魔法使いじゃなくて魔弓使いです

カタナヅキ

文字の大きさ
上 下
65 / 86

第64話 黒虎のギルドマスター

しおりを挟む
「悪かったね、まさか急に人が入ってくるとは思ってなくて油断してたよ」
「い、いえ……」
「いたた……鼻血が出たよ」
「何だい?あたしの裸に興奮したのかい?」
「こいつに殴られて鼻血が出たんだよ!?」
「……ぷいっ」


部屋の中に入ったレノ達はソファに座らせてもらい、対面の席に女性は座り込む。レノは改めて女性を見て美女と言っても過言ではないほど整った容姿だと気が付く。

女性は赤色の髪の毛を腰元まで伸ばしており、顔立ちも美しく整っていた。体型に関しては胸が非常に大きく、腹だしの服装なので割れた腹筋に目がいく。外見から判断する限りは年齢は20代半ばぐらいだと思われる。

この女性こそが黒虎のギルドマスターであり、元黄金級冒険者として大陸中に名の知れた有名な剣士だった。ずっと森で暮らしていたレノは知らなかったが、この冒険都市内で彼女を知らぬ人間はいないほど有名な人物らしい。


「あんたは初めて見る顔だね?なら一応は名乗っておこうか、私の名前はバルだよ」
「バルさん?」
「まあ、うちのギルドの連中からはギルドマスターと呼ばれることが多いけどね」
「ギルドマスター……まずは私の報告を聞いて欲しい」


レノが自分の名前を名乗る前にヒカゲが口を挟み、彼女の言葉にバルは目つきを鋭くさせて話を伺う。


「あんたがここへ戻ってきたということは例の事件の手掛かりを掴んだのかい?」
「手掛かりというより、もしかしたら犯人を捕まえたかもしれない」
「ええっ!?」
「な、何だって!?」
「犯人って……まさか?」


ヒカゲの発言にダインとハルナは驚く中、レノは嫌な予感がした。ヒカゲは短剣を取り出すと素早い動きでレノの首元に押し当てて彼が動けないようにした。


「そう、君を疑ってる」
「なっ!?」
「ちょ、ちょっと待てよ!!レノが犯人なわけないだろ!?」
「ヒカゲちゃん!!冗談は辞めてよ!?」
「待った待った、いきなり何の話だい?」


レノを連続殺人事件の犯人だと疑うヒカゲにダインとハルナは慌てて抗議するが、話に付いていけないバルは疑問を抱く。この時に部屋の隅で待機していたウルが唸り声を上げる。


「グルルルッ!!」
「動かないで……動いたら君のご主人様も無事じゃ済まない」
「ん?何だいこのワンコロ……って、こいつは白狼種じゃないか!?まだ生き残りがいたのかい!?」
「白狼種?」


ウルを見てバルは驚愕の表情を浮かべ、彼女の告げた「白狼種」という言葉にレノは疑問を抱く。だが、そんな彼にヒカゲは短剣を構えたまま詰め寄る。


「よそ見しないで。下手な動きをしたら切る」
「い、いい加減にしてよ……俺は今日この街に来たばかりなんだよ!!殺人犯なわけないだろ!!」
「そうだよ!!レノ君は人を殺したりなんかしないよ!!」
「こいつのお陰で僕達も命を助けられたんだぞ!?」
「命を助けられた?いったいさっきから何の話をしてるんだい!?」


バルはレノ達のやり取りを見ても訳も分からず、彼女はいらだった様子で机に拳を叩きつける。それだけでレノ達は圧倒され、彼女の迫力にヒカゲさえも冷や汗を流す。


(これが元黄金級冒険者……凄い迫力だ)


まるで大型の魔物を前にしたような威圧感を感じ取り、彼女と比べるとホブゴブリンなど可愛く見えた。あまりの迫力にハルナは涙目になり、ダインは身体を震わせ、ウルでさえも怯えた様に身体を伏せる。

相対しただけでレノはバルが今まで出会った人物の誰よりも恐ろしい存在だと認識した。彼の師匠であるアルと何処か雰囲気が似ており、外見もどことなく面影があるような気がした。


