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外の世界へ
第65話 冒険者の悲劇
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「あの人たちは……」
「……多分、例の噂の冒険者だと思う」
「噂?なんだそれ?」
「知らないんすか?赤毛熊の討伐のために冒険者が派遣されるそうですよ」
ナオ達と遭遇した赤毛熊の討伐のため、街に滞在する冒険者が派遣されるという話は既に街中に伝わっていた。だが、思っていた以上に編成に時間が掛かっており、ようやく討伐隊が派遣された事にナオは不思議に思う。
「随分と時間が掛かったね。もう派遣されてると思ってた」
「いえ、最初の討伐隊はもう何日か前に既に出発してますよ」
「え?そうなの?」
「でも、討伐に失敗して逃げ帰ってきたそうです。幸いにも死者は出なかったそうですけど、酷い怪我を負って帰ってきたそうです」
「えっ!?」
「負けたのか!?冒険者が!?」
赤毛熊の討伐隊の第一陣は既に敗北しており、その際に大勢の冒険者が負傷して帰ってきたという。そのために第二陣の討伐隊は実力が確かな冒険者を厳選し、今度こそ確実に赤毛熊を仕留めるために準備を費やしていたらしい。
赤毛熊の討伐隊は屈強な体格の冒険者が集められており、その中には魔術師と思われる格好をした中年男性も含まれていた。彼等は山に向けて出発する姿を見てナオは嫌な予感を抱く。
(この人たち、大丈夫か?)
馬車に乗り込んだ冒険者たちの姿を見てナオは不安を抱いた理由、それは彼等の一人一人の魔力が赤毛熊には遠く及ばない事だった。もちろん、魔力が劣っているからといって戦闘能力が劣っているとは限らない。しかし、魔物にとっては魔力の大きさこそが生命力の高さを示しており、冒険者の中に含まれている魔術師ですらも赤毛熊の魔力には遠く及ばなかった――
――翌日、街に引き返してきた冒険者は酷い有様で戻ってきた。第一陣の討伐隊は全員が辛うじて生き延びれたが、第二陣の討伐隊は生き残りはわずか二名だけであった。生き残ったのは馬車の運転手と弓使いの冒険者一人だけであり、その生き残った冒険者も酷い怪我を負っていた。
「くそがっ!!聞いてねえぞ、あんな化け物と戦わされるなんて!!」
「おい、落ち着くんだ!!いったい何があった!?」
「あ、あいつが皆殺しちまったんだ!!あの化け物が!!」
戻ってきた冒険者から兵士は話を聞こうとしたが、仲間が殺された事で錯乱した冒険者は喚き散らしてまともに話せる状態ではなかった。同行した馬車の運転手は赤毛熊の姿を見ておらず、逃げ帰ってきた冒険者の言われるままに引き返してきただけで赤毛熊がどうなったのか知らないらしい。
「他の仲間はどうしたんだ?本当に殺されたのか!?」
「喰われちまったよ!!最初の奴らがしくじったせいだ!!あの化物熊が人間の味を覚えやがった!!」
「そ、そんな……」
最初に派遣された冒険者のうちの一人が赤毛熊に腕を食われており、そのせいで赤毛熊は人間の味を覚えてしまった。これまでは赤毛熊は縄張りを犯す存在だけを獲物と定めていたが、人間の味を覚えたことで赤毛熊は捕食者と化して積極的に人間を襲う習性を身に着けてしまった。
冒険者の話によれば山の中を探索していた際に襲われたらしく、存在感を巧妙に隠した赤毛熊は次々と冒険者を捕食し、最終的に生き残ったのは彼一人らしい。彼は山に入る前に匂い消しの香草を身に着けていたお陰で助かり、どうにか逃げ延びることができた。
「お、俺の親父は猟師だったんだ……山に登るときは注意を怠るなと言われてたんだ。だから俺だけ生き延びれたんだ」
「そ、そうか……だが、本当に誰も生き残っていないのか?君以外の冒険者は全員殺されたのか?」
「何度も言わせるな!!あいつらはもう帰ってこない!!帰ってこないんだよ……」
ようやく精神が落ち着いた時には生き残った冒険者は泣き崩れ、仲間を失った彼は完全に心が折れてしまった。そんな彼の姿を見て兵士は赤毛熊の脅威を思い知り、すぐに冒険者ギルドに報告が伝わった――
――赤毛熊の討伐隊が二度も敗れた事により、街中でも大騒ぎになっていた。赤毛熊が縄張りとした山はニノとサンノの街を行き来するための重要な場所であり、このまま放置すれば街間の交通ができなくなってしまう。
しかし、闇雲に冒険者を派遣しても返り討ちにされる可能性があり、最終手段として冒険者と警備兵を大量に派遣して山の中に潜む赤毛熊を数の利で仕留める作戦を決行しなければならない。そうなると大勢の被害者が生まれるだろうが、他に手はなかった。
普通の魔物が相手ならばともかく、赤毛熊のように「狩猟」に特化した能力を持つ魔物ほど厄介な存在はいない。ミノタウロスよりも戦闘能力は劣るとはいえ、存在感を消す能力は山の中で最大限に効果を発揮し、仮に赤毛熊よりも強い存在でも不意打ちを受ければ仕留められる可能性がある。もしも赤毛熊を打倒すことができる存在がいるとすれば、赤毛熊と同様に規格外の能力を持つ人間だけである。
「……多分、例の噂の冒険者だと思う」
「噂?なんだそれ?」
「知らないんすか?赤毛熊の討伐のために冒険者が派遣されるそうですよ」
ナオ達と遭遇した赤毛熊の討伐のため、街に滞在する冒険者が派遣されるという話は既に街中に伝わっていた。だが、思っていた以上に編成に時間が掛かっており、ようやく討伐隊が派遣された事にナオは不思議に思う。
「随分と時間が掛かったね。もう派遣されてると思ってた」
「いえ、最初の討伐隊はもう何日か前に既に出発してますよ」
「え?そうなの?」
「でも、討伐に失敗して逃げ帰ってきたそうです。幸いにも死者は出なかったそうですけど、酷い怪我を負って帰ってきたそうです」
「えっ!?」
「負けたのか!?冒険者が!?」
赤毛熊の討伐隊の第一陣は既に敗北しており、その際に大勢の冒険者が負傷して帰ってきたという。そのために第二陣の討伐隊は実力が確かな冒険者を厳選し、今度こそ確実に赤毛熊を仕留めるために準備を費やしていたらしい。
赤毛熊の討伐隊は屈強な体格の冒険者が集められており、その中には魔術師と思われる格好をした中年男性も含まれていた。彼等は山に向けて出発する姿を見てナオは嫌な予感を抱く。
(この人たち、大丈夫か?)
