魔法使いじゃなくて魔弓使いです

カタナヅキ

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第65話 調査の協力

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「今回の被害者を殺した犯人が弓矢を扱っていた場合、撃った矢をどんな方法で回収したのかが問題……いくら一般人の目に見えない速度で矢を射抜いたとしても、矢が残っていたら怪しまれる。だから迅速に矢を回収する仲間が必要」
「それがこのワンコロだっていうのかい?」
「街中で人が死ねば注目は死んだ人間の方に向けられるはず、その間に普通の犬よりも素早く動ける狼型の魔獣なら、誰にも見つからずに矢の回収を行って逃げることもできる」
「そんな無茶苦茶な……」


ヒカゲの発言にレノは唖然とするが、話を聞いていたバルは考え込む。ヒカゲの推理は無茶な部分もあるが、彼女はウルに視線を向けて尋ねる。


「このワンコロ……いや、狼はあんたのペットかい?」
「え?ペットというか……少し前に懐かれてずっと付いてくるんです」
「懐かれた?」
「そんなのは有り得ない。犬猫ならともかく、狼の魔獣が自然と人に懐くことなんてない」
「クゥ~ンッ」


会話の際中にウルはレノに擦り寄り、どう見てもレノに甘えているようにしか見えない。しかし、普通の犬ならばともかく、野生の魔獣は決して人間に懐くことはない。魔獣を従えるには生まれた時から育てなければ人に懐くことは有り得ないと信じられていた。

レノは知らないがウルは元々は野生の狼ではなく、とある人物の元で育てられていた。その人物はレノの師匠のアルと知り合いであり、彼女の頼みでウルはレノと行動を共にしていた。しかし、そのウルの存在がレノに疑いを抱かせる。


「本当にその魔獣はあんたが育てたんじゃないのかい?」
「いや、この子は廃村で出会ったんです。なんでかこんな風に懐かれて……」
「魔獣に懐かれるなんて魔物使いでもない限りは有り得ない。それとも貴方は魔物使いなの?」
「まさか……俺が使えるのは付与魔法だけです」
「付与魔法?何処かで聞いたような……」


付与魔法と聞いてバルは心当たりがあるのか考え込むが、ヒカゲはレノに懐いているウルを指差しながら告げた。


「狼の魔獣が懐いている以上は君は普通じゃない。それにエルフの弓を扱える人間なんて聞いたこともない……はっきり言って君は怪しすぎる」
「ちょっと待てって!!レノはこの街に来たのは初めてなんだぞ!?それにずっと僕達と一緒に居たんだ!!」
「そうだよ!!レノ君が殺人犯のはずがないよ!?」
「本当にずっと一緒に行動していたの?一週間前と四日前の事件の時、貴方は二人と行動を共にしてた?」
「……いや、二人と一緒になったのは昨日からだけど」


レノがダイン達と出会ったのは昨日からであり、第一と第二の殺人事件の時は二人と行動を共にしていない。しかし、第三の事件が起きる前はダインとハルナと行動を共にしていたのは間違いない。


「前はともかく、今日はずっとこいつは僕達と一緒に居たんだぞ!!だから今回の殺人事件とは何の関係もないはずだ!!」
「そうだよ!!レノ君はずっと私達と一緒に居たもん!!」
「それは本当かい?」
「はい、この街に来てからは二人と一緒に居ました」


バルの質問にレノは自身を持って答え、少なくとも第三の事件が起きた時はレノは二人と行動を共にしていたのでアリバイはあった。それを聞いてバルはヒカゲに尋ねた。


「二人はこう言ってるけど、何か反論はあるかい?」
「……二人がそういうのなら犯人じゃないかもしれない」
「だからさっきからそう言ってるだろ!?」
「良かった~やっと信じてくれたんだね」
「ほっ……」


あっさりとヒカゲが引き下がったことにレノ達は安堵するが、彼女はまだ完全に疑いを晴らしたわけではないのか話を続ける。


「でも、二人が嘘を吐いている可能性もある。弱みを握られて嘘の証言を言うように脅されているんじゃないの?」
「はあっ!?お前、いい加減にしろよ!!僕達が脅されてるわけないだろ!?」
「そうだよ!!レノ君はそんな酷いことしないよ!!」
「……確かに嘘を言っているようには見えないね」


