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プロローグ 《魔術師と弟子》

第19話 一族の仇

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「答えろ、お前はどうやって儂の居所を掴んだ?」
「そ、それは……」
「正直に答えろ。誤魔化そうとすればどうなるか……分かっているな?」
「あぐぅっ!?」


吸血鬼を咥えている竜の牙が食い込み、吸血鬼の身体に食い込む。それを見てレノは少し可哀想に思えたが、相手は自分達を本気で殺そうとしたことを思い出して黙って目を背ける。


「早く言え!!」
「……け、眷属に調べさせたのよ。私の配下を世界中に送り込んであんたらしき魔術師の噂を集めさせた。それでも探し出すのに50年も掛かったわ」
「噂だと?まさか……」
「この山の麓にある村の村長から話を聞いたわよ。あんた、この山でずっと隠れ住んでいたんでしょう?」
「村長が!?」


山の麓の村はレノの故郷であり、タケルは村長とだけは交流があった。しかし、吸血鬼は村長から話を聞き出してこの山に訪れたことを明かす。


「あの村長、年の割には女にだらしなくて私が聞いたら色々と答えてくれたわよ。あんたがこの地域を魔物から守る代わりに山に暮らすことを許可してくれたんでしょう?」
「ちぃっ……あの馬鹿め」
「まさか伝説の魔術師と謳われたあんたがこんな辺境の地のちんけな山に隠れて暮らしているなんて夢にも思わなかったわ」
「伝説の……魔術師?」


レノは吸血鬼の言葉に不思議に思うが、タケルは彼女が村長から話を聞き出したと聞いて嫌な予感を抱く。


「貴様、麓の村の人間に何かしたのではないだろうな?」
「……あの村の人間ならこの世にはもういないわよ」
「えっ!?」
「まさか!?」
「言っておくけど、私は何もしていないわよ……あいつらを始末したのは私の相棒よ」


村の人間が死んだと聞かされてレノとタケルは衝撃を受け、特にレノは動揺を隠せなかった。父親が亡くなってからは村人に冷遇されて半ば追い出される形で村を去ったレノだが、村の人間の中には小さい頃は親しく接してくれた者もいた。そんな彼等が死んでしまったことにショックを受ける。

タケルも村の人間と積極的に交流していたわけではないが、それでも自分を匿ってくれていた人間達が死んだことに衝撃を受ける。そして捉えた吸血鬼に激怒した。


「貴様!!儂だけではなく村の人間まで!!」
「ま、待ちなさいよ!?私は殺していない、殺したのは……」


吸血鬼は言葉を言い終える前に上空に影が差す。いち早く異変に気付いたタケルは空を見上げると、そこには全身が真っ赤な皮膚で覆われた大男がタケルに目掛けて拳を繰り出した状態で吸血鬼を咥える魔力の竜に飛び掛かる。


「がああっ!!」
「きゃあっ!?」
「いかん!!」
「うわっ!?」


タケルは危険を察知してレノを抱きかかえると距離を取り、魔力の竜に大男が拳を叩き込むと、吸血鬼を咥えていた魔力の竜が歪んだ。そのお陰で吸血鬼は解放されたが、大男は吸血鬼の頭を掴み取った。


「この女狐め……約束を違えたな?」
「い、痛い!?は、離して!?」
「最初に言ったはずだ。あの男は俺が殺すとな!!」


大男は吸血鬼の頭を片手で持ち上げ、万力の如き握力で吸血鬼の頭部を握りしめる。タケルはレノを抱えた状態で大男に視線を向け、驚愕の表情を浮かべた。


「ば、馬鹿な!?どうして貴様が生きている!?」
「じ、爺ちゃん?どうしたの!?」
「……俺の顔に見覚えがあるということは、貴様が本物の無色の魔術師らしいな」
「は、離して!?こいつがあんたの追っていた先祖の仇なのよ!?」


タケルの反応を見て大男は笑みを浮かべ、彼に掴まっている吸血鬼が喚き散らす。レノは彼等の話を聞いても理解が追いつけないが、タケルは吸血鬼の「先祖の仇」という言葉に衝撃を受ける。


