魔法使いじゃなくて魔弓使いです

カタナヅキ

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第71話 最後のチャンス

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「二人はゴブリンを倒してはいないかもしれませんけど、村の人達を避難させて守り切ったんです!!もしも二人がいなかったらどれだけ犠牲が出ていたか……」
「……悪いけど部外者は黙ってくれるかい?私はこの二人と話してるんだよ」
「村の人達も二人には感謝してました!!それに俺だってこの二人に命を助けられてるんです!!だからどうか首だけはしないでください!!」
「レ、レノ君……」
「お前、そこまで……」


レノがバルに頭を下げるとハルナとダインは感動するが、一方で頭を下げられたバルは面倒臭そうな表情を浮かべる。ここで意外なことにヒカゲが助け舟を出した。


「ギルドマスター……今回は大目に見たら?」
「ヒカゲ!?あんたまで何を言い出すんだい?」
「確かに二人は依頼を達成しなかった。でも、一応は村人を守るために頑張ったのも事実……それに村を襲った魔物を操っていた賞金首も捕まえてきた。これは評価すべきだと思う」
「例の魔物使いか……」


ハルナとダインが依頼を受けた村を襲ったゴブリンの群れは魔物使いが従えていた魔物だと判明しており、魔物使いを捕縛したことで今後は村が襲われる心配もなくなった。それを考慮すれば二人は依頼は果たせなかったが村を守り抜いたともいえる。

魔物使いの捕縛に関してはレノも協力しているが、ダインとハルナの協力が無ければ魔物使いを取り逃がしていた可能性が高い。だからレノは魔物使いを捕まえた功績を考慮して二人の首だけは辞めるように頼む。


「魔物使いを捕まえていなかったら今でも村の人たちが襲われていたはずです!!」
「私もその可能性は十分に有ると思う」
「むむむっ……たくっ、分かったよ!!依頼の失敗は賞金首を捕まえたことでチャラにしてやるよ!!」
「マ、マジで!?」
「やったぁっ!!」


首を宣告されると思っていたハルナとダインはバルの言葉を聞いて表情を明るくさせるが、そんな二人にバルは厳しく注意した。


「但し、許すのは今回限りだよ!!それと依頼人にはギルドの方から依頼料を返却する!!依頼を達成したわけじゃないから今回の報酬は無し、そしてあんた達の賞金首の懸賞金も無しだ!!」
「ええっ!?」
「そ、そんなっ……」
「ごちゃごちゃ文句を言うんじゃないよ!!本当なら首にしたところなんだからね!!」


依頼の報酬だけではなく、賞金首の懸賞金まで没収されたダインとハルナは落ち込むが、冒険者を辞めずに済んで首の皮一枚繋がった。レノは二人が首にならずに済んで安心するが、そんな彼にバルは振り返る。


「あんたにはうちのガキ共が色々と世話になったね。魔物使いの懸賞金に関してはあんたの取り分はちゃんと支払わせてもらうよ。懸賞金の半分ぐらいでいいかい?」
「え?いや、別にそういうのは……」
「お礼はちゃんと受け取っておいた方がいい。変に遠慮すると二人が気を遣う」
「ぼ、僕達のことは気にしなくていいよ。そもそもレノが居なかったら捕まえられなかったし……」
「そうそう、遠慮しなくていいよ~」
「そういうことなら……」


レノも魔物使いの捕縛に貢献したのでバルはちゃんと懸賞金を支払うことを約束する。ダインとハルナの報酬分は差し引かれるが、それでも十分な大金だった。


「さてと……ヒカゲ、あんたは任務に戻りな。この坊主の容疑が晴れた以上は犯人は別にいることになる」
「分かってる……疑ってごめんね」
「え?いや、別に気にしてないので……」


改めてヒカゲはレノに頭を下げて謝罪すると、彼女は殺人犯の調査を再開するために外へ出ようとした。だが、扉の前でヒカゲは何かを思いついたように振り返った。


「あっ、そうだ……君のワンちゃんを貸してくれない?」
「ワンちゃん?ウルのこと?」
「ウォンッ?」


部屋の隅で大人しく横たわっていたウルは声をかけられて顔を上げると、ヒカゲはウルの元に近寄る。しかし、ヒカゲに色々な目に遭わされたウルは不機嫌そうに唸り声を上げる。


