魔法使いじゃなくて魔弓使いです

カタナヅキ

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第38話 盾騎士と影魔導士

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「え、えっと……い、行くよぉっ!!」
「うわっ!?」


ハルナは大盾を構えると再びレノに目掛けて突っ込む。彼女の怪力ぶりを見せつけられたレノはまともに当たると助からないと判断し、横に飛んで回避した。


「くっ!?」
「はわわっ!?」


レノに回避されたハルナは止まらずに駆け抜け、正面に存在した樹木に衝突した。猛牛の突進の如く突っ込んだ結果、樹木はへし折れて地面に倒木する。


(何だこの馬鹿力!?あんなの受けたら死ぬぞ!?)


自分の3倍以上の高さを誇る樹木がへし折れたのを見てレノは冷や汗を流し、もしもハルナの突進を受けていたら大怪我どころか死ぬ可能性もあった。一方でハルナはレノに避けられて困った風にダインに振り返る。


「よ、避けられちゃったよ~」
「正面から馬鹿正直に突っ込むからだよ!!もっと頭を使え!!」
「頭?こう!?」
「ええっ!?」


ダインの言葉を聞いてハルナは大盾を背中に戻して頭を突き出しながら突っ込んできた。文字通りに頭を使っているが、地面に視線を向き続けているので視界は定まらず、見当違いの方向に走っていく。


「うわわっ!?こっちに来るな!!」
「あうっ!?」
「ええっ……」


ハルナはダインの方に突っ込んでいき、二人は屋敷の中に入っていく。その様子を見てレノは呆れてしまうが、今のうちに弓矢を拾い上げる。

先ほどハルナが破壊した樹木を見てレノは冷や汗を流し、強化術を使用したところでレノは彼女のように樹木をへし折るほどの突進力は身に付けられない。もしも彼女の攻撃が当たれば致命傷は避けられない。


(どうにかあの二人の誤解を解かないと……でも、どうしよう?)


誤解を解くためにはレノは話しかけてもまともに聞いてくれず、自分が魔物使いとやらではないことを証明する方法がないかと考えていると、屋敷の中からダインとハルナが出てきた。


「いいか!!今度こそ僕の言う通りに動けよ!?」
「ううっ、分かったから暴れないでよ~」
「ええっ……」


何故か屋敷から出てきたハルナはダインを肩車していた。今度は何をするつもりかとレノは様子を伺うと、ダインはレノを指差して叫ぶ。


「よし、正面に突っ込め!!」
「え~いっ!!」
「うわっ!?」


ダインを肩車した状態でハルナは大盾を構えて突っ込み、それを見てレノは先ほどのように避けようとした。だが、それを見越してダインはハルナに指示を出す。


「右に避けたぞ!!右を向け!!」
「こっち!?」
「わわっ!?」


ハルナは言われた通りに右に方向転換すると、慌ててレノは反対方向に逃げようとする。だが、ダインが指示を出してハルナに後を追わせる。


「今度は左だ!!」
「うん!!」
「くっ……!?」


言われた通りにハルナは方向を切り替えて後を追いかけ、それに対してレノは全速力で逃げるしかなかった。ダインがレノの動きを見てハルナに指示を出し、彼女は言われた通りに後を追いかける。単純な作戦だが効果的だった。

子供とはいえ人一人を担いでいながらハルナの移動速度はレノを上回り、徐々にではあるが距離を縮めていく。このままでは彼女に吹き飛ばされるのも時間の問題であり、どうにかしてレノはこの状況を打破する方法を考える。


(どうすればいい!?どうすれば……そうだ、これだ!!)