馬車に乗り込んだ冒険者たちの姿を見てナオは不安を抱いた理由、それは彼等の一人一人の魔力が赤毛熊には遠く及ばない事だった。もちろん、魔力が劣っているからといって戦闘能力が劣っているとは限らない。しかし、魔物にとっては魔力の大きさこそが生命力の高さを示しており、冒険者の中に含まれている魔術師ですらも赤毛熊の魔力には遠く及ばなかった――
――翌日、街に引き返してきた冒険者は酷い有様で戻ってきた。第一陣の討伐隊は全員が辛うじて生き延びれたが、第二陣の討伐隊は生き残りはわずか二名だけであった。生き残ったのは馬車の運転手と弓使いの冒険者一人だけであり、その生き残った冒険者も酷い怪我を負っていた。
「くそがっ!!聞いてねえぞ、あんな化け物と戦わされるなんて!!」
「おい、落ち着くんだ!!いったい何があった!?」
「あ、あいつが皆殺しちまったんだ!!あの化け物が!!」
戻ってきた冒険者から兵士は話を聞こうとしたが、仲間が殺された事で錯乱した冒険者は喚き散らしてまともに話せる状態ではなかった。同行した馬車の運転手は赤毛熊の姿を見ておらず、逃げ帰ってきた冒険者の言われるままに引き返してきただけで赤毛熊がどうなったのか知らないらしい。
「他の仲間はどうしたんだ?本当に殺されたのか!?」
「喰われちまったよ!!最初の奴らがしくじったせいだ!!あの化物熊が人間の味を覚えやがった!!」
「そ、そんな……」
最初に派遣された冒険者のうちの一人が赤毛熊に腕を食われており、そのせいで赤毛熊は人間の味を覚えてしまった。これまでは赤毛熊は縄張りを犯す存在だけを獲物と定めていたが、人間の味を覚えたことで赤毛熊は捕食者と化して積極的に人間を襲う習性を身に着けてしまった。
冒険者の話によれば山の中を探索していた際に襲われたらしく、存在感を巧妙に隠した赤毛熊は次々と冒険者を捕食し、最終的に生き残ったのは彼一人らしい。彼は山に入る前に匂い消しの香草を身に着けていたお陰で助かり、どうにか逃げ延びることができた。
「お、俺の親父は猟師だったんだ……山に登るときは注意を怠るなと言われてたんだ。だから俺だけ生き延びれたんだ」
「そ、そうか……だが、本当に誰も生き残っていないのか?君以外の冒険者は全員殺されたのか?」
「何度も言わせるな!!あいつらはもう帰ってこない!!帰ってこないんだよ……」
ようやく精神が落ち着いた時には生き残った冒険者は泣き崩れ、仲間を失った彼は完全に心が折れてしまった。そんな彼の姿を見て兵士は赤毛熊の脅威を思い知り、すぐに冒険者ギルドに報告が伝わった――
――赤毛熊の討伐隊が二度も敗れた事により、街中でも大騒ぎになっていた。赤毛熊が縄張りとした山はニノとサンノの街を行き来するための重要な場所であり、このまま放置すれば街間の交通ができなくなってしまう。
しかし、闇雲に冒険者を派遣しても返り討ちにされる可能性があり、最終手段として冒険者と警備兵を大量に派遣して山の中に潜む赤毛熊を数の利で仕留める作戦を決行しなければならない。そうなると大勢の被害者が生まれるだろうが、他に手はなかった。
普通の魔物が相手ならばともかく、赤毛熊のように「狩猟」に特化した能力を持つ魔物ほど厄介な存在はいない。ミノタウロスよりも戦闘能力は劣るとはいえ、存在感を消す能力は山の中で最大限に効果を発揮し、仮に赤毛熊よりも強い存在でも不意打ちを受ければ仕留められる可能性がある。もしも赤毛熊を打倒すことができる存在がいるとすれば、赤毛熊と同様に規格外の能力を持つ人間だけである。
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