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プロローグ 《魔術師と弟子》
閑話 魔力の性質
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――時は少し前に遡り、魔力を抑える修行に没頭していたレノにタケルは話しかける。
「レノ、お前は硬魔と柔魔の性質は理解しているのか?」
「え?急に何?今は忙しいんだけど……」
「いいから答えんか」
魔力を完全に体内に抑えるためにレノは集中していたが、タケルに尋ねられた彼は少し悩んだ末に答えた。
「硬魔は魔力を硬くさせる、柔魔は魔力を柔らかくする……でしょ?」
「ほう、それがお前の答えか?」
「いや、ちょっと待って!!」
自分の答えを聞いて意地悪い笑みを浮かべたタケルを見てレノは自分の考えが違うのかと思い、修行を中断して真剣に考え込む。
「……もしかしてだけど、硬魔も柔魔も同じなんじゃないの?」
「同じ?」
「どっちも魔力を実体化させるのは共通しているし、違いがあるとすれば……分かった、魔力の密度だ!!」
「ちっ、気が付きおったか」
レノの推理が正しかったのかタケルはつまらなそうな表情を浮かべ、もしもふざけた答えを出したら飯抜きにするつもりだったが当てが外れた。
「お前の言う通り、硬魔も柔魔も元々は同じ技術だ。二つの違いは魔力の密度が高いか低いかに過ぎん」
「魔力の密度が高いほど硬くなるし、逆に低くすると柔らかくなるんだよね」
「その通りだ。この二つの技は元は同じ技術で構成されている。しかし、魔力の密度が低いからといって柔魔が劣るとは限らん」
説明中にタケルは右手を伸ばすと、魔力を伸ばして人間の腕の様な形に変形させる。この時のタケルは「柔魔」と「形状変化」の技術で魔力の腕を作り出したことにレノは気が付く。
「柔魔で構成された魔力は変幻自在に形を変えることができる。人間の腕や足、場合によっては武器にも変形できる」
「わっ!?」
タケルは魔力を「剣」の形に変化させてレノの頭に振り下ろす。咄嗟にレノは両腕を繰り出して防ごうとするが、剣に触れた途端にゴムのように柔らかい物に当たった感触を味わう。
「だが、柔魔で構成された武器は柔らかすぎて実践では使えん。一応、鞭などに変化すれば相手を拘束することぐらいはできるがな」
「へえ、そうなんだ……ん?なら剣の形に変えた状態で硬魔を発動すればどうなるの?」
「そこに気が付くとは流石だな」
弟子の言葉にタケルは笑みを浮かべ、柔魔と形状変化の技術の応用で生み出した「剣」を振り払い、棚の上に置かれていた熊の人形を切り裂く。先ほどはレノの腕に掠り傷も与えられなかったが、まるで鋼鉄の剣の様な切れ味を見せつける。
「うわっ!?お、俺のクマタローが!?」
「そ、そんな名前を付けていたのか……悪かったな。だが、いつまでも人形遊びする年齢ではあるまい」
「うう、一人ぼっちになった俺のたった一人の味方だったのに!!」
「一人!?儂は!?」
切り裂かれた熊の人形を見てレノは号泣するが、切断面の滑らかさに驚く。試しに二つに分かれた人形をくっつけると、まるで接着剤でも付けたように綺麗に元通りに戻った。
まだ父親が健在だったころに腕利きの剣士が繰り出す斬撃は物を切断するだけではなく、切り裂かれた物体をくっつけると元に戻るという話は聞いたことがある。タケルの繰り出した魔力の剣は一流の剣士が繰り出す剣の切れ味を誇ることを意味した。
「元通りに戻った……爺ちゃん、何をしたの!?」
「さっきも言っただろう。剣の形をした魔力を硬魔で練り固めただけに過ぎん。魔力を込めれば込めるほどに硬くなり、場合によっては本物の剣以上の切れ味を引き出せるがな」
「す、凄い……」
「だが、どんな技術にも弱点はある。硬魔で練り固めた魔力は形状変化には向いておらん。この状態では硬魔を解除しない限りは形も変える事はできんし、すぐに元に戻すことはできんからな」
タケルによれば硬魔で造り出した剣は柔魔と異なり、瞬時に変形や解除はできないという。だから魔力で物を作り出す際は事前に柔魔で形作り、その後に硬魔で練り固めなければならない。魔力を固める硬魔と形状変化の相性は最悪でこの二つは同時に発動することはできない。
「爺ちゃん、わざわざ柔魔を利用しなくても形状変化だけで魔力を武器の形に変形すればいいんじゃないの?」
「たわけ!!魔力はある程度は練り固めなければ実体化しないのを忘れたか!?だから硬魔よりも柔らかくて形を整えやすい柔魔の技術が必要なんじゃ!!」
「あ、言われてみればそうか……」
柔魔や硬魔を発動していない魔力は魔術師以外には目で捉えることはできず、実体化もできない。だからこそ魔力で武器を作り出すには「形状変化」「硬魔」「柔魔」の三つの技術は必ず習得しなければならない。
「魔力の剣か……俺も真似できるかな?」
「さあな、だが修行によっては武器以外の物を作り出せるようになるだろう」
「え?どういう意味?」
「……そのうちに分かる。さあ、修行に戻れ!!」
