魔法使いじゃなくて魔弓使いです

カタナヅキ

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第35話 ゴブリンの集団

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「全く……ほら、こっちに来い。怪我を治してやるから」
「ウォンッ?」


レノが手招きすると狼は素直に従い、昨日怪我を負った箇所を見せてくれた。すると狼の怪我は完璧に治っていることが判明する。


(えっ!?もう治ってる!?)


いくら治療を施したといっても狼の怪我は一晩で治る程の傷ではなかったはずだが、傷跡さえ残っていないほど完璧に治っていた。普通の狼の比ではない回復力にレノは戸惑う。

狼の方は怪我が治してくれたことに感謝しているのかレノに懐いてしまい、何度も離れようとしても勝手に付いてくる。怪我を治したお礼を兼ねて魚を獲ってくるあたり、明らかに普通の狼ではない。


「お前、本当に狼なのか?実は本当は魔物だったりしないよな?」
「クゥ~ンッ……」
「……まあいいか、付いてくるのは勝手だけど餌は自分で何とかしろよ」
「ウォンッ!!」


自分の後をとことこと付いてくる狼にレノは注意すると、狼は承諾するように鳴き声を上げる。本当に自分の言っている言葉が分かるかのように振舞う狼にレノは不思議に思う。


(白い毛皮の狼なんて聞いたことも見たこともないぞ。まさか本当にこいつ魔物なんじゃ……でも、魔物なら人間に懐くはずがないか)


狼の正体は気になったがレノは一刻も早く次の村に辿り着く必要があり、今日こそは普通の宿に泊まりたかった。森で暮らしていた時はアルから訓練という名目で何度か家の外で野宿したこともあったが、やはり野宿では疲れは取れない。


(今日こそ柔らかいベッドで寝たい!!)


昨日の様に碌に寝付けない野宿を避けたいレノは急ぎ足で次の村に向かうが、その後ろから狼はレノの移動速度を合わせて後を追いかける――





――広大な草原をレノは狼と共に歩き続け、何度か休憩を挟みながらも遂にレノは目的地の村を視界に捉えた。昨日から歩きどおしで疲れていたレノはようやく村が見えてきて嬉しそうに狼に語りかける。


「やった!!村があった!!これで休めるぞ……お前も頑張ったな!!」
「スンスンッ……クゥ~ンッ」
「あれ?どうした?嬉しくなさそうだけど……」


村が見えてきたのに何故か狼は鼻を鳴らしながら足を止め、その様子を見てレノは不思議に思う。だが、村に近付くにつれて違和感を抱く。


「な、何だこの村……どうなってるんだ?」
「グルルルッ……!!」


レノ達が辿り着いた村は様子がおかしく、村のあちこちで煙が上がっていた。急いでレノ達は村の中に入ると、そこには異様な光景が広がっていた。


「こ、これは!?」
「ウォオンッ!!」


村の入口には数名の男性が倒れており、既に事切れていた。レノはそれを見て死んだ両親のことを思い出してしまい、危うく吐きそうになった。あまりに悲惨な光景に口元を抑えながらもレノは倒れている人間の様子を伺う。

倒れているのは全員が大人の男性であり、鉄の兜と革製の鎧をまとっていることから村を守る兵士だったのかもしれない。レノが子供の頃に住んでいた街でも似たような恰好をしている大人達を見たことがある。


(誰かに殺されたのか!?まさか盗賊!?)


最初は村に盗賊でも襲撃してきたのかと思ったレノだが、それにしては死体の様子がおかしいことに気が付く。どの死体も刃物で切られた傷の他に獣か何かに噛みつかれたような傷跡も残っていた。

兵士を襲った犯人が盗賊の仕業だとしたら刃物で切られた傷は納得できるが、どうして獣が死体に喰らいついたような痕跡も残っているのかレノは疑問を抱く。


(まさか盗賊が獣でも引き連れて襲ってきたのか!?いや、今は考えている暇はない!!)


嫌な予感を抱きながらもレノは生きている人間がいないかを確かめるため、魔力感知を発動させた。もしも村の中にまだ村人が生き残っているとしたら魔力を感じ取れるはずであり、生き残りが居ることを祈りながら魔力を探る。


(……見つけた!!)


