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第53話 魔法使いらしい戦い方

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魔盾プロテクション


呪文を唱えた瞬間、普段は掌や甲から展開される魔盾が指先に出現した。しかも規模は極小で盾としては使い物にならず、指先で回して遊ぶぐらいしかできない。


「うわっ、ちっちゃい盾が出来上がったな。流石にこれは役立ちそうにな……待てよ?」


自分の指先で高速回転する盾を見てレイトは何か閃きそうになり、先ほど話しかけた村人の姿を思い出す。彼は小屋を修理するために木材を切り分けており、その時に使われていた道具を思い出す。


「そうだ。あの道具のように変形させれば……いや、でもそんなに細かい変化ができるのか?」


指先で回転する魔盾を確認しながらレイトは考え込み、もしも自分の想像通りの形に変形させる事ができれば協力な武器になるかもしれない。しかし、本当に上手くいくかは分からず、試しに形を変えてみる。


「ふんぐっ!!」


右手の人差し指に生成した魔盾に左手を翳し、魔力を調整して形状変化を行う。一瞬でも気を抜くと魔力が乱れて形が崩れそうになるため、相当な集中力を必要とした。


(これはきついな!!けど、あと少しで上手くいけそう……だ!?)


集中力を極限まで高めてレイトは両手に魔力を集中させようとした時、見張り台の方から鐘の音が鳴り響く。その音色を聞いたレイトは精神が乱れて魔法を解除してしまう。

見張り台から警告の鐘の音が鳴り響き、魔物が再び現れたのかと思ったレイトは村の出入口へ向かう。外に出ていた村人達は鐘の音を聞いた瞬間、慌てて建物の中に避難した。


「ひいいっ!?ま、魔物だっ!!」
「皆、隠れろ!!」
「冒険者様!!どうか助けてください!!」
「大丈夫です!!皆さんは早く家に隠れてください!!」


村人達を避難させながらレイトは村の出入口に向かうと、既に門は閉じられていた。数人の男が必死に門を内側から抑えつけていたが、外側から強烈な衝撃が走る。


「うひぃっ!?も、もう駄目だ!!」
「お、抑えきれない!?」
「お前等、早く離れろっ!!とんでもないのが来たぞっ!?」
「フギィイイッ!!」


見張り台に立っている村人が注意すると、門を抑えていた男達が逃げ出す。その直後に門の外側から猪のような鳴き声が響き渡り、扉を吹き飛ばして村の中に化物が入り込んできた。


「フギャアアアッ!!」
「あいつは……オオツノオーク!?」


村に侵入してきたのはオーク亜種である「オオツノオーク」だと気づいたレイトは冷や汗を流し、昇格試験の時に遭遇した化物の再来に動揺を隠せない。あのリーナでさえも苦戦を強いられた魔物の登場にレイトは舌打ちする。

オオツノオークは通常種のオークよりも一回りは大きく、厄介なのはマンモスのように発達した牙が厄介だった。あの牙に突き刺されたら終わりであり、しかも今回は味方は誰一人いない。


(コトミン達はまだ戻ってきていない。ハルナは村の中にいるはずだけど、怪我人の面倒を見てるはず……という事は俺一人で何とかするしかないのか!?)


こんな時に限って他の仲間は傍におらず、オオツノオークとたった一人で向かい合う形となったレイトは苦笑いを浮かべるしかなかった。


「ははっ……お手柔らかに」
「プギャアアアッ!!」


レイトの言葉は全く通じておらず、自分の目の前に現れた人間の子供に対してもオオツノオークは容赦なく襲い掛かる。その長い牙でレイトを突き刺そうとしてきたが、それに対してレイトは両手を構えた。


「魔盾!!」
「フゴォッ!?」


両手で構成した方が魔盾の展開は素早く、通常よりも規模が大きくて硬度の高い魔盾を形成できる。しかし、オオツノオークの牙を弾き返すのが精いっぱいであり、魔盾は一撃で罅割れてしまう。


(なんて重さだ!?こんなの反魔盾で受けたらすぐに魔力が尽きるぞ!!)


