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外の世界へ

第21話 水の魔術師

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「――ふうっ、ここまで来れば大丈夫」
「はあっ、はあっ……スラミン、大丈夫か?」
「ぷるんっ!!」


少女に連れられるままにナオは街中を駆け抜け、人気のない空き地に辿り着く。体力には自信はあったが少女は息切れ一つ切らさず、スラミンも元気そうに跳ね回る。


(何なんだこの娘?見たところ、人間だと思うけど……)


自分と同い年ぐらいと思われる少女にナオは不思議に思い、彼女が何者なのか尋ねようとした。だが、少女はスラミンを抱きかかえると何事か頷く。


「ぷるぷるぷ~るっ」
「ふむふむ……分かった」
「えっと、何してるの?」
「この子から貴方と自分の名前も教えてもらった。そっちがナオでこっちがスラミンで合ってる?」
「えっ!?」


スラミンと自分の名前を言い当てた少女にナオは驚きを隠せず、人語は理解できても人の言葉は話せないはずのスライムからどうやって聞き出したのかと戸惑う。


「ど、どうして俺達の名前を!?」
「だからこの子から聞いた。さっきこの街に来る前にミノタウロスに襲われた話も聞いてる」
「ええっ!?」


名前だけではなく、自分達が街に辿り着くまでの経緯を知っている事から本当に少女はスライムと会話できる様子だった。いったいどうやって魔物の言葉を理解しているのかは気になるが、改めてナオは少女の名前も知らない事を思い出す。


「き、君の名前は?」
「私の名前はミズネ、世界中を旅する魔術師」
「やっぱり魔術師だったのか……」
「ナオもそうなんでしょ?さっきの魔法、どうやったの?」


ミズネと名乗った少女はナオと同じく魔術師である事が判明し、彼女は先ほど獣人達を吹き飛ばしたナオの魔法に興味津々だった。相手が魔術師ならば下手な隠し事はできず、仕方なくナオは答えた。


「俺は古代魔法が使えるんだよ」
「古代魔法?それ本当?」
「嘘なんか言わないよ。ミズネは水属性の魔法が使えるの?」
「そう、一応は上級魔法まで扱える」
「へえ、そうなんだ」
「……反応が薄い。私の年齢で上級魔法を覚えている人は滅多にいないのに」
「ぷるるんっ(←暇なので蝶々を追いかけてる)」


上級魔法まで習得していると聞かされてもナオはどれほど凄い事なのか分からず、あまりの反応の薄さにミズネは不満そうな表情を浮かべる。彼女によれば上級魔法を扱える魔術師は滅多におらず、才能ある魔術師でも会得するのに数年の月日を費やすという。

ミズネの場合は幼少期から魔法の修業を受け、最近になって上級魔法を扱えるようになったという。彼女は上級魔法を覚えた事で一人前の魔術師として認められ、それからは一人で旅をしている。


「私は師匠に言われて旅をしている。一流の魔術師になるためには魔法の技術を磨くだけじゃ駄目、色々な経験を重ねる事で人間性も成長する必要があると言われた」
「へえ……そういえば先生も似たような事を言ってたな」
「先生?」
「うん、俺に魔法を教えてくれた人で……あっ」
「ぷるんっ?」


ナオはうっかりマリアの事を話しそうになったが、彼女の正体は秘密にしておくべきかと悩む。マリアは人嫌いであるため、自分の存在を他の人間に知られることを嫌う。その証拠に彼女は普通の人間が立ち寄れない森の奥に暮らしている。

マリアの事は他の人間には話してはならないと思い、どう誤魔化そうかと考えた時、離れた場所で蝶々を追いかけていたスラミンが戻ってきた。


「ぷるぷるっ……」
「うわ、急にどうしたんだ?」
「この子、お腹空いてるみたい。早くご飯を食べさせてあげて」
「ご飯って……もしかして水属性の魔石?」


スラミンが橋を封鎖していた時にドルトンが水属性の魔石を差し出そうとしていた事を思い出し、まさか魔石を買わなければならないのかとナオは焦るが、ミズネは杖を取り出す。


