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森で出会った女の子
第25話 少女と化物熊
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「フゴォオオッ!!」
「うわぁああっ!?」
レノを背中に乗せたボアは山の中を駆け巡り、あまりの移動速度にレノは落ちそうになる。強化を発動してボアの背中に抱きつきながら怒鳴り散らす。
「早過ぎだろ!?一旦止まれ!!」
「フゴォッ!?」
「うわぁっ!?」
ボアはレノの命令に従って急停止すると、その反動でレノは背中から落ちてしまう。倒れたレノをボアは心配そうに見つめる。
「フゴォッ……」
「はあっ、はあっ……し、死ぬかと思った」
背中から地面に叩きつけられたレノは痛みを覚えるが、何とか立ち上がると山の麓にまで辿り着いたことに気が付く。ボアのお陰で思っていたよりも早く山を下りられそうだった。
「何時の間にかこんなところまで来てたのか……それにようやく山を抜けられそうだ」
レノの視界に広大な草原の風景が映し出され、数日かけてようやく山岳地帯を抜け出すことに成功した。思っていた以上に時間は掛かってしまったが、ようやく山を抜けられることに安堵する。
ボアのお陰で大変な目に遭ったが、山の麓まで連れてきてくれたことには感謝し、最後にお礼と別れを告げて立ち去ろうとした。
「ここまで連れて来てくれてありがとうな。俺はもう行くよ」
「フゴッ?」
「お前も元気で暮らせよ。もう怪我するんじゃないぞ」
頭を撫でるとボアはくすぐったそうな表情を浮かべ、そんなボアを置いてレノは山を下りようとした。だが、ボアは何かに気付いたようにレノの背中を鼻頭でつつく。
「フゴッ、フゴッ!!」
「うわっ!?何だよ、まだ俺に用があるのか?」
「フゴゴッ!!」
「あっち?あっちの方に何かあるのか?」
草原とは別方向に存在する森にボアは顔を向け、付いて来いとばかりに促す。ボアの行動に少し気になったレノは再び背中に乗り込む――
――レノを乗せたボアは山を下りると森へ移動し、どんどんと奥を進んでいく。レノとしてはさっさと人里に向かいたいのだが、ボアが何処に連れて行こうとしているのか気になって尋ねる。
「なあ、何処まで進むんだ?ちゃんと帰れるんだろうな?」
「フゴォッ!!」
「たくっ、本当に言葉を理解してるのかこいつ……」
ボアはレノの言葉を聞いても鼻息を鳴らすだけであり、仕方なく付き合うことにした。そしてボアが辿り着いた場所は森の奥に生えている大樹だった。
「うわっ!?なんだこの馬鹿でかい木は……!?」
「フゴゴッ」
連れてこられた先には樹齢1000年は超えていそうな巨大な樹木が生えており、あまりの大きさにレノは圧倒される。山に住んでいた時もこれほどまでの大きさの樹木は見たことがなく、興味を抱いたレノはボアから下りて大樹に近付く。
大樹に触れるとまるで岩のように硬く、それでいながら温かさを感じた。魔力感知を発動させると他の植物とは比べ物にならない魔力を宿していた。
「不思議な木だな……お前、どうしてこんな場所に連れて来たんだ?」
「フゴフゴッ……」
「って、寝てる!?」
ボアに振り返ると呑気に昼寝を始めており、こんなところに一方的に連れてきて眠り始めたボアに呆れる。しかし、レノも睡魔に襲われた。
(そういえばしばらく寝てなかったな……近くに生物の気配は感じないし、俺も少し眠ろうかな)
眠気を覚えたレノは横たわったボアの身体に背中を預け、ひと眠りしようとした。連日の登山で疲れていたせいでレノはすぐに眠りにつく――
――目を覚ますと既に太陽は沈みかけており、夕方の時刻を迎えていた。思っていた以上に眠ってしまったことにレノは驚き、慌ててボアを揺り起こす。
「おい、起きろって!!」
「フゴゴッ……」
「こら!!目を覚ませ!!」
いくらレノがボアに怒鳴りつけても目を覚ます気配はなく、諦めたレノは周囲を見渡す。今から森を一人で抜けるのは難しく、今夜はここで過ごすしかなかった。
「全く、こんな森の中で過ごす羽目になるとは……仕方ない、腹も減ったしこいつを仕留めて夕飯にするか」
「フゴッ……!?」
不穏な気配を察知したボアは眠りながらも呻き声を上げるが、そんな中でレノは大樹へと近寄る。これほどまでに大きな樹木を見るのは初めてであり、色々と見て回ろうとするとおかしなものを発見した。
「あれ?何だこれ!?」
大樹の周りを歩いて調べていると、何故か裏側の方に扉が嵌め込まれていた。大樹にどうして扉が取り付けられているのかと不思議に思ったレノだが、とりあえずは扉に手を伸ばすと本当に開いた。
扉の奥は真っ暗だが、試しにレノが指先に魔力を集中させて光を生み出す。すると扉の先にはまるで誰かが住んでいるような痕跡が残っていた。
「な、何なんだいったい……誰か住んでるのか?」
大樹の内部を削り取って人間が住める空間が作り出されており、机や椅子や箪笥などの家具まで揃っていた。こんな大樹に誰が住んでいるのかとレノは疑問を抱くが、今は人の気配を感じられない。
「最近まで誰か居た痕跡は残っているけど、こんな場所で暮らしてるなんて随分と代わった奴だな……」
森の周辺には村などは見当たらず、この場所に暮らしている人間は人里から遠く離れた場所で暮らしていることになる。レノは少し気になって調べようとした時、外からボアの鳴き声が響き渡る。
――フゴォオオオッ!!
森中に響き渡るボアの鳴き声を聞いてレノは何かあったのかと外に飛び出すと、ボアの他に女の子の声が聞こえてきた。
「にょわぁあああっ!?」
「な、何だ!?」
奇怪な悲鳴を耳にしたレノは驚き、最初はボアが人間の女の子を襲っているのかと思って慌てて大樹を回り込む。だが、レノの視界に映し出されたのは金髪の女の子を庇うボアの姿と、反対側に立つ巨大な熊を見て驚く。
「ガアアアッ!!」
「フゴォッ!!」
「はううっ……」
「な、何だ!?」
まるで女の子を守るようにボアは巨大な熊と向かい合い、女の子の方は怯えた様子で身体を屈んでいた。何が起きているのか分からないが、とりあえずレノは女の子を助けるために動く。
ボアと向かい合う熊は体長は2メートルを軽く超えており、しかも全身の体毛が赤く染まっていた。一目見ただけでレノは魔物だと判断し、最初にボアと遭遇した時に背中に負っていた傷を思い出す。
(あの傷はこいつにやられたのか!?)
赤毛熊がボアに致命傷を与えた存在だと理解したレノは戦慄するが、女の子を見捨てるわけにはいかず、足元に落ちていた小石を拾い上げる。
(まずはこっちに注意を反らす!!)
石を拾い上げたレノは左手の人差し指と中指に柔魔で構成した魔力の帯を巻き付け、パチンコの要領で小石を赤毛熊の頭に放つ。
「こっちだ、化物!!」
「ガウッ!?」
「フゴォッ!?」
「だ、誰……?」
頭に小石をぶつけられた赤毛熊はレノの存在に気が付き、遅れて女の子も彼に気が付いて驚く。そんな彼女にレノは早く逃げる様に促す。
「早くそいつに乗って逃げろ!!こいつは俺が引きつけておく!!」
「でも……」
「いいからさっさと行け!!」
「……分かった!!」
「フゴォッ!!」
女の子はレノに言われた通りにボアに乗り込むと、ボアは女の子が乗った途端に駆け抜ける。赤毛熊はボアが逃げ出したのを見て追いかけようとしたが、そうはさせまいとレノは小石を再び撃ちこむ。
「お前の相手はこっちだ!!」
「ガアアアッ!!」
自分に小石を当てて来るレノを鬱陶しいと思ったのか、赤毛熊は狙いをボアと女の子からレノに切り替える。女の子とボアが逃がすことに成功したが、問題なのはここからだった。
(こいつ、なんて魔力だ!?ボアの倍以上はあるぞ!!)