昇格試験で遭遇したオオツノオークよりも膂力は上かもしれず、瓦解する前に魔法を解除すると、懐に手を伸ばしてを取り出す。


「これでも喰らってろ!!」
「フガァッ!?」


魔物が村にいつ襲ってくるか分からない状況のため、目眩まし用の砂袋を常備していた事が幸いし、砂袋の中身を反魔盾リフレクションでぶちまける。砂煙に視界を奪われたオオツノオークの悲鳴が村中に響き渡り、反撃を仕掛けるならば今が好機だった。

オオツノオークが正気を取り戻す前にレイトは右手に「刃盾」を形成し、先日のように接近して攻撃を仕掛けようとした。だが、オークの時と違って相手はレイトの倍近くの体格差を誇り、しかも牙を無茶苦茶に振り回してくるので近づけない。


「プギィイイッ!!」
「くそっ、こいつ……うわっ!?」


レイトの声を聞いて居場所を察知したのか、目が見えないにも関わらずに牙を突き立てようとしてきた。寸前で躱す事はできたが、不用意に近づけばレイトの身が危ない。リーナのように身軽な戦士ならば隙を付けるのだろうが、生憎と接近戦の心得がないレイトでは近づく事もままならない。


(ギルドマスターの言う通りだった……こんな化物に近づくなんて俺にはできない!?)


バルルがレイトの刃盾を評価しなかった理由が今になってわかり、接近戦を不得手とする魔法使いがそもそも前衛に立つのがおかしな話だった。


(くそっ!!反省は後だ!!どうやってこいつを倒せばいい!?)


視界が完全に戻る前にオオツノオークに攻撃を仕掛けなければ無駄骨であり、二度も同じ手は通用しないだろう。しかし、反魔盾も刃盾も近づかなければ相手に攻撃を仕掛ける事はできない。

普通の魔術師ならば攻撃魔法を遠距離から仕掛けて攻撃できるが、生憎と防御魔法しか扱えないレイトでは不可能な話だった。せめてコトミンがいてくれれば水弾を弾き飛ばして攻撃できると考えた時、ある方法を思いつく。


(そうだ!!この方法なら通じるぞ!!)


レイトは左手に刃盾を生成し、右手に反魔盾を構築した。オオツノオークに狙いを定めて右手を構え、刃盾を反魔盾に叩きつけて弾き飛ばす。


「これならどうだ!!」
「プギャッ!?」


反魔盾の反発力で吹き飛んだ刃盾がオオツノオークの左足を切りつけ、悲鳴を上げながら膝を崩す。刃盾はオオツノオークに当たった瞬間に消えてしまうが、傷を与える事に成功したレイトは握り拳を作る。


(魔法使いらしい戦い方……これかっ!!)


バルルの言葉をようやく理解できたレイトは刃盾を左手に作り出し、もう一度右手で弾き飛ばして今度は右足を狙う。両足を傷つけられたオオツノオークは悲鳴を上げて四つん這いとなった。


「フガァッ!?」
「よし、これでまともに動けないだろ!!」


両足を切りつけられたオオツノオークは本来の動きが取れず、立ち上がるのも難儀な状態に追い込む。こうなればレイトが俄然有利となり、止めを刺すための方法を考える。

オオツノオークを仕留めるには森で倒した時のように鋭利な物体を弾き飛ばして急所を貫くしかないが、生憎とレイトの手元に刃物はない。それならば自分の魔力で武器を作り出せばよいと考え、ありったけの魔力を左手に送り込んで形成した。


(もっと鋭く……もっと鋭利に!!)


三度刃盾を形成したレイトは細長い刃物を思わせる形に変形させ、反魔盾で吹き飛ばしてオオツノオークの止めを刺そうとした。だが、オオツノオークは信じがたい行動に移る。
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