「大丈夫、魔石じゃなくても餌を与えられる」
「ど、どうやって?」
「こうすればいい……口を大きく開けて」
「ぷるんっ?」


言われた通りにスラミンは口元を開くと、コトミンは杖を構えた。まさかスラミンに魔法を仕掛けるつもりなのかとナオは焦って止めようとした。


「ちょ、ちょっと!?何するつもり!?」
「大丈夫、吹き飛ばしたりはしない……スプラッシュ」
「ぷるるるっ♪」


ミズネが呪文を唱えた瞬間、杖先から小さな魔法陣が展開されて水鉄砲のように水が噴き出す。スラミンは杖から生み出された水を美味しそうに飲むと、瞬く間に元気を取り戻した。


「ぷるるんっ!!」
「これでよし……こういう風に冷たい水を与えれば元気になる。あとは氷とかも飲み込むから覚えておいて」
「あ、ありがとう……今度からは水筒でも用意しておくよ」


コトミンの生み出した魔法の水を飲んでスラミンは元気を取り戻すと、お気に入りのナオの頭の上に移動した。仲睦まじい二人の様子を見てコトミンは頷き、スラミンの頭を撫でまわす。


「よしよし……ご主人様と仲良くしてね」
「ぷるんっ♪」
「色々とありがとう。それで聞きたいことがあるんだけど、さっきはどうして逃げたの?兵士の人に助けて貰えば良かったのに……」
「それは駄目……この街の兵士は信用できない」
「えっ?」


ミズネは兵士から逃げたのには理由があり、彼女が悪党に捕まった時、兵士と交渉しているのを見たという。


「あの木箱、実は小さな穴が開いていた。そこでさっきの奴が兵士の誰かと話しているのが見えた。多分、私を街の外に送り込むために兵士と手を組んでいたと思う」
「じゃあ、さっき来た兵士の人たちは……」
「もしかしたら悪党の仲間が紛れていたかもしれない……下手をしたら私達を悪人に仕立て上げて捕まえていたかも」
「そ、それはちょっと考え過ぎじゃない?」


兵士の中に悪党と通じる人間がいると聞いてナオは驚いたが、流石に兵士全員が悪党と繋がりがあるとは思えない。しかし、用心に越したことはなく、ミズネは早々に街を立ち去るつもりだった。


「まだ悪党の仲間が残っているかもしれない。私はもう街を出て行く」
「そっか……じゃあ、ここでお別れだね」
「ナオ、助けてくれてありがとう。スラミンも元気でね」
「ぷるんっ……」


ミズネはスラミンの頭を撫でて別れを告げると、二人に背中を向けて立ち去ろうとした。ナオは彼女を見送ろうとしたが、途中で何かに気付いたように振り返る。


「……私の荷物、盗まれたままだった」
「えっ……まさか財布も?」
「……ない」


杖は取り戻す事はできたが、他の荷物は全て悪党に没収されたままだと気付いたミズネは困った表情を浮かべる。財布がなければ次の街に向かう馬車の運賃も支払えず、今日の宿代さえも支払えない。

今から引き返しても悪党は兵士に連行されているはずであり、まさか屯所に出向いて悪党達から荷物の在り処を聞き出すわけにもいかない。ミズネの話では悪党と繋がりを持つ兵士がいるはずであり、迂闊に兵士と接触するのは危険過ぎた。


(……見捨てる訳にはいかないよな)


先ほどスラミンの餌を与えてくれたお礼も兼ねてナオはミズネに提案を行う。


「あのさ、ミズネが良かったら俺達と一緒に宿を探さない?実は俺も街に来たばかりで宿を借りてないんだ」
「でも、私はお金が……」
「大丈夫、助けてくれたお礼に俺が支払うよ」
「いいの?」
「別にいいよ。ミズネみたいに強くて頼りになる魔術師が一緒だと心強いし、それにスラミンも一緒がいいよな?」
「ぷるんっ♪」
「……ありがとう」


スラミンも賛成なのかナオの頭の上で何度も跳びあがり、そんな二人の言葉にミズネは頭を下げた。
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