「ヒカゲ、武器を下ろしてまずは一から話しな!!あんたの悪い癖は面倒だからって要件だけを話す癖だよ!!」
「は、はい……」


流石のヒカゲもギルドマスターの迫力に気圧されて素直に従うしかなく、レノの首元に構えていた短剣を下ろす。レノは一安心したが、そんな彼にバルは注意する。


「言っておくけどあんたも変な真似はするんじゃないよ。どういう理由でヒカゲがあんたを殺人事件の犯人だと疑っているのかは知らないけど、もしもあんたが本当に犯人だとしたら……楽に死ねると思わないことだね」
「うっ……!?」


バルはレノに対して警戒心を高め、彼女に睨まれるだけでレノは生きた心地がしない。子供の頃にホブゴブリンと初めて遭遇した時以上の危機感を抱き、冷や汗が止まらない。下手な真似をすれば確実に殺されると思った。


「ヒカゲ、まずはあんたの話を聞かせな。どうしてそこの坊主を例の事件の犯人だと思ったんだい」
「……今回起きた殺人事件の事後現場を調べていた時、この子が現場近くの建物の屋根の上で不審な動きをしていた。だから怪しいと思って捕まえた」
「ちょ、ちょっと待てよ!?それだけでレノを犯人扱いしたのか!?」
「いいから私の話を最後まで聞いて」


ヒカゲがレノを最初に発見した時、彼は建物の屋根の上で不審な動きをしていた。実際の所はレノは人だかりを調べるために建物の上に移動しただけだが、ヒカゲは怪しく思ってレノの元に向かう。

忍者であるヒカゲはレノに気付かれずに彼の背後に移動し、この時に彼女はレノが特別な弓を所持していることに気が付く。彼女はレノが弓の使い手であると知り、更に彼を捕まえた後にダインとハルナから話を聞いてレノがエルフの弟子であると知った。彼がエルフの弟子と聞いた時にヒカゲはある予測を立てる。


「今回の殺人現場にも犯人の手掛かりになる証拠は残ってなかった……目撃者の話を聞いてもいきなり剣を振り回して暴れたと思ったら、首元から血を噴き出して死んだという証言しかなかった」
「急に暴れ出して死んだ……自分で首を切ったわけじゃないんだね?」
「それは有り得ない。目撃者全員が急に首から血が噴き出して死んだと言ってる」
「自殺は有り得ないか……それでどうしてあんたはこの坊主が犯人だと疑ったんだい?」


話を聞く限りでは今回殺された男性とレノは何の関りもないように思えるが、彼女はレノ本人ではなく彼が持っている弓に注目していた。


「昔、とある噂を聞いたことがある。エルフは普通の人間では目で捉えきれない速度で矢を撃つ弓の名手がいるという話……もしもそれが本当だとしたら、今回の被害者はエルフ並の弓の使い手の可能性が高い」
「えっ!?」
「……つまりあんたは死んだ男が弓で殺されたと判断したのかい?」


バルの言葉にヒカゲは頷き、彼女はレノが所有している弓を指差す。レノが所持する弓はエルフが愛用する世界樹製の弓であり、市場では滅多に手に入らない珍しい代物だった。


「目撃者は急に被害者の首から血が噴き出したと証言してるけど、本当は目に留まらない速度で撃ち抜かれた矢が被害者の首を切った可能性がある。そして殺害現場の近くにはエルフの弓を持つ子供が居た……疑うには十分すぎる状況」
「ちょ、ちょっと待ってよ!!俺は犯人じゃないって!!」
「そ、そうだよ!!レノ君はずっと私達と一緒に居たから有り得ないよ!!」
「そもそも矢で首を切り裂くなんてできるわけないだろ!?第一に撃った矢はどうするんだよ!?」
「……この子がいる」
「ウォンッ?」


ヒカゲはソファの傍で横たわるウルを指差し、彼女はレノがどのような行動で殺人を行ったの仮説を立てる。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

屋台飯! いらない子認定されたので、旅に出たいと思います。

彩世幻夜
ファンタジー
母が死にました。 父が連れてきた継母と異母弟に家を追い出されました。 わー、凄いテンプレ展開ですね! ふふふ、私はこの時を待っていた! いざ行かん、正義の旅へ! え? 魔王? 知りませんよ、私は勇者でも聖女でも賢者でもありませんから。 でも……美味しいは正義、ですよね? 2021/02/19 第一部完結 2021/02/21 第二部連載開始 2021/05/05 第二部完結

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

『希望の実』拾い食いから始まる逆転ダンジョン生活!

