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プロローグ 《魔術師と弟子》
第5話 魔力操作
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――魔力を目で捉えるだけではなく、魔力その物を感知できるようになってからレノの世界は変わった。滝行を行わずとも意識を集中させるだけでありとあらゆる生物の魔力が見えるようになった。
「どうだ?魔力を自力で見えるようになって嬉しいか?」
「う~ん……何だか凄い目が疲れる」
「当たり前だ。今まで見えなかったものがいきなり見えるようになったんだからな」
タケルが言っていた通りに魔力とは全ての生物が身に着けている生命力その物であり、雑草の一本一本や小さな虫まで魔力を持っていることに気が付く。目を閉じていても意識を集中させるだけで魔力を感知できるようになったため、慣れるまでしばらく時間は掛かった。
これまでと違ってレノは自分の魔力も感じ取れるようになり、日常生活で定期的に魔力を確認を行う。すると身体が疲れている時は魔力が減少し、逆に調子がいい時は魔力が増えていることに気が付く。
「爺ちゃんは魔力を自由に操作できるんだよね。どうやって魔力を操作しているのか教えてよ」
「簡単に言うな!!魔力操作の技術は下手に扱えば命も落としかねん!!お前が覚えるにはまだ早いわ!!」
「え~!?教えてくれてもいいじゃん!!ケチ!!」
「やかましい!!そんなに言うなら自分で考えろ!!」
魔術師のタケルならば自身の魔力を操作する技術を身に着けているはずだが、これまでと違ってタケルは魔力を操作する方法は教えてくれなかった。毎日頼んでもタケルは聞き入れてくれず、仕方ないのでレノは自分なりに魔力を操る方法を探る。
「ぐぬぬっ……駄目だ、いくら力んでも魔力は集まらないな」
試しに拳に力を込めたり、全力で走ったり、叫んでもみたが体内の魔力は一向に操れる様子はない。レノは魔力を見て感じ取れることはできるが、肝心の魔力の操作はできなかった。
(爺ちゃんみたいに魔力を操れるようになれば俺も物を掴めたりするのかな)
最初にタケルと出会った日、橋から落ちそうになった自分をタケルが助けたことは今でも忘れられない。あの時は何が起きたのか分からなかったが、間違いなくタケルは魔力を利用してレアを助けた。
タケルが行ったのは魔力を外部に放出し、それを細長い腕のような形に変えて落下するレノを掴み取った。だからレノの腕には掴まれた跡が残っていた。
(あの様子だといくら聞いても爺ちゃんは教えてくれないだろうな。いったいどうすれば操れるんだ?)
体内に流れる自分の魔力を感じ取ることができても、肝心の魔力を操作する方法が分からなければどうしようもできない。レノはため息を吐きながら空を見上げると、雪が降り始めていることに気付く。
「また雪か……うう、寒くなってきた」
雪が降り始めたせいか気温がさらに下がり、寒さを覚えたレノは山小屋に帰ろうとした。だが、帰る前にレノは何となく自分の魔力をもう一度確認すると、身体に纏う魔力に変化が起きていることに気付く。
「あれ?さっきより魔力が大きくなってる?」
寒くなった途端にレノの身体に纏っていた魔力が一回りほど大きくなり、先ほどよりも寒さが和らいだ気がした。いきなり身体に纏う魔力が大きくなったことにレノは戸惑うが、滝行していた時も似た感覚を味わったことを思い出す。
(そういえば修行してた時、考える事に夢中になっていた時は急に水が冷たくなくなったような気がする。もしかしてあの時も身体に纏う魔力が大きくなっていたのか?)
自分の身体を包み込む魔力にレノは不思議に感じ、家に帰ったらタケルに尋ねることを決めた――
――山小屋に戻るとタケルの姿は見当たらず、どうやら狩猟に出向いている様子だった。タケルが戻るまで時間を持て余したレノは実験を行うことにした。
「うう、寒い……凍え死にそうだ」
家の中でレノは上着を脱いで上半身が裸になると、自分の体内に流れる魔力を感じ取る。すると魔力は上半身に集中し、大概に放出される魔力が増えた。予想通りに肉体が寒さを感じ取ると身体を包み込む魔力が自然と大きくなることが判明する。
「やっぱりそうだ。滝行してた時も俺は魔力で自分の身体を包んでたんだ!!」
滝を浴びていた時はまだ完全に魔力を感知できなかったので気付かなかったが、肉体に負荷が掛かると魔力は自然と身体を包み込む量を増やす。魔力に包まれると寒さや暑さが軽減される。
(爺ちゃんが俺にあんなに冷たい滝を浴びさせ続けた理由が分かった気がする……俺は無意識に魔力を扱ってたんだ)
修業の場としてタケルがレノを滝に連れて行った理由が判明し、滝行を通してタケルはレノに魔力を「視認」「感知」「捜査」の基礎を叩き込んでいたことが発覚した。
タケルは口ではレノには魔力操作の技術を覚えるのは早いと言っていたが、実際には滝行を通してレノは無意識に体内の魔力を操作して自分の身を包み込む行動を取っていた。それを自覚した途端、レノは今ならば魔力を操れる気がした。
(集中しろ、俺はもう魔力を操れるんだ)
これまでは意識してなかったが、自分が既に魔力を操作していたと知ったレノは右手の人差し指に意識を集中し、体内の魔力を集中させる。すると身体の表面を包んでいる魔力に揺らぎが生じ、それを見てレノは確信する。
(今ならできる!!)
