魔法使いじゃなくて魔弓使いです

カタナヅキ

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第69話 砲撃魔法

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「ほら、勿体ぶらずにやりな!!」
「わ、分かったよ!!やればいいんだろやれば!!」
「おい、皆早く離れろ!!失敗したら巻き込まれるぞ!?」
「ほら、レノ君もこっちに来て!!」
「わっ!?」


テボンが砲撃魔法を発動する前に冒険者達は彼から距離を取り、レノはハルナに手を引っ張られて離れる。テボンは杖を的に向けたまま目を閉じると、意識を集中させてぶつぶつと呟く。


「熱、火、炎……熱、火、炎!!」
「……ねえ、あれ何してるの?」
「しっ、集中してるんだよ。あれでも真面目にやってるんだから茶化すんじゃないぞ」


小声で何度も「熱」に関係する言葉を呟くテボンにレノは不思議に思うが、魔法の系統は異なるがテボンと同じ魔術師であるダインによるとふざけているわけではなく、魔法を発動させるために必要な手順らしい。

目を閉じたままテボンは何度も同じ言葉を繰り返すと、やがて彼の所有する杖に異変が起きた。テボンが所持する杖には赤色の水晶玉が装着されており、それを見てレノはダインが所有する杖と似ていることに気が付く。


(そう言えばダインの持っている杖には闇属性の魔石が装着されてるんだっけ。そうなるとあの人が持っている杖の水晶玉も魔石なのか?)


水晶玉の色合いでレノはテボンが杖に取り付けている魔石はダインが所有する魔石とは別物だと見抜き、色合いから察するに「火属性」の魔石だと判断した。そしてレノの推理を証明するかのようにテボンの杖に異変が起きた。


「ファイアボール!!」
「わっ!?」


テボンが呪文らしき言葉を唱えると杖に取り付けられた魔石が光り輝き、杖先に赤色の魔法陣が誕生した。魔法陣の大きさは50センチ程度であり、中央から炎の塊が出現した。それを見た冒険者は騒ぎ出す。


「出た!!テボンの十八番のファイアボールだ!!」
「ファイア……ボール?」


他の冒険者の言葉を聞いてレノはテボンの生み出した炎の塊を見る。名前の通りに球体型の炎を想像させ、テボンが杖を振り下ろすと炎塊は的に向かう。


「ファイアボール!!」
「うわっ!?」


不規則な軌道で杖から放たれた炎塊は的に衝突した瞬間、爆発を引き起こして粉々に吹き飛ばす。それを見たレノはその威力に驚く。

テボンが作り出したファイアボールの大きさはせいぜいが20~30センチ程度の大きさの炎塊だったが、威力に関してはホブゴブリンでも黒焦げにできる程の破壊力はあると思われた。だが、発動するのに大分時間が掛かり、魔法を繰り出した途端にテボンは額に汗を滲ませて膝をつく。


「はあっ、はあっ……も、もう勘弁して下さいよ」
「たくっ、情けないね……ファイアボール一発でその様じゃ、まだまだ一流の魔術師は名乗れないね」
「そ、そんな~……」


たった一回魔法を使っただけで膝を崩したテボンにバルは呆れ、見学していた冒険者達に声をかける。


「ほら、見世物じゃないんだよ!!あんたらも自分の訓練を再開しな!!」
「え~……もっと魔法見せてくださいよ!!」
「そうそう、魔法を間近で見れる機会なんて滅多にないんだしさ!!」
「この私に口答えなんて良い度胸じゃないかい……なんだったら今から私が実戦訓練の相手をしてやろうかい!?」
『失礼しましたっ!!』


バルが拳を鳴らしながら一歩近づいた途端に冒険者達は一目散に逃げ出し、それぞれが自分の訓練に励む。そんな彼等を見てバルは呆れるが、改めて彼女はレノに振り返って尋ねた。


