19 / 41
プロローグ 《魔術師と弟子》
閑話 魔力の性質
しおりを挟む
――時は少し前に遡り、魔力を抑える修行に没頭していたレノにタケルは話しかける。
「レノ、お前は硬魔と柔魔の性質は理解しているのか?」
「え?急に何?今は忙しいんだけど……」
「いいから答えんか」
魔力を完全に体内に抑えるためにレノは集中していたが、タケルに尋ねられた彼は少し悩んだ末に答えた。
「硬魔は魔力を硬くさせる、柔魔は魔力を柔らかくする……でしょ?」
「ほう、それがお前の答えか?」
「いや、ちょっと待って!!」
自分の答えを聞いて意地悪い笑みを浮かべたタケルを見てレノは自分の考えが違うのかと思い、修行を中断して真剣に考え込む。
「……もしかしてだけど、硬魔も柔魔も同じなんじゃないの?」
「同じ?」
「どっちも魔力を実体化させるのは共通しているし、違いがあるとすれば……分かった、魔力の密度だ!!」
「ちっ、気が付きおったか」
レノの推理が正しかったのかタケルはつまらなそうな表情を浮かべ、もしもふざけた答えを出したら飯抜きにするつもりだったが当てが外れた。
「お前の言う通り、硬魔も柔魔も元々は同じ技術だ。二つの違いは魔力の密度が高いか低いかに過ぎん」
「魔力の密度が高いほど硬くなるし、逆に低くすると柔らかくなるんだよね」
「その通りだ。この二つの技は元は同じ技術で構成されている。しかし、魔力の密度が低いからといって柔魔が劣るとは限らん」
説明中にタケルは右手を伸ばすと、魔力を伸ばして人間の腕の様な形に変形させる。この時のタケルは「柔魔」と「形状変化」の技術で魔力の腕を作り出したことにレノは気が付く。
「柔魔で構成された魔力は変幻自在に形を変えることができる。人間の腕や足、場合によっては武器にも変形できる」
「わっ!?」
タケルは魔力を「剣」の形に変化させてレノの頭に振り下ろす。咄嗟にレノは両腕を繰り出して防ごうとするが、剣に触れた途端にゴムのように柔らかい物に当たった感触を味わう。
「だが、柔魔で構成された武器は柔らかすぎて実践では使えん。一応、鞭などに変化すれば相手を拘束することぐらいはできるがな」
「へえ、そうなんだ……ん?なら剣の形に変えた状態で硬魔を発動すればどうなるの?」
「そこに気が付くとは流石だな」
弟子の言葉にタケルは笑みを浮かべ、柔魔と形状変化の技術の応用で生み出した「剣」を振り払い、棚の上に置かれていた熊の人形を切り裂く。先ほどはレノの腕に掠り傷も与えられなかったが、まるで鋼鉄の剣の様な切れ味を見せつける。
「うわっ!?お、俺のクマタローが!?」
「そ、そんな名前を付けていたのか……悪かったな。だが、いつまでも人形遊びする年齢ではあるまい」
「うう、一人ぼっちになった俺のたった一人の味方だったのに!!」
「一人!?儂は!?」
切り裂かれた熊の人形を見てレノは号泣するが、切断面の滑らかさに驚く。試しに二つに分かれた人形をくっつけると、まるで接着剤でも付けたように綺麗に元通りに戻った。
まだ父親が健在だったころに腕利きの剣士が繰り出す斬撃は物を切断するだけではなく、切り裂かれた物体をくっつけると元に戻るという話は聞いたことがある。タケルの繰り出した魔力の剣は一流の剣士が繰り出す剣の切れ味を誇ることを意味した。
「元通りに戻った……爺ちゃん、何をしたの!?」
「さっきも言っただろう。剣の形をした魔力を硬魔で練り固めただけに過ぎん。魔力を込めれば込めるほどに硬くなり、場合によっては本物の剣以上の切れ味を引き出せるがな」
「す、凄い……」
「だが、どんな技術にも弱点はある。硬魔で練り固めた魔力は形状変化には向いておらん。この状態では硬魔を解除しない限りは形も変える事はできんし、すぐに元に戻すことはできんからな」
タケルによれば硬魔で造り出した剣は柔魔と異なり、瞬時に変形や解除はできないという。だから魔力で物を作り出す際は事前に柔魔で形作り、その後に硬魔で練り固めなければならない。魔力を固める硬魔と形状変化の相性は最悪でこの二つは同時に発動することはできない。
「爺ちゃん、わざわざ柔魔を利用しなくても形状変化だけで魔力を武器の形に変形すればいいんじゃないの?」
「たわけ!!魔力はある程度は練り固めなければ実体化しないのを忘れたか!?だから硬魔よりも柔らかくて形を整えやすい柔魔の技術が必要なんじゃ!!」
「あ、言われてみればそうか……」
柔魔や硬魔を発動していない魔力は魔術師以外には目で捉えることはできず、実体化もできない。だからこそ魔力で武器を作り出すには「形状変化」「硬魔」「柔魔」の三つの技術は必ず習得しなければならない。
「魔力の剣か……俺も真似できるかな?」
「さあな、だが修行によっては武器以外の物を作り出せるようになるだろう」
「え?どういう意味?」
「……そのうちに分かる。さあ、修行に戻れ!!」
タケルは意味深な表情を浮かべてそれ以上は何も言わず、レノに修行を再開させた――
――それから数日後、レノはタケルの言葉の意味を理解する日が訪れる。
