魔法使いじゃなくて魔弓使いです

カタナヅキ

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第57話 初めての街へ

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「ギュロッ!!」
「あっ……行っちゃった」
「な、何だったんだ……」
「ウルが追い返してくれたのか?」
「クゥ~ンッ」


サンドワームが地中に戻るとレノ達は安心し、これでもうセマカを助ける存在はいなくなった。今度はセマカの口元をしっかりと塞ぎ、入念に身体を調べて武器や道具を隠していないのを調べる。


「たくっ、こいつのせいで大変な目に遭ったな……目が覚めたら覚えてろよ!!」
「まあまあ、それよりも先に急ごうよ」
「街までもう少しだよ~」
「ウォンッ!!」


縛り直したセマカはハルナが肩で担ぎ、こういう時は彼女の怪力は非常に頼もしい。レノも強化術を発動すれば人間一人くらいなら簡単に持ち上げることはできるが、強化術の場合は一時的にしか身体能力は強化できないので長時間持ち歩くことはできない。

ハルナは動くのは遅いが常人離れした怪力と体力は持ち合わせており、重い鎧と大盾を装備した状態でも人間一人を楽々と持ち上げて歩き回れる。そんな彼女にレノは頼もしく思い、彼女の評価を変える。


(ハルナは凄いな。俺よりもよっぽど役に立ってる)


女騎士に拘るせいで動きにくい鎧を装着し続けるハルナにレノは冷たく当たった。だが、彼女はサンドワームに襲われた時に自分の身が危険に晒されることを承知で囮になった。もしもハルナがサンドワームの注意を引いていなければ今頃はセマカに逃げられていたかもしれない。


(サンドワームか……あんな化物も外の世界にいるんだな)


レノはサンドワームを見た時に戦うしかないと思ったが、仮に弓魔術で殺していた場合は大変なことになっていた。サンドワームは死亡すると身体が破裂して大量の胃液を放出する。そうなればレノだけではなく、ダインやハルナも危険に晒されていた。

相手が魔物だからといって不用意に殺す様な真似は避けねばならず、レノはまだまだ自分が魔物の生態には詳しくないのだと悟る。これから旅をするのならば世界各地の魔物の知識を知らねばならない。


(世界は広いんだ。俺が知らない魔物なんていくらでもいるんだろうな……)


最初は街に着いたら旅の準備を整えたら別の街に向かおうかと考えていた。だが、今回の一件でレノは自分の至らなさを思い知り、魔物の知識を深めるだけではなく色々な勉強をすることにした――





――時刻は正午を迎えた頃、遂にレノ達は目的地の「イチノ」という名前の街に辿り着いた。イチノは子供の頃にレノが両親と向かっていた街でもあり、もしも森の中で魔物に襲われていなかったらレノは両親と共にこの街で暮らしていた。

これまでレノが訪れた村は柵で取り囲まれていたのに対し、イチノの場合は街の周囲を城壁で取り囲まれていた。東西南北に城門が存在し、その内の南門からレノ達は中に入る。街中は活気に満ちており、人間以外の種族も多く暮らしている。


「ここがイチノ……何だか人が多いけど、今日は祭りか何かなの?」
「いつもこんなもんだよ」
「大きなお祭りなら一か月後にあるよ~」
「クゥンッ……」


人込みの多さにレノは祭りでも行われているのかと思ったが、ダインとハルナによると人の多さはいつも通りのことらしい。イチノには1万人以上の人間が暮らしており、彼等の平和を守っているのが冒険者だと語る。


「このイチノにはいくつかの冒険者ギルドがあるけど、その中でも黒虎が一番規模が大きくて冒険者の数も多いんだ」
「へえ、そうなんだ」
「今のギルドマスターさんは元々は黄金級冒険者だったんだよ~」
「黄金級……確か冒険者の最高階級だっけ?」


冒険者には階級が存在し、一番下から「銅級」「鉄級」「銀級」「白銀級」「黄金」の5つに分かれている。最高階級の黄金級冒険者は大陸内の全ての冒険者の中でも10人程度しかいない。

