魔法使いじゃなくて魔弓使いです

カタナヅキ

文字の大きさ
上 下
74 / 86

第73話 冒険者同士の争い

しおりを挟む
「被害者はここで倒れて死んだ。何か分かる?」
「ウル、頼んだよ」
「ウォンッ!!」


被害者が死んだ場所にウルは鼻を寄せて臭いを嗅ぎ、しばらくすると何かを嗅ぎつけた様に鳴き声を上げた。


「ウォンッ!!ウォンッ!!」
「こっちに付いて来てほしいみたいだけど……」
「まさか犯人の臭いを見つけたのか!?」
「ウルちゃん凄い!!」


ウルは地面に鼻先を擦りつけるように臭いを辿り、その後をレノ達は続いた。だが、ウルはとある人物の前に立ち止まった。


「ウォンッ?」
「……何?」
「あれ?」


何故かヒカゲの前にウルは立ち止まってしまい、不思議そうに首を傾げた。その行動にレノ達も戸惑うが、ヒカゲは思い出したように告げる。


「もしかして私が死体を調べた時の臭いが残っていた?」
「あ、そういえば……最初に死体の確認を行ったのはヒカゲさんでしたね」
「そうなんですか?」
「はい、我々が調査を行う前にヒカゲさんが現場を調べていました」


警備兵が調査する前にヒカゲは現場の確認を行い、時間的にはレノとヒカゲが遭遇する少し前まで遡る。どうやらウルが嗅ぎつけた死体の傍に残っていた臭いの正体はヒカゲだと判明した。


「ウル、ヒカゲさん以外の臭いは残ってないの?」
「スンスンッ……ウォンッ!!」
「おっ!?今度こそ見つけたのか?」


再びウルは死体のあった場所で鼻を嗅ぐと、再び何かを発見したように移動を始める。今度はヒカゲが居る場所ではなく、別の方向に移動を行う。


「どうやら何か見つけたみたい。貴方達はここにいて」
「分かりました!!どうかお気をつけて!!」
「皆、ウルの後に続く」
「お、おう!!」
「うん!!」
「よし、行こう!!」


兵士達を残してレノ達はウルの後に続き、彼が何処に向かおうとしているのかを確かめる。ウルは街道を歩いていると、路地裏の方へ向かう。この時にレノは違和感を覚えた。

ウルが曲がった路地裏はレノ達とヒカゲが遭遇した場所であり、ウルは路地裏の奥に向かっていた。違和感を抱いたのはレノだけではなくダインも遅れて気が付き、不安そうに彼は尋ねる。


「あれ?ここって僕達が居た場所だよな?何で戻ってきてるんだ?」
「さあ……」
「ウルちゃん、何処まで行くの?」
「ウォンッ!!」


路地裏の奥へ向かうウルにハルナは話しかけると、自分に付いて来いとばかりにウルは鳴き声を上げた。今はウルの嗅覚だけが頼りなのでレノ達は後に続くと、やがて建物に囲まれた空き地に辿り着いた。


「あれ!?ここで行き止まりだぞ!?」
「まさかこんな場所に空き地があったなんて……」
「結構広いね~」
「ウル、ここに犯人が居たの?」
「クゥ~ンッ……」


空き地に到着したレノ達はウルに尋ねると、ウルはきょろきょろと首を見渡す。どうやらここまで嗅いでいた臭いが急に消えたらしく、ウルは困った風に首を振る。


「どうやら臭いはここで途切れてるみたい」
「臭いは途切れてるって……ここ行き止まりだぞ?犯人はどうやって逃げたんだよ!?」
「出入口の通路は一つしかない……もしかしたらここから犯人は屋根に上って逃げたのかもしれない」
「え~!?じゃあ、屋根に上るの?」


ヒカゲの推理を聞いてレノも臭いが消えたのは犯人が何らかの方法で屋根に移動したとしか思えない。しかし、レノはある疑問を抱く。


「……ヒカゲさん、事件が起きた時間帯は分かりますか?」
「時間帯?」
「殺人事件はいつ起きたのか教えてください」
「……確か、1時間ぐらい前だったはず」


レノは事件が起きた時間帯を知ると、自分達が冒険都市に辿り着いた頃に起きたことが判明した。冒険都市に到着したレノ達は冒険者ギルドへ向かう途中に人だかりを目撃し、殺人事件が起きたことを知る。

殺人事件が起きたのはレノ達が通りがかる少し前であり、この時にレノは人だかりを調べるために別行動を取った。ハルナとダインは路地裏に隠れ、ウルは一目が着かないように路地裏の奥へ移動した。つまりはウルは既にこの場所にに立ち寄ったことを意味していた。