「レノ、お前は硬魔と柔魔の性質は理解しているのか?」
「え?急に何?今は忙しいんだけど……」
「いいから答えんか」
魔力を完全に体内に抑えるためにレノは集中していたが、タケルに尋ねられた彼は少し悩んだ末に答えた。
「硬魔は魔力を硬くさせる、柔魔は魔力を柔らかくする……でしょ?」
「ほう、それがお前の答えか?」
「いや、ちょっと待って!!」
自分の答えを聞いて意地悪い笑みを浮かべたタケルを見てレノは自分の考えが違うのかと思い、修行を中断して真剣に考え込む。
「……もしかしてだけど、硬魔も柔魔も同じなんじゃないの?」
「同じ?」
「どっちも魔力を実体化させるのは共通しているし、違いがあるとすれば……分かった、魔力の密度だ!!」
「ちっ、気が付きおったか」
レノの推理が正しかったのかタケルはつまらなそうな表情を浮かべ、もしもふざけた答えを出したら飯抜きにするつもりだったが当てが外れた。
「お前の言う通り、硬魔も柔魔も元々は同じ技術だ。二つの違いは魔力の密度が高いか低いかに過ぎん」
「魔力の密度が高いほど硬くなるし、逆に低くすると柔らかくなるんだよね」
「その通りだ。この二つの技は元は同じ技術で構成されている。しかし、魔力の密度が低いからといって柔魔が劣るとは限らん」
説明中にタケルは右手を伸ばすと、魔力を伸ばして人間の腕の様な形に変形させる。この時のタケルは「柔魔」と「形状変化」の技術で魔力の腕を作り出したことにレノは気が付く。
「柔魔で構成された魔力は変幻自在に形を変えることができる。人間の腕や足、場合によっては武器にも変形できる」
「わっ!?」
タケルは魔力を「剣」の形に変化させてレノの頭に振り下ろす。咄嗟にレノは両腕を繰り出して防ごうとするが、剣に触れた途端にゴムのように柔らかい物に当たった感触を味わう。
「だが、柔魔で構成された武器は柔らかすぎて実践では使えん。一応、鞭などに変化すれば相手を拘束することぐらいはできるがな」
「へえ、そうなんだ……ん?なら剣の形に変えた状態で硬魔を発動すればどうなるの?」
「そこに気が付くとは流石だな」
弟子の言葉にタケルは笑みを浮かべ、柔魔と形状変化の技術の応用で生み出した「剣」を振り払い、棚の上に置かれていた熊の人形を切り裂く。先ほどはレノの腕に掠り傷も与えられなかったが、まるで鋼鉄の剣の様な切れ味を見せつける。
「うわっ!?お、俺のクマタローが!?」
「そ、そんな名前を付けていたのか……悪かったな。だが、いつまでも人形遊びする年齢ではあるまい」
「うう、一人ぼっちになった俺のたった一人の味方だったのに!!」
「一人!?儂は!?」
切り裂かれた熊の人形を見てレノは号泣するが、切断面の滑らかさに驚く。試しに二つに分かれた人形をくっつけると、まるで接着剤でも付けたように綺麗に元通りに戻った。
まだ父親が健在だったころに腕利きの剣士が繰り出す斬撃は物を切断するだけではなく、切り裂かれた物体をくっつけると元に戻るという話は聞いたことがある。タケルの繰り出した魔力の剣は一流の剣士が繰り出す剣の切れ味を誇ることを意味した。
「元通りに戻った……爺ちゃん、何をしたの!?」
「さっきも言っただろう。剣の形をした魔力を硬魔で練り固めただけに過ぎん。魔力を込めれば込めるほどに硬くなり、場合によっては本物の剣以上の切れ味を引き出せるがな」
「す、凄い……」
「だが、どんな技術にも弱点はある。硬魔で練り固めた魔力は形状変化には向いておらん。この状態では硬魔を解除しない限りは形も変える事はできんし、すぐに元に戻すことはできんからな」
タケルによれば硬魔で造り出した剣は柔魔と異なり、瞬時に変形や解除はできないという。だから魔力で物を作り出す際は事前に柔魔で形作り、その後に硬魔で練り固めなければならない。魔力を固める硬魔と形状変化の相性は最悪でこの二つは同時に発動することはできない。
「爺ちゃん、わざわざ柔魔を利用しなくても形状変化だけで魔力を武器の形に変形すればいいんじゃないの?」
「たわけ!!魔力はある程度は練り固めなければ実体化しないのを忘れたか!?だから硬魔よりも柔らかくて形を整えやすい柔魔の技術が必要なんじゃ!!」
「あ、言われてみればそうか……」
柔魔や硬魔を発動していない魔力は魔術師以外には目で捉えることはできず、実体化もできない。だからこそ魔力で武器を作り出すには「形状変化」「硬魔」「柔魔」の三つの技術は必ず習得しなければならない。
「魔力の剣か……俺も真似できるかな?」
「さあな、だが修行によっては武器以外の物を作り出せるようになるだろう」
「え?どういう意味?」
「……そのうちに分かる。さあ、修行に戻れ!!」
タケルは意味深な表情を浮かべてそれ以上は何も言わず、レノに修行を再開させた――
――それから数日後、レノはタケルの言葉の意味を理解する日が訪れる。
0
お気に入りに追加
75
あなたにおすすめの小説
Sランク冒険者の受付嬢
おすし
ファンタジー
王都の中心街にある冒険者ギルド《ラウト・ハーヴ》は、王国最大のギルドで登録冒険者数も依頼数もNo.1と実績のあるギルドだ。