「まさか貴様!?奴の子孫か!!」
「その通りだ。俺の名前はゴウカ……貴様に殺されたモウカの曾孫だ」
「ひ、曾孫!?」


ゴウカと名乗る大男は吸血鬼の頭を掴んだままタケルと向き合い、話を聞いていたレノはタケルが「モウカ」という名前の人物を殺したと聞いて驚く。タケルはゴウカを前にしてばつが悪そうな表情を浮かべた。


「そうか……お前は先祖の仇を討つためにここへ来たというのか」
「勘違いするな。顔も見たこともない先祖の仇討ちなどという下らん理由でお前を追ってきたわけじゃない。ただ、俺は自分の力を確かめるためにここへ来ただけだ。我が一族の中でも最強と伝えられているモウカを殺した男に勝てば、俺こそが一族最強であることが証明される」
「一族?最強って……」


レノはゴウカの言葉を聞いて意味が分からなかったが、ゴウカはレノに一瞬だけ視線を向けた。彼の瞳に睨まれた瞬間、まるで蛇に睨まれる蛙のような気分を味わう。だが、ゴウカはすぐにレノに興味を失くしたようにタケルと向き合う。


「タケル、お前のことは小さい頃から聞かされていたぞ。使だとな」
「えっ!?」
「……その通りだ」


タケルは自身が魔法を使えないことを認め、その言葉にレノは信じられなかった。タケルは魔術師だとレノは聞いており、実際に八つ首の竜を生み出すほどの魔力を所有している。それなのに魔法が使えないと言われて信じられない。

だが、今の状況ではタケルに質問などできるはずがない。ゴウカが現れた途端に状況は一変し、先ほどまでタケルから感じられた余裕は消え失せた。吸血鬼を終始圧倒していた魔力の竜さえもゴウカは一撃で粉砕した。


「レノ、下がっておれ……お前がいると儂は本気で戦えん」
「じ、爺ちゃん……」
「お前はもう用済みだ、消えろ」
「や、止めっ……あがぁあああっ!?」


ゴウカは吸血鬼の頭を握り潰し、無造作に放り投げた。いくら吸血鬼が再生能力を持っていても頭を潰されては復活はできないらしく、地面に放り込まれた胴体はしばらくの間は痙攣していたがやがて動かなくなった。それを見てレノは口元を抑え、吐き気を催す。


(こ、殺した……仲間じゃなかったのか?)


吸血鬼が人間とそっくりの外見をしているせいでレノは気分が悪くなり、そんなレノにタケルは肩に手を置く。


「レノ、小屋に隠れていろ……何があろうとお前は儂が守る」
「爺ちゃん……」
「ふん、無色の魔術師は誰とも組まず、自分の身を守ることだけを考える男だと聞いていたんだがな」
「……貴様の一族が儂をどんな風に評価してたのかなど知らんわ」


タケルはレノを山小屋の方へと避難させると、改めてゴウカと向き合う。この時にレノはタケルの背中が大きく見え、一方でゴウカも興奮が収まらない様子だった。


「ようやくやる気になったか……俺も久々に本気を出せそうだ!!」
「能書きは良い……掛かってこい」
「うわっ!?」


二人が向かい合った瞬間、タケルからは魔力が迸り、ゴウカからは熱気が放たれた。片方は八つ首の魔力の竜を生み出し、もう片方は全身から炎を放ち、徐々に肉体が巨大化していく。

一目見た時からゴウカはただの人間ではないと思っていたが、彼の正体は全身に炎を纏う「鬼」だった。体長が倍近くも大きくなったゴウカは炎を纏わせた拳を繰り出し、それに対してタケルは三匹の竜を絡ませた状態でぶつける。


「ウオオオオオッ!!」
「かああっ!!」
「ひいっ!?」


竜と拳が衝突した瞬間、広範囲に衝撃と熱波が広がった。レノが隠れていた山小屋に衝撃が走り、このままでは身が持たないと思ったレノは全身に魔力を纏わせて身を守る。
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