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外の世界へ

第34話 ニノの街

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「――ここがニノか、イチノと比べて人は少ないんだね」
「……イチノは王国の一番端にある街、だから外国からの客もよく訪れるから観光客が多い。でも、この街も活気がある」
「ぷるるんっ♪」


ニノの街に到着したナオ達は宿屋を探す途中で観光を楽しみ、イチノよりも人気は少ないが過ごしやすさという点では勝っていた。イチノは何処に行っても人が多く、周囲に気を配って歩かないといけないので気が休まらなかった。

イチノよりも冒険者の数が多く、先日にイチノで出現したミノタウロスの討伐のためにニノから冒険者が派遣されたという話を聞いている。どうやらイチノよりもニノの冒険者の方が数も質も上回るらしく、立派な装備を身に着けた冒険者を道すがら見かけた。


「この街は武装している人が多いね。全員が冒険者なのかな?」
「……傭兵も混じっていると思う。最近は冒険者の方が人気があるけど、護衛の仕事なら傭兵の方が安上がりだと聞いてる」
「そういえばドルトンさんもそんな事を言ってたな」
「誰それ?」


商人のドルトンから聞いた話では商団が他の街に出向く際、護衛として冒険者か傭兵を雇う事は当たり前らしい。冒険者の場合は魔物が現れた時に対応できるが、傭兵は彼等と違って魔物退治を生業としているわけではないため、最近では冒険者の方が人気が高い。

世界各地で魔物が数を増やしている事もあって冒険者は頼られることが多く、近年は国の援助もあって冒険者ギルドも増えているらしい。


「冒険者か、俺も成人年齢を迎えたら入ってみようかな」
「ナオなら年齢に関係なく入れるはず。魔術師は年齢制限がなくなったと聞いてる」
「え、そうなの!?」


基本的には冒険者に就けるのは成人年齢を満たした者だけだが、魔術師の場合は特例として未成年でも加入できるという。子供でも魔法を扱えるだけで戦力となり、ナオがその気になれば冒険者にもなれる。


(冒険者か、子供の頃は憧れてたっけ)


わりと本気で冒険者になろうかと悩んでいると、街の広場に辿り着く。歩き疲れたのでナオは休憩を提案しようとした時、猫耳を生やした女の子が兵士に追いかけられる場面に遭遇した。


「こら、待ちなさい!!」
「盗んだ物を返せ!!」
「おい、そっちに周り込め!!」
「へへ、お前等なんかに捕まるかよ!!」


獣人族の女の子は捕まえようとしてくる兵士を躱し、彼女の動きを見てナオは驚く。女の子はまるで本物の猫のような身軽さで兵士の追跡を振り切る。


「悪いな、そこの兄ちゃんと姉ちゃん!!」
「うわっ!?」
「にゃっ!?」
「ぷるんっ!?」


女の子はナオとミズネの間を潜り抜けると、この際にスラミンが入ったカバンを奪い取る。鞄の中には先日のミノタウロスの討伐で得た大金も入っており、逃げようとする彼女にナオは慌てて追いかける。


「こ、こら待て!!泥棒!!」
「安心しなよ、後で返してやるって!!」
「……逃がさない」


鞄を抱えた状態で女の子は立ち去ろうとしたが、怒ったミズネは杖を構えると水球を作り出し、先日の盗賊を打ちのめした時のように「水の鞭」を放つ。


「アクアウィップ」
「うわっ!?」
「やった!!」


ミズネが繰り出した水の鞭が女の子の足を拘束し、彼女は逃げようとするが魔法で生み出されたは大人の男でも振り払えない。ナオは捕まえたと思ったが、女の子は気合を込めた表情を浮かべる。


