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第35話 和解

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「スラミン!!」
「ぷるしゃああっ!!」
「ギュロロッ!?」
「うわっ!?」


目前にまで迫っていたサンドワームが動きを止め、その隙を逃さずにレイトは慌てて離れる。声のした方向に視線を向けると、そこには巨大化したスラミンに跨るコトミンの姿があった。



――少し前にコトミンはスラミンを連れて近くに流れている川へ向かい、大量の水を吸い上げて巨大化したスラミンに乗り込んで戻ってきた。レイトを飲み込もうとしていたサンドワームはスラミンの口元から離れた水を浴びて怯む。



コトミン達のお陰でレイトは助かったが、ほんの少しでもタイミングが遅れていたら今頃は食われて死んでいた。


(し、死ぬかと思った……二人には後でお礼しないとな)


自分を助けてくれたコトミン達に感謝しながらも、今はお礼をいう暇はなかった。サンドワームが動けない間にレイトは反魔盾リフレクションを構築し、事前の作戦通りにコトミンに合図を出す。


「コトミン!!だ!!」
「了解」
「ぷるんっ!!」


コトミンはスラミンの口元に手を伸ばすと、サンドワームに目掛けて放たれている水を。人魚族の特性と魔法の力を利用して彼女は水を粘土のように変形させると、槍の形に捏ね上げてレイトに目掛けて放つ。


「ていっ!!」
「おらぁっ!!」
「アガァッ!?」


反魔盾で迫りくる「水槍」を跳ね返し、反発力で速度が増した水槍はサンドワームの口元に衝突した。口の中に入った水槍のせいでサンドワームは口元が閉じられず、混乱して暴れまわる。


「オアアアッ!?」
「うわっ!?」
「スラミン、退避!!」
「ぷる~んっ!?」


サンドワームが激しくうねりだしたのを見てレイト達は距離を取り、巨大化したスラミンは早く動けないのかコトミンが引っ張っていく。その一方で二人の反対側から先ほど反魔盾で吹き飛ばされたはずのリーナが駆けつける。


「二人とも下がって!!あとは僕に任せて!!」
「リーナ!?」


槍を片手に構えながらリーナはサンドワームに目掛けて駆けつけ、先ほどレイトに渡しそびれた睡眠団子が入った袋を抱える。彼女は槍の刃先に袋を括り付けると、空中に跳びあがってサンドワームの口元に目掛けて槍を振りかざす。


「いっけぇっ!!」
「オアッ!?」


サンドワームの開け開かれた口元に睡眠団子入りの袋が投げ込まれ、水槍で口が閉じられないサンドワームは飲み込んでしまう。団子を完全に消化すれば眠り込んで動けなくなるはずである。


(勝った……のか!?)


しばらくするとサンドワームの動きが止まり、やがて糸が切れた人形のように地面に転がり込む。この時に水槍が形を保てずに崩れてしまい、口元から大量の水を吐き出しながらサンドワームは寝息を立てる。


「ギュロォッ……」
「ね、眠った?」
「良かった~……効いたみたいだね」
「ふうっ、寿命が三分縮んだ」
「ぷる~んっ」


眠りこけたサンドワームを見てレイト達は膝を崩し、スラミンは勝利の雄たけび(?)を上げる。この時にリーナはレイトの元に駆けつけ、彼が怪我をしていないのか確かめた。


「レイト!!大丈夫!?」
「え?あ、うん……死ぬかと思った」
「私が助けたお陰、ちゃんと褒めて」
「本当に助かったよ。スラミンもありがとう、よ~しよしよしっ!!」
「ぷるるるっ(←照れる)」


自分を助けてくれたコトミンとスラミンにレイトは頭を撫でまわし、二人とも満足そうな表情を抱く。その一方で助けられたリーナは複雑そうな表情を抱く。


「あ、あの……どうして僕を助けてくれたの?」
「え?」
「だって、さっきあんな事を言っちゃったのに……」


リーナは喧嘩していた自分をレイトが何故助けてくれたのかと不思議に思うが、そんな彼女に対してレイトは眉をしかめる。


「友達が死にそうになってるのを見て助けない馬鹿がいるの?」
「え?」
「それと、さっきはごめん。俺はリーナの苦労を全然分かってなかった」


今までリーナの気持ちを考えずに接してきた事にレイトは反省し、彼女は天才であるが故に辛い経験をしていたなど夢にも思わなかった。


「俺は……正直に言えばリーナに嫉妬していた。俺よりもずっと強いし、上の階級の冒険者に昇格した事に悔しさも感じていた。でも、リーナだってちゃんと努力して強くなった事に気付いてなかった」
「レイト……」
「今更謝っても許してもらえないかもしれないけど、俺が悪かった。ごめんなさい……できればこのまま友達でいさせてほしい」
「も、もちろんだよ!!」
「分かった、しょうがないから許してあげる」
「いや、コトミンには言ってないけど」
「ぷるぷるっ(気にするなよ坊や)」
「君にも言ってないけど!?」


