魔法使いじゃなくて魔弓使いです

カタナヅキ

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第74話 冒険者同士の戦闘

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「ガイア、ここは私達が調査している。邪魔をするなら出て行って」
「調査だと?」
「さっき起きた殺人事件の犯人がここに居た痕跡がある。調べれば何か手がかりが掴めるかもしれない」
「ほう、殺人犯がここに……」


ガイアはヒカゲの言葉を聞いても去る様子は見せず、興味深そうに辺りを見渡す。そんな彼に対してヒカゲは腰の短刀に手を伸ばす。


「こっちは忙しい。他所の冒険者と遊んでいる暇はない」
「ちっ、冷たいことを言うじゃねえか。殺されたギンの奴とは知らねえ仲でもねえ……協力してやってもいいぞ?」
「えっ!?ギンさんと知り合いだったのか!?」
「あいつとは同郷だ」


ガイアは殺害されたギンとは同郷で昔からの知り合いだと語り、ギンが殺されたと聞いてガイアは殺人事件の調査を行っているヒカゲの元に訪れたらしい。


「ギンの野郎を殺した犯人の目星はついたのか?」
「……まだ見つかっていない」
「ちっ、何だよ。黒虎の優秀な冒険者様でも犯人を見つけきれないのか?この俺様が協力すれば犯人なんてすぐに見つけ出してやるよ」
「その必要はない。他所のギルドの冒険者に手を借りるような恥知らずはうちのギルドにはいない」
「なんだとこのガキ……」
「ま、まあまあっ!!争いは駄目ですよ!!」


一触即発の雰囲気を察してレノはヒカゲとガイアの間に割り込む。ガイアは自分の前に立ったレノを見て冒険者のバッジを身に着けていないことに気が付く。


「ん?お前も黒虎の冒険者か?」
「あ、いや俺は……」
「その子は黒虎の冒険者じゃない。私達の調査に協力してくれているだけ」
「何だと!?なら一般人に調査を手伝わせてるのか!?」
「えっと……そういうことになるのかな」


レノが一般人だと知った途端にガイアは目つきを鋭くさせ、鼻を鳴らして空き地から立ち去っていく。


「ふん!!一般人を巻き込んで調査とは黒虎もたかが知れたな!!」
「な、何だよ!!なんか文句あるのか!?」
「うるせえっ!!ガキは黙ってろ!!」
「うわっ!?」
「ダイン君!?」


ガイアはダインを払いのけて空き地を立ち去ろうとしたが、そんな彼を見てミイネは短刀を抜いて背後に迫る。後方から気配を感じ取ったガイアは振り返ると、ミイネが短刀を振りかざす姿を目にした。


「ていっ」
「うおおっ!?な、何しやがる!?」
「ミイネ!?」
「ミイネちゃん!?」
「ええっ!?」


危うく切り付けられそうになったガイアは慌ててミイネから距離を取ると、短刀を構えたままミイネはガイアと向き直る。いきなり攻撃を仕掛けてきたミイネに全員が動揺を隠せない。


「て、てめえっ!!いきなり何をしやがる!?」
「それはこっちの台詞……私の部下を傷つけておいて無事に帰れると思う?」
「誰が部下だよ!?」
「ミイネちゃん駄目だよ!!他のギルドの冒険者さんと喧嘩したらギルドマスターに怒られちゃうよ!?」
「急にどうしたんですか!?」


ガイアがダインを払いのけた行為をミイネは挑発だと判断したのか戦闘態勢を取る。ガイアとしてはダインに本当に危害を加えるつもりはなかったが、いきなり切りかかられて黙っているほどお人好しではなかった。

短刀を構えるミイネに大してガイアは背中に背負っていた腕手甲のような装備を取り出す。それを見てレノは不思議に思うが、ダインは知っているのか驚きの声を上げる。


「ま、まさかあれって闘拳か!?他のギルドで使ってる奴は初めて見た!!」
「闘拳?」
「へっ、この俺に喧嘩を売るとはいい度胸だな!!」
「御託はいいからかかってきて」


闘拳と呼ばれる武器を両腕に装着したガイアは拳を擦り合わせ、ミイネに目掛けて突っ込む。馬鹿正直に突っ込んできたガイアにミイネは後方へ下がると、彼女は建物の壁を背にした。


「逃げ場はないぞ!!」
「っ……!?」
「あ、危ない!?」


ガイアはミイネに目掛けて腕を振りかざすと、彼女は跳躍してガイアの頭上を跳び越える。ガイアは止まらずに闘拳を装着した拳が建物の壁に叩きつけた。ガイアの拳が当たった箇所から壁に亀裂が広がる。


(この人、なんて腕力だ!?)