「こんなもん!!」
「うわっ!?」
「おおっ……凄い」


女の子は足に力を込めると、血管が浮き上がって筋肉が膨張する。人間よりも運動能力に優れた獣人族の特性を生かし、全力で水鞭を振り払おうと跳躍した。

水鞭に足が絡まれた状態で少女は十メートルほど離れるが、ゴムのように伸びた水鞭は振り払えず、力を込めて前に進もうとするが離れる程に引き寄せる力が強まっていく。


「ふぎぎぎっ!?」
「えっと……捕まえていいのかな?」
「もうちょっと待って、そうすれば面白いのが見える」


街中にて少女がゴムのようにしなる水鞭に拘束された状態で足を引っ張る光景は異様であり、彼女を追いかけていた兵士や街の住民も固唾を飲んで見守る。やがて限界が来たのか少女は徐々に身体が引きずられていき、遂にはナオ達の元に引き寄せられる。


「うわぁっ!?」
「全くもう……鞄は返して貰うよ」
「ぷるるんっ!!」
「……お帰り」


鞄を取り戻すと中に隠れていたスラミンが嬉しそうにミズネの胸元に跳び込み、彼女はスラミンを抱き上げた。この時にミズネの意識が途切れたせいか少女を捕まえていた水鞭が消え去り、その一瞬の隙を逃さずに少女はナオの鞄を再び掴む。


「まだ返すと言ってないぞ!!」
「うわっ!?」
「あ、しまった……油断した」
「つ、捕まえろ!!」


再びナオの鞄を奪った少女は駆け出し、それを見た兵士が後を追いかけようとする。だが、ナオは少女に逃げられる前に手を伸ばして魔法を発動させた。


「ステータス!!」
「うぎゃっ!?」
「「「えっ!?」」」


少女が逃げる方向にステータス画面を移動させ、彼女は目に見えない画面に衝突して倒れた。全速力で駆け抜けていたのが仇となり、少女は目を回して意識を失う。それを見た兵士達は戸惑うが、慌てて少女を確保した――





――兵士が取り戻した鞄を返して貰った後、ナオ達は彼等から詳しい話を聞く。少女はこの街でも有名なスリであり、最近になって盗みを働くようになったらしい。兵士は何度も捕まえようとしたが失敗し、今回はナオ達のお陰で捕まえられた事に感謝した。


「本当にありがとうございます魔術師殿!!御二人共こんなにお若いのに魔法が扱えるとは大したものですな!!」
「はあっ……それよりもあの女の子はどうなるんですか?」
「子供とはいえ、今まで悪質なスリを行っていた以上、相応の罰を与えるつもりです。恐らくは奴隷堕ちでしょう」
「奴隷!?」
「おや、知らないのですか?この国では重犯罪を犯した人間は子供であろうと奴隷として扱われるのです」


ナオの暮していた村では奴隷などいなかったが、大きな街などでは奴隷は当たり前のように存在する。犯罪を犯した人間は奴隷に落とされて厳しい人生を送る事は決まっており、いくら子供であろうと犯罪を繰り返した者を許すわけにはいかない。


「くそっ、離せよ!!このロリコン!!」
「誰がロリコンだ!?いいから大人しくしろ!!」
「隊長!!早くこいつを屯所まで連行しましょう!!」
「ああ、分かっている。ではご協力感謝します!!」
「あ、あの……ちょっとその子と話をできませんか?」


兵士達は少女を連れ去ろうとするが、ナオは彼女が罰を受ける前に話を聞いておきたかった。兵士に拘束された少女の元に近づき、どうしてこんな真似をしたのか問い質す。


「君、どうしてスリなんてしたの?」
「……金が必要なんだよ。あたしの家族を助けるためにさ」
「病気?」
「嘘を吐くな!!お前の身元は判明している!!他の街の孤児院から脱走した子供だろう!!赤ん坊の頃に捨てられたと報告は受けている!!」
「孤児院の人間はもうお前とは関りはないとも聞いているぞ!!」
「うるさいな!!血は繋がってなくても家族いるんだよ!!」


少女の言い訳に兵士は否定するが、何故かナオは彼女が嘘を吐いてるようには思えなかった。彼女が言う家族が何者なのかは気になったが、兵士はそれ以上の質問をする前に連行しようとした。
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