謝罪を受けたリーナは元気を取り戻し、自分が今まで抱えていた不安が楽になった気がした。わだかまりがなくなったところでレイト達は倒れこんだサンドワームを見て考え込む。


「それでこいつはどうするの?ずっと眠ってるわけじゃないんでしょ?」
「うん、団子の効果は半日で消えるはずだからそれまでに捕まえないと」
「捕まえるって……どうやって?」
「僕と一緒に同行した冒険者の中に魔物使いがいるんだ。その子に頼んでサンドワームを服従テイムするんだよ。できればサンドワームは生け捕りで捕まえたいからね」
「生け捕り?どうして?」


こんな化け物を捕まえてどうするつもりかとレイトは不思議に思うが、リーナはカバンから本を取り出す。


「あれ、レイトは覚えてないの?訓練校に通っている時にサンドワームの生態も習ったでしょ。サンドワームは確かに危険な魔物だけど、荒廃した土地に住まわせれば大地に栄養を与えてくれるから、サンドワームが暮らす地域は農業には最適なんだよ」
「あ、ああ、そういえばそんな事も習ったね」
「レイトと別れてからも僕はちゃんと勉強を続けてたんだよ。慣れると勉強も楽しいよね」
「偉い偉い」
「ぷるぷるっ」


昔は大の勉強嫌いだったリーナだが、レイトに勉強のコツを教わってからは真面目に取り組み、現在でも魔物の知識に関する勉学は怠っていなかった。そんな彼女にレイトは感心し、コトミンとスラミンは褒めたたえる。

訓練校に通っていた時はレイトは成績は一番良かったが、卒業してからは勉強は疎かになっていた。こうしてみるとリーナは努力家だと思い知らされ、彼女の事を何も知らずに天才だからと嫉妬していた自分が恥ずかしく思う。


(今まで何やってたんだ俺は……今日から生活を見直すか)


強くなるために努力してきたつもりだが、魔物と戦うのであれば生態の知識を身に着ける事も重要であり、肉体だけではなく頭も鍛える事にした。だが、今はサンドワームを捕縛するのが最優先であり、街に引き返す事にした。


「リーナは街に戻って、サンドワームを眠らせた事を他の冒険者に知らせてきなよ」
「え?レイトは一緒に行かないの?」
「こいつを放置するわけにはいかないし、他の魔物や人間に起こされないように見張り役は必要でしょ。コトミンとスラミンには悪いけど一緒に残ってもらうよ。いざという時は助けてくれ」
「美味しい魚料理をたくさん食べさせると約束するなら頑張る」
「ぷるんっ(冷たい氷水を所望する)」
「なんとなく、スラミンの言葉が理解できるようになってきた気がする」
「分かった。すぐに戻ってくるからね!!」


サンドワームの見張りのためにレイト達は残り、リーナは街へ一旦引き返す事にした。彼女は急いで戻ろうとするが、途中で立ち止まってレイトに振り返る。


「あ、あのさ!!さっき助けてくれてありがとう!!この恩は必ず返すからね!!」
「え?いや、別にそこまで気負わなくても……」
「ううん、そうしないと僕の気が済まないの!!レイトが困ったことがあったら、必ず助けるからね!!」
「分かったよ。なら早く戻ってきて、こいつを引き取ってよ」
「行ってきま~す!!」


最後のレイトの言葉は聞こえていたのかは分からないが、リーナは全速力で駆け抜けた。彼女は足も速く、疾風の如く草原を駆け抜けてあっという間に見えなくなってしまった。

残されたレイトは眠りこけたサンドワームに振り返り、今のところは目覚める様子はない。仮に目を覚まされたらレイト達ではどうしようもできず、いざという時のために巨大化したスラミンとその上に乗り込むコトミンの後ろに隠れる。


「こいつが目を覚ました時は頼んだよ二人とも、援護は任せてくれ」
「ぷるぷるっ……」
「レイト、女の子とスライムの後ろに立つのはどうかと思う」
「うぐっ!?」


コトミンの冷静な私的にレイトは冷や汗を流し、自分でも情けないと思う。しかし、サンドワームが相手だとレイトの防御魔法は当てにできず、リーナが戻るまでの間に自分の戦法を考え直す事にした。
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