(俺達が人だかりを発見したのは事件が起きてからそれほど時間は経っていない時のはず……もしかしたらウルは犯人が来た後にこの場所に辿り着いていたのかもしれない。でも、ウルの反応を見る限りだと犯人は知らないようだけど……)


ウルがレノ達と離れていた際に怪しい人物を見かけていたのならば警告するはずであり、既に犯人はレノ達が来た時には現場から離れていたことになる。しかし、わざわざ犯人がこんな場所に来たことに違和感を覚える。


「……ここに犯人が逃げたとしたら手掛かりがあるかもしれない。すぐに警備兵を読んで現場を調べさせた方がいい」
「な、なるほど……じゃあ、僕が呼んでくるよ!!」
「ダイン君!?危ないっ!!」


ヒカゲの言葉を聞いてダインは引き返そうとした時、ハルナが大きな声を上げた。ダインは振り返ると自分の倍以上の背丈の大男が立っていることに気付いて悲鳴をあげた。


「うわぁあああっ!?」
「……巨人族?」
「おい、ガキ共……ここで何をしている?」


空き地に一つしかない出入口を塞ぐように現れたのは4メートルを超える大男であり、彼を見てヒカゲは「巨人族」と口にする。レノはそれを聞いてアルから聞いた話を思い出す。

巨人族とは名前の通りに普通の人間の倍近くの体躯を誇る種族であり、実物を見たのはレノも初めてだった。巨人族の男は自分を見て尻餅をついたダインを見下ろし、彼が装着しているバッジを見て鼻を鳴らした。


「ふんっ、誰かと思えば黒虎の冒険者か……ここで何をしている?」
「な、何だよお前!?や、やんのかこらぁっ……」
「あれ!?ダイン君いつの間にこっちに!?」
「は、早い!?」


ダインは一瞬でハルナの後方に移動して彼女の後ろに身を隠す。それを見た巨人族の男は小馬鹿にするように笑いかけた。


「ははははっ!!黒虎の冒険者の男は女を盾にするような腑抜けしかいないのか!?」
「な、何だと!?」
「ダイン、挑発に乗ったら駄目……そういう貴方も冒険者なの?」
「このバッジを見て分からないのか?」


男は自分の胸元を指差すと、ダイン達が所持するバッジよりも3倍近い大きさのバッジを身に着けていた。バッジは銀製であり、表面には赤色の獅子の紋様が刻まれていた。それを見てヒカゲは面倒臭そうな表情を浮かべる。


「その紋様……まさか赤獅子?」
「赤獅子?」
「いつも黒虎《うち》と張り合おうとする冒険者ギルドだよ!!」
「ふん、それはこっちの台詞だ!!」


巨人族の男の正体は赤獅子と呼ばれる冒険者ギルドに所属する冒険者らしく、男はダイン達が黒虎の冒険者だと知ると不機嫌そうに腕を組む。


「てめえらここで何をしてやがった!!こそこそと隠れやがってまた何か悪だくみでもしてんのか!?」
「こっちは仕事中……殺人事件の調査を行っている」
「殺人事件だと?またてめえらの所の冒険者が殺されたのか?こいつはお笑いだぜ、街を代表するギルドの冒険者がこうもあっさり何人も殺されるなんてよ!!黒虎の名声もがた落ちだなっ!!」
「お、お前っ……!!」
「ダイン、相手にしないで」


黒虎を馬鹿にした発言にダインは激高するが、そんな彼をヒカゲは抑えた。彼女も自分が所属するギルドを馬鹿にされて不満は抱いている様子だが、軽々と他所のギルドと揉めことを起こすわけにはいかない。

赤獅子は黒虎に次ぐ勢力の冒険者ギルドであり、レノ達の前に現れたのは赤獅子の中でも指折りの冒険者だった。名前は「ガイア」この街ではただ一人の巨人族の冒険者だった。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

屋台飯! いらない子認定されたので、旅に出たいと思います。

彩世幻夜
ファンタジー
母が死にました。 父が連れてきた継母と異母弟に家を追い出されました。 わー、凄いテンプレ展開ですね! ふふふ、私はこの時を待っていた! いざ行かん、正義の旅へ! え? 魔王? 知りませんよ、私は勇者でも聖女でも賢者でもありませんから。 でも……美味しいは正義、ですよね? 2021/02/19 第一部完結 2021/02/21 第二部連載開始 2021/05/05 第二部完結

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

『希望の実』拾い食いから始まる逆転ダンジョン生活!

IXA
ファンタジー
30年ほど前、地球に突如として現れたダンジョン。  無限に湧く資源、そしてレベルアップの圧倒的な恩恵に目をつけた人類は、日々ダンジョンの研究へ傾倒していた。  一方特にそれは関係なく、生きる金に困った私、結城フォリアはバイトをするため、最低限の体力を手に入れようとダンジョンへ乗り込んだ。  甘い考えで潜ったダンジョン、しかし笑顔で寄ってきた者達による裏切り、体のいい使い捨てが私を待っていた。  しかし深い絶望の果てに、私は最強のユニークスキルである《スキル累乗》を獲得する--  これは金も境遇も、何もかもが最底辺だった少女が泥臭く苦しみながらダンジョンを探索し、知恵とスキルを駆使し、地べたを這いずり回って頂点へと登り、世界の真実を紐解く話  複数箇所での保存のため、カクヨム様とハーメルン様でも投稿しています

転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった〜

霞杏檎
ファンタジー
祝【コミカライズ決定】!! 「使えん者はいらん……よって、正式にお前には戦力外通告を申し立てる。即刻、このギルドから立ち去って貰おう!! 」 回復術士なのにギルド内で雑用係に成り下がっていたフールは自身が専属で働いていたギルドから、何も活躍がないと言う理由で戦力外通告を受けて、追放されてしまう。 フールは回復術士でありながら自己主張の低さ、そして『単体回復魔法しか使えない』と言う能力上の理由からギルドメンバーからは舐められ、S級ギルドパーティのリーダーであるダレンからも馬鹿にされる存在だった。 しかし、奴らは知らない、フールが【魔力無限】の能力を持っていることを…… 途方に暮れている道中で見つけたダンジョン。そこで傷ついた”ケモ耳銀髪美少女”セシリアを助けたことによって彼女はフールの能力を知ることになる。 フールに助けてもらったセシリアはフールの事を気に入り、パーティの前衛として共に冒険することを決めるのであった。 フールとセシリアは共にダンジョン攻略をしながら自由に生きていくことを始めた一方で、フールのダンジョン攻略の噂を聞いたギルドをはじめ、ダレンはフールを引き戻そうとするが、フールの意思が変わることはなかった…… これは雑用係に成り下がった【最強】回復術士フールと"ケモ耳美少女"達が『伝説』のパーティだと語られるまでを描いた冒険の物語である! (160話で完結予定) 元タイトル 「雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜でも、ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった。噂を聞いたギルドが戻ってこいと言ってるがお断りします〜」

授かったスキルが【草】だったので家を勘当されたから悲しくてスキルに不満をぶつけたら国に恐怖が訪れて草

ラララキヲ
ファンタジー
(※[両性向け]と言いたい...)  10歳のグランは家族の見守る中でスキル鑑定を行った。グランのスキルは【草】。草一本だけを生やすスキルに親は失望しグランの為だと言ってグランを捨てた。  親を恨んだグランはどこにもぶつける事の出来ない気持ちを全て自分のスキルにぶつけた。  同時刻、グランを捨てた家族の居る王都では『謎の笑い声』が響き渡った。その笑い声に人々は恐怖し、グランを捨てた家族は……── ※確認していないので二番煎じだったらごめんなさい。急に思いついたので書きました! ※「妻」に対する暴言があります。嫌な方は御注意下さい※ ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇なろうにも上げています。

最低最悪の悪役令息に転生しましたが、神スキル構成を引き当てたので思うままに突き進みます! 〜何やら転生者の勇者から強いヘイトを買っている模様

コレゼン
ファンタジー
「おいおい、嘘だろ」  ある日、目が覚めて鏡を見ると俺はゲーム「ブレイス・オブ・ワールド」の公爵家三男の悪役令息グレイスに転生していた。  幸いにも「ブレイス・オブ・ワールド」は転生前にやりこんだゲームだった。  早速、どんなスキルを授かったのかとステータスを確認してみると―― 「超低確率の神スキル構成、コピースキルとスキル融合の組み合わせを神引きしてるじゃん!!」  やったね! この神スキル構成なら処刑エンドを回避して、かなり有利にゲーム世界を進めることができるはず。  一方で、別の転生者の勇者であり、元エリートで地方自治体の首長でもあったアルフレッドは、 「なんでモブキャラの悪役令息があんなに強力なスキルを複数持ってるんだ! しかも俺が目指してる国王エンドを邪魔するような行動ばかり取りやがって!!」  悪役令息のグレイスに対して日々不満を高まらせていた。  なんか俺、勇者のアルフレッドからものすごいヘイト買ってる?  でもまあ、勇者が最強なのは検証が進む前の攻略情報だから大丈夫っしょ。  というわけで、ゲーム知識と神スキル構成で思うままにこのゲーム世界を突き進んでいきます!

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

処理中です...