51 / 86
第51話 運命の一矢
しおりを挟む《ヤット、ヨンデクレタネ》
《マッテイタゾ、クロイノ》
(えっ……?)
ハッと目を開く。
飛び込んできたのは、色とりどりに輝く光の玉たちだった。
《ドウシテボクラヲヨバナカッタノ、クロイコ》
爽やかな緑の光を放ってくるくる飛び回るのは、風のヴェントス。こんなときだというのに、ものの言い方も態度もなぜか無邪気だ。
《ソウダゾー、マッテタンダゾー、オレタチ!》
のんびり口調で言う茶色い光は土のソロ。
《ソナタガヨンデクレタナラ、イツデモトンデキテヤッタノダゾ? ワタシタチハ》
ほんの少しだけ恨みがましく残念そうなのは黄金色の金のメタリクム。
《ソンナニワレラハ、タヨリナイノカ?》
《あ。そ、そんなことっ! ご、ごめんなさい……》
《イヤイヤ。イインダヨ》
とりなしてくれたのは、どうやら青い光を放つ水のアクアらしかった。
《ジブンデガンバルノ、エライヨ。サイショカラ、ボクラヲタヨルヨリ、ズーットイイノサ》
《……ン。ソレモソッカ》
《ダナー》
《……ナルホド》
「精霊さまがたのおっしゃる通りだ、シディ。人は自分がやれるところまではやらねばならない。人事を尽くしてこそ道は開けるのだから」
《えっ。インテス様、精霊さまたちの声、聞こえるんですか?》
「ああ。普段はぼんやりとしか感じないが……どうもそなたといると、感覚が明瞭になるようなんだ」
なるほど、そんなこともあるのか。
《オシャベリシテルヒマ、ナイヨ?》
《サラガ、マタ、チカラヲマシタナ》
《えっ》
見れば精霊たちの言うとおり、《皿》はますます反発を強め、今にも《光る網》を消しとばしそうなまでに膨張していた。
《ソウダナ。ハヤクトリカカルトイタソウ》
四色の光は一度パッと散開すると、すぐに反転し、一斉にシディに向かってきた。
《えっ? あ、あのっ》
《シンパイシナイデ》
《イチド、オマエノナカニハイルンダ》
《えっ、えっ……? オレの中に……?》
《ソナタノカラダノナカデ、マリョクヲマゼアワセル。ソウシテ、ゾウフクサセルノダ!》
《増幅……》
なるほど。
どうやら、かれらの魔力を一旦シディの中で馴染ませる過程が必要らしい。
《ダカラ、トジナイデ、クロイコ》
《コワガラナイデ、ココロヲヒライテ》
《オレタチヲ、ウケイレルンダ!》
《は……はいっ》
返事をしたとたん、目も眩むようなまばゆい光が全身を包み、凄まじい魔力が流れ込んできた。体全体が熱く燃え上がり、光り輝く感覚。
あまりの衝撃で、シディは一瞬、気が遠くなりかけた。
「シディ、しっかり!」というインテス様の声が届かなければ、あやうく失神する手前だった。
《ダイジョウブ?》
《シッカリスルンダ、クロイノ》
《ソナタガキヲウシナッテハ、モトモコモナイゾ》
《は……はい》
そうは言ったが、くらくらする。全身の細胞が蒸発してしまうのではないかと思うほどの衝撃。
(なんだ……この魔力は!)
なんという力強さ。そして、量。
それが一気に自分ごときの器に流れこんできている。自分という「器」の表面が、恐ろしいほど薄く感じられて心細い。あまりの魔力の圧力で、今にもパリンと粉々になってしまいそうだ。ともすれば、自分が自分であるという認識すら手放してしまいそうになる。
気がつくと、背中のインテス様もひどく苦しそうになさっていた。
《だいじょうぶ、ですかっ……インテス、さまっ……》
「……私のことは心配するな、シディ。集中するんだ。ほかのことはいい」
《でもっ……》
「いいから。自分自身に集中してくれ。シディ!」
《……は、はいっ……》
そんなギリギリのこちらの状態とは裏腹に、精霊さまたちの暢気そうな会話が耳に届く。
《ソウイエバアイツ、コナイノ? コンナトキニ》
《ナンダ。マダヘソヲマゲテイルノカ、アヤツハ》
《ソウラシイネー》
《ナニヲソンナニスネテルンダ? シカタガナイダロウ》
《ソウソウ。ヤツガアンマリアバレルト、ニンゲンハコマルンダカラヨ》
《ソウナンダヨネー》
いったい何の話だろう、と思考することすら難しかった。
シディは自分が自分であることを維持するだけで精一杯だったのだ。体内で暴れまわる魔力の奔流は、それほど凄まじいものだった。
10
お気に入りに追加
784
あなたにおすすめの小説

屋台飯! いらない子認定されたので、旅に出たいと思います。
彩世幻夜
ファンタジー
母が死にました。
父が連れてきた継母と異母弟に家を追い出されました。
わー、凄いテンプレ展開ですね!
ふふふ、私はこの時を待っていた!
いざ行かん、正義の旅へ!
え? 魔王? 知りませんよ、私は勇者でも聖女でも賢者でもありませんから。
でも……美味しいは正義、ですよね?
2021/02/19 第一部完結
2021/02/21 第二部連載開始
2021/05/05 第二部完結