IXA
ファンタジー
30年ほど前、地球に突如として現れたダンジョン。  無限に湧く資源、そしてレベルアップの圧倒的な恩恵に目をつけた人類は、日々ダンジョンの研究へ傾倒していた。  一方特にそれは関係なく、生きる金に困った私、結城フォリアはバイトをするため、最低限の体力を手に入れようとダンジョンへ乗り込んだ。  甘い考えで潜ったダンジョン、しかし笑顔で寄ってきた者達による裏切り、体のいい使い捨てが私を待っていた。  しかし深い絶望の果てに、私は最強のユニークスキルである《スキル累乗》を獲得する--  これは金も境遇も、何もかもが最底辺だった少女が泥臭く苦しみながらダンジョンを探索し、知恵とスキルを駆使し、地べたを這いずり回って頂点へと登り、世界の真実を紐解く話  複数箇所での保存のため、カクヨム様とハーメルン様でも投稿しています

転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった〜

霞杏檎
ファンタジー
祝【コミカライズ決定】!! 「使えん者はいらん……よって、正式にお前には戦力外通告を申し立てる。即刻、このギルドから立ち去って貰おう!! 」 回復術士なのにギルド内で雑用係に成り下がっていたフールは自身が専属で働いていたギルドから、何も活躍がないと言う理由で戦力外通告を受けて、追放されてしまう。 フールは回復術士でありながら自己主張の低さ、そして『単体回復魔法しか使えない』と言う能力上の理由からギルドメンバーからは舐められ、S級ギルドパーティのリーダーであるダレンからも馬鹿にされる存在だった。 しかし、奴らは知らない、フールが【魔力無限】の能力を持っていることを…… 途方に暮れている道中で見つけたダンジョン。そこで傷ついた”ケモ耳銀髪美少女”セシリアを助けたことによって彼女はフールの能力を知ることになる。 フールに助けてもらったセシリアはフールの事を気に入り、パーティの前衛として共に冒険することを決めるのであった。 フールとセシリアは共にダンジョン攻略をしながら自由に生きていくことを始めた一方で、フールのダンジョン攻略の噂を聞いたギルドをはじめ、ダレンはフールを引き戻そうとするが、フールの意思が変わることはなかった…… これは雑用係に成り下がった【最強】回復術士フールと"ケモ耳美少女"達が『伝説』のパーティだと語られるまでを描いた冒険の物語である! (160話で完結予定) 元タイトル 「雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜でも、ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった。噂を聞いたギルドが戻ってこいと言ってるがお断りします〜」

授かったスキルが【草】だったので家を勘当されたから悲しくてスキルに不満をぶつけたら国に恐怖が訪れて草

ラララキヲ
ファンタジー
(※[両性向け]と言いたい...)  10歳のグランは家族の見守る中でスキル鑑定を行った。グランのスキルは【草】。草一本だけを生やすスキルに親は失望しグランの為だと言ってグランを捨てた。  親を恨んだグランはどこにもぶつける事の出来ない気持ちを全て自分のスキルにぶつけた。  同時刻、グランを捨てた家族の居る王都では『謎の笑い声』が響き渡った。その笑い声に人々は恐怖し、グランを捨てた家族は……── ※確認していないので二番煎じだったらごめんなさい。急に思いついたので書きました! ※「妻」に対する暴言があります。嫌な方は御注意下さい※ ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇なろうにも上げています。

婚約破棄を目撃したら国家運営が破綻しました

ダイスケ
ファンタジー
「もう遅い」テンプレが流行っているので書いてみました。 王子の婚約破棄と醜聞を目撃した魔術師ビギナは王国から追放されてしまいます。 しかし王国首脳陣も本人も自覚はなかったのですが、彼女は王国の国家運営を左右する存在であったのです。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

処理中です...