バルも二人の態度を見てレノに脅されているようには見えないが、ここでヒカゲは話題を変更した。


「それよりも二人とも、まだ報告することがあるんじゃないの?」
「報告?」
「依頼の件と、この魔物使いの男」
「あ、忘れてた!?」
「……さっきから気になってたけど、誰だいこいつは?」


部屋の中には気絶したままのセマカが横たわっており、バルはレノ達が部屋に入ってきた時から気になっていたが、ようやく説明を聞けた。


「聞いてくれよギルドマスター!!この男が村を襲っているゴブリンの群れを操っていた魔物使いなんだよ!!」
「魔物使いだって?じゃあ、あんたらが依頼を受けた村を襲ったゴブリンもまさかこの男がけしかけたのかい?」
「そうそう!!100匹ぐらい襲って来て大変だったんだよ!!」
「いや、そんなにはいなかったと思うけど……」


ダインとハルナは自分達が雇われた村に訪れた際、ゴブリンの群れに襲われた時の出来事を詳細に話す。二人の他にも村には警備兵が駐在していたが、彼等は真っ先に犠牲になった。

ゴブリンの群れが村を襲った時にダインとハルナは住民の命を優先して村の中で一番大きな屋敷に村人を避難させた。この時にレノが現れてゴブリンの群れを撃退したと聞いてバルは感心する。


「へえ、ということはあんたのお陰でこの二人と村人達も命を救われたのかい?」
「い、一応は……」
「レノ君は凄い弓の使い手なんだよ!!」
「流石はエルフの弟子だよな。矢をあんな風に飛ばす奴なんて初めて見たよ!!」
「…………」


バルは冒険者でもないレノがゴブリンの群れを撃退したと聞いて驚き、特にダインとハルナが彼の「弓魔術」を褒め称えると興味を抱く。一方でヒカゲは疑わしげな表情を浮かべる。


「そんなに凄いの?その……弓魔術?」
「凄いなんてもんじゃないよ!!あのホブゴブリンを一発で倒したんだぞ!?砲撃魔術師の魔法ぐらい凄かったよな!!」
「うん!!それに凄く格好いいんだよ!!」
「か、格好いい?そんなこと言われたの初めてだな……」
「え~!?格好良かったよね、ダイン君!?」
「ま、まあな……ちょっと格好いいとは思ったよ」


ハルナとダインはレノが弓魔術を使用する姿を見て憧れを抱く程であり、矢に魔法の力を込めて撃つ人間など見たことがない人間にとってはレノの弓魔術は興味をそそられる。


「弓魔術か……それもエルフの師匠に教わったのかい?」
「いえ、師匠は使えません。弓魔術は付与魔法の使い手じゃないとできないので……」
「……それ、見たい」
「え?」
「私にも見せて欲しい。その弓魔術を」


ヒカゲの発言に全員が驚き、先ほどまでレノを殺人犯だと疑っていた彼女がレノの弓魔術に興味を抱くなど思わなかった。だが、バルも面白く思ったのか彼女の提案に賛成した。


「そいつはいいね、その弓魔術とやらを私にも見せてくれないかい?」
「ええっ!?いきなり言われても……」
「あ、私もまた見たい!!」
「なら僕も……前の時は暗くてよく見えなかったんだよな」
「ダインとハルナまで……」
「ウォンッ!!」


全員に弓魔術を使用するのを求められ、レノは困った表情を浮かべた。そんな彼にバルは呼び鈴を鳴らして人を呼ぶ。


「とりあえずはこの馬鹿は拘束させてもらうよ。報酬金に関しては後で話そうか」
「あ、はい」
「それとあんたの弓魔術とやらはうちの訓練場で見せて貰おうか」
「訓練場?」


バルは人を呼んで気絶したセマカを連れて行かせると、彼女はギルド内に存在する訓練場へ案内してくれた――
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