魔法使いじゃなくて魔弓使いです

カタナヅキ

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第68話 ギルドマスターの実力

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(あんな重そうな大剣を軽々と!?やっぱり、この人凄く強い!!)


大の男が数人がかりで持ち上げる大剣をバルは一人で、しかも片腕だけで持ち上げる姿にレノは内心驚く。他の人間は特にバルが大剣を軽々と振り回す姿を見ても反応は示さず、普段から彼女が退魔刀という名前の大剣を扱う姿を目撃しているから驚きもしないことが伺える。

退魔刀を手にしたバルは素振りを行い、刃を振り下ろすだけで土煙が舞い上がる。それを見てレノはこれから彼女が何をするつもりなのか疑問を抱くと、バルは退魔刀を構えた状態でレノに伝えた。


「よし、準備はできたよ。さあ、今度は私に目掛けて矢を放ちな!!」
「え、ええっ!?」
「ギルドマスター!?急に何を言い出すんだよ!?」
「あ、危ないよ~!?」
「……なるほど、そういうこと」


バルの発言にダインとハルナも流石に驚いた表情を浮かべるが、ヒカゲは何かを悟ったように腕を組む。レノとしてはいきなり矢を撃つように言われて戸惑うが、バルは退魔刀を構えた状態で告げる。


「安心しな!!もしもあんたの矢で私が怪我をしてもあんたを責めたりしないよ!!ここにいる全員が証人さ!!全ての責任は私が取る!!」
「で、でも……人に向けて撃つなんて」
「いいから遠慮せずに撃ってきな!!私を誰だと思ってるんだい!?これでも元黄金級の冒険者だよ!?」
「黄金級……」


自信満々な表情で自分に矢を撃てと催促してくるバルに対し、不安を抱きながらもレノは準備を行う。黄金級冒険者がどれほど凄い存在なのかはここに来るまで聞かされているが、それでも人を相手にレノは本気で魔力を込めた矢を撃ったことはない。

腕を震わせながらレノはバルに向けて弓を構え、それを見たヒカゲは何かに気付いたように考え込む。ダインとハルナも不安そうな表情を浮かべるが、他の冒険者は興味深そうにレノたちのやり取りを観察する。


「おいおい、ギルドマスターが本気だぞ!!」
「いったいどうなるんだ!?」
「本当に大丈夫なのか?」
「馬鹿、誰の心配してんだよ!!あのギルドマスターだぞ!?大丈夫に決まってんだろ!!」


弓魔術の本当の威力を知らない人間はバルがレノの矢を受けても平気だと思い込んでいるが、レノ自身も本気で魔力を付与させた状態で矢を撃った事はないのでどうなるのか分からなかった。


(本当に大丈夫なのか?もしも狙いがずれてギルドマスターに当たったら……死んじゃうかもしれないんだぞ)


身体の震えが止まらず、失敗すれば自分の手で人を殺してしまうかもしれないという恐怖にレノはまともに弓を構えられない。そんなレノの不安を見抜いたのかバルは大声で声をかける。


「緊張する必要はない!!私をとでも思って本気で撃ちこみな!!それともあんたは人を撃つこともできない臆病者なのかい!?」
「くっ……!?」
「そんなんじゃあんたの師匠もたかが知れてるね!!人を撃つこともできない半端者を旅に出すなんて……師匠失格だよ!!」
「し、師匠は関係ない!!馬鹿にするな!!」


敬愛する師を馬鹿にされたこと、そして親の仇という言葉にレノは怒りを抱く。バルは知らないがレノの両親は既に亡くなっており、殺された日のことを思い出してしまう。

両親が殺された時の出来事を思い出したレノは魔物に無惨に殺される両親の姿を思い出し、無意識に矢に付与魔法を施す。正気を取り戻した時は既に時が遅く、矢に風属性の魔力を付与させてしまった。


「付与《エンチャント》!!」
「うわっ!?」
「きゃっ!?」
「にゃっ!?」


レノが付与魔法を発動させた瞬間、矢の先端に渦巻が纏う。最低限の魔力しか付与しなかった時は矢の全体に風の魔力が纏っていたが、限界まで魔力を付与した場合は矢の先端部分に魔力が勝手に集まる。


(なんだこれ!?今までと感覚が違う!?このままだとまずい……!?)


