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外の世界へ

第38話 ネココの恩返し

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「ど、どうなってんだこりゃ!?」
「おい、何してんだ!!さっさと捕まえろ!!」
「捕まえろ?まるで盗賊みたいな事を言い出すんですね」
「あ、いや……」


冒険者の一人が口走り、それを聞いてナオは彼等の目的が自分の誘拐だと判断した。まさか人々を魔物の脅威から守るはずの冒険者が悪党紛いの行動を取る事に落胆してしまう。


「すいませ~ん!!変な人たちに絡まれてます!!誰か警備兵を呼んできてください!!」
「このガキっ!?なんてことを言いやがる!!」
「お、おい、やばいぞ!!流石に逃げた方がいいんじゃねえか!?」
「くそったれがっ!!今更びびんなっ!!」


ナオが大声で助けを求めると冒険者達は慌てふためき、流石に警備兵に見つかるわけにはいかないらしく、彼等から逃れるためにナオは駆け出す。それを見て最初にナオに絡んできた冒険者は隠し持っていたボーガンを取り出す。


「くそがっ!!やるしかねえっ!?」
「お、おい正気か!?」
「それはまずいだろ!!」
「うるせえ!!邪魔するな!!」


本気でナオを仕留めようとする男に仲間達は止めようとしたが、彼等を振り切って男はボーガンの矢を撃ち込む。騒ぎに気付いたナオは振り返ると、そこには自分に目掛けて発射された矢が目に入った。

迫りくる矢に対して先ほど展開した画面を引き寄せて防御しようとした時、何者かがナオの前に立って正面から向かってくる矢を両手で掴み取る。人間離れした動体視力と反射神経が無ければできない芸当であり、驚いたナオは相手の顔を見るとネココだった。


「おっとっと……とろい矢だな」
「ネココ!?どうしてここに!?」
「な、なんだてめえ!?」
「おい、あのガキ……確かスリの常習犯じゃねえか!?」


ネココがナオを助けた事に冒険者達も驚き、彼女は掴み取った矢を捨てるとナオに振り返って笑顔を浮かべた。


「よう、兄ちゃん!!何だか分からないけどピンチみたいだな?」
「ピンチというか……まあ、助けてくれてありがとう」
「はっはっはっ!!こいつは運が回ってきたぜ!!どうやら犯罪者のガキと仲がいいみたいだな!?」


親し気に話を行う二人を見て何故か男は笑い声をあげ、彼は腰に差していた剣を抜くとナオ達に構える。そして自分の仲間達に声をかけた。


「このガキは犯罪者に加担している。つまり、このガキも犯罪者同然だ!!なら正義の味方の冒険者として放っておけないよな!?」
「な、なるほど!!そういう事か!!」
「俺達が捕まえて警備兵に突き出せばいいんだな!!」
「ひひっ、ついでに金目の物は全部奪ってやるぜ!!」
「うわっ……最低だな」
「この街の冒険者は皆ろくでなしだよ」


この期に及んで自分達を犯罪者に仕立て上げて捕まえようとする冒険者達にナオはため息を吐き出し、一方でネココは腰に隠し持っていた短剣を取り出す。


「兄ちゃん、どうする?二人でこいつらをぶっ飛ばすか?」
「その必要はないよ。もう終わるから」
「終わる?」


ナオは既に右手を冒険者達に向けて構えており、拡大化した画面を前進させていた。冒険者達の目には画面は見えず、彼等が一か所に集まっていた事も功を奏して全員を吹き飛ばす。


「てめえら、行く――ぐはぁっ!?」
「うぎゃっ!?」
「おごぉっ!?」
「おおっ!!勝手に吹き飛んだぞ!?」


不可視の画面に衝突した男達は派手に吹き飛び、その光景を目にしたネココは驚きを隠せない。一方でナオは男達を倒したのを確認すると、警備兵が駆けつける前に逃げる事にした。


「ネココ、こっちだ!!」
「おうっ!!」


ネココを連れてナオは早々にその場を立ち去り、人気のない場所を探して走り去る――





――街中を走り回り、結局は宿屋まで引き返してきたナオはネココを部屋の中に入れる。ここまで全力疾走で走ったにも関わらずに彼女は息切れすらしておらず、一方でナオは疲れてベッドの上にへたり込む。


