに伝える。


「これが私の正体だ。驚かせてしまったかな?」
「そ、そうだったのか……でも、どうして俺に教えてくれたんですか?」
「君が信用できる人物と見込んでの事だ。それと君にお願いしたいことがある」
「お願い?」


リルの言葉にレノは不思議に思うと、彼女は深々と頭を下げて頼み込む。


「どうか私達の旅に同行してほしい。君のように強い魔術師が傍にいると心強いんだ」
「お願いします!!レノ殿、どうか我等に力を貸してくれ!!」
「ええっ!?」


思いもよらぬ提案にレノは度肝を抜かし、いきなり護衛と言われても返答に困る。しかし、リルとチイは真剣な表情で頼み込む。


「君と出会った時、そしてさっきの人面樹との戦いで気づいたんだ。私達だけで旅を続けるのは厳しい。ここに来るまでも大勢の味方を失った……今の私達に必要なのは信頼できる強い味方なんだ」
「今まで失礼なことを言ったことは謝ります!!どうかリル様にお力を貸してください!!」
「ちょ、ちょっと!!頭を上げて下さいよ!!」


土下座で謝罪をするチイにレノは慌てて頭を上げさせようとするが、リルは荷物から大量の金貨が入った袋を取り出して差し出す。


「勿論、ただで護衛してくれとは言わない!!護衛を引き受けてくれるなら報酬も支払うし、旅費も支払う!!」
「えっ!?マジで!?」
「マジだ!!」


大量の金貨を見せつけられてレノは冷や汗を流し、こんな大金を目にしたのは生まれて初めてだった。


(こんな大金見たことないぞ……そういえば爺ちゃんが昔こんな事を言っていたな。情けは人の為ならず、だったっけ?それとも旅は道連れ世は情け、だっけ?)


リルとチイの命を救ったのはレノであり、タケルの言葉を思い出したレノは二人の旅に付き合うことにした。


「分かったよ。なら、王都まで一緒に旅させてもらいますよ」
「本当か!?」
「あ、ありがとうございます!!お礼にモフモフしていいですよ!!」
「モフモフ……?」


コトミンと別れたばかりだというのにレノは妙な女の子二人と出会い、悲しみが失せてしまった。これから三人の長く険しい旅が始まる――





※悲しい終わり方は嫌だったので今回の終わり方にしました。今度こそ最終回とさせていただきます。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

アメイジング・ナイト ―王女と騎士の35日―

碧井夢夏
ファンタジー
たったひとりの王位継承者として毎日見合いの日々を送る第一王女のレナは、人気小説で読んだ主人公に憧れ、モデルになった外国人騎士を護衛に雇うことを決める。 騎士は、黒い髪にグレーがかった瞳を持つ東洋人の血を引く能力者で、小説とは違い金の亡者だった。 主従関係、身分の差、特殊能力など、ファンタジー要素有。舞台は中世~近代ヨーロッパがモデルのオリジナル。話が進むにつれて恋愛濃度が上がります。

S級冒険者の子どもが進む道

干支猫
ファンタジー
【12/26完結】 とある小さな村、元冒険者の両親の下に生まれた子、ヨハン。 父親譲りの剣の才能に母親譲りの魔法の才能は両親の想定の遥か上をいく。 そうして王都の冒険者学校に入学を決め、出会った仲間と様々な学生生活を送っていった。 その中で魔族の存在にエルフの歴史を知る。そして魔王の復活を聞いた。 魔王とはいったい? ※感想に盛大なネタバレがあるので閲覧の際はご注意ください。