これまでとは異なる魔力の流れにレノは戸惑い、このまま矢を放てば大変なことになるのは分かった。しかし、既に途中で止められる段階ではなかった。


「うわぁあああっ!?」
「うひゃっ!?」
「わわっ!?」
「離れてっ!!」
『うわぁっ!?』


弓から解き放たれた矢は先ほどの何倍もの風の魔力をまとった状態でバルの元へ向かい、撃ちこんだ際に風圧が発生してレノと傍に居た者達は地面に尻餅をつく。その間にも矢は凄まじい速度でバルの元へ向かう。


(こいつは……なるほど、面白いね!!)


風の渦巻を纏いながら迫りくる矢に対してバルは笑みを浮かべ、彼女は退魔刀を上段に構えた状態から振り下ろす。刃と鏃が衝突した瞬間、強烈な衝撃波が発生して地面を抉る。

結果から言えばバルが振り下ろした退魔刀は矢を真っ二つに切り裂き、二つに分かれた矢は左右に分かれて飛んでいく。そして建物を取り囲む柵に衝突し、矢に纏っていた風の魔力が暴発して風圧を生み出す。矢が突き刺さった箇所の柵は粉砕した。


「……はっ、ははっ、流石に今のは冷やっとしたね」
「だ、大丈夫ですか!?」


冷や汗を流しながらバルは退魔刀を持ち上げ、慌ててレノは起き上がると彼女の安否を確認した。バルは正面からレノが本気で魔力を込めた矢を切り裂き、無傷で戻ってきた。


「大丈夫に決まってんだろ?それよりもあんたらの方は平気なのかい?」
「な、何とか……」
「びっくりしたよ~」
「スカートだったら大変なことになってた」
「ううっ……お、終わったのか?」
「な、何が起きたんだ?」
「うわっ!?何だこれ、柵が壊れてるぞ!?」


バルは自分よりも矢を放つ際に転んでしまったレノや冒険者達を心配し、遅ればせながら彼等も状況を理解した。レノが放った矢によって柵の一部が壊れてしまい、それを見たバルは頭を掻く。


「うちの頑丈な柵を壊すなんて大したもんだね……今の攻撃は砲撃魔法並の威力はあったよ」
「え?砲撃魔法?」
「何だいあんた、魔法を使えるのに砲撃魔法も知らないのかい!?」
「す、すいません……」


砲撃魔法と言われてもレノは聞いたことがなく、少なくともアルから教わったことはない。バルはそんな彼に砲撃魔法のことを説明した。


「砲撃魔法というのは魔術師の攻撃魔法の一種で、魔力を圧縮して撃ちこむんだよ」
「は、はあっ……」
「……まあ、実際に見た方が分かりやすいね」


砲撃魔法の説明を聞いてもレノは理解できず、それを見てバルは集まった冒険者達に視線を向け、20代後半の男性冒険者を指差す。


「テボン!!あんた砲撃魔法も使えただろ!?こいつに見せてやりな!!」
「ええっ!?そんないきなり言われても……」
「魔術師の癖に仕事もせずにこんな場所にいるということは暇なんだろ!?いいからケチケチせずに見せてやりな!!」


テボンと呼ばれた男性は逃げようとするがバルに首根っこを掴まれ、無理やりにレノが先ほどまで立っていた場所に移動させる。テボンの正面には弓当て用の的が用意されており、バルは彼に砲撃魔法を使うように促す。


「ほら、あの的に向けてあんたのお得意の魔法を見せてやりな!!」
「ちょっと勘弁してくれよ!!仕事帰りで疲れている時に砲撃魔法なんて……」
「いいからさっさと見せな!!あんたの腕が錆びていないか見てやるよ!!」
「お、横暴だ!!」
「うわっ、災難だなあいつ」
「ギルドマスターに目を付けられたのが運の尽きだったな……」


杖を手にしたテボンは弓当て用の的に杖の先端を構え、砲撃魔法の準備を行う。レノはどんな魔法を繰り出されるのか緊張しながら様子を伺う。
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