魔法使いじゃなくて魔弓使いです

カタナヅキ

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第58話 街中の騒ぎ

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「レノ君、ありがとう!!実はちょっと疲れてたんだ~」
「そ、そうだったんだ」
「お、おいレノ……僕が代わりに運んでやろうか?」
「大丈夫だよ。ダインの身長だと運ぶのも難しいと思うし……」
「うっ……確かに」


ドワーフであるダインは身長が小さいため、肩で担ごうと背負って運ぶにしても地面に引きずって運ぶことになる。それに見た目はどう見ても子供のため、彼一人に運ばせると先ほどのハルナと同様に周囲の人間から冷たい目で見られる可能性が高い。レノは弓矢と矢筒が邪魔になるのでダインに預けることにした。


「ダイン、悪いけどこれ持っててくれない?」
「おう、いいぞ。ギルドに到着するまで見てもいいか?」
「別にいいけど……」
「あ、私にも見せて見せて!!エルフさんの作った弓はどんなのか気になってたんだ!?」
「馬鹿、ハルナ!?声がでかいって!!」


ハルナの何気ない言葉にダインは血相を変えて注意すると、レノはダインの反応を見て不思議に思う。ダインは二人に対して声を抑えて語り掛ける。


「二人ともよく聞けよ。この弓がエルフが造った物だなんて誰にも話したら駄目だぞ」
「え?どうして?」
「馬鹿、何でお前が知らないんだよ!?エルフは世界樹で造り出された弓しか扱わないことで有名だろうが……世界樹製の弓なんて滅多に手に入らない希少品なんだぞ!?」
「そ、そうなの?」


ダインによれば全てのエルフは世界樹で作り上げられた弓しか扱わず、レノがアルから託された弓も世界樹であることは間違いない。世界樹に関してはレノも知っているが、まさか弓の素材として利用されていたことは初めて知る。

言われてみればレノは自分が扱う弓が普通の弓ではないように思えた。子供の頃に扱っていた訓練用の弓とは比べ物にならない性能を誇り、しかもここまでの道中でかなり雑な扱い方をする場面もあったが、弓には掠り傷一つない。


「世界樹を素材にした武器なんて店でも滅多に売ってないんだぞ。もしもやばい奴等に知られたら絶対に盗もうとしてくる……だから街に居る間はこの弓がエルフの物だってことは秘密にしろよ」
「分かった……黙っておく」
「わ、私も気を付けるよ~……」


レノとハルナはダインの言う通りに従い、街にいる間は決してレノの弓が世界樹で造り出された物であることを隠すことにした。セマカを運んでいる間はダインがしっかりとレノの弓を預かり、ギルドに辿り着くまで色々と調べることにした。


「へえ、これがエルフの弓か……凄いな、見た目は普通の弓のように見えるけど触ってみると金属のように硬い」
「そうなの?私にも見せてよ~」
「ば、馬鹿!!僕がまだ調べてる途中だろうが……」
「あの、二人とも……あんまり騒がないでくれる?」


ドワーフの血が騒ぐのかダインは興味津々にレノの弓を覗きこみ、それを見たハルナも一緒に覗き込もうとする。まるで姉弟のように仲が良い二人にレノは少し羨ましく思う。


(二人とも最近に組んだばかりだって聞いてたけど、こうしてみると本当に仲いいな。でもダインの方が年上なんだよな……)


ダインはドワーフなので体格は小さくとも実際は三人の中で一番年上であり、逆に一番幼く見えるハルナはレノよりも年上である。見た目だけならレノが一番年上に見えてもおかしくはないが実は彼が一番年下だった。


(それにしてもやっぱり注目浴びてるな……まあ、当たり前と言えば当たり前か)


街中を歩く途中でレノは通り過ぎる人間から視線を向けられていることに気付いてため息を吐き出す。傍から見ると少年が縄で縛りあげた男を背負って歩いてるようにしか見えず、注目を浴びてしまうのは仕方がない。

こんな姿を警備兵に見られたら面倒なことになり、兵士に見つかる前に早急に冒険者ギルドに辿り着く必要があった。だが、ギルドに向かう途中でレノは気になる光景を見た。


(あれ?なんだあの人だかり?)