タケルは意味深な表情を浮かべてそれ以上は何も言わず、レノに修行を再開させた――
――それから数日後、レノはタケルの言葉の意味を理解する日が訪れる。
「レノ、お前は硬魔と柔魔の性質は理解しているのか?」
「え?急に何?今は忙しいんだけど……」
「いいから答えんか」
魔力を完全に体内に抑えるためにレノは集中していたが、タケルに尋ねられた彼は少し悩んだ末に答えた。
「硬魔は魔力を硬くさせる、柔魔は魔力を柔らかくする……でしょ?」
「ほう、それがお前の答えか?」
「いや、ちょっと待って!!」
自分の答えを聞いて意地悪い笑みを浮かべたタケルを見てレノは自分の考えが違うのかと思い、修行を中断して真剣に考え込む。
「……もしかしてだけど、硬魔も柔魔も同じなんじゃないの?」
「同じ?」
「どっちも魔力を実体化させるのは共通しているし、違いがあるとすれば……分かった、魔力の密度だ!!」
「ちっ、気が付きおったか」
レノの推理が正しかったのかタケルはつまらなそうな表情を浮かべ、もしもふざけた答えを出したら飯抜きにするつもりだったが当てが外れた。
「お前の言う通り、硬魔も柔魔も元々は同じ技術だ。二つの違いは魔力の密度が高いか低いかに過ぎん」
「魔力の密度が高いほど硬くなるし、逆に低くすると柔らかくなるんだよね」
「その通りだ。この二つの技は元は同じ技術で構成されている。しかし、魔力の密度が低いからといって柔魔が劣るとは限らん」
説明中にタケルは右手を伸ばすと、魔力を伸ばして人間の腕の様な形に変形させる。この時のタケルは「柔魔」と「形状変化」の技術で魔力の腕を作り出したことにレノは気が付く。
「柔魔で構成された魔力は変幻自在に形を変えることができる。人間の腕や足、場合によっては武器にも変形できる」
「わっ!?」
タケルは魔力を「剣」の形に変化させてレノの頭に振り下ろす。咄嗟にレノは両腕を繰り出して防ごうとするが、剣に触れた途端にゴムのように柔らかい物に当たった感触を味わう。
「だが、柔魔で構成された武器は柔らかすぎて実践では使えん。一応、鞭などに変化すれば相手を拘束することぐらいはできるがな」
「へえ、そうなんだ……ん?なら剣の形に変えた状態で硬魔を発動すればどうなるの?」
「そこに気が付くとは流石だな」
弟子の言葉にタケルは笑みを浮かべ、柔魔と形状変化の技術の応用で生み出した「剣」を振り払い、棚の上に置かれていた熊の人形を切り裂く。先ほどはレノの腕に掠り傷も与えられなかったが、まるで鋼鉄の剣の様な切れ味を見せつける。
「うわっ!?お、俺のクマタローが!?」
「そ、そんな名前を付けていたのか……悪かったな。だが、いつまでも人形遊びする年齢ではあるまい」
「うう、一人ぼっちになった俺のたった一人の味方だったのに!!」
「一人!?儂は!?」
切り裂かれた熊の人形を見てレノは号泣するが、切断面の滑らかさに驚く。試しに二つに分かれた人形をくっつけると、まるで接着剤でも付けたように綺麗に元通りに戻った。
まだ父親が健在だったころに腕利きの剣士が繰り出す斬撃は物を切断するだけではなく、切り裂かれた物体をくっつけると元に戻るという話は聞いたことがある。タケルの繰り出した魔力の剣は一流の剣士が繰り出す剣の切れ味を誇ることを意味した。
「元通りに戻った……爺ちゃん、何をしたの!?」
「さっきも言っただろう。剣の形をした魔力を硬魔で練り固めただけに過ぎん。魔力を込めれば込めるほどに硬くなり、場合によっては本物の剣以上の切れ味を引き出せるがな」
「す、凄い……」
「だが、どんな技術にも弱点はある。硬魔で練り固めた魔力は形状変化には向いておらん。この状態では硬魔を解除しない限りは形も変える事はできんし、すぐに元に戻すことはできんからな」
タケルによれば硬魔で造り出した剣は柔魔と異なり、瞬時に変形や解除はできないという。だから魔力で物を作り出す際は事前に柔魔で形作り、その後に硬魔で練り固めなければならない。魔力を固める硬魔と形状変化の相性は最悪でこの二つは同時に発動することはできない。
「爺ちゃん、わざわざ柔魔を利用しなくても形状変化だけで魔力を武器の形に変形すればいいんじゃないの?」
「たわけ!!魔力はある程度は練り固めなければ実体化しないのを忘れたか!?だから硬魔よりも柔らかくて形を整えやすい柔魔の技術が必要なんじゃ!!」
「あ、言われてみればそうか……」
柔魔や硬魔を発動していない魔力は魔術師以外には目で捉えることはできず、実体化もできない。だからこそ魔力で武器を作り出すには「形状変化」「硬魔」「柔魔」の三つの技術は必ず習得しなければならない。
「魔力の剣か……俺も真似できるかな?」
「さあな、だが修行によっては武器以外の物を作り出せるようになるだろう」
「え?どういう意味?」
「……そのうちに分かる。さあ、修行に戻れ!!」
タケルは意味深な表情を浮かべてそれ以上は何も言わず、レノに修行を再開させた――
――それから数日後、レノはタケルの言葉の意味を理解する日が訪れる。
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