Sランク冒険者の受付嬢

おすし
ファンタジー
王都の中心街にある冒険者ギルド《ラウト・ハーヴ》は、王国最大のギルドで登録冒険者数も依頼数もNo.1と実績のあるギルドだ。 だがそんなギルドには1つの噂があった。それは、『あのギルドにはとてつもなく強い受付嬢』がいる、と。 そんな噂を耳にしてギルドに行けば、受付には1人の綺麗な銀髪をもつ受付嬢がいてー。 「こんにちは、ご用件は何でしょうか?」 その受付嬢は、今日もギルドで静かに仕事をこなしているようです。 これは、最強冒険者でもあるギルドの受付嬢の物語。 ※ほのぼので、日常:バトル=2:1くらいにするつもりです。 ※前のやつの改訂版です ※一章あたり約10話です。文字数は1話につき1500〜2500くらい。

裏公務の神様事件簿 ─神様のバディはじめました─

只深
ファンタジー
20xx年、日本は謎の天変地異に悩まされていた。 相次ぐ河川の氾濫、季節を無視した気温の変化、突然大地が隆起し、建物は倒壊。 全ての基礎が壊れ、人々の生活は自給自足の時代──まるで、時代が巻き戻ってしまったかのような貧困生活を余儀なくされていた。 クビにならないと言われていた公務員をクビになり、謎の力に目覚めた主人公はある日突然神様に出会う。 「そなたといたら、何か面白いことがあるのか?」 自分への問いかけと思わず適当に答えたが、それよって依代に選ばれ、見たことも聞いたこともない陰陽師…現代の陰陽寮、秘匿された存在の【裏公務員】として仕事をする事になった。 「恋してちゅーすると言ったのは嘘か」 「勘弁してくれ」 そんな二人のバディが織りなす和風ファンタジー、陰陽師の世直し事件簿が始まる。 優しさと悲しさと、切なさと暖かさ…そして心の中に大切な何かが生まれる物語。 ※BLに見える表現がありますがBLではありません。 ※現在一話から改稿中。毎日近況ノートにご報告しておりますので是非また一話からご覧ください♪

一人暮らしのおばさん薬師を黒髪の青年は崇めたてる

朝山みどり
ファンタジー
冤罪で辺境に追放された元聖女。のんびりまったり平和に暮らしていたが、過去が彼女の生活を壊そうとしてきた。 彼女を慕う青年はこっそり彼女を守り続ける。

記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした 

結城芙由奈@12/27電子書籍配信中
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。

貧乏冒険者で底辺配信者の生きる希望もないおっさんバズる~庭のFランク(実際はSSSランク)ダンジョンで活動すること15年、最強になりました~

喰寝丸太
ファンタジー
おっさんは経済的に、そして冒険者としても底辺だった。 庭にダンジョンができたが最初のザコがスライムということでFランクダンジョン認定された。 そして18年。 おっさんの実力が白日の下に。 FランクダンジョンはSSSランクだった。 最初のザコ敵はアイアンスライム。 特徴は大量の経験値を持っていて硬い、そして逃げる。 追い詰められると不壊と言われるダンジョンの壁すら溶かす酸を出す。 そんなダンジョンでの15年の月日はおっさんを最強にさせた。 世間から隠されていた最強の化け物がいま世に出る。

ゲームの世界に堕とされた開発者 ~異世界化した自作ゲームに閉じ込められたので、攻略してデバックルームを目指す~

白井よもぎ
ファンタジー
 河井信也は会社帰りに、かつての親友である茂と再会する。  何年か振りの再会に、二人が思い出話に花を咲かせていると、茂は自分が神であると言い出してきた。  怪しい宗教はハマったのかと信也は警戒するが、茂は神であることを証明するように、自分が支配する異世界へと導いた。  そこは高校時代に二人で共同制作していた自作ゲームをそのまま異世界化させた世界だという。  驚くのも束の間、茂は有無を言わさず、その世界に信也を置いて去ってしまう。  そこで信也は、高校時代に喧嘩別れしたことを恨まれていたと知る。  異世界に置いてけぼりとなり、途方に暮れる信也だが、デバックルームの存在を思い出し、脱出の手立てを思いつく。  しかしデバックルームの場所は、最難関ダンジョン最奥の隠し部屋。  信也は異世界から脱出すべく、冒険者としてダンジョンの攻略を目指す。

処理中です...