「グルルルッ……!!」
「……もしかして私、嫌われてる?」
「ウル、落ち着け……ほら、良い子だから」
「クゥ~ンッ」


レノに頭を撫でられてウルはようやく機嫌を直すが、そのウルの態度を見てヒカゲは困った表情を浮かべる。そんな彼女を見てバルは何がしたいのかを尋ねた。


「ヒカゲ、そのワンコロをどうしたいんだい?」
「狼の魔獣なら普通の犬や狼よりも嗅覚に優れているはず……殺害現場に連れて行けば何か手がかりが掴めるかもしれない」
「なるほど……けど、その様子だとワンコロはあんたが嫌いみたいだね」
「ウォンッ!!」


ウルはレノの背中に隠れて鳴き声を上げ、ヒカゲに従う様子はない。そんなウルを見てバルは飼い主のレノに頼む。


「そのワンコロはあんたの言うことなら聞くんだろ?だったらあんたも事件の調査に協力してくれないか?勿論、報酬は出すからさ」
「え?でも……」
「賞金首の懸賞金の受け取りはちょっと時間が掛かるからね。夕方までには用意できると思うけど、それまでここで待つのも暇だろう?悪いけど人助けと思って手伝ってくれないかい?」


賞金首の懸賞金を受け取るには犯罪者を警備兵に引き渡し、それから色々と手続きを行う必要がある。そのため懸賞金が支払われるまでしばらく時間が掛かるため、その間だけバルはレノに調査の協力を依頼した。

懸賞金に調査の報酬が上乗せされるならばレノも断る理由はなく、これから旅をする以上はお金はいくらあっても困ることはない。夕方までの間だけレノは捜査に協力する。


「ウル、力を貸してくれる?」
「クゥ~ンッ……」


レノの頼みを聞いてウルはヒカゲの元に近付き、自分の言うことを聞いてくれるのかと思ったヒカゲはウルの頭に手を伸ばすが、それに対してウルは身体を引いて避ける。


「ウォンッ!!」
「むうっ……全然懐いてくれない」
「ウルちゃんは恥ずかしがり屋さんなだけだよ。ほら、こっちにおいで~」
「クゥ~ンッ」


ヒカゲの代わりにハルナが頭を撫でるとウルはくすぐったそうな表情を浮かべ、いつの間にかハルナにも懐いていたことが判明する。それを見たバルは良いことを思いついたとばかりに提案してきた。


「そうだ。ハルナもダインも仕事終わりで今は暇だね?ならあんた達もヒカゲの仕事を手伝ってやりな」
「ええっ!?何で僕達まで!?帰ってきたばかりで疲れてるのに……」
「仕事を失敗しておいて呑気に休もうなんていい度胸じゃないかい……何だったら今から私がその腑抜けた根性を鍛え直してやろうかっ!?」
「ひいっ!?そ、それだけは勘弁を!!」
「……ギルドマスター、私に面倒役を押し付けないで」


ダインとハルナも同行することが決まるとヒカゲは心底面倒くさそうな表情を浮かべるが、そんな彼女にバルは悪びれもせずに告げた。


「人手は多い方がいいだろう?それにこいつらを放っておくと何を仕出かすか分からないからね。年長者のあんたがしっかりと見張っておくんだよ」
「あの、一番の年長者は僕なんだけど……」
「細かいことはいいんだよ。ほら、私は今から仕事だからさっさと出て行きな!!」
「うわわっ!?」
「わわっ!?」
「お、横暴だ!!」
「キャインッ!?」


バルは部屋から全員を追い出すと扉に鍵をかけ、しばらくすると部屋の中から大剣の素振りの音が聞こえてきた。仕事をすると言い出しながら再び身体を鍛え始めたらしく、そんな彼女にヒカゲはため息を吐いてレノ達に振り返る。
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