これまでに遭遇したどんな魔物よりも大きな魔力をレノは感じ取り、女の子を助けるためとはいえ、自分を囮にしたこと少し後悔する。だが、もう逃げる暇もなく、赤毛熊はレノに目掛けて突進してきた。
「うわぁああっ!?」
レノを背中に乗せたボアは山の中を駆け巡り、あまりの移動速度にレノは落ちそうになる。強化を発動してボアの背中に抱きつきながら怒鳴り散らす。
「早過ぎだろ!?一旦止まれ!!」
「フゴォッ!?」
「うわぁっ!?」
ボアはレノの命令に従って急停止すると、その反動でレノは背中から落ちてしまう。倒れたレノをボアは心配そうに見つめる。
「フゴォッ……」
「はあっ、はあっ……し、死ぬかと思った」
背中から地面に叩きつけられたレノは痛みを覚えるが、何とか立ち上がると山の麓にまで辿り着いたことに気が付く。ボアのお陰で思っていたよりも早く山を下りられそうだった。
「何時の間にかこんなところまで来てたのか……それにようやく山を抜けられそうだ」
レノの視界に広大な草原の風景が映し出され、数日かけてようやく山岳地帯を抜け出すことに成功した。思っていた以上に時間は掛かってしまったが、ようやく山を抜けられることに安堵する。
ボアのお陰で大変な目に遭ったが、山の麓まで連れてきてくれたことには感謝し、最後にお礼と別れを告げて立ち去ろうとした。
「ここまで連れて来てくれてありがとうな。俺はもう行くよ」
「フゴッ?」
「お前も元気で暮らせよ。もう怪我するんじゃないぞ」
頭を撫でるとボアはくすぐったそうな表情を浮かべ、そんなボアを置いてレノは山を下りようとした。だが、ボアは何かに気付いたようにレノの背中を鼻頭でつつく。
「フゴッ、フゴッ!!」
「うわっ!?何だよ、まだ俺に用があるのか?」
「フゴゴッ!!」
「あっち?あっちの方に何かあるのか?」
草原とは別方向に存在する森にボアは顔を向け、付いて来いとばかりに促す。ボアの行動に少し気になったレノは再び背中に乗り込む――
――レノを乗せたボアは山を下りると森へ移動し、どんどんと奥を進んでいく。レノとしてはさっさと人里に向かいたいのだが、ボアが何処に連れて行こうとしているのか気になって尋ねる。
「なあ、何処まで進むんだ?ちゃんと帰れるんだろうな?」
「フゴォッ!!」
「たくっ、本当に言葉を理解してるのかこいつ……」
ボアはレノの言葉を聞いても鼻息を鳴らすだけであり、仕方なく付き合うことにした。そしてボアが辿り着いた場所は森の奥に生えている大樹だった。
「うわっ!?なんだこの馬鹿でかい木は……!?」
「フゴゴッ」
連れてこられた先には樹齢1000年は超えていそうな巨大な樹木が生えており、あまりの大きさにレノは圧倒される。山に住んでいた時もこれほどまでの大きさの樹木は見たことがなく、興味を抱いたレノはボアから下りて大樹に近付く。
大樹に触れるとまるで岩のように硬く、それでいながら温かさを感じた。魔力感知を発動させると他の植物とは比べ物にならない魔力を宿していた。
「不思議な木だな……お前、どうしてこんな場所に連れて来たんだ?」
「フゴフゴッ……」
「って、寝てる!?」
ボアに振り返ると呑気に昼寝を始めており、こんなところに一方的に連れてきて眠り始めたボアに呆れる。しかし、レノも睡魔に襲われた。
(そういえばしばらく寝てなかったな……近くに生物の気配は感じないし、俺も少し眠ろうかな)
眠気を覚えたレノは横たわったボアの身体に背中を預け、ひと眠りしようとした。連日の登山で疲れていたせいでレノはすぐに眠りにつく――
――目を覚ますと既に太陽は沈みかけており、夕方の時刻を迎えていた。思っていた以上に眠ってしまったことにレノは驚き、慌ててボアを揺り起こす。
「おい、起きろって!!」
「フゴゴッ……」
「こら!!目を覚ませ!!」
いくらレノがボアに怒鳴りつけても目を覚ます気配はなく、諦めたレノは周囲を見渡す。今から森を一人で抜けるのは難しく、今夜はここで過ごすしかなかった。