街道を歩いていると前方で人だかりができていることに気が付き、何事かと思ったレノは視線を凝らすと、人だかりの中に兵士らしき姿を発見した。それを見たレノは近くの路地裏に身を隠す。


「二人ともこっちに来て!!」
「わわっ!?」
「な、何だよ急に!?」


森で狩猟をし続けてきたお陰でレノは観察眼には自信があり、人ごみの中に紛れた兵士を見つけ出すといち早く身を隠す。今の状況で兵士に見つかると色々と面倒であり、路地裏に身を隠すとレノは人だかりに視線を向けた。


「あそこに兵士がいる。何か事件が起きたのかもしれない」
「えっ!?マジかよ、全然気づかなかった……」
「ダイン君、弓ばっかり見てるからだよ」
「お前だってそうだろうが!?」
「しっ……静かにして」


兵士に見つからないようにレノ達は建物の陰からこっそり様子を伺う。一番下にダイン、その上にレノ、そして一番上にハルナの形となる。


「ちょ、重いぞお前等……人の上に乗っかかるなよ!?」
「え~私も見たいよ~」
「ちょ、ハルナ近いって……」


ダインは二人に乗っかかられて文句を言うが、レノはハルナの顔が接近して頬を赤くする。ずっと森で暮らしていた時はと接することもなかったため、ハルナに触れられるだけで意識してしまう。


(こうしてみるとやっぱりハルナは可愛い顔してるな……って、何を考えてるんだ)


改めてハルナの顔立ちを見て彼女が可愛いことに気が付き、異性として意識してしまう。しかし、今は人だかりの様子を伺うのが先だった。距離は離れているが視力にも自信はあるレノは人だかりに紛れた兵士の様子を伺う。

数人の兵士が人だかりの中に紛れており、彼等は集まった一般人を牽制している様子だった。人だかりの奥で何が起きているのか気になったレノは建物の屋根に視線を向ける。


「ちょっと様子を見て来る」
「え?まさかあの中に行く気か?」
「いや、こうする」
「わっ!?」


強化術を発動させたレノは勢いよく跳躍を行うと、建物の二階の窓まで跳び上がる。流石に一飛びで屋根の上まで移動することはできなかったが、今度は窓枠に足をかけて反対側の建物の壁に目掛けて飛び込む。


(届けっ!!)


三角跳びの要領でレノは壁を蹴って三度目の跳躍を行い、建物の屋根の上に到達する。単純な身体能力はハルナには劣るかもしれないが、身軽さならばレノが上だった。森に居た頃はアルの指導でレノは木登りや崖上りを行い、そのお陰で高い所に登るのは得意だった。

屋根に乗り込んだレノは上から人だかりの中心に視線を向けると、人々が集まった理由を知って冷や汗を流す。


(なんだあれ!?)


人だかりの中心には血塗れの男の死体が倒れており、この街の警備兵が死体の調査をしていたらしく、人だかりに紛れていた兵士達は一般人が近付けないように封鎖していたらしい。

レノは倒れている男性の死体に視線を向けると一般人ではないと判断した。男の手には剣が握られており、革製の鎧を装着していた。頭から血を流しており、傍には男の物と思われる鞄も落ちていた。そして鞄には冒険者の証である「バッジ」が付けられていた。


(あれは冒険者のバッジか?なら死んでいるのは冒険者なのか?しかも殺されたみたいだぞ……)


様子を見る限りでは男性の冒険者は殺されたとしか思えず、街の中で冒険者が殺されたことになる。レノは目を凝らして冒険者のバッジを確認すると、刻まれている紋章を見て驚く。
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