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プロローグ 《魔術師と弟子》

閑話 魔術師殺し

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レノが生まれるよりも遥か昔、とある大国で偉大な魔術師が召喚魔法を行使する。魔術師が呼び出したのは別の世界の人間であり、十数名の「異界人」の召喚に成功した。

異界人とは言葉通りに別の世界で生きている人間であり、彼等は急に別の世界に訪れたことに困惑する。魔術師は彼等を召喚した理由はことを証明するためであり、召喚された異界人を実験に利用する。

この世界とは異なる世界から来た存在に魔術師は興味を抱き、異界人の身体を徹底的に調べ上げ、自分達とはどう違うのかを確かめるために非人道的な実験まで行う。召喚された人間の半分は実験の過程で死亡し、もう半分は気が狂うか自死した。

最後に生き残ったのはタケルだけとなり、彼はある時に魔術師の隙を突いて殺した。その結果、魔術師が有していた魔力を彼が受け継ぎ、今までは使えなかった魔法の力を手に入れた。タケルは魔法を駆使して国から逃げ去り、その後は身分を偽って世界中を渡り歩く。


『どうして俺がこんな目に……』


旅の途中でタケルは何度も命を狙われたが、魔術師を殺した時に手に入れた魔法の力で刺客を全て返り討ちにした。刺客の中には魔術師も含まれたが、彼等を始末する度にタケルの魔力はどんどんと増えていく。異界人であるが故か、タケルは魔術師を殺すと相手の魔力を全て奪い取れることが判明し、短期間で膨大な魔力を手に入れた。

刺客を撃退しながらタケルはは世界中の国々を旅して元の世界に戻る方法を探したが、結局は何も分からずじまいで数十年の時が経過する。そしてとある国で自分を召喚した国が滅んだことを知った。

異世界人を召喚した魔術師が残した資料や記録は国が滅びた際に全て失われ、タケルは元の世界に戻る手掛かりを完全に失う。絶望したタケルは元の世界に戻ることを諦め、この世界に骨を鎮める覚悟を固める。


『先生!!どうか俺を弟子にしてください!!』
『どうか私に魔法を教えてください!!』
『お願いします!!』


時が経つにつれてタケルは魔術師を殺し続けたことで強大な魔力を得て有名な魔術師となった。そんな彼の噂を聞きつけてタケルの元に弟子入りを志願する者達が現れた。しかし、タケルは数多くの魔術師を殺してきた自分に今更他の魔術師を育てる資格はあるのか疑問を抱き、彼は人里離れた場所で生活を始める。


『……儂はいつ死ねるのだろうな』


この世界に訪れてから大分時は経過したが、タケルは見た目は年老いても寿命が尽きる様子がなかった。後で知ったのだが強大な魔力を持つ魔術師ほど長生きするらしく、この世界の魔術師は普通の人間の何倍も生きられる。そしてタケルは今まで殺してきた魔術師の魔力を全て奪い取り、殺した人間達の分まで生き続ける可能性があった。


『これが儂の罪か……』


どれだけ年齢を重ねようと衰えない自分の魔力にタケルは自嘲し、自分が何百年後に死ぬのかと嘆く。そんな彼の元に一人の少年が訪れ、その少年こそがタケルの望みを叶える希望となる――
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