弓矢を回収した際に矢筒も一緒に拾っており、その中から一本の矢を取り出す。矢を握りしめたレノは足を止めて地面に突き刺す。


「えいっ!!」
「な、何だっ!?」
「えっ!?何々!?」


急に立ち止まったレノが地面に矢を突き刺したのを見てダインは動揺し、その声を聞いたハルナは足を止める。それを好機と判断したレノは矢が地面に突き刺さった状態のまま付与魔法を発動させた。


「付与《エンチャント》!!」
「うわぁっ!?」
「わああっ!?」


地面に矢が突き刺さった状態で風属性の魔力を送り込んだ結果、矢の先端から風圧が発生して土砂をまき散らす。大量に舞い上がった土砂を浴びたダインとハルナは倒れる。


「ぺっぺっ……く、口の中に土が!?」
「けほけほっ……ダイン君、何処にいるの!?」


大量に舞い上がった土砂によって土煙が発生し、ダインとハルナは土煙に巻き込まれてお互いの位置が分からない。当然だがレノも土煙に巻き込まれているが、彼は魔力感知を発動すれば目が見えなくともダインとハルナの位置は特定できた。


(よし、今のうちに逃げ……何だこの魔力!?)


レノは魔力を感知した結果、土煙に巻き込まれた二人の内の片方に信じられないほどの大きな魔力を感じ取った。その魔力の大きさはレノの師匠であるアルを大きく越えており、これ以上に強い魔力を感じたのは世界樹以外に存在しない。

土煙に紛れて姿が見えないのでダインとハルナのどちらが魔力が大きいのかは分からないが、普通に考えれば魔術師であるダインの方が強大な魔力を所有しているのが自然だった。しかし、土煙が紛れて姿が見えた瞬間、レノは衝撃を受けた。


(この魔力……女の子の方から感じる!?)


レノが感知した強大な魔力の持ち主はダインではなく、ハルナの方だと判明した。彼女は魔術師であるダインを大きく超える魔力を有しており、その魔力の大きさは人間よりも魔法の力に優れているはずのエルフのアルさえも超えていた。


(いったい何なんだこの娘!?もしかしてエルフ!?でも、耳は細長くないし……)


最初はハルナの正体はエルフではないかと考えたが、彼女の耳元は人間と同じだった。エルフならば細長い耳をしているのが特徴であり、そもそもアルに聞いた話だとエルフは滅多に人前に姿を現わさない。

緑の自然を愛するエルフは自然を破壊して自分達の住みやすい環境を作り出す人間を嫌う者が多く、滅多なことでは人間の前に姿を現わさない。アルもレノが出会った時に彼が子供でなければ拾うこともなかった。だから外の世界に出ればもう二度とエルフには出会えないと思っていたレノだが、そのエルフを越える魔力を持つ少女《ハルナ》に戸惑う。


(この娘は本当に何者なんだ……うっ!?)


レノがハルナに気を取られていると、急に足元に何かが絡みついたような感覚を抱く。最初は蛇か何かが自分の足に絡みついたのかと思ったが、視線を向けると自分の両足に黒蛇のようなが纏わりついていた。


「な、何だ!?足が……動かない!?」
「せ、成功だ!!どうだ、僕の影魔法は!?」
「影魔法!?」


ハルナにレノが気を取られている間、ダインが何時の間にか立ち上がって黒杖を自分の影に差していた。杖が差し込まれた影は不自然な形に変化し、二つの黒蛇のような姿に変わってレノの両足に絡みつく。


(何だこれ!?足がびくとも動かない……まるで本物の蛇に巻き付かれてるみたいだ!?)


両足に纏わりついた蛇の形をした影を取り払おうとしても触ることができず、いくら両足に力を込めても引き剥がせない。ダインが繰り出した蛇の影は徐々に両足だけではなく、レノの下半身から上半身に向けて移動する。


「ゆ、油断したな!!僕の影魔法は力尽くで引き剥がすことなんてできないんだよ!!どうやらお前も魔術師みたいだけど、杖を持ってないところみると半人前だな!?」
「う、くっ……!?」
「あ、暴れない方がいいよ~もっと苦しくなるから……」


自分の魔法で捕まえたことに興奮しているのかダインは嬉しそうに影魔法の特徴を明かし、彼の影に捕まったレノを見てハルナは心配そうな表情を浮かべる。強化術を発動させてもびくともせず、徐々に全体に影の蛇が絡みつく。

ハルナばかりに気を取られていたが一番に警戒すべき相手は魔術師のダインだと思い知らされる。彼の影はどうやら力尽くでは引き剥がせず、そもそも影に触れることもできない。その癖に影の蛇はレノの全身に巻き付き、彼の身動きを完全に封じ込めた。
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