魔力が揺らいだということは自分の意思で魔力を操作していると判断し、更に集中力を高めるために目を閉じる。上着を脱いだことで上半身の魔力が高まっており、その状態から指先に魔力を集中させる。すると肉体に纏っていた魔力が徐々に指先に集まり、遂にはタケルが見せてくれたように指先が僅かに輝く。
「やった!!」
魔力を高めると自然と光り輝くらしく、タケルと比べれば随分と弱々しい光であるが、遂にレノは魔力を一点に集めることに成功した。人差し指が輝くのを見てレノは笑みを浮かべるが、直後に異様な寒さに襲われる。
「うわ、さむっ!?」
身体を包み込んでいた魔力を指先に集中した途端にレノは尋常じゃない寒気に襲われ、堪らずに家の中に戻って上着を羽織る。魔力を操作することには成功したが、危うく風邪を引くところだった。
「ううっ……マジで凍え死ぬかと思った。けど、ようやく魔力を操れたぞ!!」
タケルに教わらわずとも自力で魔力を操作する術を身につけたレノは握り拳を作り、この調子で今度は別の箇所に魔力を集めようとした。だが、再び魔力を操ろうとすると急に疲労感に襲われ、立っていられずに尻餅を着いてしまう。
「あ、あれ?何だ急に……頭が痛い」
疲労だけではなく激しい頭痛にも襲われ、気分が悪くなったレノは立ち上がれずに床に倒れ込む。まるで体力を限界まで使い切ったかのように動けず、意識を失う――
「どうだ?魔力を自力で見えるようになって嬉しいか?」
「う~ん……何だか凄い目が疲れる」
「当たり前だ。今まで見えなかったものがいきなり見えるようになったんだからな」
タケルが言っていた通りに魔力とは全ての生物が身に着けている生命力その物であり、雑草の一本一本や小さな虫まで魔力を持っていることに気が付く。目を閉じていても意識を集中させるだけで魔力を感知できるようになったため、慣れるまでしばらく時間は掛かった。
これまでと違ってレノは自分の魔力も感じ取れるようになり、日常生活で定期的に魔力を確認を行う。すると身体が疲れている時は魔力が減少し、逆に調子がいい時は魔力が増えていることに気が付く。
「爺ちゃんは魔力を自由に操作できるんだよね。どうやって魔力を操作しているのか教えてよ」
「簡単に言うな!!魔力操作の技術は下手に扱えば命も落としかねん!!お前が覚えるにはまだ早いわ!!」
「え~!?教えてくれてもいいじゃん!!ケチ!!」
「やかましい!!そんなに言うなら自分で考えろ!!」
魔術師のタケルならば自身の魔力を操作する技術を身に着けているはずだが、これまでと違ってタケルは魔力を操作する方法は教えてくれなかった。毎日頼んでもタケルは聞き入れてくれず、仕方ないのでレノは自分なりに魔力を操る方法を探る。
「ぐぬぬっ……駄目だ、いくら力んでも魔力は集まらないな」
試しに拳に力を込めたり、全力で走ったり、叫んでもみたが体内の魔力は一向に操れる様子はない。レノは魔力を見て感じ取れることはできるが、肝心の魔力の操作はできなかった。
(爺ちゃんみたいに魔力を操れるようになれば俺も物を掴めたりするのかな)
最初にタケルと出会った日、橋から落ちそうになった自分をタケルが助けたことは今でも忘れられない。あの時は何が起きたのか分からなかったが、間違いなくタケルは魔力を利用してレアを助けた。
タケルが行ったのは魔力を外部に放出し、それを細長い腕のような形に変えて落下するレノを掴み取った。だからレノの腕には掴まれた跡が残っていた。
(あの様子だといくら聞いても爺ちゃんは教えてくれないだろうな。いったいどうすれば操れるんだ?)
