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森で出会った女の子

第30話 魔法の原理

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「はい、レノの分」
「いや、今は焼魚より水が欲しいんだけど……ていうかお前、魚も食えるのか」
「フゴゴッ」


美味しそうに焼魚を食すボア子にレノは驚き、魔獣は普通の猪と違って魚も食べられるらしい。焼魚を受け取りながらレノは運び込んだ赤毛熊の血晶をどうするのか考える。


「こいつを壊せば魔力を増やせるけど……これがあれば他の生物から襲われることもなくなるんだっけ?」
「少なくとも赤毛熊よりも弱い生物は近づかないと思う」
「そうか、ならコトミンにあげるよ」


レノは惜しげもなく血晶をコトミンに差し出すと、彼女は不思議そうな表情を浮かべた。


「……どうして私に?」
「俺を助けてくれたし、何日も面倒を見てくれたし、修行も付き合ってくれたり……恩返しと思って受け取ってよ。これさえあれば弱い魔物に襲われることもないし、必要ないと思うなら壊していいからさ」
「本当にそれで良いの?これを人間の街に持って帰れば高く売れると思う」


力の強い魔物の血晶は「魔除け」の材料に利用されることが多く、破壊すれば魔力の足しにできるので必要とする輩は多い。しかし、レノはコトミンに受け取って欲しいと思った。


「金には困ってない……というわけでもないけど、今の俺がコトミンに渡せる物はこれぐらいだからさ」
「分かった。そこまで言うのなら貰う……男の子からの贈り物なんて初めて、ぽっ」
「いや、こんなので頬を赤らめても困るんだけど……」


血晶を受け取ったコトミンはボア子が嫌がるので一旦家の中に運び込み、大分も日も沈んできたので今夜は休むことにした――





――その日の夜中、扉が開く音が聞こえてレノは目を覚ます。ベッドで寝ていたはずのコトミンの姿が見えず、先ほどの音は彼女が外に出たのだと知ってレノは疑問を抱く。


(こんな時間に何処へ行く気だ?少し気になるな……ちょっと様子を見てみるか)


コトミンの後を追ってレノは扉を開くと、彼女は外で両手を上げていた。いったい何をしているのかとレノは不思議に思うと、彼女の周りに木の葉が舞う。まるでコトミンを中心に風が渦巻いており、その光景を見てレノは驚く。

彼女の身体が緑色の魔力に包まれ、それを見た瞬間にレノはコトミンが魔法を使おうとしていることに気付く。コトミンは緑色の魔術師なので風の魔法を扱え、彼女は掌を構えながら呟く。


「……スラッシュ」
「うおっ!?」


コトミンが言葉を発した瞬間、緑色の魔力が掌に集まり、三日月状の形に変形して掌から放出された。その光景を見たレノは驚いて声をあげると、コトミンは彼に振り返る。


「……起きてたの?」
「いや、その……何してるの?」
「魔法の練習、毎日この時間帯にやってる」
「今のが……魔法なんだ」


レノは実際に魔法を見るのは実は初めてであり、師匠のタケルは魔法が使えない「無色」の魔術師だった。一応は吸血鬼やゴウカが魔法らしき力は使っていたと思うが、コトミンの場合は正にレノが絵本で読んだ「魔術師」が扱う魔法その物を生み出していた。

気付かれた以上は隠れる必要もなくなり、レノはコトミンの元へ向かう。すると彼女が魔法を繰り出した方向の地面が抉れていることに気が付き、まるで鋭い刃物に切られた様な跡だった。


「さっきの魔法は何?」
「風属性の魔法の一種「スラッシュ」魔力を凝縮させて斬撃を生み出せる」
「凄い切れ味だな……こんな魔法が使えるなら赤毛熊も倒せたんじゃないの?」
「多分、無理だったと思う。魔物は魔力に敏感だから攻撃を仕掛ける前に逃げ出す。それに発動まで時間が少し掛かるから赤毛熊に当てる前にやられていたと思う」