「どうだい?その様子だと砲撃魔法を見るのは初めてのようだね」
「ま、まあ、そうですね……」


魔法を見る事自体は初めてではないが、レノが知っているのはアルが扱っていた風の魔法だけであり、テボンが使用した「ファイアボール」という名前の砲撃魔法は初めて見た。アルの扱う魔法とは属性の違いもあるが、魔法の性質が根本的に異なる気がした。


(師匠の魔法は杖も魔石もなくても使えたけど、あの人の魔法は魔石を利用して魔法を強化しているように見えた。それにしてもあの威力、ホブゴブリンぐらいなら一発で倒せそうだ)


発動までにそれなりの時間はかかったが、粉々に吹き飛んだ弓当て用の的を見てレノは感心する。これほどまでの威力ならばホブゴブリン程度の魔物なら確実に倒せる。だが、バルは衝撃の事実を伝えた。


「言っておくけどさっきのファイアボールは砲撃魔法の中でも一番威力が弱い下級魔法の一種だよ」
「えっ!?あれで一番威力が弱い!?」
「驚いたかい?ただの下級魔法でもこれだけの威力を誇るんだ。魔物との戦闘では一番頼りになるから魔術師の冒険者は人気が高いんだよ」


レノが目にしたファイアボールは火属性の砲撃魔法の中でも一番弱く、それにも関わらずにホブゴブリン程度の魔物ならば一発で仕留める威力はあった。レノは砲撃魔法の威力の凄さを思い知る。

砲撃魔法は攻撃特化の魔法であるため、魔物との戦闘ではこれ以上にないほど頼りになる。一番弱い下級魔法でも十分に役立つため、魔術師の冒険者は魔物退治を主とする冒険者の職業で最も活躍が期待されていた。


「あんたの付与魔法も中々だったけど、単純な威力ならうちのギルドの魔術師も負けていないよ」
「はあっ……」
「ちなみにテボンはうちに所属する魔術師の中でも一番弱いからね」
「ひ、ひでぇっ……俺、頑張ったのに」


テボンはバルの言葉に落ち込むが、彼の場合は下級魔法を発動させるのに何十秒も時間をかけてしまったことをバルは注意する。


「あんたは毎回時間をかけ過ぎなんだよ!!たかがファイアボールを作り出すのにどれだけ待たせるんだい!!もっと早く撃てるようにならないと何時まで経っても階級は上がらないよ!?」
「で、でも魔法の構築は集中力がいるんですよ!!もしも途中で失敗したら大変なことに……」
「そうだとしてもあんたの場合は慎重過ぎるんだよ!!一流の魔術師なら下級魔法なんて一瞬で造り出せるんだよ!!私の知り合いの魔術師の爺なら30秒もあれば10回以上はファイアボールを撃ちこめたよ!!」
「そ、そんなことを言われても……」
「うへぇっ……相変わらずスパルタだな」
「ちょっと可哀想……」
「自業自得」


一流の魔術師ならばテボンと違って下級魔法を発動させるのに何十秒も時間をかけないらしく、バルの説教にテボンは反論さえ許されなかった。その一方でレノは魔術師がどれほど凄いのかを思い知る。


(やっぱり本物の魔術師は凄い力を持ってるんだな……俺なんてまだまだだな)


付与魔法を覚えたての頃はレノは自分も魔術師になれたと思い込んでいたが、バルが語る一流の魔術師と比べるとまだまだ力不足である事を思い知る。同時に魔法にはいくつもの種類があるとも知れた。

アルの扱う魔法、レノの付与魔法、テボンが扱った砲撃魔法、どれも性質が大きく異なり、に関しては砲撃魔法が一番優れているのは間違いない。


(きっと腕の良い魔術師はもっとすごい攻撃ができるんだろうな……)


砲撃魔法の存在を知ったことでレノは付与魔法を利用した攻撃手段を身に着けたとしても、威力という点では付与魔法では砲撃魔法には遠く及ばないと判断した。だが、威力で劣るからといって自分の付与魔法が砲撃魔法に劣るとは微塵も考えなかった。
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