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プロローグ

第11話 別れの時

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――さらに半年の月日が経過し、遂にナオは吸魔石を所持した状態でも問題なく活動できる段階まで到達した。どんな状態でも吸魔石に触れても魔力を制御して奪われない様に抑制できるようになり、そのお陰で前よりもステータス画面を巧みに操れるようになった。


「先生、見ててくださいね!!」
「ふああっ……頑張りなさい」


早朝の時間帯にナオは寝ぼけ眼のマリアの目の前で気合を入れ、二十メートルは離れている岩に狙いを定める。この時にナオはで魔法を発動させ、手元に縮小化させたステータス画面を生み出す。


(よし、呪文を唱えなくてもちゃんと魔法が使えるようになった!!)


真面目に修行を続けてきたお陰でナオは無詠唱魔法を習得し、さらに画面も巧みに操作できるようになった。今のナオならば画面の拡大化や縮小化を一瞬で行い、岩さえも切断できる自信はあった。


「はああっ!!」


掌を天に向けた状態でナオは縮小化させた画面を高速回転させ、岩に目掛けて投げ放つ。これまでの練習で画面は縮小化させた方が回りやすく、さらに当てる際に拡大化させれば回転力を損なわずに攻撃できる事も把握済みだった。


「いっけぇっ!!」


ナオの掛け声と同時に高速回転した画面が岩に衝突し、真っ二つに切り裂く事に成功した。その威力はマリアの魔法にも劣らず、ナオは手元を引き寄せると画面が縮小化された状態で元に戻る。まるでブーメランの如く魔法を扱うナオの姿にマリアは感心する。


(たった一年でここまで成長するなんて……人間も侮れないわね)


ほんの一年足らずで古代魔法を自由自在に扱えるようになったナオにマリアは素直に感心し、これまで彼女は人間は非力でありながら傲慢な種族だと思い込んでいた。

子供の頃からマリアは同族から人間はエルフのように魔法の力や五感に優れているわけでもなく、それでいながら野蛮で自分の思い通りにならない存在を排除しようとする危険な種族だと聞かされていた。だから人間と交流するエルフは滅多におらず、マリアも滅多な事では人間とは関わらなかった。だが、ひたむきに努力するナオを見て少しは考えを改める。


「人間の中にも貴方のような子もいるのね……」
「え?」
「何でもないわ。さあ、修行はもう終わりよ」
「終わり?今日はもう帰るんですか?」


マリアの言葉にナオは本日分の修業はまだ残っているはずだと思ったが、彼女が告げた言葉は別の意味を含めていた。


「貴方の修業はもう終わりという意味よ。これ以上に私が教える事は何もないわ」
「え、ええええっ!?それって破門ですか!?」
「いえ、どっちかというと免許皆伝ね」


唐突に修行の終了を告げられたナオは驚愕するが、マリアはそもそも彼を弟子として迎え入れた理由を話す。


「忘れたのかしら?貴方を弟子にしたのは古代魔法の研究のためよ。この一年間を通して私は貴方の古代魔法の性質を見極めたわ」
「せ、性質?」
「ステータスという魔法は……防御だけではなく、攻撃を取り込んだ究極の防御魔法よ!!」
「な、何だって~!?」


マリアの言葉にナオは衝撃の表情を浮かべ、この一年間の実験でマリアは古代魔法「ステータス」がだと確信した。

通常の防御魔法は魔術師が自分の身を守るための魔法なのだが、ナオのステータスは相手の攻撃を防ぐだけではなく、時には攻撃に利用する事もできる。そんな芸当ができるのは彼の魔法だけであり、他の防御魔法は攻撃に利用する事はできない。

正確に言えば防御魔法の中にも相手の攻撃を吸収したり、攻撃を跳ね返す防御魔法もある。だが、防御魔法で攻撃を仕掛ける魔法は存在しない。


「攻防一体化させた究極の防御魔法とでも言えばいいかしら。ともかく、貴方の古代魔法の研究が済んだ以上、この森に留まる理由はないわ」
「そ、そんな……でも俺はまだ先生に教わりたいです!!」
「さっきも言ったでしょう。貴方に教えられる事は全て教えたのよ」


マリアはナオの肩に手を置いて微笑み、決して彼女はナオの事が嫌いになったから追い出そうとしているわけではない。むしろ、これ以上にナオが傍に居たら彼の存在が大きくなりすぎて別れたくないという気持ちを抱きそうになる。だからマリアはここが別れ際なのだと判断した。


「貴方は人間なのよ。エルフである私と何時までも一緒にはいられない……正直、私だって別れるのは寂しいわ」
「先生……」
「でも、貴方はもう立派な魔術師になった。もう見た目で差別するような人間が現れても魔法の力があれば虐げられる事はないわ」
「……分かりました」


ナオはマリアの弟子となったのは半ば強制的だったが、この一年間で彼女は優しい人だと気付いていた。実験と称して時々無茶な事をやらされもしたが、それでも尊敬に値する立派な人物だと思っていた。

マリアの指導のお陰でナオは魔術師となり、古代魔法も巧みに扱えるようになった。ここから先は自分の力だけで進まねばならず、今まで世話になった礼を告げる。


「先生、お世話になりました!!」
「これまでよく頑張ったわね。これは免許皆伝の証よ」
「え?これは……」


最後にマリアは緑色の宝石が括り付けられたペンダントを差し出し、ナオの首元に賭けてやった。こんな綺麗な物を受け取っていいのかとナオは躊躇するが、マリアは笑顔で説明した。


「これは宝石じゃないわ。世界樹の樹液を練り固めて作り出した樹石よ」
「樹石?」
「もしも酷い怪我や病気を患った際、これを砕いて飲めばすぐに治るわ。尤も簡単に壊れる代物じゃないから気を付けなさい」
「あ、ありがとうございます!!一生大切にします!!」
「無理せずに使いなさい」


マリアとしては旅の役に立てばいいという思いで渡した代物だが、ナオは絶対に壊さずに自分の宝物にする。家に戻るとナオは荷物をまとめ、改めて別れの挨拶を告げた。


「師匠……今まで本当にありがとうございました!!また来てもいいですか?」
「ええ、寂しくなったらいつでも来なさい。でも、すぐに帰ってきたら怒るわよ」
「はい!!立派な魔術師になるまで帰りません!!」
「そ、そこまで気負わなくていいわよ?」


元気よく手を振りながらナオはマリアに別れ、表面上は二人とも爽やかな笑顔を浮かべるが、お互いに顔を背いた途端に涙を流す。


「ううっ……ほ、ぼんどにありがとうございましたぁっ……」
「ええっ……いっでぎなさい」


涙と鼻水を流しながらナオとマリアは最後の言葉を交わすと、姿が見えなくなるまでマリアはナオを見送った――
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