だがそんなギルドには1つの噂があった。それは、『あのギルドにはとてつもなく強い受付嬢』がいる、と。
そんな噂を耳にしてギルドに行けば、受付には1人の綺麗な銀髪をもつ受付嬢がいてー。
「こんにちは、ご用件は何でしょうか?」
その受付嬢は、今日もギルドで静かに仕事をこなしているようです。
これは、最強冒険者でもあるギルドの受付嬢の物語。
※ほのぼので、日常:バトル=2:1くらいにするつもりです。
※前のやつの改訂版です
※一章あたり約10話です。文字数は1話につき1500〜2500くらい。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
一人暮らしのおばさん薬師を黒髪の青年は崇めたてる
朝山みどり
ファンタジー
冤罪で辺境に追放された元聖女。のんびりまったり平和に暮らしていたが、過去が彼女の生活を壊そうとしてきた。
彼女を慕う青年はこっそり彼女を守り続ける。
死神は世界を回る ~異世界の裁判官~
アンジェロ岩井
ファンタジー
魔界と人界とが合流を行うようになり、早くも百年の月日が経った。
その間に魔界から魔物や魔族が人界に現れて悪事を行うようになり、それらの事件を抑えるために魔界から魔界執行官が派遣されるようになった。同時に魔界で悪事を行う人間を執行するために人界執行官も制定された。
三代目の魔界執行官に任命されたのはコクラン・ネロスと呼ばれる男だった。
二代目の人界執行官に任命されたのはルイス・ペンシルバニアという男だった。
どこか寡黙なコクランに対し、明るく無邪気なルイスという対照的なコンビであったが、コクランにはある秘密が隠されていた……。
神様の手違いで、おまけの転生?!お詫びにチートと無口な騎士団長もらっちゃいました?!
カヨワイさつき
恋愛
最初は、日本人で受験の日に何かにぶつかり死亡。次は、何かの討伐中に、死亡。次に目覚めたら、見知らぬ聖女のそばに、ポツンとおまけの召喚?あまりにも、不細工な為にその場から追い出されてしまった。
前世の記憶はあるものの、どれをとっても短命、不幸な出来事ばかりだった。
全てはドジで少し変なナルシストの神様の手違いだっ。おまけの転生?お詫びにチートと無口で不器用な騎士団長もらっちゃいました。今度こそ、幸せになるかもしれません?!
30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。
ひさまま
ファンタジー
前世で搾取されまくりだった私。
魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。
とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。
これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。
取り敢えず、明日は退職届けを出そう。
目指せ、快適異世界生活。
ぽちぽち更新します。
作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。
脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。
【完結】魔王様、溺愛しすぎです!
綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
「パパと結婚する!」
8万年近い長きにわたり、最強の名を冠する魔王。勇者を退け続ける彼の居城である『魔王城』の城門に、人族と思われる赤子が捨てられた。その子を拾った魔王は自ら育てると言い出し!? しかも溺愛しすぎて、周囲が大混乱!
拾われた子は幼女となり、やがて育て親を喜ばせる最強の一言を放った。魔王は素直にその言葉を受け止め、嫁にすると宣言する。
シリアスなようでコメディな軽いドタバタ喜劇(?)です。
【同時掲載】アルファポリス、カクヨム、エブリスタ、小説家になろう
【表紙イラスト】しょうが様(https://www.pixiv.net/users/291264)
挿絵★あり
【完結】2021/12/02
※2022/08/16 第3回HJ小説大賞前期「小説家になろう」部門 一次審査通過
※2021/12/16 第1回 一二三書房WEB小説大賞、一次審査通過
※2021/12/03 「小説家になろう」ハイファンタジー日間94位
※2021/08/16、「HJ小説大賞2021前期『小説家になろう』部門」一次選考通過作品
※2020年8月「エブリスタ」ファンタジーカテゴリー1位(8/20〜24)
※2019年11月「ツギクル」第4回ツギクル大賞、最終選考作品
※2019年10月「ノベルアップ+」第1回小説大賞、一次選考通過作品
※2019年9月「マグネット」ヤンデレ特集掲載作品
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる