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第41話 きょーはくじょう

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「何やってんだいあの嬢ちゃんは……さらわれたんじゃなかったのかい?」
「子供達と仲良く遊んでる。混ざってもいい?」
「ちょ、ちょっと待って……もう少しだけ様子を見よう」
「クゥ~ンッ?」
「ぷるぷるっ(←遊びに混ざりたいのを我慢して震える)」


ハルナが孤児院の子供達と遊んでいる光景にレイト達は呆気にとられ、建物の陰から様子を伺う。子供達と遊んでいるハルナは満面の笑顔を浮かべており、どう見ても誘拐されたとは思えない。


「どう見ても遊んでるようにしか見えませんね」
「たくっ、アイリスの奴が大騒ぎするから勘違いしちまったよ。でも、どうしてこんなところで遊んでるんだい?」
「ウォンッ」
「レイト、ウルがあっちの方で何か聞こえるみたい」


観察中にウルが何かに気付いたのか移動を開始する。レイトはハルナの事は気になったが、見た限りでは子供達と遊んでいるだけなので問題ないと判断し、先にウルが見つけた物を確認に向かう。

ウルは建物の窓に近づくと、中の様子を伺う。レイト達もこっそりと覗き込むと、子供部屋と思われる室内で二人の少女が机に座っていた。幸いにも少女はレイト達に背中を向けているので気づいてはいない。


「えっと、きょーはくじょうと書けばいいんだよな?」
「わうっ!!ネココちゃんは文字が書けるんですか?」
「ま、まあ、一応はな……ほら、これでいいだろ!?」


二人の女の子はただの人間ではないらしく、片方は猫耳と尻尾を生やしており、もう片方は犬耳と尻尾を生やしていた。彼女達は「獣人族」と呼ばれる種族だと気づいたレイト達は物音を立てないように気をつける。

獣人族は人間と獣の特徴を併せ持つ種族であり、大半の獣人は人間よりも非常に優れた運動能力を誇り、それぞれの動物の能力も持っている。犬猫の獣人は人間よりも聴覚と嗅覚に優れており、音や臭いで感づかれないように気を配る必要があった。


(この孤児院は獣人の子たちも引き取っているのか。それにしてもなんか物騒な会話してるな……)


見た感じではどちらも十才ぐらいの女の子であり、ハルナが遊んでいた子供達と比べても容姿も整っており、悪さをするような子には見えない。しかし、猫耳の方の女の子は頭を悩ませながら「脅迫状」を書いていた。


「えっと、姉ちゃんを返してほしければ……いや、これだと分かんないか。あの姉ちゃんの名前なんだっけ?」
「ハルナお姉ちゃんです!!」
「そうそう、ならハルナ姉ちゃんを……いや、姉ちゃんはまずいか。ハルナを返してほしければ金貨百枚用意しろ、と」
「ひゃ、百枚!?いくらなんでも多すぎるんじゃ……」
「そ、そうか?なら銀貨にしとくか……」


どうやら女の子達はハルナを人質にして脅迫状を記しているらしく、二人の反応を見てまさかハルナを連れ去ったのは孤児院の子供達なのかと驚く。レイトはバルルにどうするべきか判断を尋ねようとした時、彼女は窓を開いて部屋の中に入り込む。


「こらっ!!このガキども!!あんたがうちの冒険者(予定)を攫ったのかい!?」
「にゃあっ!?」
「わぅんっ!?」
「ちょ、ギルドマスター!?」


バルルに怒鳴りつけられて二人の女の子は飛び上がり、窓を乗り越えて部屋に入ってきたバルルに驚いて逃げ出そうとした。だが、二人が部屋から出る前にウルも飛び込み、部屋の扉の前に先回りした。


「ウォンッ!!」
「わわっ!?なんだよこいつ!?ポチ子の友達か!?」
「ち、違いますよ!!知らない子ですぅっ!!」
「よし、大人しくするんだよ。ほら、あんたらも入りな!!」
「い、いいのかな?」
「私たちの方が警備兵に捕まりそう」
「ぷるぷるっ」


レイト達も靴を脱いで窓から部屋に乗り込むと、いきなり知らない人間達に囲まれた女の子二人は身体を寄り添いあう。何だか自分達の方が悪者になった気がするが、バルルは猫耳の女の子が書いていた手紙を取り上げる。


「……なるほど、だいたいの事情は察したよ。あんたらは嬢ちゃんを誘拐して魔術協会から大金をふんだくるつもりだったんだね?それにしても汚い字だね、ちゃんと勉強してるのかい?」
「か、返せよおばさん!!」
「誰がおばさんだい!?ぶっ飛ばされたいのか!!」
「わうっ!?ぶ、ぶたないで~!!」
「お、おい!!ポチ子を怖がらせるなよ!!」


自分をおばさん呼ばわりした猫耳の女の子にバルルは怒鳴りつけると、ポチ子と呼ばれた子の方が怯えて泣き出してしまう。それを見かねてコトミンが間に割って入り、二人を庇うように立つ。


「バルル、子供を怖がらせるのは駄目」
「呼び捨てするんじゃないよ!!あたしの事はギルドマスターと呼びな……まあ、ともかく、ガキだろうと悪さをするような奴を放っておくわけにはいかないよ。とりあえずはこいつらの保護者と話をさせてもらう必要があるね」
「ちょ、ちょっと待ってくれよ!?それって先生の事か!?」
「や、止めてください!!謝りますから先生にだけは伝えないでください!!」
「先生?」


バルルの言葉を聞いて二人の女の子は慌てて頭を下げるが、騒ぎを聞きつけたのか扉が開かれて部屋の中に老婆が入り込む。


「ネココ!!ポチ子!!いったい何の騒ぎですか!?」
「げっ!?せ、先生!!」
「わぅんっ!?」


孤児院の経営者だと思われる老婆が部屋の中に入り込むと、ネココとポチ子はコトミンの背中に隠れた。彼女は部屋の中に入っているレイト達に気が付いて驚愕の表情を浮かべ、警戒心を露わにして手にしていた箒を構える。


「誰ですか貴方達は!?勝手に部屋の中に入って……泥棒ならば容赦しませんよ!!」
「ちょ、ちょっと待ってください!!俺達は……」
「レイト、その人に近づくんじゃないよ!!」


誤解を解こうとレイトが老婆に近づいた瞬間、バルルは何かを察したように注意した。次の瞬間、レイトの視界から老婆が消え去り、代わりに腹部に衝撃が走った。


「はあっ!!」
「ぐふぅっ!?」
「レイト!?」


老婆は消えたのではなく、俊敏な動きでレイトの懐に潜り込んで箒の柄を腹部に叩き込む。老人が繰り出したとは思えぬ重い一撃にレイトは壁際まで吹き飛ばされ、意識が飛びそうになった。

仮にもレイトは冒険者であり、対人戦の心得もある。それなのに老婆は彼が反応しきれない速度で動き、反撃も防御の隙も与えずに一撃を加えた。まるで一流の武芸者の如き腕前にバルルは感心した。


「その顔、思い出したよ。あんたはミレイだろ?」
「何故、私の名を……」
「おいおい、忘れたのかい?あたしがガキの頃に稽古を付けてくれたじゃないかい!!」
「え?まさか……あなたはバルルではないですか!?」
「うぐぐっ……し、知り合いなんですか?」
「レイト、しっかりして」


コトミンに支えられてレイトはどうにか立ち上がると、バルルはミレイと呼んだ老婆の元に近づいて握手を求める。


「あんたには色々と世話になったからね。あたしが冒険者になれたのもあんたが鍛えてくれたお陰だよ」
「世話になったなんて……それはこちらの台詞です。貴女の寄付のお陰でうちの孤児院の経営は助かっています」
「それこそ礼を言われる必要はないよ。世話になった期間は短かったけど、ここはあたしにとっては実家みたいなもんだからね」
「実家?」
「どういう意味?」
「ぷるぷるっ?」
「ウォンッ?」


バルルの言葉にレイト達は状況についていけずに尋ねると、彼女は頭をかきながら事情を説明してくれた。


「実はこの孤児院はあたしが世話になっていた場所なんだよ。つまり、あたしはその二人の先輩というわけさ」
「「「ええっ!?」」」


バルルの言葉に女の子達だけではなく、レイト達も驚愕の声を上げた――
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