体内に流れる自分の魔力を感じ取ることができても、肝心の魔力を操作する方法が分からなければどうしようもできない。レノはため息を吐きながら空を見上げると、雪が降り始めていることに気付く。
「また雪か……うう、寒くなってきた」
雪が降り始めたせいか気温がさらに下がり、寒さを覚えたレノは山小屋に帰ろうとした。だが、帰る前にレノは何となく自分の魔力をもう一度確認すると、身体に纏う魔力に変化が起きていることに気付く。
「あれ?さっきより魔力が大きくなってる?」
寒くなった途端にレノの身体に纏っていた魔力が一回りほど大きくなり、先ほどよりも寒さが和らいだ気がした。いきなり身体に纏う魔力が大きくなったことにレノは戸惑うが、滝行していた時も似た感覚を味わったことを思い出す。
(そういえば修行してた時、考える事に夢中になっていた時は急に水が冷たくなくなったような気がする。もしかしてあの時も身体に纏う魔力が大きくなっていたのか?)
自分の身体を包み込む魔力にレノは不思議に感じ、家に帰ったらタケルに尋ねることを決めた――
――山小屋に戻るとタケルの姿は見当たらず、どうやら狩猟に出向いている様子だった。タケルが戻るまで時間を持て余したレノは実験を行うことにした。
「うう、寒い……凍え死にそうだ」
家の中でレノは上着を脱いで上半身が裸になると、自分の体内に流れる魔力を感じ取る。すると魔力は上半身に集中し、大概に放出される魔力が増えた。予想通りに肉体が寒さを感じ取ると身体を包み込む魔力が自然と大きくなることが判明する。
「やっぱりそうだ。滝行してた時も俺は魔力で自分の身体を包んでたんだ!!」
滝を浴びていた時はまだ完全に魔力を感知できなかったので気付かなかったが、肉体に負荷が掛かると魔力は自然と身体を包み込む量を増やす。魔力に包まれると寒さや暑さが軽減される。
(爺ちゃんが俺にあんなに冷たい滝を浴びさせ続けた理由が分かった気がする……俺は無意識に魔力を扱ってたんだ)
修業の場としてタケルがレノを滝に連れて行った理由が判明し、滝行を通してタケルはレノに魔力を「視認」「感知」「捜査」の基礎を叩き込んでいたことが発覚した。
タケルは口ではレノには魔力操作の技術を覚えるのは早いと言っていたが、実際には滝行を通してレノは無意識に体内の魔力を操作して自分の身を包み込む行動を取っていた。それを自覚した途端、レノは今ならば魔力を操れる気がした。
(集中しろ、俺はもう魔力を操れるんだ)
これまでは意識してなかったが、自分が既に魔力を操作していたと知ったレノは右手の人差し指に意識を集中し、体内の魔力を集中させる。すると身体の表面を包んでいる魔力に揺らぎが生じ、それを見てレノは確信する。
(今ならできる!!)
魔力が揺らいだということは自分の意思で魔力を操作していると判断し、更に集中力を高めるために目を閉じる。上着を脱いだことで上半身の魔力が高まっており、その状態から指先に魔力を集中させる。すると肉体に纏っていた魔力が徐々に指先に集まり、遂にはタケルが見せてくれたように指先が僅かに輝く。
「やった!!」
魔力を高めると自然と光り輝くらしく、タケルと比べれば随分と弱々しい光であるが、遂にレノは魔力を一点に集めることに成功した。人差し指が輝くのを見てレノは笑みを浮かべるが、直後に異様な寒さに襲われる。
「うわ、さむっ!?」
身体を包み込んでいた魔力を指先に集中した途端にレノは尋常じゃない寒気に襲われ、堪らずに家の中に戻って上着を羽織る。魔力を操作することには成功したが、危うく風邪を引くところだった。
「ううっ……マジで凍え死ぬかと思った。けど、ようやく魔力を操れたぞ!!」
タケルに教わらわずとも自力で魔力を操作する術を身につけたレノは握り拳を作り、この調子で今度は別の箇所に魔力を集めようとした。だが、再び魔力を操ろうとすると急に疲労感に襲われ、立っていられずに尻餅を着いてしまう。
「あ、あれ?何だ急に……頭が痛い」
疲労だけではなく激しい頭痛にも襲われ、気分が悪くなったレノは立ち上がれずに床に倒れ込む。まるで体力を限界まで使い切ったかのように動けず、意識を失う――
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