魔力感知を発動するとレノは村の中央に多数の魔力を感じ取り、まだ生き残りがいるのだと確信した。だが、完治した魔力の中には不穏な色合いの光を放つ魔力もいくつか存在し、嫌な予感を抱いたレノは駆け出す。


「こっちだ!!」
「ウォンッ!!」


レノの言葉に狼も後を追いかけ、二人は村の中を駆け抜けた。途中でいくつもの村人の死体を見かけたが気にしている暇はなかった。今は一刻も早く生き残っている人間を助けるために駆け抜ける。


(あそこだ!!)


村の中にある一番大きな建物を視界に捉え、その中から多数の魔力を感じ取る。どうやら生き残った村人が屋敷の中に立てこもっているようだが、建物の周りにはレノが予想しなかった生物が待ち構えていた。



――ギィイイイッ!!



屋敷を取り囲んでいたのはゴブリンの集団だった。しかもレノが森の中で遭遇してきたゴブリンとは異なり、人間が扱う刃物を手にしていた。ゴブリンの群れは屋敷を取り囲み、扉や窓の破壊を試みていた。


「ギィイッ!!」
「ギギィッ!!」
「ギッギッギッ!!」


気が狂ったかのように鳴き声を上げながらゴブリンは窓や扉を叩き付け、このままでは中にいる人間が危ない。レノはゴブリンの集団に気付かれないように近くの建物の陰に身を隠し、狼も共にレノと隠れる。


(なんだこいつら……人間の武器を持ってるぞ)


ゴブリンは知能が高いので人間のように武器を自作して扱うことは知っているが、村にいるゴブリンは人間が扱う刃物を手にしていた。恐らくは村を襲撃した際に人間の武器を奪って扱っていると思われるが、ともかく村人を救うためにレノは戦う準備を行う。

屋敷を取り囲むゴブリンの数は少なくとも30匹近くはいるが、ゴブリンならば森に暮らしていた時にレノは何度も退治している。戦い慣れている相手なのが幸いし、心を落ち着かせたレノは狼に注意する。


「俺の傍から離れるなよ」
「ウォンッ」


狼に一言だけ注意するとレノは弓を構えて屋敷を襲うゴブリンの集団に狙いを定めた。距離は20メートルほど離れているが今のレノならば100メートル先でも当てられる。だが、問題なのは数の多さだった。


(一斉にかかって来られたら対処できない……なら、これしかないな!!)


化物魚を仕留めた時のことを思い出し、聖属性の魔力を利用した新しい攻撃法を試す前に鞄の中から毛布を取り出して狼に被せた。


「これを被ってろ」
「ウォンッ!?」


狼の頭を毛布で隠すとレノは聖属性の魔力を矢に付与させ、屋敷の屋根に目掛けて放つ。


「付与《エンチャント》!!」


風属性とは違って聖属性の魔力を付与した所で矢の威力は変わらないが、その代わりに障害物にぶつかった際に矢に込められた魔力が拡散して閃光の様に輝く。




――ギィイイイイッ!?




屋敷を取り囲んでいたゴブリン達は閃光に目が眩み、攻撃を中断して目元を抑える。ゴブリン達の視界が封じられた隙を逃さずにレノは新しいを矢を番えて放つ。目が見えていないうちに一匹でも多く討ち取るためにレノは矢を射続けた。


「喰らえっ!!」
「ギャウッ!?」
「ギィアッ!?」
「ギギィッ……!?」


ゴブリンの急所に目掛けて適確にレノは矢を撃ち続け、数匹仕留めることに成功した。攻撃を受けていないゴブリンも仲間の悲鳴を聞いて戸惑い、慌てて刃物を振り回すゴブリンもいた。


「ギギィイッ!!」
「ギャアッ!?」
「ギィッ!?」


闇雲に武器を振り回すゴブリンが現れたせいで他の仲間も傷つけられ、ゴブリンの群れは増々混乱に陥った。その様子を見てレノはこのままバレずに全てのゴブリンを仕留められるのではないかと思ったが、ここで重大な欠点に気が付く。
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