白銀級までは自分が所属する冒険者ギルドのギルドマスターの判断で昇格できるが、黄金級冒険者の場合は複数の冒険者ギルドのギルドマスターから認められるほどの功績を残さないと昇格はできない。だから黄金級冒険者に昇格した人間は実力だけではなく、大勢の人間に認められる程の人格者でなければならない。だから性格面に問題がある人間は実力はあっても黄金級冒険者にはなり得ない。


「そういえばダイン達は銅級だっけ?」
「うっ……そうだよ、僕は5年も昇格してない底辺冒険者だよ。別に笑ってもいいんだぞ!?」
「ううっ……私もこの間、昇格試験が落ちたから笑えないよ」
「な、なんかごめん……」
「ウォンッ」


二人の階級を尋ねるとダインは不貞腐れてハルナは落ち込んでしまう。そんな二人を元気づけるようにウルは鳴き声を上げるが、レノは二人の話を聞いて不思議に思う。


(ダインもハルナも凄い能力を持ってるのにどうして銅級のままなんだろう?試験がそんなに難しいのかな?)


レノは二人と戦ったこともあるがダインの影魔法もハルナの怪力の凄さを理解していた。ダインの影魔法は敵を拘束すれば決して逃さず、どんなに力を込めようと影を振りほどくことはできない。ハルナの怪力はホブゴブリンも裸足で逃げ出すほどであり、単純な力比べならレノはハルナの足元にも及ばない。

能力的にはダインもハルナも優れているはずなのだが、二人がいつまでも銅級から上がらないのには理由があるのではないかとレノは考えた。だが、まずは先にセマカを冒険者ギルドに引き渡して賞金を受け取ることにした。


「セマカの賞金は三等分でいいかな?」
「僕は別に構わないけど……レノはそれでいいのか?何だったら報酬の半分を貰ってもいいんだぞ。残りの報酬は僕とハルナで分けるから……」
「私もそれでいいよ~レノ君がいなかったらこの人を捕まえることもできなかったし」
「いや、三等分にしよう。ここにいる三人とウルが居なかったら捕まえることはできなかったし……」
「ウォンッ!!」


セマカを捕縛できたのはレノのお陰だとダインとハルナは語るが、レノとしてはダインとハルナとウルと力を合わせなければセマカを捕まえることはできなかったと考えている。実際にセマカの行方を追ったのはウルであり、セマカが従えるホブゴブリンにレノが襲われた時に助けてくれたのもダインとハルナだった。

村からイチノの街まで移送の途中でも、セマカを捕まえられたのはハルナとダインが協力してくれたお陰だった。もしもハルナがサンドワームの注意を引き、ダインがセマカを引きずり降ろしていなければ今頃は逃げられていたかもしれない。それを考えるとレノは自分一人だけ多くの報酬を貰うことなどできるはずがなかった。


「よし、それじゃあ僕達の冒険者ギルドへ行こう!!」
「ギルドは何処にあるの?」
「街の中心だよ~やっと帰ってこれたよ~」


レノ達は冒険者ギルドへ向かおうとすると、街の人たちに注目を浴びる。ハルナが一人でセマカを担いでいるせいで奇異の視線を向けられる。


「何か知らあれ……女の子が男の人を運んでいるわ」
「鎧を着ているから傭兵か冒険者か?まさか人さらいじゃないよな……」
「一緒に歩いている男の子達は恥ずかしくないのかしら。女の子一人に運ばせるなんて……」


周囲の冷ややかな視線を浴びてレノとダインはいたたまれなくなり、ハルナにセマカを運ぶ役目は自分達がやることを伝えた。


「ハ、ハルナ……疲れてるでしょ?俺が代わりにそいつを運ぶよ?」
「え、でも……」
「遠慮しなくていいから!!ほら、貸して!!」


レノはハルナから半ば無理やりにセマカは取り上げると、彼女の代わりに運び始める。そんな彼を見てハルナは嬉しそうな表情を浮かべた。
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