大きな亀裂ができあがった壁を見てレノはガイアの腕力に驚き、恐らくはホブゴブリンにも匹敵するほどの力を持っていた。


「へっ、すばしっこいのが取柄か!?」
「……まさか、今のが本気?」
「このクソガキ……いいだろう、だったら次は本気で殴ってやる!!」


壁を破壊しかねない勢いで殴り込んだにも関わらず、ガイアはまだ全力を出し切っていなかったのかミイネの挑発にガイアは怒りを露わにした。レノはミイネがガイアをわざと怒らせて隙を伺っていることに気付く。

単純な力勝負ではミイネはガイアに敵わないが、身のこなしと速さならばミイネに分がある。このまま戦闘を続ければ片方は無事では済まず、何としても止める必要があった。


「ダイン、影魔法で二人を止められないの?」
「ええっ!?ぼ、僕が止めるのか!?」
「止めないと本気で殺し合いをしかねないよ」
「わ、私も手伝う!!」


レノはダインとハルナに二人の争いを止めるように説得し、自分も弓矢を取り出して準備を行う。このまま二人を戦い続けさせればどうなるか分からず、最悪の事態を避けるためにレノは二人を止める方法を考えた。


(下手に割って入ればこっちが危ない!!でも、どうやって止めれば……そうだ!!)


矢筒から一本の矢を取り出すとレノはダインとハルナに耳打ちした。レノが考えた作戦を聞いて二人は驚きながらも賛同する。


「わ、分かった。それぐらいならなんとかなると思う」
「自信はないけど……でも、頑張るよ!!」
「頼んだよ二人とも……ウル、ちょっといい?」
「ウォンッ?」


レノはウルを自分の傍に寄せるとヒカゲとガイアの様子を伺う。ガイアは力任せにミイネに攻撃を仕掛け、それらを全て回避しながらミイネは空き地内を逃げ回る。


「おらぁっ!!いつまでも逃げられるとは思うなよ!!」
「そういう台詞は私を捕まえてから言って」
「このガキ……もう本気で怒ったぞ!!」


ミイネの挑発にガイアは苛立ちを募らせて攻撃が大振りになってきた。激しく動き回る分だけガイアの体力は削られて生き、ミイネの狙いはガイアが疲れた所で反撃を仕掛けるつもりなのだとレノは察した。

このまま戦い続ければミイネが勝つ可能性が高いが、もしもガイアの攻撃がミイネに当たれば彼女も無事では済まない。そうなる前にレノはウルに合図を出す。


「ウル!!今だ!!」
「ウォオオンッ!!」
「うおっ!?」
「っ!?」


ウルが雄叫びを上げるとガイアとヒカゲの注意が一瞬だけ逸れ、その隙を逃さずにレノは矢を放つ。


「付与《エンチャント》!!」
「はうっ!?」
「うぎゃっ!?」


レノが放った矢には聖属性の魔力が付与され、地面に衝突した際に閃光を発した。視界に強烈な光を浴びたガイアとヒカゲは目が眩み、その隙を逃さずにレノはダインとハルナに声をかける。


「今だ!!」
「シャドウバインド!!」
「え~いっ!!」


事前にダインとハルナには目を閉じるように指示していたため、閃光から免れた二人はガイアとヒカゲの元へ向かう。ダインは影魔法を発動させると、彼の影が細長く伸びてガイアの身体に絡みつく。一方でハルナはヒカゲに飛びついて彼女を抑え込んだ。


「うおおっ!?な、何だこりゃあっ!?」
「ど、どうだ!!僕の影魔法は!?」
「はぐぅっ!?」
「ヒカゲちゃん捕まえた~」
「ふうっ……作戦成功かな」
「クゥ~ンッ」


ダインの影魔法でガイアは拘束され、ヒカゲはハルナに抱きかかえられる。いくらガイアがホブゴブリン並の腕力の持ち主だろうとダインの影魔法は敗れず、ヒカゲもハルナの怪力には敵わずに拘束される。
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