「はあっ……凄い疲れた」
「何だよ、あれぐらいの距離走っただけでもうへばったのか?兄ちゃんは体力ないな」
「……流石に獣人族には敵わないよ」


獣人族は人間よりも高い運動能力を誇り、体力に関しても大きな差があった。森でずっと暮らしていたナオは体力には自信はあったが、獣人族には遠く及ばない。しばらく身体を休めた後、ナオはネココに助けてもらったお礼と白狼がどうなったのかを問う。


「さっきはありがとう。それとウル君は大丈夫だった?」
「ああ、隠れ家に行ったら元気そうにしてたぞ!!本当に兄ちゃん達が魔法で治してくれたんだな。うちのウルを助けてくれてありがとう!!」
「それは良かったよ」
「それと金もありがとな。実は兄ちゃんの金で今まで盗みを働いた人たちに謝って金を返してきたんだ。そうしたら警備兵もあたしのした事を許してくれるって」
「え、そうなの!?」
「へへ、流石に次に騒ぎを起こしたら今度こそ捕まえると注意されたけどな」


ネココが被害者に金を返した事と、まだ常識が身についていない子供という理由で彼女は特別に罪を許された。そもそも子供を奴隷に落とすような真似は警備兵もしたくはないらしく、今後街中で問題を起こさない事を条件に罪を免れたらしい。


「流石にこの街には居づらいからあたしは他所の街に引っ越すよ。兄ちゃん達を探してたのは別れの挨拶を告げるためなんだ」
「え、そうだったの!?ちなみに何処の街へ向かうの?」
「ここから一番近いのはサンノだからそこへ向かう予定だけど……」
「丁度良かった!!なら俺達と一緒に行こうよ!!」


ナオはネココの話を聞いて渡りに船とはこの事であり、自分達と一緒に旅をしないのか提案した。


「実は俺とミズネは王都に向かう旅の途中なんだけど、乗り物がなくて困ってたんだ。それで良かったらウル君に協力してほしいんだけど」
「なるほど、うちのウルに乗せて欲しいんだな?けど三人乗りは流石にきついぞ。荷物だって運ぶのも大変だし……」
「そこでなんだけどウル君に馬車を引いてもらう事はできないかな?ネココの言う事は聞いてくれるんでしょ?」
「ああ、それなら何とかなるかも……王都か、あたしも実は一度行ってみたいと思ってたんだ」


ネココはナオの提案に乗り気であり、彼女はニノの街に居られないため、この機会にナオ達と一緒に旅をするのも悪くないと思った。彼女に懐いているウルが居れば道中の移動も楽となり、それに魔物に襲われる心配もなくなる。

白狼種に襲い掛かるような魔物は滅多におらず、ウルが同行しているだけで護衛の冒険者と馬付きの馬車を買う必要はなくなる。早速だがナオは馬車だけを購入し、それを街の外まで運んでもらってウルに引いてもらう計画を立てた。


「じゃあ、ミズネに紹介するからついて来てよ」
「あのいつも眠たそうな顔をしている姉ちゃんの事か?」
「……失礼な覚え方されてる」
「「うわぁっ!?」」


ナオのベッドの下からミズネが現れ、彼女が自分の部屋に居る事に驚く。ちゃんと鍵をかけて部屋を出たはずだが、どうして自分の部屋に隠れているのかとナオは戸惑う。


「ど、どうしてそんなところにいるのさ!?」
「……ナオを驚かせようと隠れてた。でも、中々帰ってこないから眠くなってずっと寝てたみたい」
「どうやって部屋の鍵を……」
「私の魔法なら鍵を開けることぐらい造作ない」


ミズネは杖を取り出して彼女は水の塊を作り出すと、鍵穴に水を流し込んで開けたという。高度な魔力操作の技術がなければ真似できない芸当であり、わざわざそんな真似までして自分の部屋に忍び込んだ彼女にナオは呆れてしまう。
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