「全く、こんな森の中で過ごす羽目になるとは……仕方ない、腹も減ったしこいつを仕留めて夕飯にするか」
「フゴッ……!?」
不穏な気配を察知したボアは眠りながらも呻き声を上げるが、そんな中でレノは大樹へと近寄る。これほどまでに大きな樹木を見るのは初めてであり、色々と見て回ろうとするとおかしなものを発見した。
「あれ?何だこれ!?」
大樹の周りを歩いて調べていると、何故か裏側の方に扉が嵌め込まれていた。大樹にどうして扉が取り付けられているのかと不思議に思ったレノだが、とりあえずは扉に手を伸ばすと本当に開いた。
扉の奥は真っ暗だが、試しにレノが指先に魔力を集中させて光を生み出す。すると扉の先にはまるで誰かが住んでいるような痕跡が残っていた。
「な、何なんだいったい……誰か住んでるのか?」
大樹の内部を削り取って人間が住める空間が作り出されており、机や椅子や箪笥などの家具まで揃っていた。こんな大樹に誰が住んでいるのかとレノは疑問を抱くが、今は人の気配を感じられない。
「最近まで誰か居た痕跡は残っているけど、こんな場所で暮らしてるなんて随分と代わった奴だな……」
森の周辺には村などは見当たらず、この場所に暮らしている人間は人里から遠く離れた場所で暮らしていることになる。レノは少し気になって調べようとした時、外からボアの鳴き声が響き渡る。
――フゴォオオオッ!!
森中に響き渡るボアの鳴き声を聞いてレノは何かあったのかと外に飛び出すと、ボアの他に女の子の声が聞こえてきた。
「にょわぁあああっ!?」
「な、何だ!?」
奇怪な悲鳴を耳にしたレノは驚き、最初はボアが人間の女の子を襲っているのかと思って慌てて大樹を回り込む。だが、レノの視界に映し出されたのは金髪の女の子を庇うボアの姿と、反対側に立つ巨大な熊を見て驚く。
「ガアアアッ!!」
「フゴォッ!!」
「はううっ……」
「な、何だ!?」
まるで女の子を守るようにボアは巨大な熊と向かい合い、女の子の方は怯えた様子で身体を屈んでいた。何が起きているのか分からないが、とりあえずレノは女の子を助けるために動く。
ボアと向かい合う熊は体長は2メートルを軽く超えており、しかも全身の体毛が赤く染まっていた。一目見ただけでレノは魔物だと判断し、最初にボアと遭遇した時に背中に負っていた傷を思い出す。
(あの傷はこいつにやられたのか!?)
赤毛熊がボアに致命傷を与えた存在だと理解したレノは戦慄するが、女の子を見捨てるわけにはいかず、足元に落ちていた小石を拾い上げる。
(まずはこっちに注意を反らす!!)
石を拾い上げたレノは左手の人差し指と中指に柔魔で構成した魔力の帯を巻き付け、パチンコの要領で小石を赤毛熊の頭に放つ。
「こっちだ、化物!!」
「ガウッ!?」
「フゴォッ!?」
「だ、誰……?」
頭に小石をぶつけられた赤毛熊はレノの存在に気が付き、遅れて女の子も彼に気が付いて驚く。そんな彼女にレノは早く逃げる様に促す。
「早くそいつに乗って逃げろ!!こいつは俺が引きつけておく!!」
「でも……」
「いいからさっさと行け!!」
「……分かった!!」
「フゴォッ!!」
女の子はレノに言われた通りにボアに乗り込むと、ボアは女の子が乗った途端に駆け抜ける。赤毛熊はボアが逃げ出したのを見て追いかけようとしたが、そうはさせまいとレノは小石を再び撃ちこむ。
「お前の相手はこっちだ!!」
「ガアアアッ!!」
自分に小石を当てて来るレノを鬱陶しいと思ったのか、赤毛熊は狙いをボアと女の子からレノに切り替える。女の子とボアが逃がすことに成功したが、問題なのはここからだった。
(こいつ、なんて魔力だ!?ボアの倍以上はあるぞ!!)
これまでに遭遇したどんな魔物よりも大きな魔力をレノは感じ取り、女の子を助けるためとはいえ、自分を囮にしたこと少し後悔する。だが、もう逃げる暇もなく、赤毛熊はレノに目掛けて突進してきた。
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