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プロローグ

第10話 修行の成果

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(昼間の修業を思い出せ!!あんな大きい岩だって動かせたじゃないか!!)


マリアから受けた修行を思い返し、巨岩を動かす事もできる自分の魔法ならばゴブリンに負けるはずがないと信じてナオは掌を構えた。最初に狙うのは正面に立っているゴブリンであり、大声で呪文を唱えた。


「ステータス!!」
「ギャアアアッ!?」
「「「ギギィッ!?」」」


呪文を唱えた瞬間、凄まじい勢いで繰り出されたステータス画面がゴブリンに衝突した。昼間の時は突き飛ばす程度の威力だったが、今回は猛牛の突進でも受けたかのようにゴブリンの小さな体が派手に吹き飛ぶ。


「えっ!?」


攻撃を仕掛けたナオ自身もあまりの威力に呆気にとられ、吹き飛ばされたゴブリンは後方に生えていた樹木に衝突し、血反吐を吐き散らしながら地面に倒れ込む。その光景を見ていた他のゴブリンは顔色を青ざめた。


「ギ、ギギィイッ!?」
「ギィアッ!?」
「ギギィッ!?」
「あ、あれ……逃げるの?」


ゴブリンの群れは得体の知れない力で仲間を吹き飛ばしたナオに恐れを為し、一目散に逃げ出してしまう。あまりにも呆気なく逃げてしまったゴブリン達にナオは拍子抜けする。

敵が逃げるのならば追いかける必要もないかと思ったが、ナオは怪我をしていたゴブリンを思い出す。自分が止めを刺さなかったせいで仲間を引き連れてやってきた事を思い出し、また狙われると厄介なので怪我をしたゴブリンだけは仕留めようと手元に画面を戻す。


(あいつだ!!)


一匹だけ逃げ遅れているゴブリンを発見し、怪我のせいで上手く身体が動けないのか仲間に置いてけぼりにされていた。ナオはゴブリンに目掛けて昼間に編み出した攻撃を仕掛ける。


「名付けて……画面ブーメラン!!」
「ギィアッ!?」


ナオのネーミングセンスはともかく、縮小化された状態で高速回転した画面がゴブリンの首元に繰り出され、森の中に鮮血が舞う。首を切り落とす事はできなかったが、首筋を切り裂く事には成功した。


「アガァッ……!?」
「うっ……ど、同情はしないぞ」


首から大量の血を噴き出しながら苦しそうに悶えるゴブリンの姿にナオは顔を反らし、先ほど吹き飛ばしたゴブリンも念のために様子を伺う。こちらも既に死亡しており、遂にナオは自分だけの力で魔物を撃破した。


(何だろう……折角倒したのにあんまり嬉しくないや)


自力で魔物を倒せたというのにナオは死亡した魔物達の姿を見て素直に喜べず、苦しみも抱く姿に可哀想にも思えた。だが、相手は人間の天敵であり、情けは無用だった。

もしもナオが戦わなければ今頃は魔物の餌として喰らわれていた可能性があり、どんな魔物だろうと戦う時に躊躇してはならない。ナオは他の魔物に勘付かれる前に家に引き返す事にした――





――ナオが立ち去った後、木陰からマリアが姿を現す。彼女は密かに家を飛び出したナオの後を追いかけて尾行していたのだが、彼が家に戻る様子を見て安堵する。


(この森から逃げ出すつもりかと心配したけど、取り越し苦労だったようね。それにしても半年足らずで魔物を倒せるほどに魔法を使いこなすなんて……流石は私の弟子ね)


マリアは自分に隠れて魔法の練習を行っていたナオに感心し、まさかゴブリンを倒せる程に成長していた事に驚く。着実に魔術師としてナオは成長しており、この調子で修行を続ければさらに強くなれると確信した。


(人間も中々侮れないわね……それにしても前に増して魔物の数が増えているわね)


この数年の間に何故か魔物が数を増やしており、疑問を抱いたマリアは倒れている二匹のゴブリンの元に近寄り、ある事に気が付いた。


「こいつら……進化しかけているわね」


暗闇の中でもマリアの瞳はゴブリンの姿をはっきりと捉える事ができた。エルフである彼女は人間よりも視覚が優れており、通常種のゴブリンと比べてナオを襲い掛かったゴブリンは体格が大きい。

通常種のゴブリンは80~90センチ程度の身長しかないが、ナオを襲ったゴブリンはどちらも一メートルを超えていた。恐らくは逃げ出したゴブリン達も同じぐらいの身長であると思われ、違和感を抱いたマリアは早々に家に引き返す事にした。


(この森で何か異変が起きている?いえ、これはまさか……の前触れかもしれないわね)


数百年に一度起こると言われる大災害の予兆を感じ取ったマリアはナオの修業を急がせる事にした――





――翌日からナオは夜を迎えると密かに家を抜け出して練習を行う。ゴブリンとの戦闘でナオはステータス画面を乗り物のように利用して移動する手段を思いついたが、高速で移動する画面の上ではバランスを保つのが難しく、まずは画面に物を乗せた状態で自在に動かせるように練習を行う。


「よし、良い感じだ……これぐらいの速度なら問題ないか」


縮小化させたステータス画面の上に果物を乗せた状態でナオは操作を行い、どの程度の速度までなら果物が落ちない様のかを把握する。勿論、人間と果物では重量に大きな差があるため、慣れていけばもっと重い物を画面に乗せて調べるつもりだった。


「う~ん……あんまり速度を上げ過ぎるとすぐに落ちそうだな。画面が平だから転げやすいのかも。それなら画面の端を掴んで移動すればどうかな?」


ある程度の重量の物体を運べるようになると、ナオは画面に乗り込んで試しにうつ伏せの状態から画面の端を掴む。この状態ならば移動速度を上げ過ぎなければ落ちる事もなさそうだが、方向転換を行う際にバランスを崩す危険性もあった。


「こんな感じか?いや、こうかな……うわっ!?」


練習中にナオは誤って画面を反転してしまい、真っ逆さまに地面に落ちてしまった。想像以上に画面を利用した移動は難しく、乗り物のように使いこなすのは困難を極めた。


(そう上手くはいかないか……けど、上下に移動するだけならなんとかなりそうだな)


横に移動するのと違い、上下に移動するだけならば体勢を保つのもさほど難しくはなく、急激な上昇や降下を行わなければ画面から落ちる事はない。

今は無理だが魔力操作の技術を磨けばいずれは画面に乗った上での移動も可能になるかもしれず、今まで以上に修行に励む事にした。ナオはマリアから受け取った吸魔石を取り出し、それを掌に乗せて集中力を高める。


「ふうっ……よし、変化なし」


吸魔石に魔力を奪われなければ水晶玉に変化は起きず、この半年の修業で直に触っても魔力を吸収されない段階《レベル》まで到達した。だが、長時間触り続けると精神力が削られてすぐに疲れてしまう。


(師匠は俺みたいに集中しないでも魔力を自由自在に操る事ができる。俺も自然の状態で吸魔石に触れても魔力を奪われないようになれば……)


これからは吸魔石に触れた状態を維持する修行を取り組み、今まで以上に修行に励む事に決めた。その様子を家の窓からマリアはこっそりと様子を伺う。


「大分励んでいるわね。折角作ったけれど、邪魔したら悪いわね……」


マリアの手にはサンドイッチを乗せた皿が置かれており、彼女はナオの邪魔をするまいと自分で食べながら弟子の成長を見守る――
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