コトミンは魔法を発動するまで10秒ほど魔力を練り上げる必要があり、彼女の周囲に木の葉が舞っていたのは自分の魔力を別の魔力に変換させていたことが発覚した。


「レノは魔法が使えないから知らないかもしれないけど、魔術師は魔法を生み出す時は自分の魔力を変質させないといけない。風属性の魔法を生み出すには自分の魔力を風の魔力に変化させる必要がある」
「変質?」
「そう、そしてさせた魔力をして攻撃を行うことでようやく魔法と認められる」
「分離……」


レノは今までのタケルの修業では聞いたこともない技術を知り、一般の魔術師は魔力を「変質」させて「分離」を行うことで魔法を生み出すのだと理解した。


(変質に分離か……爺ちゃんはきっとできなかったんだろうな)


無色の魔術師のタケルは魔法を使うことができなかったため、コトミンの語る技術は存在は知っていても実践はできなかったのかもしれない。だからレノにもやり方を教えることはできず、その代わりに他の技術を磨いていたと考えられる。


(俺も練習すれば魔法が使えるように……いや、何を考えてるんだ)


コトミンが魔法を使う場面を見てレノも彼女から技術を教われば魔法が使えるのかと思うが、あくまでもレノが目指すのはタケルのような魔術師であって魔法を使う気はない。しかし、自分がまだ知らなかった技術があると知って正直ショックを受けていた。


「コトミンは何歳から魔法を使えたの?」
「私の場合は生まれた時から魔力を変質させることはできた」
「えっ!?コトミンは生まれた時から変質を覚えてたのか!?」
「……その言い方だと私が変質者みたいだから止めて」


エルフであるコトミンは普通の人間とは異なり、自分の魔力をに変換させる術を身に着けていた。

過去に彼女は高い場所から誤って落ちた際、地面に落ちる寸前で自分の魔力を変質させて風圧を生み出し、落下速度を減少させたことで怪我もせずに着地できたこともあるという。


「私の場合は生まれた時から魔力を変質させることができたから、悪いけどレノには変質のやり方を教えることはできない」
「そうなんだ……いや、別に覚えるつもりはないけど」
「お爺さんのような魔術師を目指してるから?」
「……うん」


コトミンの言葉にレノは頷き、あくまでも自分が目指すのは普通の魔術師ではなく、タケルのような魔法を使えなくても立派に戦える魔術師を目指していることを伝える。しかし、コトミンは残念そうな表情を浮かべた。


「レノは人間だけど、魔力も強くて魔操術も優れているから魔法を使えれば強い魔術師になれると思う。意地を張らずに魔法を覚えてみたら?」
「覚えない……俺は魔法なんていらない」
「……意地っ張り」


意地でもタケルのような魔術師を目指すレノは魔法を否定し、そんな彼にコトミンはつまらなそうに呟く。


「レノが魔法を使えるようになりたいと思ったら、私が分離の技術だけでも教えようかと思ったのに……」
「分離?そういえばさっきも言ってたけど、どんな技術なの?」
「言葉の通り、魔力を分離させる技術……これを覚えないと魔法は使えない」


コトミンの説明では分離とは魔力を切り離して対象に放つ技術であり、この技術を覚えるのは一番大変らしく、エルフのコトミンでさえも半年は費やしたという。


「魔力を切り離せばその分だけ魔力は消えてなくなる。だから練習するだけでも大変で下手に魔力を使いすぎて死にかける魔術師もいるぐらい危険」
「そんなにやばい技術なのか……でも、分離か」


分離の技術を聞いた時からレノはあることを思いつく。自分は魔法を使うつもりはないが、こちらの技術を覚えることができればこれまで以上に攻撃手段を増やすことができるのではないかと考えた。そこでレノはコトミンに頼み込む。


「コトミン、その分離の技術だけ俺に教えてくれない?」
「……本気?エルフじゃないレノだと覚えるのに相当苦労することになると思う。それでもいいの?」
「大丈夫……気合と根性だけは自信があるから」


レノはコトミンに分離の技術を伝授するように頼み、もうしばらくの間は彼女の世話になることになった――
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