日本列島、時震により転移す!
黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

『希望の実』拾い食いから始まる逆転ダンジョン生活!
IXA
ファンタジー
30年ほど前、地球に突如として現れたダンジョン。
無限に湧く資源、そしてレベルアップの圧倒的な恩恵に目をつけた人類は、日々ダンジョンの研究へ傾倒していた。
一方特にそれは関係なく、生きる金に困った私、結城フォリアはバイトをするため、最低限の体力を手に入れようとダンジョンへ乗り込んだ。
甘い考えで潜ったダンジョン、しかし笑顔で寄ってきた者達による裏切り、体のいい使い捨てが私を待っていた。
しかし深い絶望の果てに、私は最強のユニークスキルである《スキル累乗》を獲得する--
これは金も境遇も、何もかもが最底辺だった少女が泥臭く苦しみながらダンジョンを探索し、知恵とスキルを駆使し、地べたを這いずり回って頂点へと登り、世界の真実を紐解く話
複数箇所での保存のため、カクヨム様とハーメルン様でも投稿しています


雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった〜
霞杏檎
ファンタジー
祝【コミカライズ決定】!!
「使えん者はいらん……よって、正式にお前には戦力外通告を申し立てる。即刻、このギルドから立ち去って貰おう!! 」
回復術士なのにギルド内で雑用係に成り下がっていたフールは自身が専属で働いていたギルドから、何も活躍がないと言う理由で戦力外通告を受けて、追放されてしまう。
フールは回復術士でありながら自己主張の低さ、そして『単体回復魔法しか使えない』と言う能力上の理由からギルドメンバーからは舐められ、S級ギルドパーティのリーダーであるダレンからも馬鹿にされる存在だった。
しかし、奴らは知らない、フールが【魔力無限】の能力を持っていることを……
途方に暮れている道中で見つけたダンジョン。そこで傷ついた”ケモ耳銀髪美少女”セシリアを助けたことによって彼女はフールの能力を知ることになる。
フールに助けてもらったセシリアはフールの事を気に入り、パーティの前衛として共に冒険することを決めるのであった。
フールとセシリアは共にダンジョン攻略をしながら自由に生きていくことを始めた一方で、フールのダンジョン攻略の噂を聞いたギルドをはじめ、ダレンはフールを引き戻そうとするが、フールの意思が変わることはなかった……
これは雑用係に成り下がった【最強】回復術士フールと"ケモ耳美少女"達が『伝説』のパーティだと語られるまでを描いた冒険の物語である!
(160話で完結予定)
元タイトル
「雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜でも、ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった。噂を聞いたギルドが戻ってこいと言ってるがお断りします〜」

授かったスキルが【草】だったので家を勘当されたから悲しくてスキルに不満をぶつけたら国に恐怖が訪れて草
ラララキヲ
ファンタジー
(※[両性向け]と言いたい...)
10歳のグランは家族の見守る中でスキル鑑定を行った。グランのスキルは【草】。草一本だけを生やすスキルに親は失望しグランの為だと言ってグランを捨てた。
親を恨んだグランはどこにもぶつける事の出来ない気持ちを全て自分のスキルにぶつけた。
同時刻、グランを捨てた家族の居る王都では『謎の笑い声』が響き渡った。その笑い声に人々は恐怖し、グランを捨てた家族は……──
※確認していないので二番煎じだったらごめんなさい。急に思いついたので書きました!
※「妻」に対する暴言があります。嫌な方は御注意下さい※
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇なろうにも上げています。

婚約破棄を目撃したら国家運営が破綻しました
ダイスケ
ファンタジー
「もう遅い」テンプレが流行っているので書いてみました。
王子の婚約破棄と醜聞を目撃した魔術師ビギナは王国から追放されてしまいます。
しかし王国首脳陣も本人も自覚はなかったのですが、彼女は王国の国家運営を左右する存在であったのです。

最低最悪の悪役令息に転生しましたが、神スキル構成を引き当てたので思うままに突き進みます! 〜何やら転生者の勇者から強いヘイトを買っている模様
コレゼン
ファンタジー
「おいおい、嘘だろ」
ある日、目が覚めて鏡を見ると俺はゲーム「ブレイス・オブ・ワールド」の公爵家三男の悪役令息グレイスに転生していた。
幸いにも「ブレイス・オブ・ワールド」は転生前にやりこんだゲームだった。
早速、どんなスキルを授かったのかとステータスを確認してみると――
「超低確率の神スキル構成、コピースキルとスキル融合の組み合わせを神引きしてるじゃん!!」
やったね! この神スキル構成なら処刑エンドを回避して、かなり有利にゲーム世界を進めることができるはず。
一方で、別の転生者の勇者であり、元エリートで地方自治体の首長でもあったアルフレッドは、
「なんでモブキャラの悪役令息があんなに強力なスキルを複数持ってるんだ! しかも俺が目指してる国王エンドを邪魔するような行動ばかり取りやがって!!」
悪役令息のグレイスに対して日々不満を高まらせていた。
なんか俺、勇者のアルフレッドからものすごいヘイト買ってる?
でもまあ、勇者が最強なのは検証が進む前の攻略情報だから大丈夫っしょ。
というわけで、ゲーム知識と神スキル構成で思うままにこのゲーム世界を突き進んでいきます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる