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外の世界へ

第13話 画面車

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――ナオは村の中に残っていた「縄」と「荷車」を括り付け、そこから魔法を発動させてステータス画面に荷車と繋がった縄を括り付ける。絶対に外れない様にしっかりと縛り付け、荷車に乗り込んだ状態で画面を操作する。


「これならバランスが崩れる事はないけど……上手くいくかな?」


試しに画面を前方に移動させると、縄に括り付けられた荷車が画面に引き寄せられる形で移動を行う。まるで画面を馬代わりに利用する移動法に我ながらとんでもない使い方をしてしまったと呆れてしまう。


(先生がこれを見たらどう反応するかな……けど、この移動法なら歩くよりもずっと早く移動できるぞ)


画面に乗っての移動と比べて車輪が搭載されている荷車ならばバランスを保つのも難しくはなく、画面も無理に速度を上げ過ぎたり、方向転換を行わなければ荷車が倒れる心配はない。

運が良い事に街までは平坦な道のりが続いており、無茶な運転をしなければ荷車でも安全に辿り着けるはずだった。ナオは画面を操作して村から抜け出そうとすると、最後にもう一度だけ振り返る。


「……行ってきます」


もう誰も人は住んでいないのは承知済みだが、それでもナオにとってはこの村こそが故郷であり、自分の帰る場所だった。当分の間は戻ってこないと思われるが、マリアに再び会いに行く前は訪れるつもりだった。


「はあっ!!」


画面を前進させて荷車が壊れない程度の移動速度でナオは草原を駆け抜け、地図と方位磁石を確認して街が存在する方向へ走らせる。とでも名付ければいいのか、ともかくナオの乗り込んだ荷車は馬車を上回る移動速度だった。しかも普通の馬と違ってナオが魔法を維持できる限りは何時までも走り続ける事ができる。


(この調子で移動できればすぐに辿りつけそうだな。途中で川があるみたいだし、そこで休憩を挟もう)


草原には大きな川が流れており、こちらは橋が架けられているので荷車でも問題なく移動できた。但し、他の人間からすればナオの荷車は勝手に一人でに動ているようにしか見えず、もしも人前で見られたら騒ぎになってしまう。


(とりあえずは街に辿り着く前にこの荷車は隠しておかないと……)


自分が魔法を使える事は他の人間には極力隠すようにマリアから忠告されており、古代魔法の使い手など滅多にいない。もしも正体を知られたら面倒事に巻き込まれる可能性があると注意されていた。

魔術師は稀有な存在であり、彼等の力を利用しようとする輩は非常に多い。もしもナオが魔術師だと知られたら厄介事に巻き込まれる可能性が高く、当面の間は正体を隠して行動する必要があった。


(とりあえずは街に辿り着いたら要らない荷物は全部売ろう。旅をするならお金は必要だしな)


ナオは村を出る前に金目になりそうな物は持ち帰り、それらを売却したら昔から夢見ていた旅に出ようと考えた。小さな村で育ってきたナオにとって外の世界を旅するのは子供の頃から憧れており、とりあえずは王都を目指す事にした。


(一度でいいから都に行ってみたいと思ってたんだよな。いったいどんな場所なんだろう)


田舎で育ったナオにとっては王都がどんな場所なのか気になり、この機会に王都に赴くのを目的とした旅に出る事にした。しかし、王都に移動するまでは相当な金が掛かると予想され、そのために街に立ち寄って金目の物を売り、ついでに自分が稼ぐ手段を探す事にした。


(俺でも働ける場所があればいいんだけど……)


考え事をしながら画面車を走らせていると、遠くの方から大量の土煙が舞い上がっている事に気が付く。何事かと思ったナオは視線を向けると、巨大猪に馬車が追いかけられる光景が映し出された。



――フゴォオオオッ!!



馬車を追跡する巨大猪は森で見かけた事がある魔獣であり、名前は「ボア」という。ボアは猪と酷似した姿の魔物であり、しかもナオが暮らしていた森で見かけるボアよりも一回りは大きい。

とんでもない大きさのボアに馬車が追いかけられている光景を見てナオは驚き、徐々にボアは馬車に追いついていた。このままでは馬車が突き飛ばされるのは時間の問題であり、仕方なくナオは画面車を操作して馬車と並走する。


「あの!!大丈夫ですか!?」
「うわっ!?な、何だ君は!?」
「えっと……」



車を引く動物もいないのに高速で動き回る荷車に乗り込んだナオを見て、御者の男性は度肝を抜く。だが、今は事情を話している暇はないため、馬車の後方に迫るボアを指差す。


「あいつに追われてるんですよね!?俺が食い止めますからその間に逃げてください!!」
「食い止めるって……ど、どうやって!?」
「いいからこのまま走って下さい!!絶対に止まらないで!!」
「わ、分かった!!」


男性はナオの言葉に従い、全速力で馬を駆け抜けた。ナオは荷車の移動速度を落として馬車とボアの中間に移動すると、一か八かの賭けに出る事にした。


(これしか方法はない!!)


荷車に乗せていた荷物が入った袋を抱えると、中身をボアに目掛けて放り込む。大量の道具がボアの顔面に降り注ぎ、予想外の事態にボアは怯む。


「フガァッ!?」
「ここだっ!!」


ボアが移動速度を落とした瞬間、ナオは魔法を解除して荷車を引っ張っていた画面を消す。そして荷車が減速する前に馬車に目掛けて飛び込み、操縦者がいなくなった荷車はボアに衝突した。


「フゴォオオオッ!?」


荷車に巻き込まれたボアは横転し、それを見たナオは逃げ切れるかと思ったが、即座にボアは体勢を整えると再び追いかけてきた。しかも先ほどよりも移動速度が速く、このままでは追いつかれるのも時間の問題だった。


「おやおや……あれでは余計に怒らせただけではないかね?」
「あ、勝手に入ってすいません……けど、大丈夫です。作戦通りですから」
「ほほう」


馬車の中には初老の男性が座り込んでおり、身なりから商人だと思われた。彼は馬車の中に急に入り込んできたナオに対して取り乱さず、凶悪な魔物が後方から迫っているというのに余裕の態度を貫いていた。

只者ではない雰囲気を纏う商人にナオは気になったが、今はボアを仕留めるために右手を構える。そして馬車を打ち砕く勢いで突っ込んできたボアにナオは特大のステータス画面を放つ。


「吹き飛べ!!」
「プギャアアアアッ!?」
「おおっ!?」


商人の目にはナオが掌を構えた瞬間、馬車に迫っていたボアがまるでに阻まれたかのように停止し、顔面が陥没した状態で倒れ込む。皮肉にも自慢の突進力のせいで画面に衝突したせいで自爆したボアは動かなくなった――





――ボアが倒れたのを確認すると、馬車は停止してナオはボアに吹き飛ばされた荷物を取りに戻る。だが、ボアと衝突した際に殆どの道具は壊れて使い物にならそうであり、折角金に換えられそうな道具を無駄にしてしまった。


「あ~あ……勿体ないことしちゃったな」
「すまんのう……儂等を助けるために色々と迷惑をかけてしまったようじゃな」
「あ、いえ……気にしないでください」
「き、君、もしかして魔法使いなのかい?まだ見たところ随分と若そうだが、こんな恐ろしい魔物を倒すなんて凄いな!!」


ナオが助けた御者の男性と商人の老人は倒れているボアを確認し、こんな恐ろしい魔物を倒したナオに感心する。ナオはマリアに注意されていたのに人前で魔法を使ってしまった事にまずいと思った。


(しまった……あれだけ注意されてたのに見られちゃったよ。先生、ごめんなさい)


心の中でマリアに謝罪する一方、魔物に襲われていた人間を見捨てる事はできず、ナオは仕方ない事だと思って自己紹介を行う。
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